11 / 16
6 婚約者選定のはじまり(前)
しおりを挟む
さあ、はじまりのゴングが鳴りました。これより繰り広げられるのはめくるめく乙女ゲームのような物語。ヒロインはわが国の王女シシリアーナ様。実況はわたくし、前世の記憶持ち侍女のルチアがお送りします。
……そんなナレーションを脳内でしたくもなる。私が前世の記憶を取り戻して十年。ようやくシシリー様の嬉し恥ずかし婚約者選定期間なのだから。
私はシシリー様の相談に乗り、情報を提供し、ときに背中を押す、そんな立場にいられて感無量です。あっ、これは乙女ゲームでのお助けキャラ、シルヴィア様の元侍女がそういう立場だったという話ですけど。私も同じような立ち位置なので。
今はもうシナリオはないけれど、心身ともに傷つく可能性のあるバッドエンドからお守りし、さらに最上級のハッピーエンドを目にしたい! そのためなら、諜報活動、根回し、ライバルの蹴落とし等、暗躍だって厭いません! ふふふ……。
現在、シシリーナ様は御年十六歳の花の乙女になられている。ふわふわと柔らかい淡い金色の巻き毛は、成人の未婚女性らしい華やかな形に結い上げられ、緑色の瞳は今もまだ純粋な好奇心に輝いている。背丈は少し小さめ。
真っ直ぐな髪で背の高い私を時折うらやましがっておられるけれど、シシリー様の庇護欲をそそる外見はほとんどの男性をひと目でノックアウトすると思う。心根も優しく、賢く、しかし少し抜けているところもある、可愛らしい人。在りし日のシルヴィア様もかくやという趣だ。実際に、かつての記憶を持つご年配の方々には、シルヴィア様の再来と言われている。
シシリー様が先日、デビュタントとしてはじめて夜会に出られた時には、男女問わず溜息が漏れたほど。
まあちょっと、性的なことについての関心が強すぎるとは思うけれど。それだけが淑女としてあるまじき残念な点である。本当に、シシリー様の隠し本棚にあるロマンス小説は、少々過激すぎやしませんか。
あと、こっそり王宮の突発的ロマンス(青姦とか)を覗き見するのは趣味がよろしくないですよ、と日頃口を酸っぱくして言っているのだけれど、聞いてもらえない。
私の懸念に気づかず、シシリー様は鏡の前で頬に手を当てて、可愛らしい溜息を吐いている。
「ああ、どうしましょう。緊張するわ」
この夢見る乙女そのものといった出で立ちのシシリー様を見て、実はエロいことに興味津々です、なんて誰も思わないだろう。というか、思わないで欲しい。
「大丈夫ですよ。ドレスも大変お似合いですし、いつも通りにされていればよろしいのです」
先日、社交界デビューと同時に婚約者候補が発表されたので、今日は候補者たちとの初顔合わせの日だ。と言っても、個別に会うのは明日以降。今日はシシリー様の両親である王様と王妃様に婚約者候補たちが挨拶をする儀礼的な式典である。
乙女ゲームの時には、王太子ルートで王太子の婚約者候補が数人並ぶシーンがあったけれど、美女美少女たちが目一杯着飾って並ぶ様はなかなか壮観だった。
今日、シシリー様の横に控えるために謁見の間に入ることができる私はただただ楽しみである。最近では魔術塔での研究活動がメインになり、侍女仕事の頻度が減っていて、ほとんどお話相手しかしていないけれど、私が楽しみにしているのを知ってシシリー様がお役目をくださった時は本当に嬉しかった。
あ、他の侍女たちともそこそこ仲良くやっているつもりですよ。私が最古参で、シシリー様の信頼も厚いということで、今回のお役目もすんなりと譲ってもらえた。多少思うところはあったかもしれないけれど、事前に補填(という名の良さそうな子息の紹介を)したからむしろ感謝されているくらいだ。
ともあれ、式典のために朝から髪や肌を磨かれ、ドレスアップされたシシリー様は、いつにも増してお美しい。
「でも、候補者の方々がお気に召さなかったらどうしましょう」
「そんなことは絶対ありえません」
「ルチアはどうしてそんなこと言い切れるの?」
ああ、膨れた顔もお可愛らしい。
「レオンツィオ様は幼い頃から何度もお会いしているけれど、エルネスト様とラザロ様とはご挨拶したことがあるだけだし、アンデレ王子ははじめてお会いするのよ」
「大丈夫ですよ。陛下と妃殿下が選ばれた方々ですから、良い方たちだと思いますよ。もちろん、シシリー様のお好みや相性というものがありますから、気に入らなかったらお会いする回数を減らすなど対処いたします」
私が言う好みや相性は、性格的なものだったのだけれど、何故かシシリー様は緊張にこわばっていた頬を少し染めて、俯いた。
「それに、シシリー様は見た目も中身も完璧な王女様です。自信を持ってください」
残念なエロ好奇心も、たぶんきっとおそらく良いギャップと思われますよ。むしろ、そうであってくれないと困る。
「ありがとう、ルチア」
少し赤い頬のまま微笑まれると、私がノックアウトされてしまいそう。
「シシリー様がどなたを選ばれるにせよ、私は全力で応援いたします!」
「本当に?」
「もちろんですとも」
シシリー様の幸せが私の幸せ! もちろん、シシリー様を悲しませる相手ならばこっそり裏で容赦はしないけれど。
……そんなナレーションを脳内でしたくもなる。私が前世の記憶を取り戻して十年。ようやくシシリー様の嬉し恥ずかし婚約者選定期間なのだから。
私はシシリー様の相談に乗り、情報を提供し、ときに背中を押す、そんな立場にいられて感無量です。あっ、これは乙女ゲームでのお助けキャラ、シルヴィア様の元侍女がそういう立場だったという話ですけど。私も同じような立ち位置なので。
今はもうシナリオはないけれど、心身ともに傷つく可能性のあるバッドエンドからお守りし、さらに最上級のハッピーエンドを目にしたい! そのためなら、諜報活動、根回し、ライバルの蹴落とし等、暗躍だって厭いません! ふふふ……。
現在、シシリーナ様は御年十六歳の花の乙女になられている。ふわふわと柔らかい淡い金色の巻き毛は、成人の未婚女性らしい華やかな形に結い上げられ、緑色の瞳は今もまだ純粋な好奇心に輝いている。背丈は少し小さめ。
真っ直ぐな髪で背の高い私を時折うらやましがっておられるけれど、シシリー様の庇護欲をそそる外見はほとんどの男性をひと目でノックアウトすると思う。心根も優しく、賢く、しかし少し抜けているところもある、可愛らしい人。在りし日のシルヴィア様もかくやという趣だ。実際に、かつての記憶を持つご年配の方々には、シルヴィア様の再来と言われている。
シシリー様が先日、デビュタントとしてはじめて夜会に出られた時には、男女問わず溜息が漏れたほど。
まあちょっと、性的なことについての関心が強すぎるとは思うけれど。それだけが淑女としてあるまじき残念な点である。本当に、シシリー様の隠し本棚にあるロマンス小説は、少々過激すぎやしませんか。
あと、こっそり王宮の突発的ロマンス(青姦とか)を覗き見するのは趣味がよろしくないですよ、と日頃口を酸っぱくして言っているのだけれど、聞いてもらえない。
私の懸念に気づかず、シシリー様は鏡の前で頬に手を当てて、可愛らしい溜息を吐いている。
「ああ、どうしましょう。緊張するわ」
この夢見る乙女そのものといった出で立ちのシシリー様を見て、実はエロいことに興味津々です、なんて誰も思わないだろう。というか、思わないで欲しい。
「大丈夫ですよ。ドレスも大変お似合いですし、いつも通りにされていればよろしいのです」
先日、社交界デビューと同時に婚約者候補が発表されたので、今日は候補者たちとの初顔合わせの日だ。と言っても、個別に会うのは明日以降。今日はシシリー様の両親である王様と王妃様に婚約者候補たちが挨拶をする儀礼的な式典である。
乙女ゲームの時には、王太子ルートで王太子の婚約者候補が数人並ぶシーンがあったけれど、美女美少女たちが目一杯着飾って並ぶ様はなかなか壮観だった。
今日、シシリー様の横に控えるために謁見の間に入ることができる私はただただ楽しみである。最近では魔術塔での研究活動がメインになり、侍女仕事の頻度が減っていて、ほとんどお話相手しかしていないけれど、私が楽しみにしているのを知ってシシリー様がお役目をくださった時は本当に嬉しかった。
あ、他の侍女たちともそこそこ仲良くやっているつもりですよ。私が最古参で、シシリー様の信頼も厚いということで、今回のお役目もすんなりと譲ってもらえた。多少思うところはあったかもしれないけれど、事前に補填(という名の良さそうな子息の紹介を)したからむしろ感謝されているくらいだ。
ともあれ、式典のために朝から髪や肌を磨かれ、ドレスアップされたシシリー様は、いつにも増してお美しい。
「でも、候補者の方々がお気に召さなかったらどうしましょう」
「そんなことは絶対ありえません」
「ルチアはどうしてそんなこと言い切れるの?」
ああ、膨れた顔もお可愛らしい。
「レオンツィオ様は幼い頃から何度もお会いしているけれど、エルネスト様とラザロ様とはご挨拶したことがあるだけだし、アンデレ王子ははじめてお会いするのよ」
「大丈夫ですよ。陛下と妃殿下が選ばれた方々ですから、良い方たちだと思いますよ。もちろん、シシリー様のお好みや相性というものがありますから、気に入らなかったらお会いする回数を減らすなど対処いたします」
私が言う好みや相性は、性格的なものだったのだけれど、何故かシシリー様は緊張にこわばっていた頬を少し染めて、俯いた。
「それに、シシリー様は見た目も中身も完璧な王女様です。自信を持ってください」
残念なエロ好奇心も、たぶんきっとおそらく良いギャップと思われますよ。むしろ、そうであってくれないと困る。
「ありがとう、ルチア」
少し赤い頬のまま微笑まれると、私がノックアウトされてしまいそう。
「シシリー様がどなたを選ばれるにせよ、私は全力で応援いたします!」
「本当に?」
「もちろんですとも」
シシリー様の幸せが私の幸せ! もちろん、シシリー様を悲しませる相手ならばこっそり裏で容赦はしないけれど。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる