時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

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魔の章 第六節

其ノ三 イリスとルカ

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「おまたせ」
「イリスか? もう開けていいのか?」

 フィーネとアリーシャは着替え、三人はルカの待つ場所まで戻っていた。

 しかしこのルカという青年、あれからずっと目を閉じて待っていたのだろうか。真面目なのか、イリスに逆らえないのか。

「大丈夫」

 イリスの発言で目を開いたルカは、二人の姿を確認すると表情を固める。

「どうしたの?」

 二人の格好に対する反応だろう。

 アリーシャは、胸元に紅い宝石のようなものが装飾された股下までのワンピースで、鎖骨が見えているのは彼女の妖艶さを際立てている。
 ワンピースの裾よりわずか下、肌が若干見える長さに調整された黒い靴下は製作者のこだわりだろうか。
 印象だけでいえばアリーシャはあまり着るような服ではないだろう。

 それでも、服に付属されていた黒い猫耳のカチューシャと、臀部でんぶに取り付ける黒い尻尾もちゃんと装着しているのは、律儀なのか興味本位なのか。

 フィーネに関してはただただ可愛らしい衣装だ。
 
 カラーの入った襟首には、黒い大きなリボンがあしらわれていて、肩には形を整えるためのパッドも入っている。
 紅い服の胴回りはフィーネの細身な体のラインをはっきりと魅せており、膝上までの短い黒のフレアスカートに沿って、垂らされるその裾はまた色合いが綺麗なものだ。
 フレアスカートは所々フリルがあしらわれており、胴回りの大きな装飾用のぼたんと相まって、全体的に可愛らしいデザインとなっている。

 しかし、二人の衣装はこの自然の中では浮いてしまう衣装に違いはない。

「いや……他に服はなかったのか? 特に彼女……」

 ルカはそういいながらアリーシャに視線を送り、すぐに目を逸らす。
 二人の衣装に戸惑いつつの抗議に対しても、イリスはただ首を振る。

「仕方ない。私の服は彼女には合わない……」
「それにしたってこれは──ああ、リリーのか……」
「そう。リリーの贈り物」

 アリーシャの着る服は、どうやらそのリリーと呼ばれる者の趣味ということになるのだろう。

「まあ、裸でいられるよりはいいが……」
「……やっぱり見たの?」
「いや、その……少し、だけ……」

 ルカが返答に困りつつ、顔全体を赤くする。
 そんな様子をみているイリスは、またルカに疑いの視線を送るが、ルカは気付いていないようだ。

 アリーシャに関しては何故かフィーネを眺め続けている。

「アリー……どうしたの?」
「いや、君はその服でよかったなと思っていた所だ」
「どういう意味……?」

 フィーネが困惑する。アリーシャの発言の意図がわからないのだろう。

「その服がとても似合っていてね。これほど可愛い助手くんを見れたことへの感謝の気持ちさ」
「そういうのやめて。それに、アリーだって大分かわいいと思うよ? ……少し肌は出過ぎているけど……」

 アリーシャの発言に恥ずかしがるフィーネに、アリーシャは「君の可愛さには敵わない」と返す。
 フィーネは目で見て分かる程度には顔を赤くしている。

「お前たちって……あー、いやいい。忘れてくれ」
「……? 何を聞きたかったの?」

 ルカの発言に、思わずフィーネが聞き返す。あるいは恥ずかしさを紛らわすためかもしれない。

「私も気になってた。二人は、恋人?」
「へ?」

 イリスの発言にフィーネが間の抜けた返事をする。予想外の質問なのだろう。
 しかし、先ほどまでのやり取りは、確かにそう思われても不自然ではない。

「仲がいいみたいだけど、少し距離が近すぎる気がする」

 フィーネは頭を抱え、アリーシャが二人に視線を向けながら笑みを浮かべる。

「ふむ……興味深い見解だが、残念なことに恋人とは言い難いな」
「アリー、変な言い方しないで。全然恋人ではないからね? そもそも女同士だよ?」

 フィーネは呆れ、アリーシャを諭しつつため息をつく。

「そう。じゃあ二人はどういう関係?」
「どう、て……」

 アリーシャとフィーネは顔を見合わせ、同時に口を開く。

「姉妹、かな」
「姉妹だろう」

 息の合った返答に二人は満足し、なぜかイリスたちもほっ、とため息をつく。

「……そう。よかった」

 イリスの謎の発言にフィーネが首を傾げるが、特に続くこともなく、ルカが口を開いた。

「とりあえず家に戻らないか? ここにいても仕方ないし」
「そだね」

 どうせ家に戻るのであれば、ルカを初めから家に連れて行けばよかったのでは? と疑問を持たざるをえない。

「そういえば少し気になってたんだがいいか? えっと……」
「そういえば私たちは自己紹介まだだったね」

 帰路についていた足を止め、二人が振り返る。

「私の名前はフィーネ。よろしく」
「私はアリーシャという。まあ、よくある名前だな」

 二人が名前を名乗ると、二人も納得したように頷く。

「そうか、よろしく頼む」
「よろしく」

 挨拶を終えると、ルカが今度はアリーシャに視線を向ける。

「改めて聞きたい。アリーシャ、君の持っているその機械、ちょっと見せてもらってもいいか?」
「ん? これか?」

 アリーシャがまたどこからともなく、懐中時計を取り出した。

「ああ、あまり見たことない素材と形だから、気になってたんだ」
「構わんぞ。今は何もできんが……」

 アリーシャがルカに懐中時計を手渡すと、ルカは興味深くいじり始める。

「ルカは機械バカ。目新しい機械を見つけるといつもあんな感じ」
「アリーは機械に限った話じゃないけど、新しいものをみると似た感じになるな」

 ルカとアリーシャの問答を眺めながら、二人でため息をついていた。

「あの二人は似たもの同士」
「そうみたいだね」

 帰路の間、イリスとフィーネもお互いについて話し合っていた。
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