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第14話 最高の湯浴み
鉱山の浄化、そして伝説の「聖銀」発見のニュースは、私たちが領都へ戻るよりも早く駆け巡っていたらしい。
街の入口では、今まで見たこともないほど大勢の領民たちが、私たちを今か今かと待ち構えていた。
「聖女様、万歳!」
「カイ様、ありがとうございます!」
「アイスバーグ領の未来は明るいぞ!」
熱狂的な歓声と紙吹雪の歓迎。まるで、戦争に勝利した将軍の凱旋パレードのようだ。
「すごいわ…!鉱山の大掃除が成功したことを皆さんこんなに喜んでくださっているのね!」
私が感動に打ち震えていると、隣で馬を並べていたカイ様が呆れたように、それでいてどこか優しい声で呟いた。
「……君の解釈は、いつも斜め上だな。だが、それでいい」
領民の笑顔に応えるカイ様の横顔は、領主として誇りに満ち溢れているように見えた。
屋敷に戻ると、カイ様は泥だらけの私に向かって有無を言わせぬ口調で告げた。
「アリシア、今日はもう休め。君のために、最高の湯浴みを用意させた。疲れと…その汚れを、綺麗に洗い流してこい」
「は、はいぃ!」
その言葉に、私は背筋を伸ばして敬礼する。
疲れを癒せというのは建前で、本音は「泥だらけのまま屋敷をうろつくな」ということに違いない。
さすが綺麗好きなカイ様、衛生管理が徹底的だわ!
案内された浴室は、貴族の令嬢だった頃でさえ経験したことのないほど、豪華絢爛な場所だった。
大理石の床に、湯気が立ち上る大きな湯船。
湯の上には色とりどりの花びらが浮かび、嗅いだこともないようないい香りが満ちている。
「こ、こんな贅沢な…!こんな高級な石鹸やオイルを使ったら、排水溝が…排水溝のお掃除が大変なことになってしまう…!」
私は庶民だった前世の魂を全開にさせながら、別の意味で恐縮しつつ、ありがたく最高の湯浴みを満喫させていただいた。
さっぱりと身を清めて部屋に戻ると、テラスで月を見上げるカイ様の姿があった。
「カイ様」
「……来たか。綺麗になったな」
月明かりの下で振り返ったカイ様の蒼い瞳がまっすぐに私を射抜く。その言葉と視線に、なぜか心臓が大きく音を立てた。
(綺麗になった、ですって!?つまり、汚れがちゃんと落ちているか、最終チェックということね!合格できてよかったわ……!)
「君には、感謝してもしきれない」
カイ様が静かに語り始めた。
「君がいなければ、この領地は……いや、私は、今頃どうなっていたか分からない」
「そんな……!これも全て、カイ様が完璧なお掃除道具と……」
私がいつものようにカイ様のサポートのおかげです、と言いかけた、その時だった。
バタバタという慌ただしい足音と共に、執事のバルトロさんが息を切らしてテラスに駆け込んできた。
「カイ様っ、大変でございます!王都より正式な視察団が派遣されるとの急報が!」
視察団?この、辺境の地に?
バルトロさんは、さらに衝撃的な言葉を続けた。
「つきましては、第二王子エドワード殿下も、ご自身の目で『辺境の奇跡』を確かめたいと、視察団に同行されるとのこと…!」
エドワード様……!
私を「不潔で不気味だ」と追放した、あの元婚約者。
その名を聞いた瞬間、隣に立つカイ様の周りの温度が、スウッと下がったのが分かった。穏やかだった彼の表情は、一瞬にして「氷の騎士」へと戻り、その瞳は絶対零度の光を宿していた。
一方、私はというと。
(まぁ、王子様がお客様ですって!?大変だわ!)
私の頭の中は、別のことでいっぱいだった。
(王宮からいらっしゃるのなら、お屋敷を、あの王城よりもピカピカにしてお迎えしなくては!腕が鳴るわ!)
私の心は、次なる一大お掃除プロジェクトに向けて静かに燃え始めていたのだった。
街の入口では、今まで見たこともないほど大勢の領民たちが、私たちを今か今かと待ち構えていた。
「聖女様、万歳!」
「カイ様、ありがとうございます!」
「アイスバーグ領の未来は明るいぞ!」
熱狂的な歓声と紙吹雪の歓迎。まるで、戦争に勝利した将軍の凱旋パレードのようだ。
「すごいわ…!鉱山の大掃除が成功したことを皆さんこんなに喜んでくださっているのね!」
私が感動に打ち震えていると、隣で馬を並べていたカイ様が呆れたように、それでいてどこか優しい声で呟いた。
「……君の解釈は、いつも斜め上だな。だが、それでいい」
領民の笑顔に応えるカイ様の横顔は、領主として誇りに満ち溢れているように見えた。
屋敷に戻ると、カイ様は泥だらけの私に向かって有無を言わせぬ口調で告げた。
「アリシア、今日はもう休め。君のために、最高の湯浴みを用意させた。疲れと…その汚れを、綺麗に洗い流してこい」
「は、はいぃ!」
その言葉に、私は背筋を伸ばして敬礼する。
疲れを癒せというのは建前で、本音は「泥だらけのまま屋敷をうろつくな」ということに違いない。
さすが綺麗好きなカイ様、衛生管理が徹底的だわ!
案内された浴室は、貴族の令嬢だった頃でさえ経験したことのないほど、豪華絢爛な場所だった。
大理石の床に、湯気が立ち上る大きな湯船。
湯の上には色とりどりの花びらが浮かび、嗅いだこともないようないい香りが満ちている。
「こ、こんな贅沢な…!こんな高級な石鹸やオイルを使ったら、排水溝が…排水溝のお掃除が大変なことになってしまう…!」
私は庶民だった前世の魂を全開にさせながら、別の意味で恐縮しつつ、ありがたく最高の湯浴みを満喫させていただいた。
さっぱりと身を清めて部屋に戻ると、テラスで月を見上げるカイ様の姿があった。
「カイ様」
「……来たか。綺麗になったな」
月明かりの下で振り返ったカイ様の蒼い瞳がまっすぐに私を射抜く。その言葉と視線に、なぜか心臓が大きく音を立てた。
(綺麗になった、ですって!?つまり、汚れがちゃんと落ちているか、最終チェックということね!合格できてよかったわ……!)
「君には、感謝してもしきれない」
カイ様が静かに語り始めた。
「君がいなければ、この領地は……いや、私は、今頃どうなっていたか分からない」
「そんな……!これも全て、カイ様が完璧なお掃除道具と……」
私がいつものようにカイ様のサポートのおかげです、と言いかけた、その時だった。
バタバタという慌ただしい足音と共に、執事のバルトロさんが息を切らしてテラスに駆け込んできた。
「カイ様っ、大変でございます!王都より正式な視察団が派遣されるとの急報が!」
視察団?この、辺境の地に?
バルトロさんは、さらに衝撃的な言葉を続けた。
「つきましては、第二王子エドワード殿下も、ご自身の目で『辺境の奇跡』を確かめたいと、視察団に同行されるとのこと…!」
エドワード様……!
私を「不潔で不気味だ」と追放した、あの元婚約者。
その名を聞いた瞬間、隣に立つカイ様の周りの温度が、スウッと下がったのが分かった。穏やかだった彼の表情は、一瞬にして「氷の騎士」へと戻り、その瞳は絶対零度の光を宿していた。
一方、私はというと。
(まぁ、王子様がお客様ですって!?大変だわ!)
私の頭の中は、別のことでいっぱいだった。
(王宮からいらっしゃるのなら、お屋敷を、あの王城よりもピカピカにしてお迎えしなくては!腕が鳴るわ!)
私の心は、次なる一大お掃除プロジェクトに向けて静かに燃え始めていたのだった。
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