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95 誘拐ではございません

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 今後は俺の元で働くことを知っているルイス君だが、不安そうにしていることに気付いた俺は、彼に近寄って、そっと手を握った。

 「もう安心して良いからな」
 「っ……お、俺、みんなが、薬を飲まされていただなんて、知らなくて……」
 「大丈夫。他の子たちのことも助けるよ。優秀な医師に診てもらえば、すぐに元気になるはずだ」
 「っ、ありがとうございますっ!!」

 照れ臭そうにしながらも、安心したように控えめな笑みを浮かべているルイス君。
 俺の手をぎゅっと握り返してくれた。

 「仕事は、いつからですか?」

 すぐに手伝いたいと意欲を見せてくれるルイス君は、俺に恩返しがしたいそうだ。

 なんて良い子なんだと感心する俺は、金色の髪をわしゃわしゃと撫でた。

 「んじゃ、今日からだな」
 「は、はいっ!」
 「みんなは当分の間、体を休めて、たくさんご飯を食べるように」
 「…………はい?! お仕事の話じゃ」
 「そうだけど?」

 こてんと首を傾げる俺に、口をあんぐりと開けているルイス君。

 彼と手を繋いでいるシエル君も、俺の話を理解出来なかったのか、目を瞬かせていた。
 屈んだ俺は、シエル君に視線を合わせる。

 「おやつはフライドポテトにしようか。それともコロッケが良い?」

 翡翠色の瞳を煌めかせるシエル君は、その場でぴょんと飛び跳ねた。

 「っ、ど、どっちも好きっ! 選べない……」
 「それなら二つとも食べようか」
 「うええっ!?!?」

 狼狽えるシエル君の大きめの声に、他の子たちも『コロッケ』の言葉に反応していた。

 わらわらと俺の周囲に集まり出した子供たちが、聞き耳を立てている姿が可愛らしい。
 他にも美味しい料理が作れるぞと自慢すれば、彼らもまた、俺が料理をすることが意外だったのか、酷く驚いていた。
 デザートもあるからなと追撃すると、俺はいつのまにか子供たちに囲まれていた。

 小学校の先生になった気分だぜっ!

 「それじゃあ、馬車に乗って俺の家に行こうか」
 「えっ! 馬車!?」

 ほとんどの子が初めて馬車に乗るらしく、迎えに来た俺専用の漆黒色の馬車を見て、興奮していた。

 待ちきれない様子なのだが、きちんと順番に並ぶ子たちを馬車に誘導する。
 店主は屑だったが、みんな良い子に育っているなと見守っていると『誘拐!?』とヒソヒソ声が聞こえてきた。

 俺の姿を見て、青褪める近隣住民に言いたい。

 護衛をゾロゾロと連れて、白昼堂々と子供を誘拐する奴がいるかっ!
 
 酷い言われようだと思いながらも、俺は子供たちと馬車に乗り込み、王宮に戻ることにした。

 





 王宮に戻れば、既に子供達を保護する部屋が用意されていた。
 さすが俺の自慢の兄様だ、仕事が早い。

 急なことだったので、用意されていたのは空いている使用人たちの部屋だったが、子供たちは大喜びだった。
 話を聞けば、いつもは狭い部屋でぎゅうぎゅう詰めになって雑魚寝をしていたらしい。
 だから二人部屋なんて贅沢だし、真っ白なシーツを汚してしまわないかと不安そうにもしていた。
 汚しても毎日交換するから安心して良いと告げると、皆一様に驚いていた。

 すごく可愛らしい反応で、俺も嬉しくなった。



 先にご飯にしようと、子供たちが着替えをしている間に、俺はシチューを大量に用意した。
 大広間に集まり、お行儀よく待っていた子供たちに熱々のシチューを配っていく。

 揚げ物でも良かったのだが、毎日お腹いっぱいに食べることができなかった彼らの胃が、びっくりしてしまいそうだからな。

 とろとろとした真っ白な液体を、恐る恐る口にした子供たちが、ほうっと息を吐く。

 「あったかい……」
 「牛の乳は初めて飲んだけど、すっごく美味しいっ!!」
 「あ! 肉っ! お肉が入ってるっ!!」
 「本当だっ! 人参もお星様の形してる! かわいいっ」
 「食べるのがもったいないやっ!」

 蕩けるような顔で肉を頬張る子や、星型人参を大切そうに食べる子を眺める俺の頬は、終始ゆるゆるである。

 「おかわりもあるからな! 好きなだけ食べて良いぞっ!」
 「うそっ! やったぁ~!」
 「おかわりなんて、はじめてッ!」

 ぱあっと満面の笑みを浮かべる子供たちが、次々とシチューをおかわりする。
 彼らの胃の心配をしていたが、大丈夫そうで安堵した。

 その後は、全員に医師の診察を受けて貰った。
 
 薬を飲まされていた可能性のある子たちは療養することになり、他の子たちも明らかに栄養失調なので、しばらくは安静にするようにとのことだった。

 ご飯をたらふく食べたからか、元気な子もいたので、俺はトランプを貸し出すことにした。
 ジルベルトのために作ったものだったが、子供たちが楽しそうに遊んでいる姿を眺めて、作って良かったなとほっこりとした気持ちになっていた。


 だが、この日を境に、傍若無人の第四王子が娼館を買い取り、男娼たちを侍らせていると噂が流れることになる。




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