時空を超えて──往く往く世界に彼女は何を望むのか

夜兎

文字の大きさ
15 / 41
魔の章 第六節

其ノ四 リリーという少女

しおりを挟む
「ここが俺たちの家だ、すごいだろう」

 四人が二人の家に到着すると、ルカが嬉しそうに自慢する。
 しかし、一度見てしまっている上に中まで上がらせてもらっているのだから、驚きようもない。

 フィーネは居心地が悪そうに愛想笑いで返し、アリーシャは特に気にした風もなく佇んでいる。

「すまないな。さっき一度拝見させてもらっている」
「な……家まで来てたのか? どうりで遅いと思った……」

 せっかくの自慢が不発に終わったことで、かなり落ち込むルカは、まるで子供のようだ。

「しかし、一つ聞きたいことはあったんだ」

 アリーシャがそう言いながら指さしたのは『イリスとルカの家』と書かれた不思議な文字。
 ルカもその質問に少し元気を取り戻したようだ。

「あの文字はどうやって書いているんだ? 文字にしては立体感があるし、見た目も不思議な印象を受けるのだが」

 ルカは「ああ」と納得しつつ答えようとしたが、イリスが首を傾げながらも、ルカよりも早く答えていた。

「これは魔法。見たことない?」
「まほう……? すまない、聞いたこともない技術だ」
「そう、珍しい」

 イリスが虚空を見つめながら空中に指を立てる。
 少しすると、その指先に光の粒子が徐々に集まっていき、大きな灯りを創り出した。

「これは、空間の魔法。光魔の楔こうまのくさび

 イリスがそのまま指を動かすと、指先に灯った光はそのままついていき、描いた空間に残像のように光を残していく。
 その光の残像で文字を書くように指を動かし『光魔の楔』と書き上げ、指を止めた。

「すごい……」
「なかなか珍しい技術だ。是非学びたいものだな」

 二人の感想に、イリスがわずかだが、笑みを浮かべる。

「楔は、その魔法を消すしか、取り除く方法がない。私の意思で消すか、私以上の使い手の解除魔法。その文字、引っ張ってみて」
「これ、持てるの……?」

 フィーネが『光』と書かれた文字に触れると驚く。

「暖かい……」

 そう言いながら、握る手に力を込め、地面に踏み込みながら、文字を引っ張りだした。
 しかし、一切動く気配はない。フィーネの力でも一切動かない、というのは凄いことだろう。

 しかし、これは……これが正しい用途なのか、疑問の余地がある。

「確かに素晴らしいものだな。しかし、この魔法とやら、文字を書く以外にも色々と使い道がありそうだが……」
「むしろ、本来は拘束魔法の一種なんだよ。イリスの使い方が例外」

 ルカが呆れた風に呟くと、イリスがルカに荒々しく近づく。

「これが正しい。そのおかげで私たちの家は無事でいられる」
「そりゃそうだが……それはどっちかというとお前の魔法のおかげだろう」

 イリスとルカで大分温度差があるようだ。

「魔法というのはいくつも種類があるのか?」
「魔法は無限。みんなの想像の数だけ」

 アリーシャの問いに、食い気味に答えるイリスはとても嬉しそうだ。魔法のことがよほど好きなのだろう。

「まあ、とりあえず中に入ろう」

 ルカが催促すると、イリスが指を回す。すると、先ほどの文字が完全に消えた。
 フィーネが驚き、アリーシャは興味深く観察していた。

 その後、四人が扉に近づくと、家の扉が一人でに開き、四人とも驚く。

「ほう、魔法はそんなこともできるのか。便利なものだな」
「この程度なら簡単だけど、私は何もやってない」
「じゃあ、あれはなん──」
「イリス──おねぇさまー! お久しぶりでぇーす!」

 そう叫びながら、一人の少女が家の中から飛び出してくる。

 腰まで伸ばされた黄色の髪が、光の加減で輝いており、綺麗な空色の瞳はまっすぐとイリス一人を捉えている。
 身長はアリーシャと同じくらいで、洒落た衣装に身を包む彼女の雰囲気は陽気な女神と言った所だろう。
 少なくともイリスの妹には見えない。 

「リリー? いつきたの。さっきはいなかった」

 リリーと呼ばれた少女が、無理やりくっつこうとするのを引き離すようにしながら、イリスが問いかける。

「ついさっきですっ。隠れてたとでも思いました? 残念です。……私がお姉様の姿をみて黙っていられるわけないじゃないですか!」

 口調は早く、イリスの反撃を許さないと言いたげに話し続ける。
 しかし、リリーということはアリーシャの着る衣装を持ち出した、張本人ということになるのだろうか? なるほど、彼女なら好きそうな衣装だろう。

「そんなの知らない。来るなんて聞いてない」
「お姉様を驚かせようとして黙って来ちゃったんですぅ! ダメでした? ダメと言われてもきちゃいましたよ!」

 イリスがいくら嫌そうにしても、その勢いは変わらない。嫌がる飼い猫に、それでもくっつこうとする飼い主のようだ。

「……もういい。とりあえず中に入る」
「久しぶりに会えたというのにお姉様ー、ちょっとつれなさすぎますよぉ。まあ、そんなお姉様も最高ぉ、ですけど!」

 だらしない口調であるのは間違いないのだが、彼女の場合外見のせいか、妖艶さを感じさせる。

「リリー。また勝手に〝門〟をつかったのか?」
 
 ルカの問いかけに、リリーが睨み返す。

「ルカ! 私がお姉様に会うため、〝門〟を使うことになんの異議があるんですか!」

 リリーの発言にルカは頭を抱える。すぐに諦めため息をつくあたり、彼女はいつもこうなのかもしれない。

「……リリーとやら、一ついいか?」
「はい──というかどちらさまですか?」
「ああ、私はアリーシャと言う者だ。出会えてよかった。あなたに是非聞きたいことがあったんだ」

 アリーシャは初対面のはずだが、どうしたことだろう。

「聞きたいことって──っ!」

 リリーはアリーシャを見て嬉々とした表情を浮かべる。
 その横のフィーネを見て、さらににやけている。

「アリーシャさん、それは私がお姉様に贈らせていただいたお召し物ですね!」

 アリーシャに抱きつき、フィーネに視線を送る。

「とてもお似合いです! お姉様にと用意したのに、大きさを間違えてしまう不始末……しかし、この日のための失敗だったのかも知れませんね! ──そしてあなた!」

 フィーネにも抱きつき、子供のようにはしゃぐ。

「まるでお姉様そのもの! まさかお姉様直々のお召し物とは、恐れ入りますよ! とてもお似合いですし、いつかのお姉様を思い出してしまいます……」

 遠くを見つめながら惚けている。一体過去に何があったのだろう。

「今日はお姉様に会えて、こんな素晴らしいお二方にも会えるなんて、なんと素晴らしい日でしょうか。心に強く焼き付けておきましょう!」

 リリーが両手を胸に添え、恍惚とした表情になる。

「あなたの意見には概ね同意だ。今の彼女の姿も素晴らしい。そこで、あなたなら彼女に似合う衣装を用意できるのではと……」
「なるほどなるほど! 確かに彼女はとても可愛らしく、お姉様ととても似ていらっしゃいます! 私も是非彼女に似合う衣装を用意できればと思うのですが──」

 二人の会話は留まるところを知らず、延々と続いていく。
 そして、何故か会話の中心となってしまっているフィーネは、どこか危機感を感じたのだろう。二人から徐々に距離を取り始めている。

 いつのまにか、イリスとルカの姿はなく、おそらく家の中に入っていったのだろう。
 フィーネも二人から逃げるように家の中に入っていく。

「あ、待ってくださいよー、まだ検討してるんですよぉー」
「せっかちだな、助手くんは」

 そのまま話していればいいものを、二人はフィーネについて家の中へと入っていく。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...