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135 健康診断からの喧嘩
しおりを挟む突如として現れた、腕や指に金ピカの装飾品をつけている美形のおじさんたちに服を脱がされた俺は、パンツ一丁で囲まれている。
目隠しをされて寝台に寝かされ、たくさんの手から気持ちいいことをされている……
わけではなく!
クロフォード国の優秀なお医者様から、なぜか視診されているのだ。
「やはり、目隠しをとるべきでは……」
「駄目だ。この人数で殿下を襲うことになれば、いくら我々でも、確実に首が飛ぶ」
「……ふ、振り返るな。見られている、全員恐ろしいほど無表情だっ」
なにやらヒソヒソ話をしているお医者様たちは、揚げ物の食べ過ぎで、少しお腹が気になり始めている俺に、至極丁寧に服を着せた。
ここ最近。週休二日制、定時上がりの俺とは比べものにならないくらい多忙な家族から『オーバーワークだ!』と心配されている俺は、毎日のように健康診断を受けていた。
そして、俺を溺愛する家族が毎度同席しているため、医者集団はビビりまくって、健康診断とは言えない状況である。
「それで?」
「っ、は、はい。今回も、特に異常は見られませんでした……」
麗しの第二王子殿下が、普段よりさらにピリッとした空気を放ち、詳しい話を聞かせろと医者集団を連行していった。
「詳しい者を、他国から呼び寄せるしかないのか……」
「ですが、万が一の時は、彼らを処分することになりますよ? 戦争は避けたい」
次期国王陛下が悩ましい溜息を吐く。
ただの健康診断なのに、なんで戦争になるんだ?
しかも、他国から優秀な医者を呼び寄せるって、風邪すらひかない健康体な俺を、どんだけ心配しているんだよっ!?
結局、次は母様の母国の医者が、俺を健診するためだけにクロフォード国に来るらしい。
申し訳ないし、すこぶる健康だから大丈夫だと話したのに、深刻な表情の俺のファミリー。
ガチで心配している。
「まさか……。俺はすでに、重病なんですか?」
ごくりと唾を飲むと、顔を見合わせた両親が、にこにこと笑っていた。
「可愛すぎるリーちゃんが、国中の人々をみりょ──ゴフッ」
「リオンちゃんは、可愛すぎて魅力的な病なの」
「……どういう病です?」
急にニコラス母様に腹パンされたメルキオール父様が、壁に激突する。
よくわからないまま、怪力の母様に可愛い可愛いと愛でられて、話を逸らされてしまった。
◆
今日もいつも通り仕事をした俺は、就寝前に、俺の部屋を訪れた恋人にぴったりとくっついて、本日の報告をしていた。
「俺、死ぬのかな……?」
不安な顔のままジルベルトを見上げると、そんなわけないだろうと、抱きしめてくれた。
ムフフと笑っていると、ジルベルトが俺の肩に手を置き、真剣な表情で見つめられる。
「ただ、健康診断はきちんと受けた方がいい。リオンが死んだら、俺は生きていけないから……。俺のためにも……。お願いだ」
「う、うん」
なにか言いたげにして口を閉じたジルベルトが、にこっと微笑んだ。
とにかくかっこいいお顔を眺めて、うっとりする俺は、恋人の言う通りにすることにした。
ソファーでイチャつきながらまったりしていると、空色の瞳に熱心に見つめられる。
つ、ついに今日は、最後までするのか?!
初体験だと、ドキドキしながら目を伏せようとしたのだが、冷静な声色で名前を呼ばれた。
「リオンはさ……。前に失恋したって言ってたけど……今、初恋の人に告白されたら、どうする?」
「…………へ?」
謎の問いかけに、俺の口から素っ頓狂な声が漏れる。
なんでいきなり、俺の初恋の話に発展したんだ?
今の流れは、俺を押し倒すところだろう?!
抱きたいって言ってなかったか?!
瞬きをしまくっていると、ジルベルトが曖昧な笑みを浮かべながら、俺の頬を撫でる。
「どうするもなにも、ありえない」
「そう?」
「だって俺はジルベルト一筋だし」
「……うん、それは嬉しいけど」
そう言って、口を引き結んで言葉を飲み込むような仕草をしたジルベルト。
頬を撫でていた手を離して、俺の手を握った。
「もし、リオンがその人のことを、まだ少しでも好きなら……」
「……好きなら?」
「俺は、その相手と二人でリオンを守りたい、と思ってる」
「………………は?」
ジルベルトの言葉が理解できなくて、少しだけ怒気を含んだ声を出してしまう。
そんな俺から目を逸らしたジルベルトは、俺の気持ちなんてお構いなしに話を続けた。
「歴代の国王陛下のように、側室や愛妾を何人も持たれたら困るけど、あと一人なら……」
「はあ?!」
我慢出来なくなって、デカい声が出る。
俺はジルベルト一筋だって言ってるのに、なんでわざわざ初恋相手も恋人にしろだなんて言ってくるんだよ!?
苦々しい表情のジルベルトは、何を考えているのかさっぱりわからない。
俺にもう一人恋人が出来て、ジルベルトになんのメリットがあるんだ?
……まさか、自分がもう一人恋人を増やしたいからじゃないよな?
ジルベルト自身が他に好きな人が出来て、その相手と一緒になりたいから、俺にもすすめてるのか?
俺への罪悪感から、そんな苦しそうな表情をしているんだな?
カチンときた俺は、握られていた手をぞんざいに振り払った。
「……ああ、そういうこと? ジルは俺以外に好きな人が出来たんだな? それで、俺にも恋人を増やせって!?」
「違うっ!!」
「最低だな。相手は、身分が低いんだろ?」
「っ、また勘違いしないでくれ!」
抱きしめられる前に立ち上がった俺は、クソみたいな発言をしたジルベルトから距離を取った。
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