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次への⑧
私は悲鳴を上げる。もちろん周りもだ。
どう逆立ちしても間に合わない。
頭から、一気に血が引く。
バキンッ
振り下ろされた瞬間、金属音が響く。思わず目を閉じてしまいそうになったが、舞い上がったのは、赤い血ではなく、真っ二つに折れた剣だ。
『ユイ、大丈夫よ。あんな単なる金属の塊、ビアンカにキズ一つ付かないわ』
ルージュが説明してくれる。まともに剣を受けたビアンカも、何一つ変わらず、自分に剣を向けた若い冒険者を静かに見下ろす。元気も無事、へっへっ言って尻尾ぶんぶんしている。
ああ、良かった、良かった。
私と晃太はビアンカと元気の元に駆け寄ろうとすると、ビアンカが鋭い唸り声を上げる。
『私だけならともかく、よくもかわいい元気に武器を向けたのですね、赦さないのです』
背中の毛を立て、目はつり上がり、眉間に深いシワ、剥き出しにされる鋭い牙、そして、少年冒険者にとって、ビアンカは見上げるような体躯。
周りの人達が、一斉に引く。
案の定、若い冒険者、少年は腰を抜かす。
グルルルルゥゥゥゥッ
「ビアンカ、ビアンカ、ストップ。それより痛いとこないね?」
私が駆け寄り、ビアンカを宥めるように背中を擦る。晃太は元気に駆け寄り、リードをどうにか繋ごうとしている。
『大丈夫なのです。あれくらいでキズは付かないのですよ』
「なら、いいけど。さて、君」
私はホッとして、若い冒険者に向き直る。
腹の底から、ジリジリと怒りが沸き上がる。
確かに、リードが壊れて元気が飛びだしたのは私達の落ち度だ。だが、走り回る前に、ビアンカが元気を止めて誰にもぶつかってもない。しかも、この若い冒険者は元気が走り出した先にいたわけでもない。それをいきなり剣で斬りつけるのは、いくらなんでもおかしい。
「うちの元気が君に何かしたかね?」
「し、躾がなっへないから、だっ」
腰を抜かして、噛みながら喚く少年冒険者。
「走り出したのはこちらの落ち度、だから? ビアンカ、母親が止めたの見えなかった? 誰に襲いかかったりしたわけ? 君、ビアンカが元気を止めていた時に剣を振り上げたよね?」
私の声が鋭くなっていく。
「………っ、あ、剣、剣を折りやがってッ」
「自業自得でしょうがッ」
「うるさいッ」
少年冒険者は、癇癪を起こしたように叫び、短くなった剣を私に向ける。
向けた途端に、ビアンカとルージュが私の前に飛び出し、響き渡るような咆哮を上げる。
グルルルゥゥゥッ
ガルルルゥゥゥッ
相当の圧だったのか、咆哮だけなのに、少年冒険者は後ろに吹き飛ぶ。
うーん、ビアンカとルージュが守ってくれただけだけど、不味いことになりそうな気が。
まあ、よか。先に剣を向けたのは、あっちや。
周りの人達も悲鳴を上げて、一斉に下がる。
ビアンカとルージュは低音の唸り声を上げながら、ジリジリと少年冒険者の間を詰める。
「ひぃっ、ひぃっ」
じたばたと白目むき出しになりそうな少年冒険者。
「はあ、ビアンカ、ルージュ、もうよかよ、ありがとう」
『いいのですか? 足の1本、食いちぎるのですよ』
『そうよ、腕くらい噛みましょうか?』
「やめて、大惨事や」
私が諌めると、ビアンカもルージュもいつもの様子になって私の元に戻ってくる。
「おい、立て」
ロッシュさんが少年冒険者の腕を掴む。強面が、更に強面になっている。シュタインさんとラーヴさんが私達と少年冒険者の間に入り、マアデン君とハジェル君はコハク、ルリ、クリス、ヒスイを囲ってる。
「何をしたか分かっているな?」
「お、俺は、悪くない…………」
「ほう? 街中で武器を振り回す事の意味を知らんのなら、お前は相当バカだということだな」
ロッシュさんが辛辣に言う。そうだよね。ここは日本ではなく、武器を携帯した冒険者が普通に町にいる。だけど、それを振り回す人、見たことない。暗黙でなく、当然のルールとして、安易に振り回したら処罰対応だ。向こうで言う、銃刀法違反かな。
だけど、少年冒険者は、バカの一言で、顔を真っ赤に染める。
「俺は、ギーリアッシュ伯爵の三男だぞっ、無礼者めっ、手を離せッ」
「知らんな。だが、冒険者でいる以上、お前のしたことを見逃すことはできん」
少年冒険者はロッシュさんの手を振り払おうとしているが、びくともしない。ロッシュさんの額、青筋浮かんでます。
「ユイさん、大丈夫ですか?」
そっと、シュタインさんが聞いてくる。
「はい、ビアンカとルージュのお陰で。あのこれからどうなります?」
私は心配な事を聞く。
「あいつをギルドに突き出します。事情を聞かれますが、大丈夫ですよ、俺達一部始終見てましたから、証言しますよ」
「ありがとうございます」
何とかなりそうや。良かった。
『ユイ、厄介そうなのが来たわ』
ルージュが警告すると、バタバタと数人の男性が駆け寄ってきた。警備の服だから、騒ぎを聞き付けたのかな。
「何を騒いでいるッ」
まあ、そうなるかね。
「俺は暴力を振るわれたッ、こいつらと、あの従魔にッ」
はあああぁぁぁぁぁっ?
見守っていたギャラリーの皆さんも、そんな顔だ。
「何だとッ、おいッ、こいつらを拘束しろッ」
更に警備兵の判断で、一斉に、はあああぁぁぁぁぁ?
「ちょっと待ってください、先に突っかかったのはあっちですよ。ビアンカとルージュは唸っても、あの子にケガはさせていないッ」
私が叫ぶように言う。
「黙れッ、どう見ても彼の方が立場が弱いだろうがッ、少し目立つ従魔を連れているだけのくせに、我々警備は騙されん、あだだだっ」
カチンッ、と来ていた私の気持ちを止めたのは、見知った人が警備兵の手首を掴んだからだ。
高い背丈、金属の鎧、アクションしてそうなイケメン。たしか、フェリクスさん、だったはず。
「ずいぶん、スカイランの警備兵は短絡的だな。よく話も聞かんとは。街の治安を守る者として、恥ずかしくないのか?」
静かに言うフェリクスさん。
おい、フェリクスさんだ。
Sランクの?
うわあ、カッコいい。
人々のざわめきから漏れる言葉が、耳に入る。
あのフェリクスさん、Sランクなの? ユリアレーナで10人しかいない、Sランク冒険者。
なるほど、皆さんの反応からして、きっとこちらの金メダリストみたいな人なんだね。
そのせいか、少年冒険者の腕を掴んでいるロッシュさん、私の側にいるシュタインさん、ラーヴさん、コハク達を守っているマアデン君とハジェル君を拘束しようとしていた、警備兵4人は止まっている。まあ、ビアンカとルージュに睨まれて、動けないだけだけど。
『ユイ、あの雄、嘘を言っているわ』
ルージュの鼻先は、痛いと喚く警備兵と、その腕を掴むフェリクスさん。
「え、誰が?」
『我々はケイビだと言った、雄の方よ』
「そう。その人、偽物みたいですよ」
私の言葉に、フェリクスさんは無言で警備兵の手袋を抜き、掌を一瞥。
「確かに、その様だ」
「おいっ、お前っ、警備兵に手を出したらどうなるか分かっていないのかッ」
「お前こそ分かっていないのか? Sランク冒険者の権限を」
冷たい表情で見下すフェリクスさん。
そこにサハーラさんが飛び込んでくる。
「冒険者ギルドの者ですっ、何事ですかっ?」
「こ、こいつらが、その少年に暴力を振るったから拘束しようとしただけだッ、おい、手を離せ、いでででっ」
サハーラさんは眉を寄せ、少年冒険者の腕を掴んでいるロッシュさんに向き直る。
「事実ですか?」
「いや、ミズサワさんの従魔、ビアンカさんと元気君にいきなり斬りつけたんだ。しかも主人であるミズサワさんにまで、剣を向けた。だから、俺が拘束している」
「なるほど、そうでしたか」
サハーラさん、ちゃんと話を聞いてくれた。ちらりと地面に落ちた剣の残骸も確認している。
「どうやら、この少年に非があるようですね」
「違うッ、この従魔は躾がなってないから、だからッ」
「だから、斬りつけた? 理由になりませんね」
サハーラさんは感情の籠らない声で答えている。
「とにかくッ事実確認をするから詰所に、全員連行するっ」
フェリクスさんに腕を捕まれている、警備兵、いや、警備兵もどきが叫ぶ。
「ならば、冒険者ギルド職員として私が同行しましょう」
「そんな事許されることではないっ、ギルド職員程度がしゃしゃりでるなっ」
うわあ、サハーラさんの額に盛大な青筋がっ。
「冒険者が起こした騒ぎで、詰所で話を聞く場合、ギルド職員の立ち会いが出来、それを警備兵は拒んではならない」
サハーラさんが事務的に言葉を出す。たぶん、これはこちらの決まり事なのかな。
「本当に偽物だな。Sランク冒険者、フェリクスが命じる、この場で警備兵の格好している者全員拘束しろっ」
フェリクスさんの号令が飛ぶと、警備兵もどき、拘束されていない4人は逃げ腰になる。
Sランクとなれば、何かしらの執行権限があるのかな。
私の前にいた、シュタインさん、ラーヴさんが身構える。
拘束していいみたいだ。
『ユイ、やってもいいかしら?』
ルージュが赤い目で訴えてくる。
「ケガさせんでよ」
『分かっているわ、えいっ』
ルージュが前肢を出すと、そこから真っ黒の触手が伸び、4人をぐるぐる巻きにして、一ヶ所に集まる。ごちんっ、と痛そうな音がなる。悲鳴上げてるけど、同情できない。
おー、と見守っていたギャラリーから歓声が。
「我々にこんなことをして、タダですむと思っているのかっ?」
まだ喚いている、フェリクスさんに拘束されている警備兵もどき。
「お前こそ、そんなに喚いていいのか? ほら来たぞ。本物の警備兵が。うちの者に、呼びに行かせていたからな」
それから本物の警備兵の人達が駆け付けて、バタバタした。
でも本物の警備兵さんは、きちんと事情を聞いてくれた。ロッシュさん達も証言してくれた。話を聞いてくれている間に、警備兵もどき達と少年冒険者は連行されていく。やっぱり警備兵もどきは、偽物だった。所属やいろいろ聞かれてまともに返答できない上に、ありもしない所属先や仕事内容だったようだ。だが、あの警備兵の制服は正規のものらしく、どこから手に入れたか、厳しく追及されるそうだ。
なんだかなあ。
私達は無罪放免だ。
ただ、元気についてだけは注意された。
「まだ成体ではないにしても、このウルフは大型です。ぶつかれば大ケガを免れませんので、くれぐれもご注意ください」
「はい、お騒がせしました」
「では、我々はこれで」
本物の警備兵さん達は、会釈して去っていった。
「ミズサワ様、私は彼らに同行します。私共の注意が行き届かず申し訳ありません」
サハーラさんが私達に謝罪してきた。
たぶん、サハーラさんは悪くないよね。
「分かっていますよ」
実はさっきからいろいろ考えていた。あながち間違いではないのではないかと思う事を。
サハーラさんを見送り、ロッシュさん達とフェリクスさん達にお礼を言って私達は引き上げる。元気が懲りずにハジェル君のポケット咥えてるので、引き離す。本当に好きね、ポケット。
ロッシュさん達は別れ際、すごく心配してくれた。
とにかく、宿を探す。
案内所で前よりちょっと中心街よりの一軒家タイプを選ぶ。
到着して、私はソファーに深く腰掛ける。
『ユイ、どうしたのです?』
『どうしたの?』
「ん? ちょっとね、考え事」
私が心配してくれる2人を撫でる。
「なあ、姉ちゃん」
「ん?」
元気とコハクのリードを外した晃太が、ソファーに沈んだ私に言ってきた。
「なあ、そろそろ、マーファに帰ろうか」
どう逆立ちしても間に合わない。
頭から、一気に血が引く。
バキンッ
振り下ろされた瞬間、金属音が響く。思わず目を閉じてしまいそうになったが、舞い上がったのは、赤い血ではなく、真っ二つに折れた剣だ。
『ユイ、大丈夫よ。あんな単なる金属の塊、ビアンカにキズ一つ付かないわ』
ルージュが説明してくれる。まともに剣を受けたビアンカも、何一つ変わらず、自分に剣を向けた若い冒険者を静かに見下ろす。元気も無事、へっへっ言って尻尾ぶんぶんしている。
ああ、良かった、良かった。
私と晃太はビアンカと元気の元に駆け寄ろうとすると、ビアンカが鋭い唸り声を上げる。
『私だけならともかく、よくもかわいい元気に武器を向けたのですね、赦さないのです』
背中の毛を立て、目はつり上がり、眉間に深いシワ、剥き出しにされる鋭い牙、そして、少年冒険者にとって、ビアンカは見上げるような体躯。
周りの人達が、一斉に引く。
案の定、若い冒険者、少年は腰を抜かす。
グルルルルゥゥゥゥッ
「ビアンカ、ビアンカ、ストップ。それより痛いとこないね?」
私が駆け寄り、ビアンカを宥めるように背中を擦る。晃太は元気に駆け寄り、リードをどうにか繋ごうとしている。
『大丈夫なのです。あれくらいでキズは付かないのですよ』
「なら、いいけど。さて、君」
私はホッとして、若い冒険者に向き直る。
腹の底から、ジリジリと怒りが沸き上がる。
確かに、リードが壊れて元気が飛びだしたのは私達の落ち度だ。だが、走り回る前に、ビアンカが元気を止めて誰にもぶつかってもない。しかも、この若い冒険者は元気が走り出した先にいたわけでもない。それをいきなり剣で斬りつけるのは、いくらなんでもおかしい。
「うちの元気が君に何かしたかね?」
「し、躾がなっへないから、だっ」
腰を抜かして、噛みながら喚く少年冒険者。
「走り出したのはこちらの落ち度、だから? ビアンカ、母親が止めたの見えなかった? 誰に襲いかかったりしたわけ? 君、ビアンカが元気を止めていた時に剣を振り上げたよね?」
私の声が鋭くなっていく。
「………っ、あ、剣、剣を折りやがってッ」
「自業自得でしょうがッ」
「うるさいッ」
少年冒険者は、癇癪を起こしたように叫び、短くなった剣を私に向ける。
向けた途端に、ビアンカとルージュが私の前に飛び出し、響き渡るような咆哮を上げる。
グルルルゥゥゥッ
ガルルルゥゥゥッ
相当の圧だったのか、咆哮だけなのに、少年冒険者は後ろに吹き飛ぶ。
うーん、ビアンカとルージュが守ってくれただけだけど、不味いことになりそうな気が。
まあ、よか。先に剣を向けたのは、あっちや。
周りの人達も悲鳴を上げて、一斉に下がる。
ビアンカとルージュは低音の唸り声を上げながら、ジリジリと少年冒険者の間を詰める。
「ひぃっ、ひぃっ」
じたばたと白目むき出しになりそうな少年冒険者。
「はあ、ビアンカ、ルージュ、もうよかよ、ありがとう」
『いいのですか? 足の1本、食いちぎるのですよ』
『そうよ、腕くらい噛みましょうか?』
「やめて、大惨事や」
私が諌めると、ビアンカもルージュもいつもの様子になって私の元に戻ってくる。
「おい、立て」
ロッシュさんが少年冒険者の腕を掴む。強面が、更に強面になっている。シュタインさんとラーヴさんが私達と少年冒険者の間に入り、マアデン君とハジェル君はコハク、ルリ、クリス、ヒスイを囲ってる。
「何をしたか分かっているな?」
「お、俺は、悪くない…………」
「ほう? 街中で武器を振り回す事の意味を知らんのなら、お前は相当バカだということだな」
ロッシュさんが辛辣に言う。そうだよね。ここは日本ではなく、武器を携帯した冒険者が普通に町にいる。だけど、それを振り回す人、見たことない。暗黙でなく、当然のルールとして、安易に振り回したら処罰対応だ。向こうで言う、銃刀法違反かな。
だけど、少年冒険者は、バカの一言で、顔を真っ赤に染める。
「俺は、ギーリアッシュ伯爵の三男だぞっ、無礼者めっ、手を離せッ」
「知らんな。だが、冒険者でいる以上、お前のしたことを見逃すことはできん」
少年冒険者はロッシュさんの手を振り払おうとしているが、びくともしない。ロッシュさんの額、青筋浮かんでます。
「ユイさん、大丈夫ですか?」
そっと、シュタインさんが聞いてくる。
「はい、ビアンカとルージュのお陰で。あのこれからどうなります?」
私は心配な事を聞く。
「あいつをギルドに突き出します。事情を聞かれますが、大丈夫ですよ、俺達一部始終見てましたから、証言しますよ」
「ありがとうございます」
何とかなりそうや。良かった。
『ユイ、厄介そうなのが来たわ』
ルージュが警告すると、バタバタと数人の男性が駆け寄ってきた。警備の服だから、騒ぎを聞き付けたのかな。
「何を騒いでいるッ」
まあ、そうなるかね。
「俺は暴力を振るわれたッ、こいつらと、あの従魔にッ」
はあああぁぁぁぁぁっ?
見守っていたギャラリーの皆さんも、そんな顔だ。
「何だとッ、おいッ、こいつらを拘束しろッ」
更に警備兵の判断で、一斉に、はあああぁぁぁぁぁ?
「ちょっと待ってください、先に突っかかったのはあっちですよ。ビアンカとルージュは唸っても、あの子にケガはさせていないッ」
私が叫ぶように言う。
「黙れッ、どう見ても彼の方が立場が弱いだろうがッ、少し目立つ従魔を連れているだけのくせに、我々警備は騙されん、あだだだっ」
カチンッ、と来ていた私の気持ちを止めたのは、見知った人が警備兵の手首を掴んだからだ。
高い背丈、金属の鎧、アクションしてそうなイケメン。たしか、フェリクスさん、だったはず。
「ずいぶん、スカイランの警備兵は短絡的だな。よく話も聞かんとは。街の治安を守る者として、恥ずかしくないのか?」
静かに言うフェリクスさん。
おい、フェリクスさんだ。
Sランクの?
うわあ、カッコいい。
人々のざわめきから漏れる言葉が、耳に入る。
あのフェリクスさん、Sランクなの? ユリアレーナで10人しかいない、Sランク冒険者。
なるほど、皆さんの反応からして、きっとこちらの金メダリストみたいな人なんだね。
そのせいか、少年冒険者の腕を掴んでいるロッシュさん、私の側にいるシュタインさん、ラーヴさん、コハク達を守っているマアデン君とハジェル君を拘束しようとしていた、警備兵4人は止まっている。まあ、ビアンカとルージュに睨まれて、動けないだけだけど。
『ユイ、あの雄、嘘を言っているわ』
ルージュの鼻先は、痛いと喚く警備兵と、その腕を掴むフェリクスさん。
「え、誰が?」
『我々はケイビだと言った、雄の方よ』
「そう。その人、偽物みたいですよ」
私の言葉に、フェリクスさんは無言で警備兵の手袋を抜き、掌を一瞥。
「確かに、その様だ」
「おいっ、お前っ、警備兵に手を出したらどうなるか分かっていないのかッ」
「お前こそ分かっていないのか? Sランク冒険者の権限を」
冷たい表情で見下すフェリクスさん。
そこにサハーラさんが飛び込んでくる。
「冒険者ギルドの者ですっ、何事ですかっ?」
「こ、こいつらが、その少年に暴力を振るったから拘束しようとしただけだッ、おい、手を離せ、いでででっ」
サハーラさんは眉を寄せ、少年冒険者の腕を掴んでいるロッシュさんに向き直る。
「事実ですか?」
「いや、ミズサワさんの従魔、ビアンカさんと元気君にいきなり斬りつけたんだ。しかも主人であるミズサワさんにまで、剣を向けた。だから、俺が拘束している」
「なるほど、そうでしたか」
サハーラさん、ちゃんと話を聞いてくれた。ちらりと地面に落ちた剣の残骸も確認している。
「どうやら、この少年に非があるようですね」
「違うッ、この従魔は躾がなってないから、だからッ」
「だから、斬りつけた? 理由になりませんね」
サハーラさんは感情の籠らない声で答えている。
「とにかくッ事実確認をするから詰所に、全員連行するっ」
フェリクスさんに腕を捕まれている、警備兵、いや、警備兵もどきが叫ぶ。
「ならば、冒険者ギルド職員として私が同行しましょう」
「そんな事許されることではないっ、ギルド職員程度がしゃしゃりでるなっ」
うわあ、サハーラさんの額に盛大な青筋がっ。
「冒険者が起こした騒ぎで、詰所で話を聞く場合、ギルド職員の立ち会いが出来、それを警備兵は拒んではならない」
サハーラさんが事務的に言葉を出す。たぶん、これはこちらの決まり事なのかな。
「本当に偽物だな。Sランク冒険者、フェリクスが命じる、この場で警備兵の格好している者全員拘束しろっ」
フェリクスさんの号令が飛ぶと、警備兵もどき、拘束されていない4人は逃げ腰になる。
Sランクとなれば、何かしらの執行権限があるのかな。
私の前にいた、シュタインさん、ラーヴさんが身構える。
拘束していいみたいだ。
『ユイ、やってもいいかしら?』
ルージュが赤い目で訴えてくる。
「ケガさせんでよ」
『分かっているわ、えいっ』
ルージュが前肢を出すと、そこから真っ黒の触手が伸び、4人をぐるぐる巻きにして、一ヶ所に集まる。ごちんっ、と痛そうな音がなる。悲鳴上げてるけど、同情できない。
おー、と見守っていたギャラリーから歓声が。
「我々にこんなことをして、タダですむと思っているのかっ?」
まだ喚いている、フェリクスさんに拘束されている警備兵もどき。
「お前こそ、そんなに喚いていいのか? ほら来たぞ。本物の警備兵が。うちの者に、呼びに行かせていたからな」
それから本物の警備兵の人達が駆け付けて、バタバタした。
でも本物の警備兵さんは、きちんと事情を聞いてくれた。ロッシュさん達も証言してくれた。話を聞いてくれている間に、警備兵もどき達と少年冒険者は連行されていく。やっぱり警備兵もどきは、偽物だった。所属やいろいろ聞かれてまともに返答できない上に、ありもしない所属先や仕事内容だったようだ。だが、あの警備兵の制服は正規のものらしく、どこから手に入れたか、厳しく追及されるそうだ。
なんだかなあ。
私達は無罪放免だ。
ただ、元気についてだけは注意された。
「まだ成体ではないにしても、このウルフは大型です。ぶつかれば大ケガを免れませんので、くれぐれもご注意ください」
「はい、お騒がせしました」
「では、我々はこれで」
本物の警備兵さん達は、会釈して去っていった。
「ミズサワ様、私は彼らに同行します。私共の注意が行き届かず申し訳ありません」
サハーラさんが私達に謝罪してきた。
たぶん、サハーラさんは悪くないよね。
「分かっていますよ」
実はさっきからいろいろ考えていた。あながち間違いではないのではないかと思う事を。
サハーラさんを見送り、ロッシュさん達とフェリクスさん達にお礼を言って私達は引き上げる。元気が懲りずにハジェル君のポケット咥えてるので、引き離す。本当に好きね、ポケット。
ロッシュさん達は別れ際、すごく心配してくれた。
とにかく、宿を探す。
案内所で前よりちょっと中心街よりの一軒家タイプを選ぶ。
到着して、私はソファーに深く腰掛ける。
『ユイ、どうしたのです?』
『どうしたの?』
「ん? ちょっとね、考え事」
私が心配してくれる2人を撫でる。
「なあ、姉ちゃん」
「ん?」
元気とコハクのリードを外した晃太が、ソファーに沈んだ私に言ってきた。
「なあ、そろそろ、マーファに帰ろうか」
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