14 / 41
魔の章 第六節
其ノ三 イリスとルカ
しおりを挟む
「おまたせ」
「イリスか? もう開けていいのか?」
フィーネとアリーシャは着替え、三人はルカの待つ場所まで戻っていた。
しかしこのルカという青年、あれからずっと目を閉じて待っていたのだろうか。真面目なのか、イリスに逆らえないのか。
「大丈夫」
イリスの発言で目を開いたルカは、二人の姿を確認すると表情を固める。
「どうしたの?」
二人の格好に対する反応だろう。
アリーシャは、胸元に紅い宝石のようなものが装飾された股下までのワンピースで、鎖骨が見えているのは彼女の妖艶さを際立てている。
ワンピースの裾よりわずか下、肌が若干見える長さに調整された黒い靴下は製作者のこだわりだろうか。
印象だけでいえばアリーシャはあまり着るような服ではないだろう。
それでも、服に付属されていた黒い猫耳のカチューシャと、臀部に取り付ける黒い尻尾もちゃんと装着しているのは、律儀なのか興味本位なのか。
フィーネに関してはただただ可愛らしい衣装だ。
カラーの入った襟首には、黒い大きなリボンがあしらわれていて、肩には形を整えるためのパッドも入っている。
紅い服の胴回りはフィーネの細身な体のラインをはっきりと魅せており、膝上までの短い黒のフレアスカートに沿って、垂らされるその裾はまた色合いが綺麗なものだ。
フレアスカートは所々フリルがあしらわれており、胴回りの大きな装飾用の釦と相まって、全体的に可愛らしいデザインとなっている。
しかし、二人の衣装はこの自然の中では浮いてしまう衣装に違いはない。
「いや……他に服はなかったのか? 特に彼女……」
ルカはそういいながらアリーシャに視線を送り、すぐに目を逸らす。
二人の衣装に戸惑いつつの抗議に対しても、イリスはただ首を振る。
「仕方ない。私の服は彼女には合わない……」
「それにしたってこれは──ああ、リリーのか……」
「そう。リリーの贈り物」
アリーシャの着る服は、どうやらそのリリーと呼ばれる者の趣味ということになるのだろう。
「まあ、裸でいられるよりはいいが……」
「……やっぱり見たの?」
「いや、その……少し、だけ……」
ルカが返答に困りつつ、顔全体を赤くする。
そんな様子をみているイリスは、またルカに疑いの視線を送るが、ルカは気付いていないようだ。
アリーシャに関しては何故かフィーネを眺め続けている。
「アリー……どうしたの?」
「いや、君はその服でよかったなと思っていた所だ」
「どういう意味……?」
フィーネが困惑する。アリーシャの発言の意図がわからないのだろう。
「その服がとても似合っていてね。これほど可愛い助手くんを見れたことへの感謝の気持ちさ」
「そういうのやめて。それに、アリーだって大分かわいいと思うよ? ……少し肌は出過ぎているけど……」
アリーシャの発言に恥ずかしがるフィーネに、アリーシャは「君の可愛さには敵わない」と返す。
フィーネは目で見て分かる程度には顔を赤くしている。
「お前たちって……あー、いやいい。忘れてくれ」
「……? 何を聞きたかったの?」
ルカの発言に、思わずフィーネが聞き返す。あるいは恥ずかしさを紛らわすためかもしれない。
「私も気になってた。二人は、恋人?」
「へ?」
イリスの発言にフィーネが間の抜けた返事をする。予想外の質問なのだろう。
しかし、先ほどまでのやり取りは、確かにそう思われても不自然ではない。
「仲がいいみたいだけど、少し距離が近すぎる気がする」
フィーネは頭を抱え、アリーシャが二人に視線を向けながら笑みを浮かべる。
「ふむ……興味深い見解だが、残念なことに恋人とは言い難いな」
「アリー、変な言い方しないで。全然恋人ではないからね? そもそも女同士だよ?」
フィーネは呆れ、アリーシャを諭しつつため息をつく。
「そう。じゃあ二人はどういう関係?」
「どう、て……」
アリーシャとフィーネは顔を見合わせ、同時に口を開く。
「姉妹、かな」
「姉妹だろう」
息の合った返答に二人は満足し、なぜかイリスたちもほっ、とため息をつく。
「……そう。よかった」
イリスの謎の発言にフィーネが首を傾げるが、特に続くこともなく、ルカが口を開いた。
「とりあえず家に戻らないか? ここにいても仕方ないし」
「そだね」
どうせ家に戻るのであれば、ルカを初めから家に連れて行けばよかったのでは? と疑問を持たざるをえない。
「そういえば少し気になってたんだがいいか? えっと……」
「そういえば私たちは自己紹介まだだったね」
帰路についていた足を止め、二人が振り返る。
「私の名前はフィーネ。よろしく」
「私はアリーシャという。まあ、よくある名前だな」
二人が名前を名乗ると、二人も納得したように頷く。
「そうか、よろしく頼む」
「よろしく」
挨拶を終えると、ルカが今度はアリーシャに視線を向ける。
「改めて聞きたい。アリーシャ、君の持っているその機械、ちょっと見せてもらってもいいか?」
「ん? これか?」
アリーシャがまたどこからともなく、懐中時計を取り出した。
「ああ、あまり見たことない素材と形だから、気になってたんだ」
「構わんぞ。今は何もできんが……」
アリーシャがルカに懐中時計を手渡すと、ルカは興味深くいじり始める。
「ルカは機械バカ。目新しい機械を見つけるといつもあんな感じ」
「アリーは機械に限った話じゃないけど、新しいものをみると似た感じになるな」
ルカとアリーシャの問答を眺めながら、二人でため息をついていた。
「あの二人は似たもの同士」
「そうみたいだね」
帰路の間、イリスとフィーネもお互いについて話し合っていた。
「イリスか? もう開けていいのか?」
フィーネとアリーシャは着替え、三人はルカの待つ場所まで戻っていた。
しかしこのルカという青年、あれからずっと目を閉じて待っていたのだろうか。真面目なのか、イリスに逆らえないのか。
「大丈夫」
イリスの発言で目を開いたルカは、二人の姿を確認すると表情を固める。
「どうしたの?」
二人の格好に対する反応だろう。
アリーシャは、胸元に紅い宝石のようなものが装飾された股下までのワンピースで、鎖骨が見えているのは彼女の妖艶さを際立てている。
ワンピースの裾よりわずか下、肌が若干見える長さに調整された黒い靴下は製作者のこだわりだろうか。
印象だけでいえばアリーシャはあまり着るような服ではないだろう。
それでも、服に付属されていた黒い猫耳のカチューシャと、臀部に取り付ける黒い尻尾もちゃんと装着しているのは、律儀なのか興味本位なのか。
フィーネに関してはただただ可愛らしい衣装だ。
カラーの入った襟首には、黒い大きなリボンがあしらわれていて、肩には形を整えるためのパッドも入っている。
紅い服の胴回りはフィーネの細身な体のラインをはっきりと魅せており、膝上までの短い黒のフレアスカートに沿って、垂らされるその裾はまた色合いが綺麗なものだ。
フレアスカートは所々フリルがあしらわれており、胴回りの大きな装飾用の釦と相まって、全体的に可愛らしいデザインとなっている。
しかし、二人の衣装はこの自然の中では浮いてしまう衣装に違いはない。
「いや……他に服はなかったのか? 特に彼女……」
ルカはそういいながらアリーシャに視線を送り、すぐに目を逸らす。
二人の衣装に戸惑いつつの抗議に対しても、イリスはただ首を振る。
「仕方ない。私の服は彼女には合わない……」
「それにしたってこれは──ああ、リリーのか……」
「そう。リリーの贈り物」
アリーシャの着る服は、どうやらそのリリーと呼ばれる者の趣味ということになるのだろう。
「まあ、裸でいられるよりはいいが……」
「……やっぱり見たの?」
「いや、その……少し、だけ……」
ルカが返答に困りつつ、顔全体を赤くする。
そんな様子をみているイリスは、またルカに疑いの視線を送るが、ルカは気付いていないようだ。
アリーシャに関しては何故かフィーネを眺め続けている。
「アリー……どうしたの?」
「いや、君はその服でよかったなと思っていた所だ」
「どういう意味……?」
フィーネが困惑する。アリーシャの発言の意図がわからないのだろう。
「その服がとても似合っていてね。これほど可愛い助手くんを見れたことへの感謝の気持ちさ」
「そういうのやめて。それに、アリーだって大分かわいいと思うよ? ……少し肌は出過ぎているけど……」
アリーシャの発言に恥ずかしがるフィーネに、アリーシャは「君の可愛さには敵わない」と返す。
フィーネは目で見て分かる程度には顔を赤くしている。
「お前たちって……あー、いやいい。忘れてくれ」
「……? 何を聞きたかったの?」
ルカの発言に、思わずフィーネが聞き返す。あるいは恥ずかしさを紛らわすためかもしれない。
「私も気になってた。二人は、恋人?」
「へ?」
イリスの発言にフィーネが間の抜けた返事をする。予想外の質問なのだろう。
しかし、先ほどまでのやり取りは、確かにそう思われても不自然ではない。
「仲がいいみたいだけど、少し距離が近すぎる気がする」
フィーネは頭を抱え、アリーシャが二人に視線を向けながら笑みを浮かべる。
「ふむ……興味深い見解だが、残念なことに恋人とは言い難いな」
「アリー、変な言い方しないで。全然恋人ではないからね? そもそも女同士だよ?」
フィーネは呆れ、アリーシャを諭しつつため息をつく。
「そう。じゃあ二人はどういう関係?」
「どう、て……」
アリーシャとフィーネは顔を見合わせ、同時に口を開く。
「姉妹、かな」
「姉妹だろう」
息の合った返答に二人は満足し、なぜかイリスたちもほっ、とため息をつく。
「……そう。よかった」
イリスの謎の発言にフィーネが首を傾げるが、特に続くこともなく、ルカが口を開いた。
「とりあえず家に戻らないか? ここにいても仕方ないし」
「そだね」
どうせ家に戻るのであれば、ルカを初めから家に連れて行けばよかったのでは? と疑問を持たざるをえない。
「そういえば少し気になってたんだがいいか? えっと……」
「そういえば私たちは自己紹介まだだったね」
帰路についていた足を止め、二人が振り返る。
「私の名前はフィーネ。よろしく」
「私はアリーシャという。まあ、よくある名前だな」
二人が名前を名乗ると、二人も納得したように頷く。
「そうか、よろしく頼む」
「よろしく」
挨拶を終えると、ルカが今度はアリーシャに視線を向ける。
「改めて聞きたい。アリーシャ、君の持っているその機械、ちょっと見せてもらってもいいか?」
「ん? これか?」
アリーシャがまたどこからともなく、懐中時計を取り出した。
「ああ、あまり見たことない素材と形だから、気になってたんだ」
「構わんぞ。今は何もできんが……」
アリーシャがルカに懐中時計を手渡すと、ルカは興味深くいじり始める。
「ルカは機械バカ。目新しい機械を見つけるといつもあんな感じ」
「アリーは機械に限った話じゃないけど、新しいものをみると似た感じになるな」
ルカとアリーシャの問答を眺めながら、二人でため息をついていた。
「あの二人は似たもの同士」
「そうみたいだね」
帰路の間、イリスとフィーネもお互いについて話し合っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる