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七昼七本
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覚えてやすかい? 何がどうなって手なんざ繋いで屋根をとんとんとんっと跳んでやがるか。
そうそう、あっしが蝋燭から妖気をクッションみてえに膨らまして弾ませてんのさ。そんで、今から鉤水瀬って男にひっ憑いた狐を剥がしに行くところ。
なんでそんな事をあっしがしたいのかって? まあ見てな。ほら、しっかり掴まって。ここらで降りたら、っと着いた。
ここが鉤のよく行く飯屋でしたっけね。ああ居る居る食ってる。
その定食、旨いんですかい?
「……え?」
「こんにちは、水瀬さん」
「あ、導さん、ちはっ!」
説明挟んどきますと、頭は適当な人間の形に変えてますぜ。
鉤水瀬。なるほど調べておいた通りだ。
「えと、この人は?」
「ああ、私の大切なひとです」
……女の顔にゃ変えてないんだが。
「そっすか? あ、そこどーぞ」
簡っ単にメニュー渡してくるねえ。お、旨そうだ。鶏舞茸の挟み焼き定食。味噌汁じゃなくて豚汁で。
「私も同じものを。体調は良くなりました?」
「いやマジで最高っすよ! 夜はまだ体調ヤベんすけど、大学行けてのんびり昼にカツ食えんのがマッジで嬉しくて! あ、水どぞ」
ははあ、憑き狐が簡単にゃ噴き出てこないようにチョーカーと腕輪足輪と腰ベルトでぬるい星型の結界作って封じてんのか。ちょうど穴だの手のひらだの、出口にあたる場所を縛ってせきとめる形にもなりやすしねえ。ほんほん、鉤が呪いをかけたってことにして、体調に応じて結界の歪み方が変わって束縛の度合いを変えるってわけですかい。負のふぃいどばっくってわけだ。いやいや、人外にゃなかなか思いつかねえ人間らしい創意工夫。しかしあぁた、輪っかが好きだねぇ。
「導道祖教の重要なシンボルですから」
そうかい。
あぁたさ、狐は犬や猫と違って躾けられねえって知ってるかい。気高いお方なら尚更。
あと、慣れようが慣れまいがいつだって咬むってことも。
「大丈夫ですよ、ほら、欲求を満たしている時にはそこまで凶暴じゃないでしょう?」
それ以外の時に周りが迷惑被ってんでしょうがよ。
「? 導さん、どしたんすか」
「ああいえいえ、何でもありませんよ」
にこっとしやがって、ねえ。
「んで、何しに来たんすか」
「はい? お昼を頂きに。そうしたら水瀬さんが居たのでご一緒できたらと……」
「いやいや、導さんじゃなくて、そっちの話っすよ。油以外は栄養にならないって言ってたじゃないか」
そんな嘘吐いた日もあったっけかねえ。
「あー、ダリぃ。お供えの油揚げからみぃんな油を搾り取っていった事は、あたしの可愛い可愛い子どもたちにだって教えてあるよ」
「水瀬さん」
「札の音でも聞いてお帰り」
人の金をばら撒くなって。あぁたの信仰賽銭がじゃらじゃら泣くぜ。
「あたしん所はサツの方が多いからそんな風に小銭鳴らないっすよ。嫌だねぇ」
「水瀬さん」
「あんたも邪魔してくれたよねぇ!」
っと! やめろって。尻尾ぶつけんならあっしにしときな。
導、あぁたも諦めな。普段ならあぁたの呪いだけでも抑えられてたろうが、あっしの妖気で目が覚めてんだ。
「……はい」
良い子。
さて。可愛い可愛い茅玉、出てきな。
「! 茅ちゃん!」
やっぱりあぁたの子どもですかい。見つけたときからぴんときてましたよ。目がそっくりだ。
「ああ、あああ、ああ、こんなやせ細ってずたぼろになって、ああ可哀想に、可哀想にねえ! おいで、可愛い子。ああ……おお、なんてこと、鳴くこともできなくなって、おおよしよし、よし……ああ……」
「……つまりこれは。そういう事でしたか」
そうそ。お布施の、つまり信仰のしっかりしてるとこの神様がふらふら人に憑いて市井にお降りになるってのは異常さ。稲荷ってのは稲の字が入ってる通り、元はといえば豊作の神。次第に衣と住、厄除け、商売繁盛その他々にも効能が伸びたがね。人が初めて稔らした稲を捧げて願ったその時からずうっと、土地に張り付いて守ってくださるはずの神さんさ。よっぽどの事情、例えば大事な「探しもの」があって社殿を抜け出したんだろうと思ってたんですよ。
「それがあの妖怪だったんですね」
大胆な奴ですよ、あっしの追ってる奴はね。
あ、言い忘れてた。お稲荷さんってのはだいたい、狐の神様じゃないですぜ。倉稲銭転稲荷は少数派なんだ。
「マジョリティはウカノミタマという人型の女神で、眷属として白狐を従えているんですよね」
他の神って場合もあるがな。狛犬置いてるところが全部犬神神社ってわけじゃないのと同じさ。
「……では、百一本さんはあの脛こすりを銭転稲荷に返すためだけに来たんですか?」
不思議そうな顔してるじゃないの。あぁたの考えは大体分かるぜ。
「だって、雲のような正体不明の怪談を探すのが目的なんでしょう? 返してやっても特に進展はしないですし、仲の良い神様という感じでもない。それに、鼻が利いて人を転ばせられて逆らわない手駒と考えると、返してしまっては百一本さんにメリットがないのでは?」
四つ忘れてるぜ、人間。まず道義心。これはすぐに思い出しな。
あと、あいつはあくまで神の子だ。容易く扱えるなんて思うのは大間違いなんだよ。あっしは手放してせいせいしてるんだぜ。
それに、さっさとこのお狐様が神社に帰ってくれねえとおかると殺しだの何だのと治安が悪くてしょうがねえんだ。
「? 治安が悪いほど怪談が増えますよね? それに、神の御子だからこそ、使い様が多くあるのでは?」
あぁたねえ。まっすぐな目で言うんじゃねぇやい。無垢ぶったってあっしはいつでもあぁたの本心覗けるんですぜ。
「そういえば百一本さん、今日はほとんど私の心を覗いていないんじゃないですか? 『考えは大体分かる』とか『いつでも覗ける』とか。今は見ていないんですね?」
……それがどうかしたかい?
「どうかしたのか、と私が貴方に聞いているんですよ。私が。貴方に」
おやおや、大分に随分な首飾りなんざ隠し持ってるじゃねえの。おっかない坊主だねえ。
「良いんですか? このままだと、留金、嵌めちゃいますけど」
あっしにそんなに首輪をつけたいかい?
「……私の心を見ていれば、こんなに近づく前に簡単に避けられたんですよ。見てくれないから、こういうことをされるんです」
ううん、お互い聞いたことに答えてねえみたいだなあ。
「私のことなんて、もう見る価値も無いとか思ってます? 脅威でもないと?」
そんなに手ぇ震えてたら留めるのにも苦労しちまうぜ、なあ。
答えてやろう。首輪はあっしには似合わねえさ。あぁたから目を離した覚えもないしな。
「あっ……」
実は首飾りの鎖をちょいと切らせてもらってたぜ、裁ち鋏で。ばらばら落ちてきた呪いの本体のガラス玉を没収だ。
「……高かったのに……」
ったく、ほら、こっち向きな。いい加減あっしを見やがれってんだ。
あぁたはあっしに誘拐されかけて、現在逃亡中なんだぜ、実は。追ってるようで逃げ回ってんのさ。
「百一本さん?」
あっしの掌の上に居るから見つけられねぇんだよ。目の高さが違うから見てもらえないなんて思うのさ。ちまちました呪いの断片しか残さねぇ雲野郎とは違うんだぜ、あっしは。
ほら、目を合わせたけりゃ上見な。そん時ゃ、正面から相手してやるよ。
「百一本さん……」
まあ、神じゃねぇからあっしは危ねえと思ったら逃げも隠れも周り道もするけどな。多少は探してもらおうか。
さてと、銭転の狐神様。
「……ああ。待たせたね」
宜しいですかい?
「ああ。社に帰るよ。茅ちゃんを安全なところに早く連れてってやらなきゃならないし、そろそろ人間の体にも疲れてたところだ」
でしょうねえ。
「なんで若者の体ってのは、こう……ダルいんだい? 若けりゃ若いほど元気なはずだろ」
そう思っちまうのが中年と年寄りと人外の悪い所ですよ。若いのがだりぃだりいって言ってる時はね、まじで体が怠いんだ。これを忘れちゃ若者と付き合えませんぜ。
「はあー、何だいそりゃ。やってらんないね」
それでだ、お帰りの土産にこの瓶をどうぞ。
「!」
ちょいと元気の有り余った小人なんざが入ってますから、神社の賑やかしになるんじゃあねえかと。
実はこいつ、茅玉がしばらくの間嗅ぎ慣れてた匂いみたいでしてね? 疲れちまった頭で、あっしが言う言葉の意味も分からないはずなのに探し出してきたんだから間違いねえですぜ。
べらべらとやけに簡っ単に喋ってくださいましてねぇ。どうやら「雲みたいな得体の知れない妖怪」が下手人らしいですから、どんな奴なのか、もっと良く、よーっくと思い出せるように聞いてやってくだせえよ、こいつに。あっしよりきっとお上手でしょう?
「……っあははっ、ふふ、なあるほど、ねえ。おやおやおや、あふふふふっ。そこまで褒められちゃ、喜んで受け取ろうじゃないか。茅ちゃんとか子どもたちの良いおもちゃになりそうだ」
そういう事です。
あぁた様は中から、あっしは外から。そういう風にしやせんか?
「……あんたの事は大っ嫌いだが、茅ちゃんを置いて外には出られないからねぇ。しょうがない、しょうがなく、あんたと組んでやろうじゃないの」
有難き幸せ。
「茅ちゃんをこんな目に遭わせた奴は、九尾で九回は潰してやろうじゃないの……あふふふふ……」
おお、怖ぁいねえ。
そんじゃ、ちょうど注文が来るとこだ。食おうぜ。
「え? ……ああ、頼んでましたね……」
そうだよ。舞茸で柔らかくなった鶏だぜ。美味かったんでしょう?
「そっすね、ここだとカツカレーの次によく食うっすよ」
「あ、水瀬さん。お帰りなさい」
「? 俺今帰ってきたんすか?」
「ええ」
「……よく分かんねっすけど、気分良いんで奢りますよ!」
「ありがとうございます」
……破産しない程度にしときな。
そうそう、あっしが蝋燭から妖気をクッションみてえに膨らまして弾ませてんのさ。そんで、今から鉤水瀬って男にひっ憑いた狐を剥がしに行くところ。
なんでそんな事をあっしがしたいのかって? まあ見てな。ほら、しっかり掴まって。ここらで降りたら、っと着いた。
ここが鉤のよく行く飯屋でしたっけね。ああ居る居る食ってる。
その定食、旨いんですかい?
「……え?」
「こんにちは、水瀬さん」
「あ、導さん、ちはっ!」
説明挟んどきますと、頭は適当な人間の形に変えてますぜ。
鉤水瀬。なるほど調べておいた通りだ。
「えと、この人は?」
「ああ、私の大切なひとです」
……女の顔にゃ変えてないんだが。
「そっすか? あ、そこどーぞ」
簡っ単にメニュー渡してくるねえ。お、旨そうだ。鶏舞茸の挟み焼き定食。味噌汁じゃなくて豚汁で。
「私も同じものを。体調は良くなりました?」
「いやマジで最高っすよ! 夜はまだ体調ヤベんすけど、大学行けてのんびり昼にカツ食えんのがマッジで嬉しくて! あ、水どぞ」
ははあ、憑き狐が簡単にゃ噴き出てこないようにチョーカーと腕輪足輪と腰ベルトでぬるい星型の結界作って封じてんのか。ちょうど穴だの手のひらだの、出口にあたる場所を縛ってせきとめる形にもなりやすしねえ。ほんほん、鉤が呪いをかけたってことにして、体調に応じて結界の歪み方が変わって束縛の度合いを変えるってわけですかい。負のふぃいどばっくってわけだ。いやいや、人外にゃなかなか思いつかねえ人間らしい創意工夫。しかしあぁた、輪っかが好きだねぇ。
「導道祖教の重要なシンボルですから」
そうかい。
あぁたさ、狐は犬や猫と違って躾けられねえって知ってるかい。気高いお方なら尚更。
あと、慣れようが慣れまいがいつだって咬むってことも。
「大丈夫ですよ、ほら、欲求を満たしている時にはそこまで凶暴じゃないでしょう?」
それ以外の時に周りが迷惑被ってんでしょうがよ。
「? 導さん、どしたんすか」
「ああいえいえ、何でもありませんよ」
にこっとしやがって、ねえ。
「んで、何しに来たんすか」
「はい? お昼を頂きに。そうしたら水瀬さんが居たのでご一緒できたらと……」
「いやいや、導さんじゃなくて、そっちの話っすよ。油以外は栄養にならないって言ってたじゃないか」
そんな嘘吐いた日もあったっけかねえ。
「あー、ダリぃ。お供えの油揚げからみぃんな油を搾り取っていった事は、あたしの可愛い可愛い子どもたちにだって教えてあるよ」
「水瀬さん」
「札の音でも聞いてお帰り」
人の金をばら撒くなって。あぁたの信仰賽銭がじゃらじゃら泣くぜ。
「あたしん所はサツの方が多いからそんな風に小銭鳴らないっすよ。嫌だねぇ」
「水瀬さん」
「あんたも邪魔してくれたよねぇ!」
っと! やめろって。尻尾ぶつけんならあっしにしときな。
導、あぁたも諦めな。普段ならあぁたの呪いだけでも抑えられてたろうが、あっしの妖気で目が覚めてんだ。
「……はい」
良い子。
さて。可愛い可愛い茅玉、出てきな。
「! 茅ちゃん!」
やっぱりあぁたの子どもですかい。見つけたときからぴんときてましたよ。目がそっくりだ。
「ああ、あああ、ああ、こんなやせ細ってずたぼろになって、ああ可哀想に、可哀想にねえ! おいで、可愛い子。ああ……おお、なんてこと、鳴くこともできなくなって、おおよしよし、よし……ああ……」
「……つまりこれは。そういう事でしたか」
そうそ。お布施の、つまり信仰のしっかりしてるとこの神様がふらふら人に憑いて市井にお降りになるってのは異常さ。稲荷ってのは稲の字が入ってる通り、元はといえば豊作の神。次第に衣と住、厄除け、商売繁盛その他々にも効能が伸びたがね。人が初めて稔らした稲を捧げて願ったその時からずうっと、土地に張り付いて守ってくださるはずの神さんさ。よっぽどの事情、例えば大事な「探しもの」があって社殿を抜け出したんだろうと思ってたんですよ。
「それがあの妖怪だったんですね」
大胆な奴ですよ、あっしの追ってる奴はね。
あ、言い忘れてた。お稲荷さんってのはだいたい、狐の神様じゃないですぜ。倉稲銭転稲荷は少数派なんだ。
「マジョリティはウカノミタマという人型の女神で、眷属として白狐を従えているんですよね」
他の神って場合もあるがな。狛犬置いてるところが全部犬神神社ってわけじゃないのと同じさ。
「……では、百一本さんはあの脛こすりを銭転稲荷に返すためだけに来たんですか?」
不思議そうな顔してるじゃないの。あぁたの考えは大体分かるぜ。
「だって、雲のような正体不明の怪談を探すのが目的なんでしょう? 返してやっても特に進展はしないですし、仲の良い神様という感じでもない。それに、鼻が利いて人を転ばせられて逆らわない手駒と考えると、返してしまっては百一本さんにメリットがないのでは?」
四つ忘れてるぜ、人間。まず道義心。これはすぐに思い出しな。
あと、あいつはあくまで神の子だ。容易く扱えるなんて思うのは大間違いなんだよ。あっしは手放してせいせいしてるんだぜ。
それに、さっさとこのお狐様が神社に帰ってくれねえとおかると殺しだの何だのと治安が悪くてしょうがねえんだ。
「? 治安が悪いほど怪談が増えますよね? それに、神の御子だからこそ、使い様が多くあるのでは?」
あぁたねえ。まっすぐな目で言うんじゃねぇやい。無垢ぶったってあっしはいつでもあぁたの本心覗けるんですぜ。
「そういえば百一本さん、今日はほとんど私の心を覗いていないんじゃないですか? 『考えは大体分かる』とか『いつでも覗ける』とか。今は見ていないんですね?」
……それがどうかしたかい?
「どうかしたのか、と私が貴方に聞いているんですよ。私が。貴方に」
おやおや、大分に随分な首飾りなんざ隠し持ってるじゃねえの。おっかない坊主だねえ。
「良いんですか? このままだと、留金、嵌めちゃいますけど」
あっしにそんなに首輪をつけたいかい?
「……私の心を見ていれば、こんなに近づく前に簡単に避けられたんですよ。見てくれないから、こういうことをされるんです」
ううん、お互い聞いたことに答えてねえみたいだなあ。
「私のことなんて、もう見る価値も無いとか思ってます? 脅威でもないと?」
そんなに手ぇ震えてたら留めるのにも苦労しちまうぜ、なあ。
答えてやろう。首輪はあっしには似合わねえさ。あぁたから目を離した覚えもないしな。
「あっ……」
実は首飾りの鎖をちょいと切らせてもらってたぜ、裁ち鋏で。ばらばら落ちてきた呪いの本体のガラス玉を没収だ。
「……高かったのに……」
ったく、ほら、こっち向きな。いい加減あっしを見やがれってんだ。
あぁたはあっしに誘拐されかけて、現在逃亡中なんだぜ、実は。追ってるようで逃げ回ってんのさ。
「百一本さん?」
あっしの掌の上に居るから見つけられねぇんだよ。目の高さが違うから見てもらえないなんて思うのさ。ちまちました呪いの断片しか残さねぇ雲野郎とは違うんだぜ、あっしは。
ほら、目を合わせたけりゃ上見な。そん時ゃ、正面から相手してやるよ。
「百一本さん……」
まあ、神じゃねぇからあっしは危ねえと思ったら逃げも隠れも周り道もするけどな。多少は探してもらおうか。
さてと、銭転の狐神様。
「……ああ。待たせたね」
宜しいですかい?
「ああ。社に帰るよ。茅ちゃんを安全なところに早く連れてってやらなきゃならないし、そろそろ人間の体にも疲れてたところだ」
でしょうねえ。
「なんで若者の体ってのは、こう……ダルいんだい? 若けりゃ若いほど元気なはずだろ」
そう思っちまうのが中年と年寄りと人外の悪い所ですよ。若いのがだりぃだりいって言ってる時はね、まじで体が怠いんだ。これを忘れちゃ若者と付き合えませんぜ。
「はあー、何だいそりゃ。やってらんないね」
それでだ、お帰りの土産にこの瓶をどうぞ。
「!」
ちょいと元気の有り余った小人なんざが入ってますから、神社の賑やかしになるんじゃあねえかと。
実はこいつ、茅玉がしばらくの間嗅ぎ慣れてた匂いみたいでしてね? 疲れちまった頭で、あっしが言う言葉の意味も分からないはずなのに探し出してきたんだから間違いねえですぜ。
べらべらとやけに簡っ単に喋ってくださいましてねぇ。どうやら「雲みたいな得体の知れない妖怪」が下手人らしいですから、どんな奴なのか、もっと良く、よーっくと思い出せるように聞いてやってくだせえよ、こいつに。あっしよりきっとお上手でしょう?
「……っあははっ、ふふ、なあるほど、ねえ。おやおやおや、あふふふふっ。そこまで褒められちゃ、喜んで受け取ろうじゃないか。茅ちゃんとか子どもたちの良いおもちゃになりそうだ」
そういう事です。
あぁた様は中から、あっしは外から。そういう風にしやせんか?
「……あんたの事は大っ嫌いだが、茅ちゃんを置いて外には出られないからねぇ。しょうがない、しょうがなく、あんたと組んでやろうじゃないの」
有難き幸せ。
「茅ちゃんをこんな目に遭わせた奴は、九尾で九回は潰してやろうじゃないの……あふふふふ……」
おお、怖ぁいねえ。
そんじゃ、ちょうど注文が来るとこだ。食おうぜ。
「え? ……ああ、頼んでましたね……」
そうだよ。舞茸で柔らかくなった鶏だぜ。美味かったんでしょう?
「そっすね、ここだとカツカレーの次によく食うっすよ」
「あ、水瀬さん。お帰りなさい」
「? 俺今帰ってきたんすか?」
「ええ」
「……よく分かんねっすけど、気分良いんで奢りますよ!」
「ありがとうございます」
……破産しない程度にしときな。
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