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第2章

夜の密談です

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 その日の夜、私は自室にてゆっくりと時間を潰していました。

 部屋には私一人です。

 ウンディーネはエルフ達が私に何かを仕掛けてくることを危惧していましたが、彼らが直接的な被害を加えることはないと、私は判断しました。

 エルフはどうしようもない馬鹿どもの集まりですが、ダインさんはまだ考えて行動出来る人に見えました。

 もし私に被害を加えたら、ウンディーネを含む水の精霊はエルフに力を貸さなくなる。

 それを彼は理解したことでしょう。
 下手をしたら自分達が滅ぶであろう選択肢を、あの人が安易に選ぶとは思えません。

 ……手を出すとしたら、私の知り合いや関係者。
 私の知り得る周りの人達に何らかの手段で被害を与え、おびき出そうとする可能性が高いです。

 私の周りと言われて思い浮かぶのはミリアさん達魔王軍です。
 これは憶測でしかありませんが、私がこうして魔王城に居座っていれば、彼らは直接的な被害を避けるため魔王城には近づかないでしょう。

 ウンディーネを帰らせたのは、彼女の森にも被害が及ばないようにとの配慮です。
 原初の精霊が守護する森にエルフが何か出来るとは思えませんが、一応あの森も私の『周り』という範囲内ではあります。

 絶対に安全だという確信がない今、警戒する必要はあるでしょう。
 それでもウンディーネは私と離れることを嫌がりました。涙を堪えながら『離れたくない。リーフィアと一緒に居たい』と何度も懇願する姿はとても可愛らしく、二度と離すものかと抱き締めたかったのですが…………そこは我慢。

 ウンディーネも最後はちゃんと自分の役割を考え、大人しく森に帰りました。

『何かあったら、すぐにうちに教えてね』

 それは去り際にウンディーネが言った言葉です。
 何かあったらすぐに教えてというのはこちらの台詞なのですが、彼女の優しき心を汲んでそこは大人しく了承しておきました。


 ──コンコンッ。


 っと、エルフについて考えていると、部屋の扉が静かに叩かれました。

「どうぞー」

 私は思考を中断してベッドから飛び起き、今しがたノックした人物を招き入れます。

「やぁ、夜遅くにお邪魔するよ」

「いらっしゃいませ、ヴィエラさん」

 彼女は夜というのもあり、昼間とは違った大人しい雰囲気の服を身に纏っていました。

「すいません、こんな時間に呼び出しちゃって」

「構わないさ」

 今から私が話すことは、あまりミリアさんに聞かれたくない内容でした。
 そのため、皆が寝静まった頃に私の部屋まで来てくださいと、私が彼女に直接お願いしたのです。

「他ならぬリーフィアの頼みだし、珍しく真剣な様子だったからね」

「信用されているようで安心しました」

「ミリア様が信用しているんだ。私が信用しなくてどうする」

 おおぅ……真正面から恥ずかしげもなく言われてしまうと、逆にこちらが恥ずかしくなってしまいますね。

「まぁ……素直に感謝しておきましょう」

 今日は互いの信頼関係を築くために呼び出したのではありません。
 もっと重要な用事がなければ、こんな夜遅くまで起きていませんからね。

「……さ、こちらにどうぞ」

 部屋の中心にある椅子に座るよう、手で促します。
 ヴィエラさんが「失礼する」と腰掛けたところで、私も座りました。

「それで? 私だけに聞いてもらいたい話とは、何だい?」

 ヴィエラさんは先程までの親しげな雰囲気からガラリと変わり、仕事をしている時のような真剣な雰囲気を纏いました。
 気のせいか、若干部屋の空気が冷たくなったようにも感じます。

「今日、エルフの管理者と会いました」

「──っ、そうか。大丈夫だった?」

「ええ、問題はありませんでしたが……少し気になったことがあったので共有をと思いまして、あなたをお呼びしました」

 本当はアカネさんも交えて話し合いたかったのですが、彼女は今遠くの地へ行っていて留守でした。
 なので、今は私とヴィエラさんだけの情報交換とします。

「以前、ボルゴース王国から帰った時に話したことを覚えているでしょうか?」

 話を切り出すと、ヴィエラさんの目が細められました。

「……エルフと魔女が繋がっている。だったかな?」

「ええ、その通りです。ちゃんと覚えていただけていたようで安心しました」

「そりゃあね。予想外にも程がある報告だったから覚えているさ」

 私はヴィエラさんに『エルフと魔女が繋がっている可能性がある』とだけを報告していました。
 どうしてそれだけを言って放置していたかと問われたら、その情報が本当に正しいのかの確信が持てなかったためです。

 ただでさえヴィエラさんは忙しいのに、適当な情報を流して無理させるわけにはいきませんからね。

「……それで、今日こうして呼び出したってことは、その確信を得たと思っていいんだね?」

 ヴィエラさんの問いかけに、私は頷きました。

「色々と聞きたいことがあると思いますが、焦っても仕方がありません」

「……そうだね。私もこう見えてかなり困惑している。だから、ゆっくりとわかりやすく頼むよ」

「ええ……では、最初から話すことにしましょう」

 これは私やウンディーネだけではなく、ヴィエラさん、ひいては魔王軍にとっても重要なことです。

 まだ急ぐ必要はありません。
 ですが、着実に段階を踏んでいく必要はあります。

 なので、焦らずゆっくりと話すことにしましょう。

 夜は──まだまだ長いのですから。
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