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白夜⑤
一体、私は何を見ているのだろう?
予測は付くが、予測だし、もしかして、だし。
私は自身の神秘の紫水晶を握りしめる。温かく、熱を持っている。いままで、こんなことなかったのに。
黒髪の女性は、猪の前で祈りの態勢になる。
「貴方の命、ありがたく頂戴します」
続く言葉が消える。場面がまるで倍速で進んだからだ。途中で白い蛇の背中に跨がる笑顔の子供達を、大人がしかったり。猪の解体を、大勢の人達が協力していたりする姿が見えた。
止まったのは、時間的に夕方、日が山影に入ろうとしている。
あら。誰もいない。
「私ね、ここが好きよ」
ぎょ、後ろから声がした。
振り返ると、石に腰かけた、神子様と呼ばれた黒髪の女性。その側にはあの白い蛇。
「皆も大好き。皆、私を神子様だと慕ってくれるわ、だから、応えるのが私の役目で生き甲斐なの」
周りには蛇しかいないから、この人、蛇に話しかけているんだ。
「でもね、いつも思うの、あの日が沈んだ先、山の向こうはどうなっているんだろうって」
黒髪の女性は、語るように続ける。
「いずれ、新しい神子が生まれるわ。そうなったら、ねえ、そうなったら、私、あの山の向こうに行ってみたいの。あ、皆には内緒よ」
と、かわいいいたずらっ子みたいに笑う黒髪の女性。
「見てみたいの、ずっと向こうに広がっている世界を、何があるのかしら? 私達以外にも、どんな人達が暮らしているのかしら? やっぱり神子という役割を担う誰かがいるのかしら?」
言いきって、黒髪の女性は、胸元を押さえる。
「叶わないって、分かっているの。でもね、望んでしまうのよ。ねえ、私が役割を終えて、しがらみがなくなったら、その時、一緒に、山の向こうに行ってくれない」
続く言葉が、強烈なノイズにかきけされる。
場面が倍速で進む、倍速なんてスピードやない、何十倍速や。目まぐるしい進む世界が、止まった時、私は息が詰まる。
ついさっきまで、生き生きとした子供達がいて、大きな猪を囲んでいた人達、そして神子様と女性がいない。人達が営んでいた集落が、一気に廃村のように雰囲気に。
なんで?
私は近くの建物の中を覗く。
うっ。
白骨死体がっ。
そういえば、始祖神様が言ってた。感染症で、呆気なく亡くなったって。
ドシンッ
大きな音、その音源の方に振り返ると、あの白い蛇が大きな鹿を取って来たんや。
白い蛇は、大きな鹿の側で、じーっと待っている。じーっと、じーっと。
なんだろう、胸が詰まるような思い。
どれだけ待とうと、誰も獲物を取ってきた白い蛇を出迎えない。
とうとう鹿が腐り落ちとしまうと、再び白い蛇は別の獲物を取ってきた。それを何回も繰り返す。
何回も、何回も、何十回も、何百回も。
誰も迎えでないのに、白い蛇は、まるで刷り込みのように獲物を取って来る。
集落は徐々に植物に侵食され、白い蛇も姿が変わる。二首になり、三首になり、ああ、こうやって、ハ首になり、ヤマタノオロチになったんやね。
白い蛇がヤマタノオロチになってから、噂の皇帝竜と王冠山が出きるような大怪獣合戦になったんやね。
ただ、盲目的に、獲物を取ってくるあの蛇を見てしまい、なんだか、少なからず、可哀想に思えてならない。
ただ、静かに生きていただけだろうに。
私は、その思いにかられる。
同郷の人よ
女性の声が響く。
振り返ると、白い蛇に山の向こうに行きたいと語っていた黒髪の女性、神子様が。
同郷の人よ
繰り返す。
あ、私の事やね。
「は、はい」
同郷の人、あの子を、救って
「救うって」
もう、イシス達が首をずいぶん切り落としてしまっている。それにはこちらの事情がある。地脈の影響で半覚醒してしまったヤタマノオロチが、這い出してきたら、周囲の魔の森どころではない、この大陸が火の海になるからだ。それに対抗出来るのは、実力的には皇帝竜だけ。そうなれば、辺り一面吹き飛ばしてしまう。
だから、私達がこのフィールド型ダンジョンに入り、ボス部屋に鎮座している間に、討伐しようとしているだけ。
どちらにしても半覚醒してしまった。いずれ、這い出し討伐対象になるのだ。それが、ヤマタノオロチの意思ではなかったとしても。
それにすでに、首は残り1つ、それ以外でも、黒岩のような肌はズタズタなのに。
救って、あの子の残った心を、救って、伝えて
救うから、伝える?
「あの、仰っている意味が」
分からない。
神子様は私の下げた神秘の紫水晶(ミスティック・アメジスト)をそっと両手でつつむ。
伝えて、あの子に、伝えて
あの子に
そう言って、神子様が霞の様に消えた。
「あと1つやっ」
晃太の声で我に返る。
え? 結構長い時間、見ていたのに。
窓の外、最後の首が激しい抵抗を見せている。
ルージュとシヴァが休みなく炎の塊を当て、イシスとアレスが切り落とそうとしている。
最後の首は、片目が完全に焼き潰され、黒肌は無惨にもズタズタになり、抉れ、肉が見えている。
痛々しい姿になっていた。
伝えて
神子様の声が、頭の中で木霊のように響く。
私の足が、自然に動いていた。
『ユイッ、どこに行くのですっ』
ビアンカの悲鳴が聞こえた。
予測は付くが、予測だし、もしかして、だし。
私は自身の神秘の紫水晶を握りしめる。温かく、熱を持っている。いままで、こんなことなかったのに。
黒髪の女性は、猪の前で祈りの態勢になる。
「貴方の命、ありがたく頂戴します」
続く言葉が消える。場面がまるで倍速で進んだからだ。途中で白い蛇の背中に跨がる笑顔の子供達を、大人がしかったり。猪の解体を、大勢の人達が協力していたりする姿が見えた。
止まったのは、時間的に夕方、日が山影に入ろうとしている。
あら。誰もいない。
「私ね、ここが好きよ」
ぎょ、後ろから声がした。
振り返ると、石に腰かけた、神子様と呼ばれた黒髪の女性。その側にはあの白い蛇。
「皆も大好き。皆、私を神子様だと慕ってくれるわ、だから、応えるのが私の役目で生き甲斐なの」
周りには蛇しかいないから、この人、蛇に話しかけているんだ。
「でもね、いつも思うの、あの日が沈んだ先、山の向こうはどうなっているんだろうって」
黒髪の女性は、語るように続ける。
「いずれ、新しい神子が生まれるわ。そうなったら、ねえ、そうなったら、私、あの山の向こうに行ってみたいの。あ、皆には内緒よ」
と、かわいいいたずらっ子みたいに笑う黒髪の女性。
「見てみたいの、ずっと向こうに広がっている世界を、何があるのかしら? 私達以外にも、どんな人達が暮らしているのかしら? やっぱり神子という役割を担う誰かがいるのかしら?」
言いきって、黒髪の女性は、胸元を押さえる。
「叶わないって、分かっているの。でもね、望んでしまうのよ。ねえ、私が役割を終えて、しがらみがなくなったら、その時、一緒に、山の向こうに行ってくれない」
続く言葉が、強烈なノイズにかきけされる。
場面が倍速で進む、倍速なんてスピードやない、何十倍速や。目まぐるしい進む世界が、止まった時、私は息が詰まる。
ついさっきまで、生き生きとした子供達がいて、大きな猪を囲んでいた人達、そして神子様と女性がいない。人達が営んでいた集落が、一気に廃村のように雰囲気に。
なんで?
私は近くの建物の中を覗く。
うっ。
白骨死体がっ。
そういえば、始祖神様が言ってた。感染症で、呆気なく亡くなったって。
ドシンッ
大きな音、その音源の方に振り返ると、あの白い蛇が大きな鹿を取って来たんや。
白い蛇は、大きな鹿の側で、じーっと待っている。じーっと、じーっと。
なんだろう、胸が詰まるような思い。
どれだけ待とうと、誰も獲物を取ってきた白い蛇を出迎えない。
とうとう鹿が腐り落ちとしまうと、再び白い蛇は別の獲物を取ってきた。それを何回も繰り返す。
何回も、何回も、何十回も、何百回も。
誰も迎えでないのに、白い蛇は、まるで刷り込みのように獲物を取って来る。
集落は徐々に植物に侵食され、白い蛇も姿が変わる。二首になり、三首になり、ああ、こうやって、ハ首になり、ヤマタノオロチになったんやね。
白い蛇がヤマタノオロチになってから、噂の皇帝竜と王冠山が出きるような大怪獣合戦になったんやね。
ただ、盲目的に、獲物を取ってくるあの蛇を見てしまい、なんだか、少なからず、可哀想に思えてならない。
ただ、静かに生きていただけだろうに。
私は、その思いにかられる。
同郷の人よ
女性の声が響く。
振り返ると、白い蛇に山の向こうに行きたいと語っていた黒髪の女性、神子様が。
同郷の人よ
繰り返す。
あ、私の事やね。
「は、はい」
同郷の人、あの子を、救って
「救うって」
もう、イシス達が首をずいぶん切り落としてしまっている。それにはこちらの事情がある。地脈の影響で半覚醒してしまったヤタマノオロチが、這い出してきたら、周囲の魔の森どころではない、この大陸が火の海になるからだ。それに対抗出来るのは、実力的には皇帝竜だけ。そうなれば、辺り一面吹き飛ばしてしまう。
だから、私達がこのフィールド型ダンジョンに入り、ボス部屋に鎮座している間に、討伐しようとしているだけ。
どちらにしても半覚醒してしまった。いずれ、這い出し討伐対象になるのだ。それが、ヤマタノオロチの意思ではなかったとしても。
それにすでに、首は残り1つ、それ以外でも、黒岩のような肌はズタズタなのに。
救って、あの子の残った心を、救って、伝えて
救うから、伝える?
「あの、仰っている意味が」
分からない。
神子様は私の下げた神秘の紫水晶(ミスティック・アメジスト)をそっと両手でつつむ。
伝えて、あの子に、伝えて
あの子に
そう言って、神子様が霞の様に消えた。
「あと1つやっ」
晃太の声で我に返る。
え? 結構長い時間、見ていたのに。
窓の外、最後の首が激しい抵抗を見せている。
ルージュとシヴァが休みなく炎の塊を当て、イシスとアレスが切り落とそうとしている。
最後の首は、片目が完全に焼き潰され、黒肌は無惨にもズタズタになり、抉れ、肉が見えている。
痛々しい姿になっていた。
伝えて
神子様の声が、頭の中で木霊のように響く。
私の足が、自然に動いていた。
『ユイッ、どこに行くのですっ』
ビアンカの悲鳴が聞こえた。
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