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第六章
143 やっぱり病気? (※)
しおりを挟む結局、ランドルフ様が俺に手を出すことはなく、安眠することができた。
(恋人同士というより、兄弟っぽいな……)
そんなことを言えば、ランドルフ様を傷付けてしまうことはわかっているので、口が裂けても言えないが。
でも、危険地帯での暴行未遂事件の際に、わざわざ私兵を連れて会いに来てくれた時から、俺はランドルフ様に友人以上の気持ちを抱いていたと思う。
自ら口付けたいと願っていた当時の事を思い出すだけで、胸が熱くなるのだから……。
(それなのに、あのランドルフ様が俺に手を出してこないだなんて、病気なのかもしれない)
共に朝食を食べ終えて、失礼なことを考えている俺は、二人きりになる瞬間を探している。
当たり前だが、ランドルフ様の傍には常に侍従のユジンさんがいるのだ。
昨晩は口付けているところを見られているが、俺は人に見られて興奮する趣味はない。
俺の想いよ、届け!
ふたりきりになりたい、とマルベリー色の瞳に熱視線を向けていると、優しく微笑まれる。
「そろそろ行きましょうか」
「……そうですね」
まったく伝わっていなかった。
ガックリと肩を落とすと、ランドルフ様にくすくすと笑われる。
もしかすると、伝わっていて無視されたのか?
もし病ならば、癒しの力を使おうと、ちょっとだけ優しさを出した自分が馬鹿みたいだ。
ムッとしたまま立ち上がり、ユジンさんに続いて部屋を出ようとすると、背後から手を引かれる。
振り向けば、目の前に綺麗なお顔が迫っており、口付けられていた。
「仕事が終わる時間に迎えに行きますね」
「…………え?」
今日も、お泊まりなのか?
詳しく話を聞けば、豊穣の神となったラファエルさんが、魔物の被害に遭った地に向かうことになり、クリストファー殿下も共に回るのだという。
そうなると、クリストファー殿下の仕事の一部をジュリアス殿下が担うそうで、忙しくなるらしい。
だから、今日からはランドルフ様が俺と共に過ごすことが決まっているそうだ。
(当事者である俺は、一切聞いていないのだが)
不貞腐れた顔をすれば、機嫌をなおしてほしいとばかりに、するりと優しく頬を撫でられる。
「すみません。イヴの反応が可愛くて、つい秘密にしてしまいました」
「……うざっ」
「ふふっ。本当なら、仕事帰りに迎えに行って、イヴを驚かす予定だったんですけど……。愛する人から熱い視線を向けられて、たまらず秘密を話してしまいました」
「っ…………うっざ!」
照れ隠しをして、吐き捨てる。
そんな俺の心を見透かすランドルフ様は、満面の笑みだ。
「意地悪な悪魔なんて、嫌いだ」
「すみません。イヴが可愛くて、ついいじめたくなってしまうんです」
両手で俺の頬を包み込んだランドルフ様に、濃厚な口付けをされる。
俺は申し訳なさもあって癒しの力を使うと、目尻が垂れ下がる。
だが、マルベリー色の瞳がくわっと見開いた。
「っ、これはさすがに驚いた……」
「今更ですか?」
「いえ、そうではなく。瞳に星が見えました」
「…………頭大丈夫ですか?」
もう一度と、キスを迫るランドルフ様を振り切る俺は、ズカズカと廊下を歩き出す。
主人が邪険に扱われている姿を見て驚く使用人たちには申し訳ないが、俺はやられたらやり返す。
周囲の反応を全く気にしていないランドルフ様が俺に縋り付いているが、べっと舌を出してやる。
馬車に乗り込み、そこから王宮までの数十分。
俺は騎士としてのプライドをかけて、絶対に負けられない戦いが始まった。
力ではエリオット様やジュリアス殿下には敵わないが、騎士ではないランドルフ様に負けるわけにはいかないのだ。
マウントを取り合う俺達が、馬車の中で暴れまくり、馬車から下りた時にはくたくたになっていた。
だが、俺の完全勝利である。
「まだまだイヴには敵いませんか」
「そう簡単に負けませんよ? 俺の今までの努力はなんだったんだって話になりますからね」
爽やかな笑みを浮かべる俺は、肩を落とすランドルフ様の服の乱れを整えてあげる。
「でも、短期間でここまで鍛えているとは思いもしませんでした。今からでも騎士になれそうです」
「ふふっ、その道のプロの方々を雇って鍛えましたからね?」
「え、どの道? ……怖っ」
「今回の負けをバネにし、次は対策を練ることが出来そうですよ。ふふふふふ」
本気で悔しそうにするお方を先輩面で励ましたのだが、次は負けるかもしれないと身震いする。
そう、みんなは癒しの聖女だからと特別視してくれているが、普段の俺の力量は平凡以下なのだ。
まあそれでも、半年頑張ったくらいの人には負けるわけがないと余裕をぶっかましていたのだが、腹黒悪魔は俺の想像以上に負けず嫌いだった。
◆
「んぅッ……っく、……ラルフさまっ」
「負けを認めますか?」
「い、いいやっ! まだっ、まだ、負けてな……ああぁッ!」
陰茎を扱き合いながら胸の飾りを噛まれて、先に射精してしまった俺は、半笑いのお方の得意分野での対決に敗北していた……。
力勝負で負けを認めたランドルフ様から、再戦を求められて応じたのだが、まさか卑猥な分野での勝負だとは思いもしなかった。
(帰宅後、すぐに寝室に押し込まれた時点で気づくべきだった……)
胡座をかいて向かい合っていた体勢から立ち上がろうとすると、まだだと手を引かれる。
辛うじて肩に掛かっていたガウンが滑り落ちる。
それを再度俺の肩にかけたランドルフ様に押し倒されて、握られた手首をシーツに押しつけられた。
「次はイヴの得意な力勝負にしますか?」
「っ……、くっ」
「ああ、でも。負けたままだとイヴは悔しいですよね? もう一勝負いきましょうか」
力を入れようとするが、射精後で脱力している体は言うことを聞いてくれない。
俺が顔を顰めると、笑みを深めたランドルフ様が舌舐めずりをしながら、ゆっくりと俺の胸元に顔を近づけた。
また噛まれるのかと体を震わせると、赤く尖った先端の前で、動きがぴたりと止まる。
「ハンデをあげている状態ですから、イヴが有利ですよ?」
「っ、い、いやっ」
「…………嫌? 本当に嫌なんですか?」
ゆるりと首を傾げ、熱を孕むマルベリー色の瞳は、全てを見透かしているかのように鈍く光る。
ひくひくと動く俺の陰茎を、ランドルフ様の膝が優しく撫でる。
「あ、ンッ」
「期待しているようにしか見えませんけど」
「っ……違い、ますっ」
なんとか声を振り絞るが、この先の快感を知ってしまっている体は、僅かな刺激にも反応していた。
恥ずかしすぎてぎゅっと目を瞑ると、優しく目尻に口付けられた。
「大丈夫ですよ。イヴの嫌がることはしないと誓いましたからね」
穏やかな口調で俺を解放したランドルフ様は、汚れた俺の体を丁寧に清め始めた。
そして抱きしめられて眠る体勢に入るが、体には中途半端に興奮したままの硬い陰茎が当たる。
「ラルフ様は?」
「はい?」
「……ラルフ様は、出していないですよね?」
このままじゃ辛いだろうと声を掛けたが、気にしなくていいと言われて、抱き込まれてしまった。
(……あのランドルフ様が俺を襲わないだなんて、どう考えてもおかしい)
なんて言えばいいかわからずに、とりあえず抜いてあげようと手を伸ばしたのだが、指を絡めて握られる。
「……やっぱり病気?」
「ふふ、失礼ですね? イヴには、私が誰とでも性交渉をするような人間に見えるのですか?」
「っ、誤解ですっ! 俺が言いたかったのは、頭の方の……」
「それも失礼ですけど?」
くすくすと笑うランドルフ様が、おやすみなさいと甘い声で囁いた。
一体全体どうしたんだ!?
腹黒悪魔が悶々としながら寝たフリをしている事に気付かない俺は、「ランドルフ様が優しすぎて怖い……」と、失礼なことを呟き、安眠していた。
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