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4 もうひとつの情熱(前)
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もうひとつの出逢いも私の人生に大きな影響を与えた。私が情熱を傾けるもうひとつの事柄。そう、魔術である。
ここは魔術がある世界でした! 魔獣もいるよ。
いや、もう、王宮からの帰りの時点で、馬車が馬車じゃなくって驚いたからね。何を言っているかわからないだろうそうだろう。
前世の言葉で馬車に対応する言葉で呼んでいた、貴族が移動に使う乗り物があるのだけれど、まず、前世で言う馬じゃなくてヒッポカンポスがつながれていた。タツノオトシゴじゃなくて、前半分が馬で、後ろ半分が魚の怪物ね。この世界では魔獣という扱いで、魔力を使って、土でも石でも周りにあるものを全部、一時的に水にして泳いで進むという驚きの生き物だ。野生のヒッポカンポス(というか、こちらでは普通に「馬」と呼んでいる)は人間を水に引きずり込んで襲うこともあるけれど、何世代にも渡って飼いならされ、交配が進められたヒッポカンポスは大変従順で、自分と自分の後ろという必要な部分しか水にしない。
そういう理由で、馬車の「車」部分は舟になっている。もちろん貴族の乗るような馬車はむき出しではなく、舟の上に天蓋のようなものがあって周囲からの視線を遮っている。舟も天蓋から落ちる布も色とりどりで、すれ違う馬車を見ているだけで楽しいし、中はクッションいっぱいのゆったりスペース。ガタンゴトンと揺れることなく、スイーっと進むので大変快適だ。
懸架式の馬車を作る知識チートは必要なかった!
そんなわけで、前世の記憶が蘇った直後にこの馬車を見た私はさらに興奮し、鼻血を出したとか出さなかったとか。いやほんと、ちょっと尋常じゃなかったと思う。
ともあれ、せっかくこんな世界に生まれたのだから、魔術について研究したいに決まっている。前世では物理学系の研究者の卵だったからね。前世の記憶が蘇ったことで、研究に対する情熱も再燃したのだ。
早速今生の知識を整理し、さらに少し調べたところによると、基本的に、この世界の生き物には多かれ少なかれ魔力があり、人間はそれを使って魔術を使うことができる。魔術は、蒸気を動力にするように、魔力を定められた術式に通すことによって他の力に変えるものだ。前世の科学と似た論理的な体系となっている。
ほとんどの人は、純粋に魔力を使うだけだと、頑張って練習しても小さな火を出す、水をちょろっと出す、といった程度の単純で小規模なことしかできない。これを魔法と呼ぶ。ヒッポカンポスが周りを水にしているのも魔法に分類され、魔獣だからこそそれだけ大きなことができるという。
それに対し、専門家である魔術師が作った術式を使うと、それに魔力を流すだけで複雑なことを起こせるようになる。例えば、台所で指定した大きさの火をつけて、一定時間消えないようにする、なんて術式は初歩の初歩で、大掛かりで緻密なものになると、ゴーレムを踊らせることもできるそうだ。うーん、ASIMO。
つまり、前世の感覚だと、術式部分が機械で、魔力が電力のようなものだ。中身がよくわからなくても電気を通して簡単な操作をすれば電気がついたり洗濯機が回ったりする、しかも魔力は自分のなかから出てくるし、魔獣から取れる魔石からなども得られる。そんな感じだ。
魔術師は、世界について深く知る理論家でもあり、世の中を便利にするエンジニアでもある。私の嗜好にぴったりだった。
淑女教育の座学としては、歴史、地理、語学、あとは簡単な算術に、文学、詩歌あたりが普通で、私はさらに政治や経済、領地経営なども学んでいたけれど、男児ではないので一定以上勉強することを望まれなかったし、興味もさほど湧かなかった。
だから人生に飽いたみたいな子どもだったわけだけれど、それ以外にこんな魅力的な分野が広がっていたとは! 私が求めていたのはこれだと思った。世界について探究したい!
この世界の仕組みは以前の世界とは異なるから、学ぶこともいっぱいある。飽きている暇なんてない。
シシリー様の侍女のお仕事に、魔術のお勉強。十一歳の私はやる気に満ち溢れていた。
ここは魔術がある世界でした! 魔獣もいるよ。
いや、もう、王宮からの帰りの時点で、馬車が馬車じゃなくって驚いたからね。何を言っているかわからないだろうそうだろう。
前世の言葉で馬車に対応する言葉で呼んでいた、貴族が移動に使う乗り物があるのだけれど、まず、前世で言う馬じゃなくてヒッポカンポスがつながれていた。タツノオトシゴじゃなくて、前半分が馬で、後ろ半分が魚の怪物ね。この世界では魔獣という扱いで、魔力を使って、土でも石でも周りにあるものを全部、一時的に水にして泳いで進むという驚きの生き物だ。野生のヒッポカンポス(というか、こちらでは普通に「馬」と呼んでいる)は人間を水に引きずり込んで襲うこともあるけれど、何世代にも渡って飼いならされ、交配が進められたヒッポカンポスは大変従順で、自分と自分の後ろという必要な部分しか水にしない。
そういう理由で、馬車の「車」部分は舟になっている。もちろん貴族の乗るような馬車はむき出しではなく、舟の上に天蓋のようなものがあって周囲からの視線を遮っている。舟も天蓋から落ちる布も色とりどりで、すれ違う馬車を見ているだけで楽しいし、中はクッションいっぱいのゆったりスペース。ガタンゴトンと揺れることなく、スイーっと進むので大変快適だ。
懸架式の馬車を作る知識チートは必要なかった!
そんなわけで、前世の記憶が蘇った直後にこの馬車を見た私はさらに興奮し、鼻血を出したとか出さなかったとか。いやほんと、ちょっと尋常じゃなかったと思う。
ともあれ、せっかくこんな世界に生まれたのだから、魔術について研究したいに決まっている。前世では物理学系の研究者の卵だったからね。前世の記憶が蘇ったことで、研究に対する情熱も再燃したのだ。
早速今生の知識を整理し、さらに少し調べたところによると、基本的に、この世界の生き物には多かれ少なかれ魔力があり、人間はそれを使って魔術を使うことができる。魔術は、蒸気を動力にするように、魔力を定められた術式に通すことによって他の力に変えるものだ。前世の科学と似た論理的な体系となっている。
ほとんどの人は、純粋に魔力を使うだけだと、頑張って練習しても小さな火を出す、水をちょろっと出す、といった程度の単純で小規模なことしかできない。これを魔法と呼ぶ。ヒッポカンポスが周りを水にしているのも魔法に分類され、魔獣だからこそそれだけ大きなことができるという。
それに対し、専門家である魔術師が作った術式を使うと、それに魔力を流すだけで複雑なことを起こせるようになる。例えば、台所で指定した大きさの火をつけて、一定時間消えないようにする、なんて術式は初歩の初歩で、大掛かりで緻密なものになると、ゴーレムを踊らせることもできるそうだ。うーん、ASIMO。
つまり、前世の感覚だと、術式部分が機械で、魔力が電力のようなものだ。中身がよくわからなくても電気を通して簡単な操作をすれば電気がついたり洗濯機が回ったりする、しかも魔力は自分のなかから出てくるし、魔獣から取れる魔石からなども得られる。そんな感じだ。
魔術師は、世界について深く知る理論家でもあり、世の中を便利にするエンジニアでもある。私の嗜好にぴったりだった。
淑女教育の座学としては、歴史、地理、語学、あとは簡単な算術に、文学、詩歌あたりが普通で、私はさらに政治や経済、領地経営なども学んでいたけれど、男児ではないので一定以上勉強することを望まれなかったし、興味もさほど湧かなかった。
だから人生に飽いたみたいな子どもだったわけだけれど、それ以外にこんな魅力的な分野が広がっていたとは! 私が求めていたのはこれだと思った。世界について探究したい!
この世界の仕組みは以前の世界とは異なるから、学ぶこともいっぱいある。飽きている暇なんてない。
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