【R18】ヒロインのお孫様にお仕えします!

榎本ペンネ

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6 婚約者選定のはじまり(前)

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 さあ、はじまりのゴングが鳴りました。これより繰り広げられるのはめくるめく乙女ゲームのような物語。ヒロインはわが国の王女シシリアーナ様。実況はわたくし、前世の記憶持ち侍女のルチアがお送りします。

 ……そんなナレーションを脳内でしたくもなる。私が前世の記憶を取り戻して十年。ようやくシシリー様の嬉し恥ずかし婚約者選定期間なのだから。

 私はシシリー様の相談に乗り、情報を提供し、ときに背中を押す、そんな立場にいられて感無量です。あっ、これは乙女ゲームでのお助けキャラ、シルヴィア様の元侍女がそういう立場だったという話ですけど。私も同じような立ち位置なので。
 今はもうシナリオはないけれど、心身ともに傷つく可能性のあるバッドエンドからお守りし、さらに最上級のハッピーエンドを目にしたい! そのためなら、諜報活動、根回し、ライバルの蹴落とし等、暗躍だって厭いません! ふふふ……。

 現在、シシリーナ様は御年十六歳の花の乙女になられている。ふわふわと柔らかい淡い金色の巻き毛は、成人の未婚女性らしい華やかな形に結い上げられ、緑色の瞳は今もまだ純粋な好奇心に輝いている。背丈は少し小さめ。
 真っ直ぐな髪で背の高い私を時折うらやましがっておられるけれど、シシリー様の庇護欲をそそる外見はほとんどの男性をひと目でノックアウトすると思う。心根も優しく、賢く、しかし少し抜けているところもある、可愛らしい人。在りし日のシルヴィア様もかくやという趣だ。実際に、かつての記憶を持つご年配の方々には、シルヴィア様の再来と言われている。
 シシリー様が先日、デビュタントとしてはじめて夜会に出られた時には、男女問わず溜息が漏れたほど。

 まあちょっと、性的なことについての関心が強すぎるとは思うけれど。それだけが淑女としてあるまじき残念な点である。本当に、シシリー様の隠し本棚にあるロマンス小説は、少々過激すぎやしませんか。
 あと、こっそり王宮の突発的ロマンス(青姦とか)を覗き見するのは趣味がよろしくないですよ、と日頃口を酸っぱくして言っているのだけれど、聞いてもらえない。
 私の懸念に気づかず、シシリー様は鏡の前で頬に手を当てて、可愛らしい溜息を吐いている。

「ああ、どうしましょう。緊張するわ」

 この夢見る乙女そのものといった出で立ちのシシリー様を見て、実はエロいことに興味津々です、なんて誰も思わないだろう。というか、思わないで欲しい。

「大丈夫ですよ。ドレスも大変お似合いですし、いつも通りにされていればよろしいのです」

 先日、社交界デビューと同時に婚約者候補が発表されたので、今日は候補者たちとの初顔合わせの日だ。と言っても、個別に会うのは明日以降。今日はシシリー様の両親である王様と王妃様に婚約者候補たちが挨拶をする儀礼的な式典である。
 乙女ゲームの時には、王太子ルートで王太子の婚約者候補が数人並ぶシーンがあったけれど、美女美少女たちが目一杯着飾って並ぶ様はなかなか壮観だった。

 今日、シシリー様の横に控えるために謁見の間に入ることができる私はただただ楽しみである。最近では魔術塔での研究活動がメインになり、侍女仕事の頻度が減っていて、ほとんどお話相手しかしていないけれど、私が楽しみにしているのを知ってシシリー様がお役目をくださった時は本当に嬉しかった。

 あ、他の侍女たちともそこそこ仲良くやっているつもりですよ。私が最古参で、シシリー様の信頼も厚いということで、今回のお役目もすんなりと譲ってもらえた。多少思うところはあったかもしれないけれど、事前に補填(という名の良さそうな子息の紹介を)したからむしろ感謝されているくらいだ。

 ともあれ、式典のために朝から髪や肌を磨かれ、ドレスアップされたシシリー様は、いつにも増してお美しい。

「でも、候補者の方々がお気に召さなかったらどうしましょう」
「そんなことは絶対ありえません」
「ルチアはどうしてそんなこと言い切れるの?」

 ああ、膨れた顔もお可愛らしい。

「レオンツィオ様は幼い頃から何度もお会いしているけれど、エルネスト様とラザロ様とはご挨拶したことがあるだけだし、アンデレ王子ははじめてお会いするのよ」
「大丈夫ですよ。陛下と妃殿下が選ばれた方々ですから、良い方たちだと思いますよ。もちろん、シシリー様のお好みや相性というものがありますから、気に入らなかったらお会いする回数を減らすなど対処いたします」

 私が言う好みや相性は、性格的なものだったのだけれど、何故かシシリー様は緊張にこわばっていた頬を少し染めて、俯いた。

「それに、シシリー様は見た目も中身も完璧な王女様です。自信を持ってください」

 残念なエロ好奇心も、たぶんきっとおそらく良いギャップと思われますよ。むしろ、そうであってくれないと困る。

「ありがとう、ルチア」

 少し赤い頬のまま微笑まれると、私がノックアウトされてしまいそう。

「シシリー様がどなたを選ばれるにせよ、私は全力で応援いたします!」
「本当に?」
「もちろんですとも」

 シシリー様の幸せが私の幸せ! もちろん、シシリー様を悲しませる相手ならばこっそり裏で容赦はしないけれど。
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