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邪魔③
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「本日はお招き頂きましたが、伺えず申し訳ありません。アンジェリカ様にもそうお伝えください」
つっけんどんに言っておく。
「それはいいのですよっ、お怪我はっ」
そういって処置台に腰かけた私の前にひざまずく。止めてよ。
「ローザ伯爵家で受けた痛みに比べれば」
言葉が詰まる保留婚約者。
あ、これは、まさかと思っていたけど、ウィンティアがローザ伯爵家で受けていた虐待知っていたんじゃない?
私はそれを見て、ちょっと嫌な答え方かなと思ったけど、改める、そもそも今更出てくるなんておかしいんだよ。
私がローザ伯爵家に帰って来ないのに、おかしいって、思わなかったのかね? 十二の女の子が馬車に乗ったまま行方不明状態だったんだよ。
探し回りましたよって雰囲気ゼロ。生物学上の両親も着崩れしてないし、母親もきちんと髪がセットされたまま。
身嗜みを整えるのを、常に気をつけているだけかもしれないけど。
そもそも、馭者を雇ったのも、あの迎えに来させた使用人を雇ったのもローザ伯爵なんだから。
はあ、キャサリンの妨害のせいで散々だ。
お腹も減ったし。
「お話はこれで終わりですか? 私、もう休みたくて」
警らの女性に聞くと、女性は軽蔑の目から優しい目になる。
「いいですよ。警らの馬車で送りましょうか?」
「お願いします」
「ウィンティア嬢、私がお送りしま、」
「痛いっ」
立ち上がろうとすると、保留婚約者が腕を掴んできた。がっつり擦りむいた所をっ。いきなりのことだから、思わず叫んだ。庇っていた場所だしね。
「す、すみませんっ」
手を引っ込める保留婚約者から、守るように立ってくれたのは警らの女性だ。
「貴方にもお話を伺う必要がありそうですね。さあ、送りますよ。行き先は?」
「ユミル学園にお願いします」
警らの女性は私が投げた軟膏を拾ってくれた。
「ウィンティア、痛くないの? 明日は学園お休みでしょう? 家で休んだ方が」
生物学上の母親が言ってくる。
ふい、にウィンティアの記憶をつつく。
「痛くないわけないでしょう? 何故、怪我をしているからとローザ伯爵家に戻らないといけないんですか? 熱が出ようが、額が割れようが放置したくせに」
そう。
ウィンティアがローザ伯爵家で過ごした五歳と八歳の頃に、何度か熱を出した。最初は医者を呼んだが、次からは放置。メトロノームで殴られた時だってそうだ。あの時、誰かがキズをハンカチで押さえてくれたけど、思い出せない。
ぐ、と詰まる生物学上の両親。
「寮で休んだ方が、身体にいいですので。ああ、保留婚約者様、私が死ななくて良かったですね」
最後に嫌みを残そう。
さっき、私の腕を掴んできた瞬間に薫ってきた。
ウィンター・ローズの香り。
おそらく香水。
キャサリンの愛用しているやつね。何で知ってるかって? このウィンター・ローズの香水は、セーレ商会の大人気の希少な商品。若い貴族子女には大人気で、広告塔のキャサリンが常に纏っている。
その香りがした。移り香ってやつね。つまり、香りが移るまで、接触したということだ。
それが分かった瞬間の嫌悪感。
何が誠実だ、何がお友達だ、ふざけるな。
「ウィンティア嬢、どういう意味ですか?」
私の嫌悪感が、何故か分かってない様子なのが、更に腹立つ。
嫌みを残そう、この無神経不誠実に。
「私が死んだら、私から奪う予定の利用価値が手に入りませんよねぇ」
びしぃ、と固まる保留婚約者。
「ああ、そうか。私が死んだらローズ伯爵家に移動するんですかね。そうしたら、あの女と好き勝手出来ますよねぇ」
嫌み、嫌み、嫌み。
暴れ出てくる嫌悪感。
「どういう意味ですか?」
低音で聞いてくる保留婚約者。
「私を心配するなら、せめて、その匂いを落としてくるべきでしたね。私が不愉快だと気がつかないんですね」
は、となって、シャツの匂いを嗅いでるが、遅いって。
「ち、違うんですっ」
「何が? はぁ、しばらく貴方の顔をみたくないので。お手紙も結構です。来ても即燃やしますから」
「違うんです、違うんですウィンティア嬢っ」
「送って頂けます?」
「こちらに」
警らの女性が庇うように誘導してくれる。
追ってきた保留婚約者を、別の警らの人が防いでくれた。
生物学上の両親も、防いでくれた。
私は警らの馬車でユミル学園まで送ってもらった。
つっけんどんに言っておく。
「それはいいのですよっ、お怪我はっ」
そういって処置台に腰かけた私の前にひざまずく。止めてよ。
「ローザ伯爵家で受けた痛みに比べれば」
言葉が詰まる保留婚約者。
あ、これは、まさかと思っていたけど、ウィンティアがローザ伯爵家で受けていた虐待知っていたんじゃない?
私はそれを見て、ちょっと嫌な答え方かなと思ったけど、改める、そもそも今更出てくるなんておかしいんだよ。
私がローザ伯爵家に帰って来ないのに、おかしいって、思わなかったのかね? 十二の女の子が馬車に乗ったまま行方不明状態だったんだよ。
探し回りましたよって雰囲気ゼロ。生物学上の両親も着崩れしてないし、母親もきちんと髪がセットされたまま。
身嗜みを整えるのを、常に気をつけているだけかもしれないけど。
そもそも、馭者を雇ったのも、あの迎えに来させた使用人を雇ったのもローザ伯爵なんだから。
はあ、キャサリンの妨害のせいで散々だ。
お腹も減ったし。
「お話はこれで終わりですか? 私、もう休みたくて」
警らの女性に聞くと、女性は軽蔑の目から優しい目になる。
「いいですよ。警らの馬車で送りましょうか?」
「お願いします」
「ウィンティア嬢、私がお送りしま、」
「痛いっ」
立ち上がろうとすると、保留婚約者が腕を掴んできた。がっつり擦りむいた所をっ。いきなりのことだから、思わず叫んだ。庇っていた場所だしね。
「す、すみませんっ」
手を引っ込める保留婚約者から、守るように立ってくれたのは警らの女性だ。
「貴方にもお話を伺う必要がありそうですね。さあ、送りますよ。行き先は?」
「ユミル学園にお願いします」
警らの女性は私が投げた軟膏を拾ってくれた。
「ウィンティア、痛くないの? 明日は学園お休みでしょう? 家で休んだ方が」
生物学上の母親が言ってくる。
ふい、にウィンティアの記憶をつつく。
「痛くないわけないでしょう? 何故、怪我をしているからとローザ伯爵家に戻らないといけないんですか? 熱が出ようが、額が割れようが放置したくせに」
そう。
ウィンティアがローザ伯爵家で過ごした五歳と八歳の頃に、何度か熱を出した。最初は医者を呼んだが、次からは放置。メトロノームで殴られた時だってそうだ。あの時、誰かがキズをハンカチで押さえてくれたけど、思い出せない。
ぐ、と詰まる生物学上の両親。
「寮で休んだ方が、身体にいいですので。ああ、保留婚約者様、私が死ななくて良かったですね」
最後に嫌みを残そう。
さっき、私の腕を掴んできた瞬間に薫ってきた。
ウィンター・ローズの香り。
おそらく香水。
キャサリンの愛用しているやつね。何で知ってるかって? このウィンター・ローズの香水は、セーレ商会の大人気の希少な商品。若い貴族子女には大人気で、広告塔のキャサリンが常に纏っている。
その香りがした。移り香ってやつね。つまり、香りが移るまで、接触したということだ。
それが分かった瞬間の嫌悪感。
何が誠実だ、何がお友達だ、ふざけるな。
「ウィンティア嬢、どういう意味ですか?」
私の嫌悪感が、何故か分かってない様子なのが、更に腹立つ。
嫌みを残そう、この無神経不誠実に。
「私が死んだら、私から奪う予定の利用価値が手に入りませんよねぇ」
びしぃ、と固まる保留婚約者。
「ああ、そうか。私が死んだらローズ伯爵家に移動するんですかね。そうしたら、あの女と好き勝手出来ますよねぇ」
嫌み、嫌み、嫌み。
暴れ出てくる嫌悪感。
「どういう意味ですか?」
低音で聞いてくる保留婚約者。
「私を心配するなら、せめて、その匂いを落としてくるべきでしたね。私が不愉快だと気がつかないんですね」
は、となって、シャツの匂いを嗅いでるが、遅いって。
「ち、違うんですっ」
「何が? はぁ、しばらく貴方の顔をみたくないので。お手紙も結構です。来ても即燃やしますから」
「違うんです、違うんですウィンティア嬢っ」
「送って頂けます?」
「こちらに」
警らの女性が庇うように誘導してくれる。
追ってきた保留婚約者を、別の警らの人が防いでくれた。
生物学上の両親も、防いでくれた。
私は警らの馬車でユミル学園まで送ってもらった。
応援ありがとうございます!
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