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準備⑦
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現実に引き戻される。
セシリア・ウーヴァ女公爵の挨拶が終わった所だ。
「さて、立ち聞きするつもりはなかったのですが、何やら物騒なお話をされていましたわね?」
だいたい聞いてたんじゃないの?
だけど、この人の力が必要だ。
「私が、ローザ伯爵にあるお願いをしただけです」
「お父様、でなくて?」
意地悪な言い方だな。
幼いウィンティアを気絶するほど殴ったやつをそんな風に呼べるわけない。
「生物学上の父親です」
きっぱり言い切った。
視界の中で、生物学上の父親が下を向く。
「キャサリンに『魅了』され、五歳の私を、腐ったどぶと言って、気絶するほど殴ったやつです」
は、としたような顔になる生物学上の両親。多分、私がキャサリンが『魅了』持ちだと知らないと思っていたんだと思う。コクーン修道院に保護された理由に、キャサリンの『魅了』が関わっている。コクーン修道院では、幼い子供の場合は、保護された理由を当人が望まないと話さない。知らない方がいいと思われている。
「お母様、今はそれはいいのではありません? ウィンティアさん、貴女とローザ伯爵の関係は知っているつもりよ。それを踏まえて、お願いしなくてはならないような事態なのでしょう? どうしたの?」
アンジェリカ様が助け船を出してくれる。
乗らないといけないやつだ。
「資料を」
私が短い言うと、生物学上の父親が、黙ったまま隠していた資料を取り出す。
資料はセシリア・ウーヴァ女公爵にわたる。
「拝見しても?」
「はい」
断れないのを分かっているのに聞いてくる。でも、見てもらわないと始まらない。
セシリア・ウーヴァ女公爵は、資料を取り出し目を通す。凄いスピードで見ている。私の倍以上のスピードで読んでいる。
ふう、と一息ついて、資料は婿養子である夫のハインリヒ様とアンジェリカ様に。お二人とも早いスピードで資料に目を通す。ハインリヒ様の眉が片方ピクリ、として、アンジェリカ様は静かに怒っている様子。
「ウィンティア嬢」
静かにセシリア・ウーヴァ女公爵が私を呼ぶ。資料を見ていた二人を眺めていたので、意識を向ける。
「だいたいの事情は察しました。キリール・ザーデクの死の真相を暴き、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルに裁きを与えたいのですね?」
「それだけでは足りません。グラーフ伯爵もです」
「確かに、アデレーナ・グラーフの出生証明書の偽造は、罪に問われるでしょうが、おそらく罰金刑で終わるはず。グラーフ伯爵は長きにわたり領地を守り、発展に尽力してきた経歴があり、それが加味されるでしょう」
「それでもナタリア達を切り捨てました。アデレーナだけを守り、幼いヴァレリーとマルティンを抱え、救いを求めたナタリアの願いを無下にしました。同じ孫なのにあんまりです」
ぎゃふん、と言わせたい。
足りない、ぎゃふん、ぎゃふん、ぎゃぎゃぎゃふん、と言わせたい。
私の顔を見て、ふふふ、とセシリア・ウーヴァ女公爵。
「確かに、アデレーナ・グラーフの出生証明書偽造くらいなら、ローザ伯爵の後見ででもどうにかなりそうだけど」
ハインリヒ様が資料を閉じる。
「問題はキリール・ザーデクの件だね。これ、大騒ぎになるよ。市民生活を守るためにある警らが、不倫相手の為に殺人教唆、しかも捜査に圧力をかけて強制的に止めさせた」
聞きながら、私は日本にいた頃の警察がこんなことをしたらどうなるか想像する。
あ、これ、大騒ぎになる。
色んなものが根底か覆るって事だ。
本来、市民生活を守り、犯罪を取り締まり、裁判までに繋ぎ合わせる警らのトップ近くにいる者が、犯罪にためらいなく手を染めるなんて、ね。
なんだか、口封じとかされない? あ、ナタリア達、危なくない? 相手は大の大人だし、力がありお金があれば、暴漢を雇って襲わせるなんて簡単にできない? 現役騎士であるキリール・ザーデクでさえ、薬物飲まされて、殺害されてしまったのだから。ゾーヤ・グラーフにもためらいはないように思える。だって、葬儀の日にナタリア達を捨てた。帰るはずの家はすでに売り払っていたから、着の身着のままだと分かった上で、ナタリア達を捨てた。どんな結果になるか分からない訳ではないはずなのに。多分野垂れ死にしてもかまわないと思っていたはず。もし、捨てた子供達が自分の罪を暴こうとしたら、どんな手段を取る?
そう思うと、私が血の気が引く。
「やっと分かったようね」
セシリア・ウーヴァ女公爵の挨拶が終わった所だ。
「さて、立ち聞きするつもりはなかったのですが、何やら物騒なお話をされていましたわね?」
だいたい聞いてたんじゃないの?
だけど、この人の力が必要だ。
「私が、ローザ伯爵にあるお願いをしただけです」
「お父様、でなくて?」
意地悪な言い方だな。
幼いウィンティアを気絶するほど殴ったやつをそんな風に呼べるわけない。
「生物学上の父親です」
きっぱり言い切った。
視界の中で、生物学上の父親が下を向く。
「キャサリンに『魅了』され、五歳の私を、腐ったどぶと言って、気絶するほど殴ったやつです」
は、としたような顔になる生物学上の両親。多分、私がキャサリンが『魅了』持ちだと知らないと思っていたんだと思う。コクーン修道院に保護された理由に、キャサリンの『魅了』が関わっている。コクーン修道院では、幼い子供の場合は、保護された理由を当人が望まないと話さない。知らない方がいいと思われている。
「お母様、今はそれはいいのではありません? ウィンティアさん、貴女とローザ伯爵の関係は知っているつもりよ。それを踏まえて、お願いしなくてはならないような事態なのでしょう? どうしたの?」
アンジェリカ様が助け船を出してくれる。
乗らないといけないやつだ。
「資料を」
私が短い言うと、生物学上の父親が、黙ったまま隠していた資料を取り出す。
資料はセシリア・ウーヴァ女公爵にわたる。
「拝見しても?」
「はい」
断れないのを分かっているのに聞いてくる。でも、見てもらわないと始まらない。
セシリア・ウーヴァ女公爵は、資料を取り出し目を通す。凄いスピードで見ている。私の倍以上のスピードで読んでいる。
ふう、と一息ついて、資料は婿養子である夫のハインリヒ様とアンジェリカ様に。お二人とも早いスピードで資料に目を通す。ハインリヒ様の眉が片方ピクリ、として、アンジェリカ様は静かに怒っている様子。
「ウィンティア嬢」
静かにセシリア・ウーヴァ女公爵が私を呼ぶ。資料を見ていた二人を眺めていたので、意識を向ける。
「だいたいの事情は察しました。キリール・ザーデクの死の真相を暴き、ゾーヤ・グラーフとティーシモン・バズルに裁きを与えたいのですね?」
「それだけでは足りません。グラーフ伯爵もです」
「確かに、アデレーナ・グラーフの出生証明書の偽造は、罪に問われるでしょうが、おそらく罰金刑で終わるはず。グラーフ伯爵は長きにわたり領地を守り、発展に尽力してきた経歴があり、それが加味されるでしょう」
「それでもナタリア達を切り捨てました。アデレーナだけを守り、幼いヴァレリーとマルティンを抱え、救いを求めたナタリアの願いを無下にしました。同じ孫なのにあんまりです」
ぎゃふん、と言わせたい。
足りない、ぎゃふん、ぎゃふん、ぎゃぎゃぎゃふん、と言わせたい。
私の顔を見て、ふふふ、とセシリア・ウーヴァ女公爵。
「確かに、アデレーナ・グラーフの出生証明書偽造くらいなら、ローザ伯爵の後見ででもどうにかなりそうだけど」
ハインリヒ様が資料を閉じる。
「問題はキリール・ザーデクの件だね。これ、大騒ぎになるよ。市民生活を守るためにある警らが、不倫相手の為に殺人教唆、しかも捜査に圧力をかけて強制的に止めさせた」
聞きながら、私は日本にいた頃の警察がこんなことをしたらどうなるか想像する。
あ、これ、大騒ぎになる。
色んなものが根底か覆るって事だ。
本来、市民生活を守り、犯罪を取り締まり、裁判までに繋ぎ合わせる警らのトップ近くにいる者が、犯罪にためらいなく手を染めるなんて、ね。
なんだか、口封じとかされない? あ、ナタリア達、危なくない? 相手は大の大人だし、力がありお金があれば、暴漢を雇って襲わせるなんて簡単にできない? 現役騎士であるキリール・ザーデクでさえ、薬物飲まされて、殺害されてしまったのだから。ゾーヤ・グラーフにもためらいはないように思える。だって、葬儀の日にナタリア達を捨てた。帰るはずの家はすでに売り払っていたから、着の身着のままだと分かった上で、ナタリア達を捨てた。どんな結果になるか分からない訳ではないはずなのに。多分野垂れ死にしてもかまわないと思っていたはず。もし、捨てた子供達が自分の罪を暴こうとしたら、どんな手段を取る?
そう思うと、私が血の気が引く。
「やっと分かったようね」
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