文字の大きさ
大
中
小
65 / 878
連載
手土産⑤
「姉ちゃん」
「なんね?」
「ドロップ品、更におかしな数やねん」
「そうね。リティアさんが喜ぶばい」
私はせっせとドロップ品を拾う。
軍手をして、目玉を直視しないように拾う。
本日冷蔵庫ダンジョン最終日、朝からビアンカとルージュが張り切る。
『次は私なのです』
「なんば、言いようと? これで最後って言ったやん。もう帰るばい」
『『ぶーぶー』』
「ダメよ」
最後の血の入った瓶を拾うと、出てきた宝箱。
ルージュがチェックして、罠はなし。
お馴染みのビロードの箱。開けると、ピンク色の宝石とダイヤモンドと真珠のイヤリング、ペンダントだ。可愛いデザイン。
晃太がドロップ品リストに付け加えて、ぶーぶー言うビアンカとルージュを脱出用魔法陣に乗せる。
ふわり、と景色が変わる。
1週間ぶりの外。
一旦帰ろうかと思ったが、警備の人が飛んでくる。
「ミズサワ様、お疲れの所申し訳ないのですが、ギルドまでご足労いただけないでしょうか?」
なんだか、切羽詰まった感じだ。
「はい」
リティアさんが待っているのかな?
『ユイ、様子がおかしいのです』
『そうね、焦っているわ』
私と晃太は顔を見合わせる。
何か起きたのかも知れない。
急いでギルドに向かうと、リティアさんが飛んでくる。
「ミズサワ様ッ、お疲れの所申し訳ありませんッ」
『焦っているのです』
『焦っているわ』
「こちらへ…………」
リティアさんと応接室に。
「どうされました?」
ソファーに座りながら聞く。
「実はミズサワ様が前回ギルドに融通していただいたドロップ品の評判が好評で、首都からドロップ品目当てに、貴族や商人達がマーファに押し掛けていまして。ミズサワ様がダンジョンから、いつ戻って来るかと問い合わせが、もうすごくて」
リティアさんの顔に疲れの色。
なんだ。あ、ちょっと待って。
「あの、まさか、うちの両親は大丈夫ですか?」
「はい。それはギルドの権威の全てを以て対応しております。山風や警備の者達が目を光らせていますので」
「そうですか、ありがとうございます」
今度ロッシュさん達にお礼しないと。
晃太がリストを出す。
「ありがとうございます、拝見させて頂きます。どれをギルドに?」
リストを見て、リティアさんの顔が一瞬見てはいけないほど、彫りが深くなるが、すぐにスマイル。
まず、蛇一式。それから宝飾品、楽器、武器類。今回は宝石だけでも出てきた。
ポーション類、貝柱や魚の切り身、蟹、お肉に乳製品のいくつか引き取ることに。ビアンカとルージュが食べたいと、チクチク言って来たので。
海フィールドでもドロップ品の依頼があったようで、何枚かの書類を見せられる。あの貝の粉、何に使うのかと思ったら、天然の白粉材料で、需要がかなりあると。
「一つのホワイトアルメナから取れる量も少ないんです。ただ、あれを使い出すと、他の物が使えないと言われるくらい肌乗りがよく、また肌が上品に映えるんです」
こちらの女性も美意識高いなあ。
「そしてこの不揃いの真珠は砕いて石鹸等に混ぜるんです」
「お肌にいい?」
「そうですっ。まさに珠のような輝きッ、そしてかさかさだった砂地のような肌が滑らかにッ」
リティアさんが、エキサイティング。
「ソウデスカー」
ある程度提出し、帰宅前にお願いをする。
「あの薬師ギルドの方にご相談したいことがありまして。繋ぎをお願いできませんか?」
抗生剤と解熱剤の件だ。
「薬師ギルドでございますか? すぐに呼んで参りますよ」
「今すぐではなくてもいいんです。考えがまとまった時にお願いしたいんです」
「承知しました。いつでもお申し付けください」
「ありがとうございます。その時はお願いします」
リティアさんに見送られ、やっと帰宅した。
何故か、帰るまでに何度もビアンカとルージュの足が止まる。
「どうしたん? 何か欲しいと?」
『何でもないのです』
『ええ、何でもないわ』
ビアンカは尻尾ふりふり、ルージュは目を見開いて。もう、かわいかねえ。
「ただいまー」
やっとパーティーハウスに。
「お帰り」
母と花が出迎えてくれる。
「クンクンッ」
「花ちゃん、ただいま~」
「花ちゃん~」
茶色のワガママボディをくねらせて、私と晃太の足元でのたうち回る。あはははははん、かわいかあ。ぽちゃぽちゃボディの柔らかいこと。
「お帰り、ビアンカ、ルージュ、大丈夫ね?」
『大丈夫なのです』
『もっとダンジョンに潜っても大丈夫なくらいよ』
恐ろしい事言わんで。
厩舎でノワールもブヒヒヒンと嘶く。
5匹の仔達は母の足元に集まりもふもふ。
父も出てきて、ひとしきり撫で撫で、もふもふしてからやっとパーティーハウスに。
「あ、お母さん、お父さん、実はねポイント貯まって」
「なら、今日は中華ね?」
母が嬉しそうだが、残念なお知らせ。
「実はかくかくしかじかで」
「なんね、残念やねえ」
父もちょっと残念そうだ。麻婆豆腐、好きだもんね。
一旦ルームに全員で入る。
貝柱や白身魚の切り身、蟹を出して、父に鑑定してもらう。
「大丈夫や、火を通せば食べれる」
「なら、今日はこの貝柱焼こうかね」
父と晃太がブラッシング、私と母が夕御飯の準備だ。花が微妙な位置に陣取る。
巨大貝柱をせっせと切っていく。
「お母さん、孤児院に炊き出しできたん?」
「うん、出来たよ。感謝されたけど、あれくらいじゃ足りんやったと思うんよね」
母はディレックスで手に入れた、大鍋4つにスープを作ったと。私達がダンジョンに潜った翌日は具だくさんのコンソメスープ、その3日後に肉団子入りシチュー。配膳とかに関しては、孤児院のシスターにおまかせしたと。だが、やはり成長期、食べ盛りの子供達。鍋はあっという間空っぽになったと。しかも、この1週間の間に子供が増えたそうだ。朝早くに幼い姉妹が、孤児院の前に置き去りにされて、保護されたと。
「子供達の笑顔見てるとねえ、なんとかしちゃらんといかんって思うんやけど。今はこれが精一杯やしねえ。そうや、あのデニス君、よくなったよ。昨日わざわざ院長先生とお礼言いに来たんよ」
「あ、そうね。良かったッ」
良かった良かった。
「それとね、パーカーさんも来たんよ」
「え、まさかダイアナちゃんに何かあったん?」
喜びつかの間、私は血の気が引く。
「違う違う。ダイアナちゃんは大丈夫。ほら、ダンジョンから戻ったら行くって話やったけど、やっぱりその前にお礼が言いたかったみたいで見えたんよ」
「そうなん、ああ、良かった」
「それでね、抗生剤や解熱剤の件を相談したんやけど。なんかね、やっぱり問題があるみたいや。難しい事はよう分からんけど、まず、最終目標の前に、治験をしてデータとか取った方がよかろうって。お父さんがね、簡単やけど、パーカーさんと相談しながら企画書みたいなの作りよったよ」
「なんね?」
「ドロップ品、更におかしな数やねん」
「そうね。リティアさんが喜ぶばい」
私はせっせとドロップ品を拾う。
軍手をして、目玉を直視しないように拾う。
本日冷蔵庫ダンジョン最終日、朝からビアンカとルージュが張り切る。
『次は私なのです』
「なんば、言いようと? これで最後って言ったやん。もう帰るばい」
『『ぶーぶー』』
「ダメよ」
最後の血の入った瓶を拾うと、出てきた宝箱。
ルージュがチェックして、罠はなし。
お馴染みのビロードの箱。開けると、ピンク色の宝石とダイヤモンドと真珠のイヤリング、ペンダントだ。可愛いデザイン。
晃太がドロップ品リストに付け加えて、ぶーぶー言うビアンカとルージュを脱出用魔法陣に乗せる。
ふわり、と景色が変わる。
1週間ぶりの外。
一旦帰ろうかと思ったが、警備の人が飛んでくる。
「ミズサワ様、お疲れの所申し訳ないのですが、ギルドまでご足労いただけないでしょうか?」
なんだか、切羽詰まった感じだ。
「はい」
リティアさんが待っているのかな?
『ユイ、様子がおかしいのです』
『そうね、焦っているわ』
私と晃太は顔を見合わせる。
何か起きたのかも知れない。
急いでギルドに向かうと、リティアさんが飛んでくる。
「ミズサワ様ッ、お疲れの所申し訳ありませんッ」
『焦っているのです』
『焦っているわ』
「こちらへ…………」
リティアさんと応接室に。
「どうされました?」
ソファーに座りながら聞く。
「実はミズサワ様が前回ギルドに融通していただいたドロップ品の評判が好評で、首都からドロップ品目当てに、貴族や商人達がマーファに押し掛けていまして。ミズサワ様がダンジョンから、いつ戻って来るかと問い合わせが、もうすごくて」
リティアさんの顔に疲れの色。
なんだ。あ、ちょっと待って。
「あの、まさか、うちの両親は大丈夫ですか?」
「はい。それはギルドの権威の全てを以て対応しております。山風や警備の者達が目を光らせていますので」
「そうですか、ありがとうございます」
今度ロッシュさん達にお礼しないと。
晃太がリストを出す。
「ありがとうございます、拝見させて頂きます。どれをギルドに?」
リストを見て、リティアさんの顔が一瞬見てはいけないほど、彫りが深くなるが、すぐにスマイル。
まず、蛇一式。それから宝飾品、楽器、武器類。今回は宝石だけでも出てきた。
ポーション類、貝柱や魚の切り身、蟹、お肉に乳製品のいくつか引き取ることに。ビアンカとルージュが食べたいと、チクチク言って来たので。
海フィールドでもドロップ品の依頼があったようで、何枚かの書類を見せられる。あの貝の粉、何に使うのかと思ったら、天然の白粉材料で、需要がかなりあると。
「一つのホワイトアルメナから取れる量も少ないんです。ただ、あれを使い出すと、他の物が使えないと言われるくらい肌乗りがよく、また肌が上品に映えるんです」
こちらの女性も美意識高いなあ。
「そしてこの不揃いの真珠は砕いて石鹸等に混ぜるんです」
「お肌にいい?」
「そうですっ。まさに珠のような輝きッ、そしてかさかさだった砂地のような肌が滑らかにッ」
リティアさんが、エキサイティング。
「ソウデスカー」
ある程度提出し、帰宅前にお願いをする。
「あの薬師ギルドの方にご相談したいことがありまして。繋ぎをお願いできませんか?」
抗生剤と解熱剤の件だ。
「薬師ギルドでございますか? すぐに呼んで参りますよ」
「今すぐではなくてもいいんです。考えがまとまった時にお願いしたいんです」
「承知しました。いつでもお申し付けください」
「ありがとうございます。その時はお願いします」
リティアさんに見送られ、やっと帰宅した。
何故か、帰るまでに何度もビアンカとルージュの足が止まる。
「どうしたん? 何か欲しいと?」
『何でもないのです』
『ええ、何でもないわ』
ビアンカは尻尾ふりふり、ルージュは目を見開いて。もう、かわいかねえ。
「ただいまー」
やっとパーティーハウスに。
「お帰り」
母と花が出迎えてくれる。
「クンクンッ」
「花ちゃん、ただいま~」
「花ちゃん~」
茶色のワガママボディをくねらせて、私と晃太の足元でのたうち回る。あはははははん、かわいかあ。ぽちゃぽちゃボディの柔らかいこと。
「お帰り、ビアンカ、ルージュ、大丈夫ね?」
『大丈夫なのです』
『もっとダンジョンに潜っても大丈夫なくらいよ』
恐ろしい事言わんで。
厩舎でノワールもブヒヒヒンと嘶く。
5匹の仔達は母の足元に集まりもふもふ。
父も出てきて、ひとしきり撫で撫で、もふもふしてからやっとパーティーハウスに。
「あ、お母さん、お父さん、実はねポイント貯まって」
「なら、今日は中華ね?」
母が嬉しそうだが、残念なお知らせ。
「実はかくかくしかじかで」
「なんね、残念やねえ」
父もちょっと残念そうだ。麻婆豆腐、好きだもんね。
一旦ルームに全員で入る。
貝柱や白身魚の切り身、蟹を出して、父に鑑定してもらう。
「大丈夫や、火を通せば食べれる」
「なら、今日はこの貝柱焼こうかね」
父と晃太がブラッシング、私と母が夕御飯の準備だ。花が微妙な位置に陣取る。
巨大貝柱をせっせと切っていく。
「お母さん、孤児院に炊き出しできたん?」
「うん、出来たよ。感謝されたけど、あれくらいじゃ足りんやったと思うんよね」
母はディレックスで手に入れた、大鍋4つにスープを作ったと。私達がダンジョンに潜った翌日は具だくさんのコンソメスープ、その3日後に肉団子入りシチュー。配膳とかに関しては、孤児院のシスターにおまかせしたと。だが、やはり成長期、食べ盛りの子供達。鍋はあっという間空っぽになったと。しかも、この1週間の間に子供が増えたそうだ。朝早くに幼い姉妹が、孤児院の前に置き去りにされて、保護されたと。
「子供達の笑顔見てるとねえ、なんとかしちゃらんといかんって思うんやけど。今はこれが精一杯やしねえ。そうや、あのデニス君、よくなったよ。昨日わざわざ院長先生とお礼言いに来たんよ」
「あ、そうね。良かったッ」
良かった良かった。
「それとね、パーカーさんも来たんよ」
「え、まさかダイアナちゃんに何かあったん?」
喜びつかの間、私は血の気が引く。
「違う違う。ダイアナちゃんは大丈夫。ほら、ダンジョンから戻ったら行くって話やったけど、やっぱりその前にお礼が言いたかったみたいで見えたんよ」
「そうなん、ああ、良かった」
「それでね、抗生剤や解熱剤の件を相談したんやけど。なんかね、やっぱり問題があるみたいや。難しい事はよう分からんけど、まず、最終目標の前に、治験をしてデータとか取った方がよかろうって。お父さんがね、簡単やけど、パーカーさんと相談しながら企画書みたいなの作りよったよ」
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。