時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

文字の大きさ
10 / 41
砂の章

其ノ九 巨大な蛇

しおりを挟む
「ここまで大きいと壮観だな」
「近くで見るとすごいね」

 二人は集落をでて砂煙──と言うよりも、砂嵐だろうか? の前まで来ていた。
 遠くで見ていた時と比べて、勢いは遥かに激しく密度も高い。

「よし、助手くんは目を閉じて中へと進もう。まずは蛇と対峙するところからだ」
「そだね……この砂嵐の中に入り込むのやだなぁ」

 フィーネはアリーシャを背負うと、彼女の指示に従い、目を閉じて砂嵐の中へ入っていく。
 いくら細かい砂粒とはいえ、この激しさでは肌に当たる部分は多少なりの痛みはあるだろう。

「────」

 砂嵐の中は、外から見た時の激しさとはまた別格だ。
 目を閉じたフィーネは当然、仮に目を開けて外の様子を確認できたとして、おそらくは何も見えないだろう。

 迷わず歩き続けるフィーネは、肌に直接砂風の当たる位置を時折ぬぐったりしている。
 痛みを感じている、というよりはこの風当たりをどこか不快に感じているのかもしれない。

「……くん! ──まない、ごさ──」

 風とは異なる音がフィーネに何度か届いており、わずかにアリーシャの声が聞こえた。
 砂風の勢いが凄まじいため、声すらうまく聞き取れていなかったのだろう。

「ごめんなさいアリー! 声が聞こえないの!」

 フィーネも大声を出して返事を待つ。
 しかしこの砂風の中、大声を出すために口を開けて砂でも入ってきたら溜まったものではない。

「すまない助手くん! 誤算だ! 前が見えない!」

 アリーシャの声がやっと届くと、どうやら風防眼鏡があまり役に立っていないようだ。

「目を開けることは可能だが! その先に見えるのは砂嵐だ!」

 なるほど確かに、これだけの砂嵐、仮に風防眼鏡で遮断したとして、その眼鏡越しに見えるのは砂嵐そのものだろう。

 こうなると、アリーシャがこの場にいる必要性が皆無となる。
 なんなら彼女がいることによってフィーネの動きが制限されてしまう。

「アリー! 一度戻るよ!」

 フィーネも察し、元来た道を戻ろうと踵を返す。
 すると、彼女の周りを舞う砂嵐が徐々に弱まっていく。

 その不自然な現象に足を止め、周囲の状況に注意を払う。
 

「……どうやら戻ることは不可能らしいな」

 アリーシャの言葉で、フィーネが状況を大体把握したのか、体を強張らせて警戒態勢に入る。

「えっともしかして……」
「まあ、おそらく君の思うままだろう。今は嵐もほぼないし目を開けてみるといい」

 アリーシャに言われ、フィーネが目を開ける。

 フィーネの視界に最初に入ったのは、嵐がほとんどなく、明快になった砂漠。その上にある、黒い鱗で覆われた革。
 その革はフィーネの周囲を隙間なく埋めており、出口になるような場所はない。

 高い啜り音が頭上から聞こえ、彼女は緊張しながら視線を上に向ける。
 赤く長い舌が最初に視界に入り、先ほどと同じ黒い革、フィーネの身長よりさらに大きい牙がみえ、その奥からは赤く丸い瞳が二人をしっかりと捉えている。
 人喰と呼ばれた大蛇、その顔がそこにあったのだ。

 大蛇が口を開け二人に徐々に近づいてくる。牙には液体がつたり、牙の先に溜まるとそのまま二人のすぐそばに垂れ落ちた。

 液体の垂れ落ちた砂は煙を出しながら溶けてなくなり、白い艶のある岩盤が姿を見せた。

「この図体にして毒蛇のようだな。助手くん、いったん今の状況は脱した方が身のためかもしれないぞ。いくら君でもこの毒は危険だ」
「これ、毒なの?」
「激毒だな。ただ溶けるだけのものだと思ったら大違いだ」

 アリーシャの言っていることが事実なら、現状はかなり危険な状態なのだろう。……いやそうでなくても危機的状況に変わりはない。

 しかし、蛇の体に囲われた現状から抜け出すのであれば、蛇の体を飛び越えていくしかない。フィーネなら可能なのだろうか?

 当の本人は先ほど溶けた地面の白い岩盤を見ながら、何やら考えているようだ。

「……アリー、集落の周りにあった、あの白い岩ってどうやってできたと思う?」
「突然どうしたんだ。……仮にあれが自然にできた岩だとすれば、砂中で研磨されたと考えるのが自然だが、それが地表にでてくることが不自然だ。正直私にも検討はつかないな」

 フィーネの唐突な質問に、アリーシャも不思議そうな表情を浮かべる。
 フィーネはといえば、アリーシャの回答を聞くなり、その場にしゃがみ込んでしまった。

「アリー、ちょっと揺れる」
「なにを……!」
 
 フィーネはアリーシャを抱える腕を片方外し、思い切り地面に叩きつける。
 当然、柔らかい砂たちは周囲に霧散し、砂嵐はなくとも二人の視界を遮った。

「目眩しのつもりだとしたらなんの意味もないぞ! 助手くん!」

 フィーネはアリーシャの言葉を聞いても止まらず、そのまま地面に刺した手をさらに沈める。
 フィーネのその状態に好機を感じたのか、あるいは危機を感じたのか、蛇が口を開き二人に食らいつくため動き出す。

「──ふっとべっ!」

 フィーネが叫びながら、地面に刺した腕に力を込め持ち上げると、目の前の蛇の胴体が持ち上がる。
 さらにそこから徐々に胴体は盛り上がり、地面の下から白い影が見えてきた。
 さらに持ち上げると地面の下から集落周辺にあるような、白い丸岩が姿を見せる。

「て、近い!」

 フィーネが、丸岩を頭上まで持ち上げた頃には、大蛇の巨大な牙が二人の目前まで迫っていた。

 それでもフィーネの振り回した丸岩の方が早く大蛇の顎に到達し、そのまま岩ごと大蛇は吹き飛んでいく。

「なんでこんな近くまで……」

 大蛇はそのままよろけて、頭から地面に突っ伏し、大蛇の近くに丸岩も落下した。

 フィーネは岩を持ち上げるときに岩に刺していた指の感触を確かめて、握り締めた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...