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 ──夕飯時。
 両手にピザトーストを持つ大柄のイケメンが、『おかわりっ!』と、二十回目の台詞を吐いた。

 ピザトーストを大層お気に召したロバート様は、無双モードに入っている。
 わんこそばの早食い選手権でもしているのか? と、聞きたくなるくらいのスピード感だ。
 でも、美味しそうにバクバクと食べている姿を見ているだけで、俺は幸せな気持ちになっていた。


 今日はひとり、調味料専門店の方に行っていたリュカが、俺の隣でお上品にピザトーストを食す。

 「リュカ、美味しい?」
 「はい。ですが、問題があります」
 「な、なに……?」

 すっと俺を見たリュカは、真顔だ。
 どんなダメ出しなんだと身構える。

 「美味しすぎて止まりません。リオン殿下と共にいると、太りそうです」
 「……ぷはっ、なんだ! 怒られるのかと思った」

 褒められて喜ぶ俺だが、リュカは真剣だ。

 クロフォード国民は、美意識が高い。
 自分磨きに余念のない人が多いため、だらしない体型ってだけで、自己管理が出来ない者だと判断されがちだ。
 仕事にも影響するわけだから、自然とイケメンパラダイスになる。

 よって俺の茶色革命は、深刻な問題だったりするのかもしれない。
 でも、さらりと二枚目のピザトーストに手を出したリュカを見た俺は、ニヤリと笑った。

 ノワール領でのサプライズ計画では、ピザを広める予定なんだ。
 クロフォード国でもピザが流行するのは、間違い無いだろう。
 各地で作られたとしても、ノワール領はピザの発祥の地となるわけだから、俺のサプライズ計画は確実に成功するはずだ。

 普段は厳しいリュカに褒められる未来を想像して、ひとりでニヤけていると、新緑色の瞳が俺の顔を覗き込んでいた。

 「このソースも販売するのですか?」
 「あ。う、うん。いつかね? 焼肉のタレのあと、かな? あははっ」
 「……そうですか。兄たちにも食べてもらいたいと思いまして」
 「っ、そこは俺に任せてくれ! お兄様たちにも送るぞ! 俺はリュカの恋人なんだ。俺自身も気に入ってもらえるように、努力するつもりだ」

 ぽっと頬を染めたリュカが咳払いをし、黙々とピザトーストを食べ始めた。

 ……リュカが、人前で、て、照れている。

 「俺の嫁は、なんて可愛いんだっ!」
 「…………少し黙ってください」
 「え、なんで?」

 俺の家族は、もれなく全員ピザトーストに夢中になっているため、誰も話を聞いていない。
 それなのに、恥ずかしかったみたいだ。

 可愛いと悶えていると、バーンと扉が開く。

 髪を撫で付け、キリッとしたお顔の次期騎士団長様が、真っ赤な薔薇の花束を持って登場する。

 いつのまにか着替えていたロバート様は、いつもとは違い、胸元に煌びやかな勲章がいくつも飾られている騎士服を身に纏っていた。
 百本くらいはある花束を持ち、なぜか俺の前で片膝をついた。


 「俺は、死ぬまで毎日リオンちゃんの作った旨い飯が食べたい。その代わり、俺の命をかけて守ると誓う。どうか、俺の気持ちを受け取って欲しい」


 ガヤガヤとしていた室内が、急にシーンと静まり返る。

 ロバート様は、いつかは俺のお義兄様になるわけだし、毎日料理は作ると思う。
 なんでそんな当たり前なことを大袈裟に言っているのかはわからないが、俺は笑顔で花束を受け取った。

 「はい。もちろんです」
 「~~っ!! よっしゃ──ッ!!!!」

 ぱあっと笑顔になったロバート様が立ち上がり、俺は花束ごと絞め殺されそうになる。
 ギブアップだとタップすると、ファーガス兄様が助けてくれた。

 「貴様……。ふざけるのも大概にしろ」
 「バーカ。こういうのは早い者勝ちなんだよ!」

 なぜか揉め出す二人が退出し、薔薇の花束はいつのまにかリュカに回収されていた。







 「半熟卵と、それから肉も……。あと魚介も合うと思う」
 「想像しただけで腹が減って来た……」
 「ふふっ、さっきあんなに食べたのにか?」


 深夜に恋人の部屋で秘密の作戦会議をしていた俺は、照れたように腹をさすったジルベルトと微笑み合う。

 食べられるならなんでもいいと言っていた頃とは違い、今は食に興味を持ってくれている。
 逞しくなったジルベルトの体は、俺が作ったと言っても過言ではないのだ!

 重要な書類をまとめたジルベルトは、鍵のついた引き出しに書類を片付ける。

 「あとは俺が進めておく」
 「っ、う、うん。ありがと……」

 いつもならちゅっちゅしてくるのに、今日は解散だと言われてしまった。
 にこにこしていた俺は、椅子に座るジルベルトの横で棒立ちになっている。

 ……リュカのことばかりで、もしかしたらやきもちを焼いているのかもしれない。

 「ジル? あ、あの……おやすみのキス、してもいい?」

 焦る俺は、ジルベルトの返事も聞かずに、思い切って自ら口付ける。
 待ってましたとばかりに抱き寄せられる俺は、気付いていなかった。

 もう一人の恋人から、魅了魔法が使えると勘違いをしている今だけ限定で、俺の積極的な姿が見られると聞いていたことを……。







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