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砂の章
其ノ九 巨大な蛇
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「ここまで大きいと壮観だな」
「近くで見るとすごいね」
二人は集落をでて砂煙──と言うよりも、砂嵐だろうか? の前まで来ていた。
遠くで見ていた時と比べて、勢いは遥かに激しく密度も高い。
「よし、助手くんは目を閉じて中へと進もう。まずは蛇と対峙するところからだ」
「そだね……この砂嵐の中に入り込むのやだなぁ」
フィーネはアリーシャを背負うと、彼女の指示に従い、目を閉じて砂嵐の中へ入っていく。
いくら細かい砂粒とはいえ、この激しさでは肌に当たる部分は多少なりの痛みはあるだろう。
「────」
砂嵐の中は、外から見た時の激しさとはまた別格だ。
目を閉じたフィーネは当然、仮に目を開けて外の様子を確認できたとして、おそらくは何も見えないだろう。
迷わず歩き続けるフィーネは、肌に直接砂風の当たる位置を時折ぬぐったりしている。
痛みを感じている、というよりはこの風当たりをどこか不快に感じているのかもしれない。
「……くん! ──まない、ごさ──」
風とは異なる音がフィーネに何度か届いており、わずかにアリーシャの声が聞こえた。
砂風の勢いが凄まじいため、声すらうまく聞き取れていなかったのだろう。
「ごめんなさいアリー! 声が聞こえないの!」
フィーネも大声を出して返事を待つ。
しかしこの砂風の中、大声を出すために口を開けて砂でも入ってきたら溜まったものではない。
「すまない助手くん! 誤算だ! 前が見えない!」
アリーシャの声がやっと届くと、どうやら風防眼鏡があまり役に立っていないようだ。
「目を開けることは可能だが! その先に見えるのは砂嵐だ!」
なるほど確かに、これだけの砂嵐、仮に風防眼鏡で遮断したとして、その眼鏡越しに見えるのは砂嵐そのものだろう。
こうなると、アリーシャがこの場にいる必要性が皆無となる。
なんなら彼女がいることによってフィーネの動きが制限されてしまう。
「アリー! 一度戻るよ!」
フィーネも察し、元来た道を戻ろうと踵を返す。
すると、彼女の周りを舞う砂嵐が徐々に弱まっていく。
その不自然な現象に足を止め、周囲の状況に注意を払う。
「……どうやら戻ることは不可能らしいな」
アリーシャの言葉で、フィーネが状況を大体把握したのか、体を強張らせて警戒態勢に入る。
「えっともしかして……」
「まあ、おそらく君の思うままだろう。今は嵐もほぼないし目を開けてみるといい」
アリーシャに言われ、フィーネが目を開ける。
フィーネの視界に最初に入ったのは、嵐がほとんどなく、明快になった砂漠。その上にある、黒い鱗で覆われた革。
その革はフィーネの周囲を隙間なく埋めており、出口になるような場所はない。
高い啜り音が頭上から聞こえ、彼女は緊張しながら視線を上に向ける。
赤く長い舌が最初に視界に入り、先ほどと同じ黒い革、フィーネの身長よりさらに大きい牙がみえ、その奥からは赤く丸い瞳が二人をしっかりと捉えている。
人喰と呼ばれた大蛇、その顔がそこにあったのだ。
大蛇が口を開け二人に徐々に近づいてくる。牙には液体がつたり、牙の先に溜まるとそのまま二人のすぐそばに垂れ落ちた。
液体の垂れ落ちた砂は煙を出しながら溶けてなくなり、白い艶のある岩盤が姿を見せた。
「この図体にして毒蛇のようだな。助手くん、いったん今の状況は脱した方が身のためかもしれないぞ。いくら君でもこの毒は危険だ」
「これ、毒なの?」
「激毒だな。ただ溶けるだけのものだと思ったら大違いだ」
アリーシャの言っていることが事実なら、現状はかなり危険な状態なのだろう。……いやそうでなくても危機的状況に変わりはない。
しかし、蛇の体に囲われた現状から抜け出すのであれば、蛇の体を飛び越えていくしかない。フィーネなら可能なのだろうか?
当の本人は先ほど溶けた地面の白い岩盤を見ながら、何やら考えているようだ。
「……アリー、集落の周りにあった、あの白い岩ってどうやってできたと思う?」
「突然どうしたんだ。……仮にあれが自然にできた岩だとすれば、砂中で研磨されたと考えるのが自然だが、それが地表にでてくることが不自然だ。正直私にも検討はつかないな」
フィーネの唐突な質問に、アリーシャも不思議そうな表情を浮かべる。
フィーネはといえば、アリーシャの回答を聞くなり、その場にしゃがみ込んでしまった。
「アリー、ちょっと揺れる」
「なにを……!」
フィーネはアリーシャを抱える腕を片方外し、思い切り地面に叩きつける。
当然、柔らかい砂たちは周囲に霧散し、砂嵐はなくとも二人の視界を遮った。
「目眩しのつもりだとしたらなんの意味もないぞ! 助手くん!」
フィーネはアリーシャの言葉を聞いても止まらず、そのまま地面に刺した手をさらに沈める。
フィーネのその状態に好機を感じたのか、あるいは危機を感じたのか、蛇が口を開き二人に食らいつくため動き出す。
「──ふっとべっ!」
フィーネが叫びながら、地面に刺した腕に力を込め持ち上げると、目の前の蛇の胴体が持ち上がる。
さらにそこから徐々に胴体は盛り上がり、地面の下から白い影が見えてきた。
さらに持ち上げると地面の下から集落周辺にあるような、白い丸岩が姿を見せる。
「て、近い!」
フィーネが、丸岩を頭上まで持ち上げた頃には、大蛇の巨大な牙が二人の目前まで迫っていた。
それでもフィーネの振り回した丸岩の方が早く大蛇の顎に到達し、そのまま岩ごと大蛇は吹き飛んでいく。
「なんでこんな近くまで……」
大蛇はそのままよろけて、頭から地面に突っ伏し、大蛇の近くに丸岩も落下した。
フィーネは岩を持ち上げるときに岩に刺していた指の感触を確かめて、握り締めた。
「近くで見るとすごいね」
二人は集落をでて砂煙──と言うよりも、砂嵐だろうか? の前まで来ていた。
遠くで見ていた時と比べて、勢いは遥かに激しく密度も高い。
「よし、助手くんは目を閉じて中へと進もう。まずは蛇と対峙するところからだ」
「そだね……この砂嵐の中に入り込むのやだなぁ」
フィーネはアリーシャを背負うと、彼女の指示に従い、目を閉じて砂嵐の中へ入っていく。
いくら細かい砂粒とはいえ、この激しさでは肌に当たる部分は多少なりの痛みはあるだろう。
「────」
砂嵐の中は、外から見た時の激しさとはまた別格だ。
目を閉じたフィーネは当然、仮に目を開けて外の様子を確認できたとして、おそらくは何も見えないだろう。
迷わず歩き続けるフィーネは、肌に直接砂風の当たる位置を時折ぬぐったりしている。
痛みを感じている、というよりはこの風当たりをどこか不快に感じているのかもしれない。
「……くん! ──まない、ごさ──」
風とは異なる音がフィーネに何度か届いており、わずかにアリーシャの声が聞こえた。
砂風の勢いが凄まじいため、声すらうまく聞き取れていなかったのだろう。
「ごめんなさいアリー! 声が聞こえないの!」
フィーネも大声を出して返事を待つ。
しかしこの砂風の中、大声を出すために口を開けて砂でも入ってきたら溜まったものではない。
「すまない助手くん! 誤算だ! 前が見えない!」
アリーシャの声がやっと届くと、どうやら風防眼鏡があまり役に立っていないようだ。
「目を開けることは可能だが! その先に見えるのは砂嵐だ!」
なるほど確かに、これだけの砂嵐、仮に風防眼鏡で遮断したとして、その眼鏡越しに見えるのは砂嵐そのものだろう。
こうなると、アリーシャがこの場にいる必要性が皆無となる。
なんなら彼女がいることによってフィーネの動きが制限されてしまう。
「アリー! 一度戻るよ!」
フィーネも察し、元来た道を戻ろうと踵を返す。
すると、彼女の周りを舞う砂嵐が徐々に弱まっていく。
その不自然な現象に足を止め、周囲の状況に注意を払う。
「……どうやら戻ることは不可能らしいな」
アリーシャの言葉で、フィーネが状況を大体把握したのか、体を強張らせて警戒態勢に入る。
「えっともしかして……」
「まあ、おそらく君の思うままだろう。今は嵐もほぼないし目を開けてみるといい」
アリーシャに言われ、フィーネが目を開ける。
フィーネの視界に最初に入ったのは、嵐がほとんどなく、明快になった砂漠。その上にある、黒い鱗で覆われた革。
その革はフィーネの周囲を隙間なく埋めており、出口になるような場所はない。
高い啜り音が頭上から聞こえ、彼女は緊張しながら視線を上に向ける。
赤く長い舌が最初に視界に入り、先ほどと同じ黒い革、フィーネの身長よりさらに大きい牙がみえ、その奥からは赤く丸い瞳が二人をしっかりと捉えている。
人喰と呼ばれた大蛇、その顔がそこにあったのだ。
大蛇が口を開け二人に徐々に近づいてくる。牙には液体がつたり、牙の先に溜まるとそのまま二人のすぐそばに垂れ落ちた。
液体の垂れ落ちた砂は煙を出しながら溶けてなくなり、白い艶のある岩盤が姿を見せた。
「この図体にして毒蛇のようだな。助手くん、いったん今の状況は脱した方が身のためかもしれないぞ。いくら君でもこの毒は危険だ」
「これ、毒なの?」
「激毒だな。ただ溶けるだけのものだと思ったら大違いだ」
アリーシャの言っていることが事実なら、現状はかなり危険な状態なのだろう。……いやそうでなくても危機的状況に変わりはない。
しかし、蛇の体に囲われた現状から抜け出すのであれば、蛇の体を飛び越えていくしかない。フィーネなら可能なのだろうか?
当の本人は先ほど溶けた地面の白い岩盤を見ながら、何やら考えているようだ。
「……アリー、集落の周りにあった、あの白い岩ってどうやってできたと思う?」
「突然どうしたんだ。……仮にあれが自然にできた岩だとすれば、砂中で研磨されたと考えるのが自然だが、それが地表にでてくることが不自然だ。正直私にも検討はつかないな」
フィーネの唐突な質問に、アリーシャも不思議そうな表情を浮かべる。
フィーネはといえば、アリーシャの回答を聞くなり、その場にしゃがみ込んでしまった。
「アリー、ちょっと揺れる」
「なにを……!」
フィーネはアリーシャを抱える腕を片方外し、思い切り地面に叩きつける。
当然、柔らかい砂たちは周囲に霧散し、砂嵐はなくとも二人の視界を遮った。
「目眩しのつもりだとしたらなんの意味もないぞ! 助手くん!」
フィーネはアリーシャの言葉を聞いても止まらず、そのまま地面に刺した手をさらに沈める。
フィーネのその状態に好機を感じたのか、あるいは危機を感じたのか、蛇が口を開き二人に食らいつくため動き出す。
「──ふっとべっ!」
フィーネが叫びながら、地面に刺した腕に力を込め持ち上げると、目の前の蛇の胴体が持ち上がる。
さらにそこから徐々に胴体は盛り上がり、地面の下から白い影が見えてきた。
さらに持ち上げると地面の下から集落周辺にあるような、白い丸岩が姿を見せる。
「て、近い!」
フィーネが、丸岩を頭上まで持ち上げた頃には、大蛇の巨大な牙が二人の目前まで迫っていた。
それでもフィーネの振り回した丸岩の方が早く大蛇の顎に到達し、そのまま岩ごと大蛇は吹き飛んでいく。
「なんでこんな近くまで……」
大蛇はそのままよろけて、頭から地面に突っ伏し、大蛇の近くに丸岩も落下した。
フィーネは岩を持ち上げるときに岩に刺していた指の感触を確かめて、握り締めた。
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