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連載
道のり④
オーガの巣の後、暑い日が続くも、大きなトラブルなくノワールは快調に進む。
天候による休止や、ノワールの体調を見て休みを挟みながらだけど、問題はない。
休みの日、散歩と言ってビアンカとルージュが仔達を引き連れて、何処かに行ったと思ったら、マジックバッグを膨らませて帰ってくる。やめて、なんで出てくる蛇。他には熊やら鰐やらサイズのおかしい虫やら。見なかったことにした。
「ん、いい感じやね」
本日はノワールの休みでのんびりルームで過ごしている。私はカレーの具材を煮込み、いい感じで玉ねぎが透き通って来た。鷹の目の皆さんも本日お休みだ。ただ、ミゲル君はせっせと、母の手伝いでミシンを踏んでいる。チュアンさんも時々手伝っている。水にさらしたじゃがいも入れて、と。火が通ったら、ルゥを入れて完成。よし、本日の夕御飯だね。ご飯は時間があれば、炊いているから大量に晃太のアイテムボックス内にあるからね。後はどうしようかな。夕御飯まで時間あるから、久しぶりにソファーで昼寝してしまった。あはははん、魔の森で昼寝。普通はあり得ないやろうね。ルームの中は安全地帯だからね。
短時間だけど昼寝してスッキリ。中庭に干してる洗濯物を取り込んで、と。
早めに帰って来たビアンカとルージュ達に、水分補給をさせて、夕御飯前にディレックスでお買い物。エマちゃんが現在備品係なので、一緒に行く。メモ片手にお買い物。あ、洗顔フォームが少ないし、ティッシュと花のトイレのシーツと。エマちゃんも歯みがき粉やトイレットペーパー、2Lのペットボトル等々。
「重くない?」
「大丈夫、持てる」
小柄なエマちゃん、両手にビニール袋を持つ。私も両手に色々持つ。
買い物を片付けて、と。
夕御飯前に、神様用に作っていた甘口と中辛カレーを上げてみると、無事に鍋が空っぽに。良かった、届いたね。
あれだけ作ったカレーが綺麗になくなった。
仔達ももりもり食べるが、ビアンカとルージュも大量に食べる。あーあー、元気の口元にカレーが。拭いていると、ペロペロされる。かわいかけど、窒息しそうやね。
食器を片付けていると、母がカルーラ情報をくれる。レディ・ロストークも心配だしね。あれから報告はない。パーヴェルさんは無事に妊娠したら、報告してくれると。
「魔法馬の妊娠が分かるには、3ヶ月はかかりますからね」
と、ホークさん。ならまだまだ先かあ。
「そうなんですね」
かわいか子馬、みたかあ。
「気になります?」
「そりゃ。ノワールの子馬ですもん」
男の子なら、ノワールみたく哀愁攻撃をする、戦闘大好きになるかな。それとも女の子ならレディ・ロストーク似で、美少女かな。うーん、鬣とかどっちの色になるんだろう。うーん、楽しみ。無事に生まれたらお祝いとかどうするんだろう。名前はどうするんだろう。
「みたいに、考えちゃいますもん」
私の言葉に、ホークさんは微笑む。
「まるでユイさんの子供みたいですね」
言って、あ、しまったみたいなホークさん。
「すみませんっ、つい」
「いえ、私が勝手に楽しみにしているだけです。実際に痛い思いして生むのはレディ・ロストークで、お世話するのはパーヴェルさん達なんですけどね。無責任に楽しみにしているだけなんですよ」
私には、おそらく来ない話だろうしね。寂しくなるのは、気のせい。私だって、憧れた時期があった。
自分の赤ちゃんを、抱く日を。
向こうでも、うまく行かなかったし、こちらでもうまく行く気がしない。
だって、もし、私が誰かと結婚したり、出産したりしたら、色んな問題が発生するはず。私が従魔にしているのは、誰もが恐れるようなフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガー。仔達だってすくすく成長している。これからの後々を考えると、後継者問題が出るはずだ。始祖神様のおかげで私の寿命は長いが、絶対に問題になるはず。私の生んだ子供が、私と同じような寿命とは限らない、そうなれば、子供を私が見送らなくてはならない。絶対にいやや。耐えられない。それに、後継者問題で、子供がとても困る状態になると思う。苦労させてしまうと思うと申し訳ない。
誰かから聞いた訳ではないけど、何となく分かっていた。
日本にいた頃に憧れた、従姉妹が、娘を抱き締めていたあの風景。
もう、不可能なんやなあ。
「ユイさん?」
黙ってしまった私に、ホークさんは訝しげな顔だ。
「いえ、なんでもないです。レディ・ロストークが体調が悪くならなければいいなって」
「そう、ですか?」
私は誤魔化す。さ、明日はパンの日だから、お味噌汁じゃなくてスープだね。うーん、セレクトショップダリアのスープの素にしよう。簡単だし。
「ねえ優衣」
ダイニングキッチン奥の部屋。格好よく言うとパントリーだね。そのパントリーにストックのスープの素の確認に行こうとすると、母が呼び止めた。
「何?」
「山風の皆さんに今日会ったよ、先週、他の皆さんと無事に到着したって」
「そ、そうな…………」
答えたが、私は、必要以上に動揺してしまった。
山風の皆さん、無事に到着したんや。うん、良いことや。やけど、動揺、少しだけね。
一瞬思い出す、シュタインさんが、私の手に、ちゅ、ってしたことを。そして、好意以上の感情を抱いていると。だけど、あれこれ考えて、吊り橋効果と結論着けたのに、未だに動揺してしまうのは、私の情けない部分だ。情けない三十路女の、自意識過剰な、勘違い。
私は、パントリーに入り、息を整える。ふー。ふー。うん、落ち着いた。落ち着いたら、最後に思い出すのは冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちた熊で、負傷したシュタインさん。あの時は、たまたまエリクサーで繋ぎ、『神への祈り』がうまく行っただけや。
もう一度息をすう。大丈夫やね。
シェルフを確認、あ、これにしよ。ご贈答用のホテル監修スープの缶詰。人数分確保して、と。
私はスープの缶詰を抱えてパントリーを出た。
後は寝るだけ。
だけど、妙に寝付けなくて。
日が落ちて、寝る時間だけど、中庭でぼーっとする。
あー、そろそろ寝らんとなあ。
ビアンカとルージュの話なら、かなり険しい岩山付近になるそうだ。その為、仔達もルームで待機。
私はぼんやりと夜空を見上げる。綺麗な星空や。うん、明日は天気よさそう。
今頃、カルーラで、山風の皆さん寝てるのかなあ。金の虎の皆さんもそうかなあ。大討伐に参加するんやろうなあ。
……………………………………………駄目や、変に考えそうだし、引きずりそう。自分の中で、ちゃんとしたはずなのに。
あの時みたいや。ぐずぐずして、情けない。
「あー、情けない」
「何がですか?」
心臓が口から飛び出さんばかりの驚きッ。振り返ると、何故かもへじ生活のひんやりパジャマのホークさん。心配そうな顔だけど、危ない人を見る目なのは気のせい。
「いえ、あの、はい、ナンデモナイデス」
片言でごまかす。視線を外して誤魔化す。
「そうは見えませんが」
「イエ、ホントウニ」
誤魔化す。だって、自分の中で解決しているはずの案件に、今さらぐずぐずしていますなんて言えない、恥ずかしい。
「ユイさん、本当にどうしました? ノワールの話をした頃からおかしいですよ。いつもならちゃんと俺の目を見て、話してくれるのに」
うっ、よくお分かりで。確かにその辺りからぐずぐずしてて、とどめに山風のニュースだ。いや、山風の皆さんが無事に到着したのはいいことなんやけど、私があれを思い出して、勝手に動揺しただけ。
なんだか、色々思い出す。向こうにいた頃に、けじめを着けた思いや、それまでに至った辛さや、誰にも言えずに内に閉じ込めていた苦しさや。今回のシュタインさんのちゅ、は、違うけど、封じ込めていたあの頃の惨めな自分を思い出す。だから、ああ、いやや。
「ユイさん」
そんな風に考えていると、ホークさんが私の前で膝をつく。
「何か悩んでいるのなら、明日の出発を伸ばしましょう」
ホークさんに、心配されてしまった。
「いや、そこまでではないんですよ。明日には元通りですよ」
私はできるだけ明るく言う。なんでもない事ですよって、伝えないと。
「………………分かりました、ユイさん」
しばらく無言でホークさんと向き合うが、向こうが引いてくれた。きっと分かってくれた。本当にこういう時に、ホークさんに気を使わせてしまって申し訳ない。
わざわざ部屋まで着いてきてくれたホークさんに、お礼を行って、私はベッドに潜り込む。
暗い天井を見上げながら、私はぼんやり思う。
いつか、誰かに、昔さ、こんなこんなで、こんな感じだったんだよ、と話せる日が来るだろうか。笑い話として、話せるだろうか。
来るなら、来てほしい。そんな日が。
ふいに思い出すのは、時々お茶していた従姉妹の笑顔。彼女なら、真摯に私の話をずっと聞いてくれて、傍にいてくれそう。
あの人を諦めた時、一番感情的になっていたのは彼女だ。両親に心配させたくなかった私が、溜め込んでいた愚痴を溢してしまった時に、彼女は半泣きだった。私の為に、怒ってくれた、それだけで、救われた気がした。あの後、なんだかんだと忙しくしていて、思い出さなかった。こちらに来て、日本にいた頃を懐かしく思うことが多く、ちょいちょい思い出してしまう。
彼女は、元気だろうか? 私達がいなくなったせいで、日常生活に影響が出ていないだろうか? それだけが心配だ。
思い出す、頼りになる従姉妹であり親友の彼女を。
あ、何となく、思い付く。
彼女とホークさん、何となく似てる。顔とかじゃない、纏う空気が。いつも、どんな時も私の味方だった彼女。高校生の時、華憐に流された妙な噂だって、彼女が真っ向から否定して守ってくれた。両親に相談できなくて、きついと思った時だって、傍にいてくれた。彼女は私のヒーローだった。そのおかげで、華憐の噂は噂でしかなくなり、誰もあいつの言うことは信じないようになるのに、時間はかからなかった。あまりにも根も葉もない事を言いふらしすぎた為もあるし、学校側からも再三の注意が行ったからだ。
ホークさんは、フェリアレーナ様の襲撃の時、あの時、支えてくれた。無理することないって、事故に遭遇しただけだって。どれだけ、私の心にのし掛かった重りが軽くなったか。もちろん晃太の支援魔法や、両親が気遣い、ビアンカとルージュの優しさもあった。ホークさんの言葉は、更にそれらを押し上げてくれた。
そっか、私はホークさんに依存しているんやな。ヒーローだった彼女に、頼っていたように。ノワールの件だけではない、色んな事で相談し、時には指摘してくるホークさんに。
いつか、戦闘奴隷契約を解除するけど、その後、いい友人でいてもらえないかなあ。彼女のように。
ホークさんの人の良さにつけ込むようで、逆に申し訳ない感情に苛まれるのに、時間はかからなかった。
天候による休止や、ノワールの体調を見て休みを挟みながらだけど、問題はない。
休みの日、散歩と言ってビアンカとルージュが仔達を引き連れて、何処かに行ったと思ったら、マジックバッグを膨らませて帰ってくる。やめて、なんで出てくる蛇。他には熊やら鰐やらサイズのおかしい虫やら。見なかったことにした。
「ん、いい感じやね」
本日はノワールの休みでのんびりルームで過ごしている。私はカレーの具材を煮込み、いい感じで玉ねぎが透き通って来た。鷹の目の皆さんも本日お休みだ。ただ、ミゲル君はせっせと、母の手伝いでミシンを踏んでいる。チュアンさんも時々手伝っている。水にさらしたじゃがいも入れて、と。火が通ったら、ルゥを入れて完成。よし、本日の夕御飯だね。ご飯は時間があれば、炊いているから大量に晃太のアイテムボックス内にあるからね。後はどうしようかな。夕御飯まで時間あるから、久しぶりにソファーで昼寝してしまった。あはははん、魔の森で昼寝。普通はあり得ないやろうね。ルームの中は安全地帯だからね。
短時間だけど昼寝してスッキリ。中庭に干してる洗濯物を取り込んで、と。
早めに帰って来たビアンカとルージュ達に、水分補給をさせて、夕御飯前にディレックスでお買い物。エマちゃんが現在備品係なので、一緒に行く。メモ片手にお買い物。あ、洗顔フォームが少ないし、ティッシュと花のトイレのシーツと。エマちゃんも歯みがき粉やトイレットペーパー、2Lのペットボトル等々。
「重くない?」
「大丈夫、持てる」
小柄なエマちゃん、両手にビニール袋を持つ。私も両手に色々持つ。
買い物を片付けて、と。
夕御飯前に、神様用に作っていた甘口と中辛カレーを上げてみると、無事に鍋が空っぽに。良かった、届いたね。
あれだけ作ったカレーが綺麗になくなった。
仔達ももりもり食べるが、ビアンカとルージュも大量に食べる。あーあー、元気の口元にカレーが。拭いていると、ペロペロされる。かわいかけど、窒息しそうやね。
食器を片付けていると、母がカルーラ情報をくれる。レディ・ロストークも心配だしね。あれから報告はない。パーヴェルさんは無事に妊娠したら、報告してくれると。
「魔法馬の妊娠が分かるには、3ヶ月はかかりますからね」
と、ホークさん。ならまだまだ先かあ。
「そうなんですね」
かわいか子馬、みたかあ。
「気になります?」
「そりゃ。ノワールの子馬ですもん」
男の子なら、ノワールみたく哀愁攻撃をする、戦闘大好きになるかな。それとも女の子ならレディ・ロストーク似で、美少女かな。うーん、鬣とかどっちの色になるんだろう。うーん、楽しみ。無事に生まれたらお祝いとかどうするんだろう。名前はどうするんだろう。
「みたいに、考えちゃいますもん」
私の言葉に、ホークさんは微笑む。
「まるでユイさんの子供みたいですね」
言って、あ、しまったみたいなホークさん。
「すみませんっ、つい」
「いえ、私が勝手に楽しみにしているだけです。実際に痛い思いして生むのはレディ・ロストークで、お世話するのはパーヴェルさん達なんですけどね。無責任に楽しみにしているだけなんですよ」
私には、おそらく来ない話だろうしね。寂しくなるのは、気のせい。私だって、憧れた時期があった。
自分の赤ちゃんを、抱く日を。
向こうでも、うまく行かなかったし、こちらでもうまく行く気がしない。
だって、もし、私が誰かと結婚したり、出産したりしたら、色んな問題が発生するはず。私が従魔にしているのは、誰もが恐れるようなフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガー。仔達だってすくすく成長している。これからの後々を考えると、後継者問題が出るはずだ。始祖神様のおかげで私の寿命は長いが、絶対に問題になるはず。私の生んだ子供が、私と同じような寿命とは限らない、そうなれば、子供を私が見送らなくてはならない。絶対にいやや。耐えられない。それに、後継者問題で、子供がとても困る状態になると思う。苦労させてしまうと思うと申し訳ない。
誰かから聞いた訳ではないけど、何となく分かっていた。
日本にいた頃に憧れた、従姉妹が、娘を抱き締めていたあの風景。
もう、不可能なんやなあ。
「ユイさん?」
黙ってしまった私に、ホークさんは訝しげな顔だ。
「いえ、なんでもないです。レディ・ロストークが体調が悪くならなければいいなって」
「そう、ですか?」
私は誤魔化す。さ、明日はパンの日だから、お味噌汁じゃなくてスープだね。うーん、セレクトショップダリアのスープの素にしよう。簡単だし。
「ねえ優衣」
ダイニングキッチン奥の部屋。格好よく言うとパントリーだね。そのパントリーにストックのスープの素の確認に行こうとすると、母が呼び止めた。
「何?」
「山風の皆さんに今日会ったよ、先週、他の皆さんと無事に到着したって」
「そ、そうな…………」
答えたが、私は、必要以上に動揺してしまった。
山風の皆さん、無事に到着したんや。うん、良いことや。やけど、動揺、少しだけね。
一瞬思い出す、シュタインさんが、私の手に、ちゅ、ってしたことを。そして、好意以上の感情を抱いていると。だけど、あれこれ考えて、吊り橋効果と結論着けたのに、未だに動揺してしまうのは、私の情けない部分だ。情けない三十路女の、自意識過剰な、勘違い。
私は、パントリーに入り、息を整える。ふー。ふー。うん、落ち着いた。落ち着いたら、最後に思い出すのは冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちた熊で、負傷したシュタインさん。あの時は、たまたまエリクサーで繋ぎ、『神への祈り』がうまく行っただけや。
もう一度息をすう。大丈夫やね。
シェルフを確認、あ、これにしよ。ご贈答用のホテル監修スープの缶詰。人数分確保して、と。
私はスープの缶詰を抱えてパントリーを出た。
後は寝るだけ。
だけど、妙に寝付けなくて。
日が落ちて、寝る時間だけど、中庭でぼーっとする。
あー、そろそろ寝らんとなあ。
ビアンカとルージュの話なら、かなり険しい岩山付近になるそうだ。その為、仔達もルームで待機。
私はぼんやりと夜空を見上げる。綺麗な星空や。うん、明日は天気よさそう。
今頃、カルーラで、山風の皆さん寝てるのかなあ。金の虎の皆さんもそうかなあ。大討伐に参加するんやろうなあ。
……………………………………………駄目や、変に考えそうだし、引きずりそう。自分の中で、ちゃんとしたはずなのに。
あの時みたいや。ぐずぐずして、情けない。
「あー、情けない」
「何がですか?」
心臓が口から飛び出さんばかりの驚きッ。振り返ると、何故かもへじ生活のひんやりパジャマのホークさん。心配そうな顔だけど、危ない人を見る目なのは気のせい。
「いえ、あの、はい、ナンデモナイデス」
片言でごまかす。視線を外して誤魔化す。
「そうは見えませんが」
「イエ、ホントウニ」
誤魔化す。だって、自分の中で解決しているはずの案件に、今さらぐずぐずしていますなんて言えない、恥ずかしい。
「ユイさん、本当にどうしました? ノワールの話をした頃からおかしいですよ。いつもならちゃんと俺の目を見て、話してくれるのに」
うっ、よくお分かりで。確かにその辺りからぐずぐずしてて、とどめに山風のニュースだ。いや、山風の皆さんが無事に到着したのはいいことなんやけど、私があれを思い出して、勝手に動揺しただけ。
なんだか、色々思い出す。向こうにいた頃に、けじめを着けた思いや、それまでに至った辛さや、誰にも言えずに内に閉じ込めていた苦しさや。今回のシュタインさんのちゅ、は、違うけど、封じ込めていたあの頃の惨めな自分を思い出す。だから、ああ、いやや。
「ユイさん」
そんな風に考えていると、ホークさんが私の前で膝をつく。
「何か悩んでいるのなら、明日の出発を伸ばしましょう」
ホークさんに、心配されてしまった。
「いや、そこまでではないんですよ。明日には元通りですよ」
私はできるだけ明るく言う。なんでもない事ですよって、伝えないと。
「………………分かりました、ユイさん」
しばらく無言でホークさんと向き合うが、向こうが引いてくれた。きっと分かってくれた。本当にこういう時に、ホークさんに気を使わせてしまって申し訳ない。
わざわざ部屋まで着いてきてくれたホークさんに、お礼を行って、私はベッドに潜り込む。
暗い天井を見上げながら、私はぼんやり思う。
いつか、誰かに、昔さ、こんなこんなで、こんな感じだったんだよ、と話せる日が来るだろうか。笑い話として、話せるだろうか。
来るなら、来てほしい。そんな日が。
ふいに思い出すのは、時々お茶していた従姉妹の笑顔。彼女なら、真摯に私の話をずっと聞いてくれて、傍にいてくれそう。
あの人を諦めた時、一番感情的になっていたのは彼女だ。両親に心配させたくなかった私が、溜め込んでいた愚痴を溢してしまった時に、彼女は半泣きだった。私の為に、怒ってくれた、それだけで、救われた気がした。あの後、なんだかんだと忙しくしていて、思い出さなかった。こちらに来て、日本にいた頃を懐かしく思うことが多く、ちょいちょい思い出してしまう。
彼女は、元気だろうか? 私達がいなくなったせいで、日常生活に影響が出ていないだろうか? それだけが心配だ。
思い出す、頼りになる従姉妹であり親友の彼女を。
あ、何となく、思い付く。
彼女とホークさん、何となく似てる。顔とかじゃない、纏う空気が。いつも、どんな時も私の味方だった彼女。高校生の時、華憐に流された妙な噂だって、彼女が真っ向から否定して守ってくれた。両親に相談できなくて、きついと思った時だって、傍にいてくれた。彼女は私のヒーローだった。そのおかげで、華憐の噂は噂でしかなくなり、誰もあいつの言うことは信じないようになるのに、時間はかからなかった。あまりにも根も葉もない事を言いふらしすぎた為もあるし、学校側からも再三の注意が行ったからだ。
ホークさんは、フェリアレーナ様の襲撃の時、あの時、支えてくれた。無理することないって、事故に遭遇しただけだって。どれだけ、私の心にのし掛かった重りが軽くなったか。もちろん晃太の支援魔法や、両親が気遣い、ビアンカとルージュの優しさもあった。ホークさんの言葉は、更にそれらを押し上げてくれた。
そっか、私はホークさんに依存しているんやな。ヒーローだった彼女に、頼っていたように。ノワールの件だけではない、色んな事で相談し、時には指摘してくるホークさんに。
いつか、戦闘奴隷契約を解除するけど、その後、いい友人でいてもらえないかなあ。彼女のように。
ホークさんの人の良さにつけ込むようで、逆に申し訳ない感情に苛まれるのに、時間はかからなかった。
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