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207 どこまでも優しい男 アシュリー

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 王族が家族会議をしている中――。
 ジルベルトを除くリンネス公爵家の者が、王宮の一室に集まっていた。

 父上に呼び出され、喜びを隠しきれないアーノルドが、先程からぺらぺらと喋り倒している。
 今までかまってもらえなかった分、思う存分甘えているのだろう。

 静かに席を立った私は、隣の部屋に向かう。
 屈強な護衛四人と、部屋の隅には異母弟のジルベルトがいる。
 そして私は、覗き穴から顔を上げた人物に「間違いないか?」と問いかけた。


 「はい……。です……」


 くしゃりと顔を歪ませた糸目の男が、震える手を握りしめる。
 犯人に自身の名を呼ばれたジルベルトは、静かに目を伏せていた。

 我々に協力すると話していた犯人だが、恋人と連絡が取れなくなっていた。
 よって今この場を設けたわけだが、アーノルドが裏で操っていたことが判明していた。

 襲撃が成功しようが失敗しようが、最初から捨て駒だったのだろう。
 今は自身の行いを心から反省しており、犯人は大人しく連行されていった。


 昨日、放置していたジルベルトと対面した父は、悪事を働いた使用人との子を『息子』と認めていた――。


 国王陛下の子と、我が子が結ばれたのだ。
 父にとっては、愛する人の子と縁を結べるのであれば、ジルベルトでもアーノルドでもどちらでもよかったのだろう。
 
 それも相手は、陛下が溺愛している末っ子のリオン第四王子殿下だ。
 仕事を通して父のそばにいた私ですら見たことがないほど、父の喜びようは凄まじかったと思う。

 そして、長い反抗期が終わったリオン殿下の活躍ぶりは、目を見張るものがある。
 国王陛下より、謎のLの正体がリオン殿下だと明かされた時は、到底信じられなかった。
 それでも彼と話してみて、別人になっていることだけは私にもわかった。

 正直なところ、今の彼なら私が伴侶になりたかったのだが……。
 私たちとは目も合わせなかったジルベルトが、今やリオン殿下を守るためなら、真っ向からでも噛みついてきそうな勢いなのだ。

 「アーノルドの処分については、ジルベルトに任せると父上が話していたが。どうしたい?」
 「俺は個人的に復讐を終えています。今後、リオンに近付くことがなければ、それでいいです」
 「…………そうか」

 ジルベルトの話した復讐とは、リオン殿下と結ばれたことだろう。
 長い年月を虐げられていたというのに、この男は心根が優しすぎる。
 ある意味、本当に父上の子なのかと疑ってしまうほどだ。
 
 「陛下は?」
 「ああ……。話を聞いた当初は、処刑すると話しておられたが……。国外追放が妥当だろう」
 「……それはやめておいた方がいいのでは?」

 私と一定の距離を保つジルベルトが肩を竦める。

 「今回の件で分かったように、アーノルドは目的のためなら自身の武器を使うことに躊躇がない。国外に行ったとしても、また同じようなことを繰り返すでしょう。リンネス公爵家の一員でなくなったとしても、他に被害者が出ることが目に見えています。それなら、領地で幽閉した方がいいのでは?」
 「……そうだな。父上に話してみる」

 沈黙が流れる。
 退出しようと思ったのだが、空色の瞳がじっと私を見ていた。

 父上も私も、仕事が忙しくてアーノルドとほとんど関わってこなかった。
 それでも血が繋がっている家族だ。
 私たちのことも考えて、話をしてくれたのかもしれない。

 「今まで助けてやれず、すまなかった」
 「っ……」

 心から謝罪をし、私が頭を下げるとジルベルトが息を呑んだ。

 「虫がいいかもしれないが、今後はお前とも交流したいと思っている」
 「…………はい。兄上」

 兄と呼ばれたことに驚いて顔を上げれば、一歩私に近付いていたジルベルトが、困ったように眉を下げていた。

 こんなに簡単に許してしまうだなんて、お人好しすぎるだろう。
 もしくは、最初から私に期待していないのかもしれないが……。

 「これから最後の晩餐に向かうが、ジルベルトも行くか?」
 「いえ。俺がいると、アーノルドの機嫌が悪くなると思うので……。最後なら、余計にいない方がいいかと」
 「……そうか」

 少し会話をしてわかったが、私の異母弟は、どこまでも優しい男だった。


 ――両親から愛されていないのは、お前だけじゃない。


 そう、励ましにもならない言葉をかけようとしたが……。
 聡明なジルベルトなら、既にわかっているのかもしれない。
 それなら今後は、私がジルベルトの力になろう。

 不器用ながらもジルベルトとの距離を縮めようと努力する私は、心優しい異母弟の願いをなんでも叶えることにした。

 そしてなぜか、次々と依頼されるランジェリーまで自作する、過保護な兄になる未来を、私はまだ知らない――。











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