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3 乙女ゲーム世界の結婚事情(後)
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「ああっ、あっ、そこっ」
「イザベラっ」
どちらも見かけたことのある、侍従とメイドだった。そしてここは王宮の庭である。シシリー様が池の畔の東屋に案内すると張り切って、ピクニックに来たところだ。
シシリー様がはしゃいで迷路のような庭を進み、子どもしか通り抜けられないところを通り抜け、結果として護衛たちを置き去りにかなり奥まったところまできてしまったのだ。
侍従とメイドが絡み合っている場所には、綺麗に整えられた木のアーチが続いているから、すぐに護衛たちも見つけられる程度の場所だろうし、そんなに危険はないだろう。
問題はシシリー様が二人の絡み合いを興味津々で覗き込んでいることだ。メイドのスカートは捲りあげられ、脚の間には侍従の手が潜り込んでいるが、幸いこちらからはよく見えない。それ以外、乱れていないのにほっとする。ただ、情熱的な口づけを交わしているのは丸見えだった。
「ねぇ、あれはなにをしているの? メイドが泣いているわ」
難しい問題きたー! と天を仰ぎました。私には知識はあれど、精神年齢は正しく十一歳。この世界の王族のお子さまの情操教育として問題ない範囲で説明するとか、難しすぎる。それにメイドを助けようとしてシシリー様が出ていってしまっても困る。
「あれは……、えっと、大人のすることでして、いじめているわけではないですから、戻りましょう」
さりげなくシシリー様の目を塞ぎながら、方向転換させようとしたのに、シシリー様は私の腕をするりと抜けてさらに近づいてしまう。
「あっ、そこ気持ちいいのっ、はあんっ」
「俺ももうっ」
ばさりとスカートをさらに捲り、ズボンに手をかけ、ああ、あっちを向いていてくれてよかった。いくらなんでも六歳のシシリー様に男の一物を見せるわけにはいかない。
「気持ちいいの? 泣いているのに?」
シシリー様は、いけないものを見ているということがわかったようで、小さな声で囁いてくる。そして、シシリー様の目を覆おうとする私の手と、それをどけようとするシシリー様の攻防は続いている。私に、王女様に対する遠慮があるとは言え、意外と力強いな。
そうこうする間にも、侍従とメイドはいわゆる素股に突入してしまい、メイドはさらに大きな声で喘ぎはじめた。シシリー様の耳と目を同時に塞ぐにはどうしたらいいかとおろおろしていると、シシリー様が見上げてきた。
「大人になったらああいう風に男の人と気持ちいいことをするの? ルチアお姉さまは、あれがなにか知ってるの?」
「……知りません。でも私にもシシリー様にも早いということはわかります」
あああ、幼いシシリー様に純粋な目で見つめられながらエロいこと聞かれている、これなんの試練ですか、と思いながら、精一杯の無難な返答をした私は偉いと思う。
「ルチアお姉さま、ずるい……。ほんとは知っているのでしょう? お姉さまはなんでも知ってるもの」
家庭教師の補佐として、シシリー様にすごいすごいと言われて、嬉しくなっていろいろと、家庭教師が教える先まで教えてしまったせいだろうか、シシリー様は私のことをそのように思ってくださっているらしい。シシリー様が可愛らしく頬を膨らませる。それでも視線は再び二人に釘付けだ。
そう、私には確かに知識だけはある。でも、本当のところはなにも知らないのだ。興味はあるのにキスをしたことすらないまま死んで、今生はまだ十一歳だから。
「本当に、知らないんですよ……」
万感の思いを載せたその言葉を、シシリー様も一応は納得したような顔で受け取った。そしてちょうどそのとき、護衛が追いついてきた。
「シシリー様! よかった、ご無事で!」
侍従とメイドは、その大きな声に慌てて服を整えながら走り去っていく。護衛も気づいて鋭い目線を向けた。
まあ、この世界の倫理観に照らせば、お咎めもなしだろう。ある種の窮地を脱して、私は一息ついた。
しかし、未来に思いを馳せる。この可愛らしく純粋なシシリー様が、あの乙女ゲームのようなエロエロな婚約者選定の日々を送るのかと思うと、娘をもつ父親のような心配な気持ちと、萌えを追求したいという前世の業の間で、非常に複雑になるのだった。
「イザベラっ」
どちらも見かけたことのある、侍従とメイドだった。そしてここは王宮の庭である。シシリー様が池の畔の東屋に案内すると張り切って、ピクニックに来たところだ。
シシリー様がはしゃいで迷路のような庭を進み、子どもしか通り抜けられないところを通り抜け、結果として護衛たちを置き去りにかなり奥まったところまできてしまったのだ。
侍従とメイドが絡み合っている場所には、綺麗に整えられた木のアーチが続いているから、すぐに護衛たちも見つけられる程度の場所だろうし、そんなに危険はないだろう。
問題はシシリー様が二人の絡み合いを興味津々で覗き込んでいることだ。メイドのスカートは捲りあげられ、脚の間には侍従の手が潜り込んでいるが、幸いこちらからはよく見えない。それ以外、乱れていないのにほっとする。ただ、情熱的な口づけを交わしているのは丸見えだった。
「ねぇ、あれはなにをしているの? メイドが泣いているわ」
難しい問題きたー! と天を仰ぎました。私には知識はあれど、精神年齢は正しく十一歳。この世界の王族のお子さまの情操教育として問題ない範囲で説明するとか、難しすぎる。それにメイドを助けようとしてシシリー様が出ていってしまっても困る。
「あれは……、えっと、大人のすることでして、いじめているわけではないですから、戻りましょう」
さりげなくシシリー様の目を塞ぎながら、方向転換させようとしたのに、シシリー様は私の腕をするりと抜けてさらに近づいてしまう。
「あっ、そこ気持ちいいのっ、はあんっ」
「俺ももうっ」
ばさりとスカートをさらに捲り、ズボンに手をかけ、ああ、あっちを向いていてくれてよかった。いくらなんでも六歳のシシリー様に男の一物を見せるわけにはいかない。
「気持ちいいの? 泣いているのに?」
シシリー様は、いけないものを見ているということがわかったようで、小さな声で囁いてくる。そして、シシリー様の目を覆おうとする私の手と、それをどけようとするシシリー様の攻防は続いている。私に、王女様に対する遠慮があるとは言え、意外と力強いな。
そうこうする間にも、侍従とメイドはいわゆる素股に突入してしまい、メイドはさらに大きな声で喘ぎはじめた。シシリー様の耳と目を同時に塞ぐにはどうしたらいいかとおろおろしていると、シシリー様が見上げてきた。
「大人になったらああいう風に男の人と気持ちいいことをするの? ルチアお姉さまは、あれがなにか知ってるの?」
「……知りません。でも私にもシシリー様にも早いということはわかります」
あああ、幼いシシリー様に純粋な目で見つめられながらエロいこと聞かれている、これなんの試練ですか、と思いながら、精一杯の無難な返答をした私は偉いと思う。
「ルチアお姉さま、ずるい……。ほんとは知っているのでしょう? お姉さまはなんでも知ってるもの」
家庭教師の補佐として、シシリー様にすごいすごいと言われて、嬉しくなっていろいろと、家庭教師が教える先まで教えてしまったせいだろうか、シシリー様は私のことをそのように思ってくださっているらしい。シシリー様が可愛らしく頬を膨らませる。それでも視線は再び二人に釘付けだ。
そう、私には確かに知識だけはある。でも、本当のところはなにも知らないのだ。興味はあるのにキスをしたことすらないまま死んで、今生はまだ十一歳だから。
「本当に、知らないんですよ……」
万感の思いを載せたその言葉を、シシリー様も一応は納得したような顔で受け取った。そしてちょうどそのとき、護衛が追いついてきた。
「シシリー様! よかった、ご無事で!」
侍従とメイドは、その大きな声に慌てて服を整えながら走り去っていく。護衛も気づいて鋭い目線を向けた。
まあ、この世界の倫理観に照らせば、お咎めもなしだろう。ある種の窮地を脱して、私は一息ついた。
しかし、未来に思いを馳せる。この可愛らしく純粋なシシリー様が、あの乙女ゲームのようなエロエロな婚約者選定の日々を送るのかと思うと、娘をもつ父親のような心配な気持ちと、萌えを追求したいという前世の業の間で、非常に複雑になるのだった。
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