時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

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魔の章 第六節

其ノ二 二人の家

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「座ってまってて」

 二人は、イリスの指示で居間の長椅子に座って待機している。服を着ていないこと以外は、普通の客人のようだ。

 しかし、外観もそうだったが、家の中も可愛らしい装飾となっている。

 多くの雑貨は黄白色でまとめられており、白い壁とうまく噛み合っている。
 イリスが動物を好きなのか、所々に飾られている動物の石像も、家の雰囲気通りだろう。
 動物の種類が謎なことは、むしろ愛嬌としてとらえるべきなのかもしれない。
 屋内にも多く飾られている植物は、見るものの心を落ち着かせる。

「……しかし不思議な家だな」

 何かを考えるように黙っていたアリーシャが口を開く。
 
「どういうこと? 普通に可愛い家だと思うけど……」
「可愛い、か。確かに可愛らしいが、見た目の話とは少し違う」

 フィーネは不思議そうに首を傾げ、アリーシャの言葉の続きを待つ。

「例えば照明だ。どこを見渡しても照明器具はないし、光源もどこからの光なのかわからない」
「そういえば……」

 アリーシャの発言に家の中を見渡しても、なるほど確かに照明器具の類は見当たらない。
 光源も分からず、なんとなく明るい、程度の印象だ。

「今は日も出ているし、日差しであかるいんじゃないの?」
「確かに日差しもあるが、この明るさは少々明るすぎる。音もそうだ。いくら周りに何もないとはいえ、静かすぎるように思う」

 日差しだけでは窓から離れた場所まで明るい説明がつかない。

 音も、家に入る前なら多少は動物の声くらいは聞こえていたが、家に入ると些細な音すらほとんど聞こえてこない。

「でも、そう言う造りなんじゃないの? 防音に優れているー、みたいな」
「……壁はだいぶ薄かったし、なんなら窓も開いているんだ。それだけでは説明がつかん」

 フィーネはあまり納得のいかない表情でアリーシャの言葉を聞き、考える。

「何より君も見ただろう。外の文字を」
「ああ……あれは不思議だね」

 『イリスとルカの家』と描かれた不思議な文字のことだろう。
 特別な塗料があるのか、あるいは技術でもあるのか。

「私たちの知らない技術があるんじゃない? ここは別世界なんでしょう?」

 フィーネの言葉を聞き、アリーシャはさらに深く考え始める。
 納得がいかないと言うよりも、不思議な現象の謎を解明しようとしているように感じる。

「そういえばアリー?」
「なんだ助手くん」
「聞き間違いでなければだけど、ここに来る前に何か言ってなかった?」
「……何かとはなんだ?」

 フィーネの言葉に、アリーシャは首を傾げる。

「元の世界に戻れない、とか」
「ん? ああ、なるほど」

 アリーシャはフィーネの言葉に顔を上げ、彼女に向き直る。

「その通りだぞ助手くん。絶対とは言わないが、すくなくとも意図的に戻る術はわからん」

 アリーシャの発言に、フィーネは呆然とする。
 それはそうだろう。なにがなんだか分からずに世界移動に付き合わされ、その挙句には元の世界には戻れないと告げられる。

 いくら仲のいい相手とは言え、人生に関わるようなことを、本人の許可なくやっているわけだ。
 いくらアリーシャ相手とはいえ、フィーネも黙ってはいられないだろう。

「そう。……ねぇアリー。私は確かにあなたに付いていく他はないし、アリーの行動に文句を言う気も、その方法もない」

 フィーネの突然の言葉に、アリーシャが困惑する。フィーネの表情も、怒りというよりは悲しみに近い印象だ。

「でも、そういうことは先に話してほしいな。下手すれば命にも関わることなんだよ。──私のじゃない、アリーの命」
「……すまない助手くん。私は命よりも発明の結果を欲してしまう人種なんだ……。君には申し訳ないとは思っているけれど、それでも後悔はしていない」

 アリーシャの目は真っ直ぐとフィーネを見据える。迷いも後悔もないことは事実なんだろう。

「私は、あなたに死んで欲しくない。アリーのいない世界なんて生きていても意味ないから。もっと自分の命を大切にしてほしい」
「……すまない」

 フィーネの言葉に、しおらしく落ち込むアリーシャは、とても美しく、可愛らしいものだ。

「……もう少し探してた方がよかった?」

 いつ戻ったのか、イリスが奥の扉の前で二人を見つめていた。
 最初と比べ、希薄なその表情からは本気の発言か冗談なのか、判断がつかない。

「いいえ、ちょうど終わったところ」
「そう。これ、大きさが合えばいいのだけど」
「ありがとうございます」

 イリスがフィーネとアリーシャにそれぞれ一着ずつ渡す。

「かわいい……これはイリスさんの私服?」

 フィーネが問いかけると、イリスが頷く。喜ぶ姿をみて、彼女も満更でもなさそうだが、アリーシャに視線を向ける。

「でもあなたは大きさが合わないから……それで合えばいいけど」

 確かに、イリスはかなり小柄で、フィーネとはそこまで変わらないかもしれないが、アリーシャとは色々と違うところもあるだろう。

「それは構わないのだが……これ、助手くんはきれないのか?」
「大きさが違うって言ってたよ? 私には大きいんじゃない」

 フィーネは目を逸らし、アリーシャは不満な表情を見せる。

「……まあ、仕方ないか」

 呟きながらアリーシャは恥ずかしげもなく着替え始めた。

 フィーネも着替え始めるが、他人に見られながらというのは恥ずかしいのだろう。椅子の影などに隠れながら着替えていた。
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