比翼の鳥は籠の中

松山あき

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3 ※性描写※

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 身体中どこも温かい直人に触れると、ドキドキするのに安心感を覚える。
 不思議と唇が一番熱いと感じるのは、いつもここから直人の気持ちを伝えてくれるからなのだろうか。

 息継ぎをするように、自分の内側の熱を逃がすように唇を開けば遠慮なく塞がれて、そこから舌を差し込まれる。
 厚い舌が不器用に自分の中を探ろうとするのに合わせて、智も自分の舌を差し出す。
 そうして境目をなくそうとするだけで、昂る熱に溺れそうな気がして、智はいま一度直人をキツく抱きしめた。

「……はぁ、ん、ぅ……なおと」

 こんな時にしか出ない、甘く湿度を含んだ声で名前を呼べば、直人がそれに応えるようにこめかみにキスをして智のネックチョーカーに触れてくる。
 
 普段寝るときは外しているこれを、智はヒートでなくても直人の前で外さないようにしている。
 二人で遠方の学校に行くと親に相談しに行ったときに、「高校卒業までは番にならないこと」と約束したからだ。

 二人でそうしようと決めたのに、今は煩わしくてしかたない。今すぐ取り去って、荒い息の隙間から見える鋭い歯を突き立ててほしいと、智はそこを見つめる。
 
 何もしなくても智と直人は互いに特別な絆を感じているが、ヒート中に項を噛まれるとさらに強い結びつきが生まれるらしい。
 きっと直人の腹におさまるような心地がするのだろう。
 
 智もそれに憧れるが、一度成立してしまえば解消はできない。
 だから大人たちは高校生こどものうちはダメだと禁止をして、二人で話し合って胸を張って一緒にいられるようそれに従うと決めていた。

 絶対噛み跡がつかないように、とヒート以外でも外さないというのも二人で決めたことだが、それでも二人して求めあった結果、一度合皮製のネックチョーカーをボロボロにしてしまったこともある。
 耳を這う舌や唇が、直人もその日を待っているのだと智に教えているようだった。

「智……」

 直人もまた熱を隠さない声で智を呼ぶ。
 セックスの最中、直人はよくネックチョーカーの下に隠れた智の柔らかな皮膚に触れようとしてくる。
 指一本も入らないくらいの隙間をなぞるように撫でられると、智の腰や項がゾクゾクと震えた。
 この熱さを感じる度に早く直人のものになりたいと、智の身体が強く叫んで理性を溶かしていこうとする。

 それから智の顔を覗き込みながら、直人が大きな手を智の服の下に入れてきた。
 肌に指先が滑るだけで心臓が跳ね上がってしまう。

「はあ……ぁ、ンッ。」

 胸の飾りを直人の指が滑る。確かな意図を持って触れられ溢れそうになる声を、智は慌てて唇をキツく結んで耐えようとした。

「かわいい。……あー、もう寮に帰りたくなってきた。声聞きたい」

 オメガの部屋は他の部屋に比べて防音性能が高い。ヒート中のプライバシーを配慮しての設計だ。

 だからそれなりに遠慮せず声を出せるのだが、暗にそれを匂わされると智も照れて直人を睨むことしかできなくなる。

「もう……」

 こうした戯れも、お互いの熱を共有する要素にしかならない。
 智の腹や乳首が見えるようにティーシャツの裾をめくり上げると、直人はその白い肌にキスをしてきた。
 そうしてゆっくり智の奥に潜んでいた淫らな感情をおびき寄せてから、舌を這わせてくる。

 ぴちゃ、じゅうっといやらしい音を響かせながら肌を吸い、薄い胸を甘噛みして……。直人が手慣れているように、けれども不器用に荒々しく愛撫する度に智も快楽を追いかけていく。
 胸の皮膚をきつく吸われたとき、はじめて智は身じろぎをする。

「なおッ、痕……ダメ」
「見えないとこだけ」

 隠れるかもしれないが、今は直人の家にいる。万が一にも家族に見られたら。そう思うと、智も羞恥心がこみ上げてきた。
 しかし、直人も余計なことを考えるなとばかりに、鎖骨の下や二の腕に何度も吸い付き、甘噛みをして欲望を刻んでくる。
 直人が満足する頃には、もう抱きつくのもやっとなほど、智はあちこちとろけていた。

 下着も変えたばかりなのにすでに意味をなさないほど濡れているし、今はただ早くこの人のものになりたい、としか考えられなくなっていた。
 耐えきれずに腰を揺らす智を見て、喜びを覗かせた直人の瞳が細くなる。
 囁くように「腰、あげて」と促しすと、智の衣服を全て剥ぎ取っていった。
 夏のどこか湿気を帯びた空気が肌に触れるのも焦れったくて、智も直人の服に手を伸ばす。
 触れた肌が、呼吸に合わせて上下する。それが手のひらに伝わるだけで、智の胸が苦しくなった。
 
「もう、きて」

 早く、直人の力強い香りに包まれて、あの境がわからなくなる感覚に溺れたい。
 短い言葉で智の要望を汲んだ直人は、そのわずかな時間さえ煩わしそうに眉を寄せて自分の服も脱ぎ捨てていく。
 そうして重なった肌が思いのほか熱くて、ビクッと震えてしまう。

「なおとぉ……」
「うん。馴らしてから、な。智のここ、小さいから」

 頭一つ分の身長差と体格差のせいか、繋がる場所はいつもみっちりと隙間がないくらいになってしまう。
 いつも動きにくそうにしている直人に申し訳ないと思う気持ちはあった。
 友達の中には、未成年がどうやって手に入れたのかそういう専用の道具で“開発”をしている人もいる。
 オメガしかいない教室で実物を見せられたことがあるが、見た目だけで怖くなって、手を出せる気がしなかった。

 だから直人の太い指に広げてもらって柔らかくするしかないのだが、それだっていつも恥ずかしくて、申し訳なくて、そして待ちきれない気持ちにさせられる。
 ようやく二本目が奥に届いたとき、智も切なさが限界にきてしまった。

「もう、いいでしょ?早く……」
「ダメ。今したら痛いだろ」
「ヤダ。……痛くていいから、直人がいい」

 下に視線を向ければ、直人のそこだって硬く反り立っていて、先端も濡れている。
 それが自分の奥に届く感覚を思い出せば、再び項が急かすように熱くなる。

 自分の全ては直人にあげるためにあるのだと伝えるように、中で暴れる直人の指を締め付けて誘えば、直人の眉間にシワがよる。

 怒っているようにも見えるが、セクシーなその表情は直人もいよいよ我慢の限界が近い証拠だと知っている智は、思わず唇に弧を描いてしまう。

「声出させたくなるだろ、まったく」

 優しいのに獰猛な響きの声に智うっとりしているうちに、直人は指を抜き慣れた手つきでコンドームをつけていく。

 膝の裏に直人の大きな手が添えられて、いよいよだと期待に受け入れるそこがヒクヒク収縮する。

「智、力抜いてて」

 そうしてやっと充てがわれたのも嬉しくて、直人の首にゆるりと腕をまわす。
 お互いの何かを煮詰めたような瞳を見つめていると、言葉なんていらないほど求めあっていると通じ合えている気になる。
 ゆっくり、ゆっくりと智の中を進んでいく感覚はもどかしいが、お腹に感じる圧迫感に、直人も辛いのだと察する。
 ぴったりと密着して中々広がらないそこを進んでいくほどに、直人の額に汗が滲む。
 それが切なくて、智はキスを強請るように身体を起こそうとする。

 直人のギラついた瞳がそれを捉えて、智の唇を塞ぐように口づけてきた。
 再び舌が絡むとそれで力が抜けたのか、直人が一番奥まで貫いてくる。

「ンッ!……ぁ、はあ」
「……ッ、全部入った」

 目の前がチカチカするような感覚に声を上げそうになるのを何とか我慢して唇を噛みながら一つ頷いた。
 そんな智の唇を舌先で舐めてキスを繰り返していると、智の呼吸が楽になってくる。
 変わらずお腹は苦しいけれど、それが脈打つたびに、喜びと愛おしさがじんわりと全身に広がっていく。

「大丈夫。……動いて」

 智の言葉に頷くと、直人はゆっくりと静かに律動を始める。
 いつもはもっと力強く穿つ直人も、今日は遠慮しているようだ。
 きっと欲望のままスプリングを響かせてしまえば、近くの部屋で寝ている明人や、他の家族に知られてしまうかもしれない。
 お互い焦れったさを覚えてしまうほどゆっくりなその動きに、絡み合った視線がどちらもとろけていってしまう。
 溶け切ったチョコレートのような、どろりとしているのに確かに甘い視線を絡ませ合い、キスをしながら中から沸き上がる快楽に身を任せる。

 普段激しく求め合うときはお互いの境目がわからなくなるのに、今は直人という存在を強く意識してしまい、それさえも快楽に変わっていく。

「直人ッ、なおとぉ……」
「うん。智、ここにいる……」

 一つなのに二人であることはもどかしいが、肌の合わせ目から、身体の重さから、結合部から直人を感じると不思議とすぐに達してしまいそうになる。

 智の鼻腔に強く濃い直人の匂いが届いたので、きっとそれは直人も一緒なのだと感じた。

「智、俺……もうイきそ……」
「オレも。……ァ!直人、一緒……いっしょがいいッ」

 声を潜めるのを忘れてしまいそうになるような、気怠く頭を痺れさせる快感に身を任せながら、智は直人にしがみつき、キスに応える。

 舌も何もかもが深く絡み合った瞬間に、薄い膜の中で弾けるように勢いよく直人の精が吐き出される感覚がした。
 それを引き金に、智も自分と直人の腹を汚しながら射精してしまった。

 達した余韻さえ飲み込みたくて少しの間唇を合わせていたが、やがてどちらともなく離れていき、お互いの瞳をのぞき合う。

「智、好きだ」
「オレも。直人が一番好き」
 
 視線の奥にに自分に向けられる優しさと好意を感じて、ほっと肩を撫で下ろしつつ荒い息を整えていると、まどろむような眠気が襲ってくる。

 体力が追いついていないせいか、ヒートでもない限り、一度で智の身体はバテてしまう。

「疲れたよな」
「……平気」
「いいよ。あとのことは俺がするから。明日早いんだろ?」

 そうだった、と忘れていたわけではないが意識の端に寄せていた約束を思い返す。目覚ましは六時にセットしたので大丈夫そうだ。

「おやすみ。出かけるとき、気をつけるんだぞ」

 それに一つ頷けば、自分を抱きしめる直人の体温に溶けていくように夢へと飛び立った。
 この熱が、この匂いが帰る場所なのだと、智は二年前から一度も疑ったことはない。
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