公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

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第14話 絡まれるプロと助け舟(物理)

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 ​ぶつかってきた冒険者風の男は、ガラの悪い声で私を威嚇してきた。その目は、獲物を見つけた肉食獣のように、いやらしく光っている。

 さっき酒場で、私を『化け物』呼ばわりしていた男で間違いない。

 ​まずい。非常にまずい。

 ここで騒ぎを起こせば、私が『森の化け物』だとバレてしまうかもしれない。そうなれば、王国からの追っ手が来て、私のスローライフは完全に崩壊する。それだけは、絶対に避けなければ。
 ​私は、フードをさらに深く引き下げ、存在感を消すように体を縮こませた。

​「……すみません」

 ​か細い声で謝罪し、その場を立ち去ろうとする。
 しかし、男は私の行く手を阻むように、一歩、前に出た。

​「おいおい、ぶつかっておいて、それだけかよ?」

「……え?」

「こっちは、お前みたいなチビのせいで大事な依頼に遅れちまいそうだ。どうしてくれるんだ?」

 ​完全に因縁をつけられている。
 いわゆる『絡まれる』というやつだ。物語で読んだことはあったけど、実際に体験するのは初めてだ。思った以上に、不愉快なものなのね。

 ​男の後ろから、仲間らしき二人の冒険者がニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら現れた。どうやら、最初からカモを探していたらしい。

​「まあまあ、ガデムさん。そんな可愛いお嬢ちゃんを、いじめなさんな」

「そうだぜ。きっと金目の物でも持ってるに違いねえ。それを貰えば、許してやってもいいんじゃねえか?」

 ​三人は、私が抱えている白金貨が詰まっている革袋に卑しい視線を送っている。

 なるほど。目的は、カツアゲというわけね。 

​「……お金は、ありません」

「はあ? テメェ、そのパンパンに膨れた袋はなんだよ!」

 ​リーダー格の男――ガデムと呼ばれた男が、私の革袋に手を伸ばしてくる。
 私は、咄嗟にその手を叩き落とそうとして……すんでのところで、思いとどまった。
 
​ ダメだ。ここで力を使ったら、絶対に騒ぎになる。
 私の腕力で、この男の手を叩いたら、腕ごとミンチになってしまうかもしれない。それは、あまりにも目立ちすぎる。

​「や、やめてください……!」

 ​私が非力な少女を演じて抵抗すると、男たちはさらに気を良くしたように笑った。

​「抵抗するってことは、やっぱり相当な額が入ってるんだな!」

「ひひひ、こりゃあ、今夜は豪遊できるぜ!」

 ​ガデムが、私の腕を掴もうとする。

 万事休すか。
 こうなったら、彼らを気絶させて記憶を消す魔法を……いや、そんな高度な魔法、生活魔法の範疇で使えるかしら?

​ 私が本気で抵抗するか、それとも逃げるか、決断を迫られた、まさにその時だった。

​ゴッ!!!

​「ぐべっ!?」

 ​突如として鈍い音が響き渡った。
 ガデムの巨体が、まるでボールのように軽々と宙を舞い、数メートル先の建物の壁に叩きつけられ、そのまま地面に崩れ落ちたのだ。

​「「……へ?」」

 ​私と残りの冒険者二人は、何が起こったのか分からず、呆然とその光景を見つめていた。

​「……あらあら。街の真ん中で、女の子一人を寄ってたかって、みっともないじゃないか」

 ​声のした方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
 歳は私より少し上だろうか。しなやかな体つきに、燃えるような赤い髪をポニーテールに結っている。身につけているのは、動きやすそうな軽鎧。腰には細身の剣を差していた。
 その手には、なぜか、買い物カゴが提げられている。カゴの中には、ネギのような野菜が一本、突き出ていた。
 ​そして、彼女の足元には、さっきまでガデムが立っていた場所に、巨大な魚――マグロが一本、まるごと転がっていた。

 ​どうやら彼女は、持っていたマグロでガデムを殴り飛ばしたらしい。

​「な、ななな、何しやがる! テメェ!」

​ 仲間の一人が、ようやく我に返って叫んだ。

​「あんたこそ、何様のつもりだい? ギルドに登録したての新人冒険者が偉そうに」

 ​赤髪の女性は、ふん、と鼻で笑うと、マグロを軽々と肩に担ぎ直した。

​「……『赤き疾風』のフィオナ……!」 

 ​もう一人の冒険者が、震える声でその名を呟いた。どうやら、彼女はこの街では有名な凄腕の冒険者らしい。

​「ち、ちくしょう! 覚えてやがれ!」

 ​残された冒険者二人は、気絶したガデムを慌てて引きずると、捨て台詞を吐いて逃げていった。あっけない幕切れだ。

​「……ふぅ。やれやれ」

 ​フィオナと名乗った女性は、肩のマグロを下ろすと、私に向き直って、にこりと笑った。

​「大丈夫だったかい? お嬢ちゃん。怪我はなかった?」

「あ、は、はい……。ありがとうございました。助かりました」

 ​私は、ぺこりと頭を下げた。
 まさか、マグロで助けられる日が来るとは、夢にも思わなかった。

​「気にしないで。ああいうチンピラは、たまにいるからね。それより、君、見ない顔だね。どこかから来たのかい?」 

 ​フィオナは、気さくに話しかけてくる。その瞳は、カラリとしていて、裏表のない感じだ。

​「え、ええと……森の、方から……」

「へえ、あの森から? 無事だったんだね、良かった」

​ どうやら、彼女も森の魔物騒ぎのことは知っているらしい。

​「あ、あの……! このお礼は、必ず……!」

「いいっていいって。それより、もし困っていることがあるなら、話くらい聞くよ? 君、なんだかひどく、この街で浮いているように見えるからさ」

 ​フィオナの言葉に、私はドキリとした。
 フードで顔を隠していても、私の場違いな雰囲気は隠しきれていなかったらしい。

​「……実は、雑貨屋さんを、探していて……」

 ​私がそう言うと、フィオナは「なんだ、そんなことかい」と、からからと笑った。

​「それなら案内してあげるよ。私も、これからギルドに顔を出すところだったからね。ちょうど通り道だ」

 ​彼女の、あまりにもあっけらかんとした優しさに、私は少しだけ戸惑ってしまう。
 森の外にも、こんなに親切な人がいるんだ。

​「……ありがとうございます」

「どういたしまして。さ、行こうか!」

 ​フィオナはそう言うと、再びマグロをひょいと担ぎ、颯爽と歩き出した。

 ​私は慌ててその後を追う。
 彼女の背中を見つめながら、私はこの出会いが、ただの偶然ではないような、そんな不思議な予感を感じていた。
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