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第六十五章 捨てられた世界
有るものは保てない
しおりを挟む「まず汝の事を、ミコと呼びたいがいいか?」
「ルシファーとかヴィーナスとかは、お前には似合わない」
「あなた、美子ですよ」
神産巣日神が優しくたしなめています。
「そうだった、美しい子だったな」
「洋人ではないのですか?」
「汝は慈愛の乙女が勝っている、やはり美子と呼ぶべきと思う」
「ではお父様、私を吉川美子とお呼びください」
「美子よ、汝が抱えた世界は、汝にとうに手渡されている」
「天之御中主(あめのみなかぬし)様は、汝がエラムで世界を終わりにしないとの判断をしたとき、この世界を離れられている」
「私たちも天之御中主(あめのみなかぬし)様に従い、この世界の外にいる、『調和』を是とする何者かに会いにいくこととした」
「汝を導き監視するために、自身の一部を残されておかれた」
「それが私たちと、汝が会いに行った天之御中主(あめのみなかぬし)様だ」
「私たちは神であり、神の分身であり、神の代理人、そして世界は、上手く汝に手渡されたのを確認した」
「この三千世界、『有』の世界は汝のものだ、汝の思うとおりにせよ」
「『無色界』は純粋の無ではない、天之御中主(あめのみなかぬし)様が去られてから、『無色界』は徐々に崩壊を始めている、残りし者のために、汝が作られたのだ」
「新たな三千世界を作らねばならない、その世界は汝自身が理解しているだろう」
「『色界』は徐々に変わり、その上の世界は『歓喜』の世界となるはずだ」
「そう、汝は濁った『色界』も葬り去っている」
「そしていま『無色界』が完全に消え去った」
「天之御中主(あめのみなかぬし)様の、最後の御魂もこの他化自在天(たけじざいてん)まで降りて来られている」
「そして、今の世界の最高天である、他化自在天(たけじざいてん)が汝の世界である」
「私は『色界』と『無色界』の、再生を担うのですか?」
「違うわ、あなたは三千世界とは別の世界を、思うとおりにつくればいいのよ」
「『色界』も『無色界』も、あなたが不要と考えればそれでいいのよ」
「階層だって幾つも造ればいいのよ、造らなくてもいいのよ」
「でも一つだけ、架せられているのもがあるのよ、いま残っている世界、この『有』の世界を守り通して、いつか新しい者に引き継ぐ」
「もしくは共に引きつれ、この世界の外にいる、『調和』を是とする何者かに会いにいくまでね」
「『有』の世界という以上は、時が存在するのよ、たとえ同時に、時の断面の世界が共存したとしても、時は回るのよ」
「あなたは時を正しくまわした、そして天之御中主(あめのみなかぬし)様のお力を受け継いで、時を俯瞰できるただ一人の神なのよ」
「天之御中主(あめのみなかぬし)様の、最後の御魂に申し上げます」
「ここは他化自在天(たけじざいてん)、我らの娘のために、お姿を現したまえ、そしてお言葉をお授けください」
仄暗い『いずものおおやしろ』の結界に、小さい輝きが現れます。
微かに揺らぎ、そして言葉が心に響いてきました。
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