宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙

文字の大きさ
114 / 237
第2章 宿敵の家の当主を妻に貰ってから

第114話 今が幸せだから、昔は昔

しおりを挟む
 ゲートの機器を使用して俺の屋敷へと戻ってくる。この機器を作ってくれたナタさんや、魔力を注入してくれるシアには本当に感謝だ。

 そう思ってゲートを通り抜けると、今日は何故か目の前にシアが立っていた。わざわざ出迎えてくれるなんて珍しいと思いつつも、彼女の表情を見ると心配そうに目じりが下がっていた。
 なにか、心配事がある?

「……シア? どうしたの?」

 思わず声をかけると、彼女は目じりを下げたまま俺をじっと見て、言いづらそうに口を開いた。

「……その、引継ぎお疲れさまでした」

「あ、ああ……ありがとう」

 まさかそれだけのために? とは思ったけど、とりあえずお礼を言う。けどシアはやっぱりまだ言いたいことがあったみたいで、言いにくそうにしながらも言葉を続けてくれた。

「……先代当主から……守り神の事については聞きましたか?」

「え?」

 シアの言葉を聞いて、思わず声に出していた。
 父上、何がシアにも言ってはいけない、ですか。もうシアには知られているんですけど……。
 こうなると隠す意味がなくなったので、俺は深くため息を吐く。いや、元々隠すつもりもなかったんだけど。

「うん聞いたよ。おとぎ話か、って感じだけどね」

「その……守り神のせいでノヴァさんが……」

「あぁ、俺が身代わり? みたいな感じになったのも聞いたよ」

「っ!」

 俺の言葉にシアは弾かれるように動き駆け寄ってくる。そのまま飛び込む形で俺の胸の中に彼女は収まった。

「ごめんなさいっ! 私……知ってたんです……でも、でも言えなかった……守り神なんておとぎ話のように思えますし、私からノヴァさんにフォルス家の事を言うのは違うと思って……そしてなにより、ノヴァさんを傷つけると思ったから……」

「シア……俺は大丈夫だから。むしろ理由が分かってすっきりしたよ……本当、くだらない理由だったけどね」

 本当にくだらない理由だと思える。そのことに関して俺が強すぎる怒りを抱いていないのは、きっと。

「父上に聞かされたときに、俺だってちょっとはカッとなった。だけどシアとの日々を、シアの言葉を思い出すと、そこまで強い怒りでもなかったんだ。
 俺の中でもう、あの辛い日々は過去の事なんだよ。過去の事に、してくれたんだよ」

 他ならぬ君が、そうしてくれたから。
 俺の言葉を聞いたシアは背中に回した手の力を強くする。

「そう言ってもらえて……嬉しいです。もっともっと、幸せにします。過去の事が薄く消えそうになるくらい、今を」

「そうだね、一緒に幸せになる、が正しいかな」

「……ノヴァさん」

 シアはよく俺のために行動して言葉をかけてくれるけど、彼女自身の事はあまり言ってくれない。けど俺が求めているのは俺の幸せじゃなくて、俺達……つまりシアの幸せだって含まれる。
 幸せにするっていう言葉は嬉しい。けど幸せになるっていう言葉の方が、もっと嬉しいから。

「シア……俺は大丈夫だから。それに、父上に対してもちょっと怒って、許さないって言った後に遠くでフォルス家の繁栄を黙って見ていろって言えたからね。それだけですっきりしたというか、なんというか……」

「ふふっ……ノヴァさんは優しいですね」

 優しい、のだろうか。永久に追放みたいな感じになって罪も許さないで、遠くから元々いた場所が栄えているのを見るのは結構な罰だとは思うんだけどなぁ。

 そんな事を思いながら、ふと思ったことを口に出した。

「っていうか、そこまで知ってるなら不思議だよね。俺はてっきりソニアちゃんが守り神だと思ってたんだけど……」

 でも父上は明確に否定した。あれでソニアちゃんがそうだってなれば、少しは、本当に少しはだけど納得はした……かもしれない。
 シアは動きを一瞬止めて、少しの間黙る。

「……シア?」

「……トラヴィスがそう言ったんですか?」

「うん、聞いたけど違うんだってさ。そうなってくると守り神なんて本当にいるのかって感じだけどね」

「…………」

 しばらく黙っていたシアは、ゆっくりと顔を上げる。そこには、いつもの穏やかな笑みを浮かべるシアがいた。

「きっと、そんなものはどこにもいないんですよ。存在しないものによって苦しめられたというのは悔しいですが、そんなものに縋らなければならなかった過去のフォルス家なんて、大したことがないと考えましょう」

 シアの言葉に、なるほどと思った。確かにそんな存在するかどうか分からないものが原因で苦しめられたのは思うところがあるけど、これまでのフォルス家を否定する良い材料になる。
 そう思うことで心が少し晴れた。いや、別に曇ってもいなかったけど。

「それに守り神なんてものがいようがいまいが、ノヴァさんなら関係なしに大丈夫です」

「俺には守り神よりも強い、最強の妻がいるからね」

「ふふっ……とっても嬉しいです」

「うーん、そうなると勝利の女神様、みたいな感じかも?」

「……褒め過ぎです」

 思ったままに口にしてみたけど、シアは顔を赤くしてふいっと顔を背けてしまった。その様子がいじらしくて、俺は抱きしめる腕に力を入れてしまう。力を加えられたことで、シアからも「んっ」という、少し艶やかな声が漏れた。

 このままだとまた頭がシアでいっぱいになりそうだったから彼女を放して、手を握る。
 危ない、明日も仕事があるから、今日の夜に羽目を外すわけにはいかないのである。

「……行こうか」

「はいっ……ターニャさんが引継ぎ終わりの記念として、ごちそうを手配してくれていますよ」

「……なんか、このペースだと色んな事を記念して食事が豪華になりそうだね」

「実際には、ターニャさんが食べたいだけだったり……」

「いやいや、そんなまさか……」

 と思ったけど、付き合いが長いだけにターニャだったらもしかしたら……とも思ってしまった。

 近づき、大きくなっていく屋敷を見ながら思う。
 守り神について父上から聞いたときは困惑したし、そんな過去だったのも少しは怒りを抱いた。けど今になって思えば、それがあったからシアと出会えたようなもの。

 それにさっきのシアと抱き合えるきっかけになったのも守り神だ。
 見たこともないし、そもそも存在しないだろう守り神に対して感謝をする。

 そして思った後で、自分でも変なことをしているなと思い、少しだけ笑ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...