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カルーラで年越し~春まで⑲

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 ルーティから無事に両親が帰って来た。
 心配はしたが、アレスは元気いっぱいだ。
 比較的穏やかに日々が過ぎていき、チュアンさんのシスター・アモルとの面会日前日。
 役場の人が、御用聞きの冒険者の方とやってきた。
「パーヴェル・イコスティ様より、ミズサワ様にご報告したい件があるとの事で、面会希望がございます。アスラ王国の大使、モーガン夫妻も同席されます。急で申し訳ありません、明日の11時でお願いできますか?」
 例の件ね。シスター・アモルとの面会に、見事に被ってる。
「分かりました、伺います」
 チュアンさんはこっちに来るって言ったけど、シスター・アモルに面会に行ってもらい、必要なものがないか聞いてもらうことにした。
 次の日、支度して、と。私と晃太、ホークさん、ミゲル君、マデリーンさん、ビアンカとイシスだ。
 前回と同じような流れで、前回と同じ応接室だ。役場の人が外套をかけてくれる。対応がいい。少しパーティーハウスを早く出たので一番乗りだ。
 前回と同じソファーに座る。
 この話が来たって事はある程度目処が立ったってことだろうし。この襲撃事件にはアスラ王国の高位貴族が関わっていた、どうなるんやろう?
 あれから、アスラ王国の無料教室については、色々聞いた。各地を治めている領主さんの采配が大きく、地方によって差がある。ルーティの領主、アーグレ伯爵のように熱心な人なんて、ごく僅かだ。中には、それは各家庭でやるべきで、関係ないし、なんでそんな下層住民にめんどくさいこと、いつ、自分達の役に立つかも分からないのに、それに自分の時間と労力と金をかけたくないと思っているらしい。読み書きできない親が多いのに、各家庭なんて無理だよ。アスラ王国出身の方に聞いてみたら、リィマさんは商会の人から、なんと男爵令嬢のマデリーンさんはお姉さんから、ファングさんは読み書きできるお母さんから教えてもらったと。
 読み書き計算できたら、就労先も増えて、収入が増える。そうすれば、いずれ納税率だって上がるのになあ。
 それを、子供を集めたり、教師を募ったり、場所の確保をするのは、めんどくさし、いつ結果を見せるか分からないような事を、今労力を費やすのはいやだって。
 意識改革がまず先やな、と結論を出した。
 それを誰がするか、だ。
 結局、地位のあり、発言力がある人達に頼まなくてはならない。私が出きる事は少ないって事だ。
 どうしたものか。
「アスラ王国大使、モーガン夫妻がいらっしゃいました」
 いかん、考え事しとった。
 ソファーから立ち上がると、モーガン夫妻が侍従さんと護衛騎士二名、ベテラン感のある騎士と、丸耳で隈のすごい体格のよい騎士。前回のメンバーでやってきた。
 頭を下げて、お互いご挨拶。
 すぐに、正装したパーヴェル様が合流。ご挨拶。
「早速で申し訳ありませんが」
 と、着席したパーヴェル様が切り出す。
「先日の襲撃事件の黒幕達についてです。目星がつきましたので、ご報告させていただきます」
 達って、複数おるんやね。
 パーヴェル様は持ってきた書類に目を落とす。
 おそらくだいたいの内容はモーガン夫妻は知っているのか、落ち着いて聞いている。
「襲撃事件を画策したのはアスラ王国貴族、コスコル公爵を筆頭に、ダム伯爵、フラッジ子爵、リーズ子爵の四家が関わっていました。実際指示を出したのはコスコル公爵ですね」
「やっぱり、嫌がらせ目的?」
 過激すぎる嫌がらせ。私に言わせたら、犯罪だ。
「ええ、例の修道院の建設予定地が、コスコル公爵領の隣になったことで、行動を起こしたと」
 コスコル公爵はもともとあまり人族以外の人には、友好的ではない。この大陸で人族主義を掲げている西側の考えを持ち、例の『呪い持ち』の法案も最後まで反対。この法案が立ち上がれば、『呪い持ち』だからといって、彼らを害すれば、相応に罰せられる。今までは、『呪い持ち』だから、どうせ短命だし、子でも成して、その子が『呪い持ち』になる可能性があるからという下らない理由で害されてた。そして『呪い持ち』を生んだ母親、『呪い持ち』を兄弟にもつ姉妹もその対象だった。
 リィマさんとアルスさんみたいにね。
「今回の件で発覚したのですが、コスコル公爵は以前より、『呪い持ち』の幼児、その両親と兄弟の処理の指示をしていた。コスコル公爵は指示を出すだけ、実際手足になっていたのがこの三家です」
 なんや、最低やな。
「他にも動いていた者がいましたが、法案可決後に捕えられています。悪質なのは、コスコル公爵は口にはしたが、指示していない、そやつらが勝手にやったことと、すべての責任を押し付けていました」
 本当に最低。
「コスコル公爵は修道院の建設反対派筆頭でした。しかも自領の隣など認めないと。実際、建設計画は遅々として進んでいないのは、コスコル公爵が裏で手をひいていたようです。今回のモーガン伯爵がこのカルーラで襲わせ、更に時間を稼いで建設予定地を買収するつもりだったと。そうすれば修道院建設は事実上断念しなくてなりません」
 ふう、と息をつくパーヴェル様。
「建設賛成派トップであるモーガン伯爵夫妻を一線から引かせたかったのでしょうね。ご子息達への傷害、怪文書色々したんでしょう。実行犯を雇ったのは、ダム伯爵達ですが、まさか、一家揃ってアスラ王国を出られると思っていなかった。しびれを切らしたコスコル公爵は、最終手段を取り、それに応えて起こしたのが、あの襲撃事件です。アスラ王国の首都は大騒ぎだそうです。時期に裁判になるでしょう。すべて、ミズサワ殿のお手柄ですよ」
「え?」
 私?
「襲撃犯を生け捕りにしてくれました。これで大元のコスコル公爵に行き着けたんですよ」
「それは、ビアンカとルージュが優秀なだけで」
 う、嬉しかっ、ビアンカとルージュが誉められて、照れる、照れ照れ。
 よし、今日はご褒美やな。
「アスラ王国はしばらくはこの騒ぎは続きますが、いずれ沈静化するでしょう。修道院建設予定地も守れ、予算も得ましたしね。細やかですが、我がイコスティ辺境伯も支援することなりました」
「他国なのに?」
「以前よりユリアレーナの中央には許可も得ていますから。我らカルーラからは大工と石工が数人。レンガ職人を派遣する予定です」
 なるほど、人員派遣やね。
「今回の陣頭指揮を取っているオークリー王太子殿下は、徹底追求しています。これでアスラ王国の貴族間のパワーバランスは崩れるでしょうが、オークリー王太子殿下なら、調整されるでしょう」
 オークリー王太子殿下? あ、イヴリン王太子妃殿下の旦那さんね。
 この法案は王太子殿下夫妻が、軌道に乗せたんだった。そして、修道院建設はイヴリン王太子妃殿下が発起人。王太子夫妻は、主な仕事は外交もそうだけど、未成年の教育、呪い持ちと、その家族の為の法整備を進めているそうだ。今回は王太子夫妻を長く支援してくれているモーガン伯爵夫妻が襲われた、しかも隣国で。せっかくミッシェル王太后様が、ユリアレーナに嫁いで、友好国となっているのに、その関係に亀裂をいれるような事態になる。ミッシェル王太后様は、現在のアスラ王国国王の姉、オークリー王太子殿下の伯母になる。親戚関係になるが、とても良好な関係。あの襲撃事件で、色んな人達の努力で築かれた関係が、どうなるかって、分からなかったのかね。
「裁判にはなるでしょうが、長引かせる事はないでしょう。後は細々とした余罪と関連したものを調書が行われています。今回は襲撃事件の概要はこんな感じですね」
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