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真の章 第一節
其ノ一 歪んだ世界
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「助手くん、目を覚ませ」
今回は珍しく、アリーシャの手によってフィーネは起こされた。
いつもと違い物理的に起こされたためか、若干不機嫌なように見える。
「あ、りー……?」
「すまないな。今回ばかり流石に、君をこのまま寝かせておくわけにも行かなかった」
いつもは寝かせておいて問題ないのかと問われれば、誰しもが否定する内容だったはずだが、やはりアリーシャの感性というやつだろう。
「あれ……これメシアさんの?」
フィーネが手を置き確認するのは、自分が纏う衣装。
薄手の白いカーディガンに、白いワンピース、おそらくマオを模している黒猫も健在だ。
メシアから託された服をそのまま持ち込めたらしい。
「移動する前に言っただろう。停止した際に側にある一定の物量を、同時に運べるように調整したんだ。毎度服の調達からというのも面倒だからな」
理由はどうあれ、フィーネにとってはあらゆる意味で嬉しかったのだろう。自分の体を両腕で抱きしめ、わずかな涙と笑みを浮かべる。
「メシアさんとずっと一緒に居れるんだね……ありがとうアリー!」
アリーシャに感謝の言葉を投げかけ、顔を上げたフィーネの表情が一瞬で曇った。
「……何を話すにも、まずは現状の打開からだぞ、助手くん」
二人の現在いる空間。およそ一般的な人間の住む世界とは、到底呼べないであろう空間だった。
床と呼べる床を認識できる場所はなく、極彩色を散りばめられた背景は、どれもが毒々しく彩られている。
見ているだけで目を痛めそうなその色合いたちに加え、砕けた岩だったり、丸い岩だったり、建物のようなものまでもが、空中を自由に浮遊し続けている。
「なにここ……」
「私にもわからない。月並みな表現になるが、まるで悪夢を見ているかのようだ」
二人は周りを見渡してみるが、新しい情報は一切入らない。
なにかしら浮遊していること、極彩色の背景。見渡す限りにその景色が広がっている。
「……とりあえず動こうじゃないか。この空間に長居はするべきだと思えない」
「そだね……」
フィーネは空間の気味の悪さにどこか怯えているようにも見える。
逆に、アリーシャに関しては、言葉の慎重さに反して、その表情には好奇心の色しか浮かんでいないように見える。
「アリー……あまり変なことしないでね」
「なにを言っている。……これほど興味をそそられる空間において、私という人間がなにもしないわけないだろう」
アリーシャの言葉にため息をつきつつ、わずかに笑みが溢れるフィーネも、大概彼女の色に染まっているのだろう。
「でも本当にここはどこなんだろう。不思議な景色が続くだけ……なにも見えてこない」
「ふむ……宙に浮く全ての物体は間違いなく、本物のようだな」
宙に浮く建物を触りながら、断言するアリーシャにフィーネが駆け足で近づく。
「アリー! 一人で変なことしないで! 触った拍子に全部落ちてきたらどうするの!」
「おお、その可能性は考えていなかったな。素晴らしい発想だ助手くん」
アリーシャの言葉に複雑な表情を浮かべつつも、彼女の手を握り歩き出す。
「とりあえず、こんな変な場所は一刻も早く出よう。なにがあるかわかんないし、絶対私から離れないでね」
アリーシャは、フィーネの発言に渋々承諾し、彼女についていく。それでも周囲を見回すことをやめたりしない辺りは、相変わらずという他ないだろう。
「ねえアリー……あれ」
「どうした助手くん」
フィーネの指さす先、毒々しく彩られた床のせいで、すでに立っているのか浮いているのかは判断つかないが、一匹の黒猫の姿がある。
「マオ……?」
「いや待つんだ」
無闇に近づこうとするフィーネを、アリーシャが制止する。
それでも、理解できない空間で、唯一知っているかもしれないものを認識すれば、大概の人間はそれに惹かれてしまうだろう。
「待って!」
黒猫が一鳴きもすることなく、振り返り二人から離れるように走り出す。
「待つのは君だ!」
いつのまにか手を話していたフィーネが、アリーシャを置いて走り出していた。
「でもマオが!」
「あの猫が彼という保証がどこにある! それよりもこんな空間ではぐれる方がよほど危険だ!」
「…………っ」
アリーシャの発言に言葉を失い、悠々と歩いてくる彼女を待つ。
後ろを振り返れば、黒猫はまた二人を遠くから見つめている。
「落ち着くんだ。君は感情に振り回され過ぎる」
「だって……」
フィーネは未だ、黒猫に視線を向け、今にも追いかけたそうに体を揺すっている。
「……ならば、君の言葉を借りよう」
アリーシャがそう発言すると、フィーネも不意に彼女に向き直る。
そんなフィーネの目をまっすぐと見つめ、アリーシャが今まで見せてこなかったような、わずかに怒りを含む表情を見せる。
「私は非力だ。この現状では君についていく他ないだろう。……もちろんそれ以外の選択などない」
小さく息を吐き、続ける。
「だがこんな空間で、見えたもの全てを信じるべきではない。下手をすれば命を落とすことになる──私の話ではない、君の命の話だ」
「アリー……」
アリーシャの言葉に感嘆し、自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「……まあ、だからといって、現状手掛かりになるものはあの黒猫しかないわけだ」
先ほどまでとは打って変わり、落ち着いた声でアリーシャが言葉を続けていく。
「結局追いかけるしかない。……ただし、二人一緒にだ」
フィーネの手を握るその右手に力を込める。
「君の場合は命を落とす可能性だが、私の場合、はぐれればまず命はないだろうからな」
アリーシャが場を茶化すように嘯く。
「君には判断力が、私には力が足りない。お互いの不足を補うことこそ、人間の性というものだろう?」
アリーシャの言葉に気分を高揚させたのか
、フィーネが頼もしい笑顔で大きく頷いた。
アリーシャの手を引き、道無き道を堂々と黒猫目指して歩いてゆく。
今回は珍しく、アリーシャの手によってフィーネは起こされた。
いつもと違い物理的に起こされたためか、若干不機嫌なように見える。
「あ、りー……?」
「すまないな。今回ばかり流石に、君をこのまま寝かせておくわけにも行かなかった」
いつもは寝かせておいて問題ないのかと問われれば、誰しもが否定する内容だったはずだが、やはりアリーシャの感性というやつだろう。
「あれ……これメシアさんの?」
フィーネが手を置き確認するのは、自分が纏う衣装。
薄手の白いカーディガンに、白いワンピース、おそらくマオを模している黒猫も健在だ。
メシアから託された服をそのまま持ち込めたらしい。
「移動する前に言っただろう。停止した際に側にある一定の物量を、同時に運べるように調整したんだ。毎度服の調達からというのも面倒だからな」
理由はどうあれ、フィーネにとってはあらゆる意味で嬉しかったのだろう。自分の体を両腕で抱きしめ、わずかな涙と笑みを浮かべる。
「メシアさんとずっと一緒に居れるんだね……ありがとうアリー!」
アリーシャに感謝の言葉を投げかけ、顔を上げたフィーネの表情が一瞬で曇った。
「……何を話すにも、まずは現状の打開からだぞ、助手くん」
二人の現在いる空間。およそ一般的な人間の住む世界とは、到底呼べないであろう空間だった。
床と呼べる床を認識できる場所はなく、極彩色を散りばめられた背景は、どれもが毒々しく彩られている。
見ているだけで目を痛めそうなその色合いたちに加え、砕けた岩だったり、丸い岩だったり、建物のようなものまでもが、空中を自由に浮遊し続けている。
「なにここ……」
「私にもわからない。月並みな表現になるが、まるで悪夢を見ているかのようだ」
二人は周りを見渡してみるが、新しい情報は一切入らない。
なにかしら浮遊していること、極彩色の背景。見渡す限りにその景色が広がっている。
「……とりあえず動こうじゃないか。この空間に長居はするべきだと思えない」
「そだね……」
フィーネは空間の気味の悪さにどこか怯えているようにも見える。
逆に、アリーシャに関しては、言葉の慎重さに反して、その表情には好奇心の色しか浮かんでいないように見える。
「アリー……あまり変なことしないでね」
「なにを言っている。……これほど興味をそそられる空間において、私という人間がなにもしないわけないだろう」
アリーシャの言葉にため息をつきつつ、わずかに笑みが溢れるフィーネも、大概彼女の色に染まっているのだろう。
「でも本当にここはどこなんだろう。不思議な景色が続くだけ……なにも見えてこない」
「ふむ……宙に浮く全ての物体は間違いなく、本物のようだな」
宙に浮く建物を触りながら、断言するアリーシャにフィーネが駆け足で近づく。
「アリー! 一人で変なことしないで! 触った拍子に全部落ちてきたらどうするの!」
「おお、その可能性は考えていなかったな。素晴らしい発想だ助手くん」
アリーシャの言葉に複雑な表情を浮かべつつも、彼女の手を握り歩き出す。
「とりあえず、こんな変な場所は一刻も早く出よう。なにがあるかわかんないし、絶対私から離れないでね」
アリーシャは、フィーネの発言に渋々承諾し、彼女についていく。それでも周囲を見回すことをやめたりしない辺りは、相変わらずという他ないだろう。
「ねえアリー……あれ」
「どうした助手くん」
フィーネの指さす先、毒々しく彩られた床のせいで、すでに立っているのか浮いているのかは判断つかないが、一匹の黒猫の姿がある。
「マオ……?」
「いや待つんだ」
無闇に近づこうとするフィーネを、アリーシャが制止する。
それでも、理解できない空間で、唯一知っているかもしれないものを認識すれば、大概の人間はそれに惹かれてしまうだろう。
「待って!」
黒猫が一鳴きもすることなく、振り返り二人から離れるように走り出す。
「待つのは君だ!」
いつのまにか手を話していたフィーネが、アリーシャを置いて走り出していた。
「でもマオが!」
「あの猫が彼という保証がどこにある! それよりもこんな空間ではぐれる方がよほど危険だ!」
「…………っ」
アリーシャの発言に言葉を失い、悠々と歩いてくる彼女を待つ。
後ろを振り返れば、黒猫はまた二人を遠くから見つめている。
「落ち着くんだ。君は感情に振り回され過ぎる」
「だって……」
フィーネは未だ、黒猫に視線を向け、今にも追いかけたそうに体を揺すっている。
「……ならば、君の言葉を借りよう」
アリーシャがそう発言すると、フィーネも不意に彼女に向き直る。
そんなフィーネの目をまっすぐと見つめ、アリーシャが今まで見せてこなかったような、わずかに怒りを含む表情を見せる。
「私は非力だ。この現状では君についていく他ないだろう。……もちろんそれ以外の選択などない」
小さく息を吐き、続ける。
「だがこんな空間で、見えたもの全てを信じるべきではない。下手をすれば命を落とすことになる──私の話ではない、君の命の話だ」
「アリー……」
アリーシャの言葉に感嘆し、自分を落ち着かせるように大きく息を吐く。
「……まあ、だからといって、現状手掛かりになるものはあの黒猫しかないわけだ」
先ほどまでとは打って変わり、落ち着いた声でアリーシャが言葉を続けていく。
「結局追いかけるしかない。……ただし、二人一緒にだ」
フィーネの手を握るその右手に力を込める。
「君の場合は命を落とす可能性だが、私の場合、はぐれればまず命はないだろうからな」
アリーシャが場を茶化すように嘯く。
「君には判断力が、私には力が足りない。お互いの不足を補うことこそ、人間の性というものだろう?」
アリーシャの言葉に気分を高揚させたのか
、フィーネが頼もしい笑顔で大きく頷いた。
アリーシャの手を引き、道無き道を堂々と黒猫目指して歩いてゆく。
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