【完結】恋多き悪女(と勘違いされている私)は、強面騎士団長に恋愛指南を懇願される

かほなみり

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7 動き出す悪女

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「イーゼンブルグ?」

 晩餐会の翌日、朝食の席で叔母さまとアーロンに昨夜のことを報告すると、彼女は目を丸くした。

「あの事故のあった日に出会った騎士って、イーゼンブルグ卿だったの?」
「叔母さま、知ってるの?」
「知っているも何も、彼は今、王都で話題の人物よ」

 叔母さまはそう言って、新聞を手渡してきた。

「銀色の髪に青い瞳、大きな体躯。美丈夫ではあるけれど、その無表情具合からご令嬢方に恐れられることが多くて、中々婚約者が決まらないという話よ」
「そうなの? 怖いなんて思わなかったけれど」
「僕も君たち二人が話している姿を遠くから見たよ。二人とも背が高くて、すごく注目を浴びていたね」
「彼に、変な人に声を掛けられたのを助けてもらったの」

 確かに私が見上げるほどの身長だった。並んでいたら目立つのも仕方ないのかもしれない。
 新聞を捲ると、彼の名前が載っているページが現れる。

「ええと、イーゼンブルグ卿、騎士団長に昇任……、え、騎士団長!?」
「そうよ。エイデン・フリート・フォン・イーゼンブルグ卿は王家と繋がる由緒正しい武の一門、イーゼンブルグ公爵家の嫡男。自身の実力で騎士爵を若いころに賜って、先月には子爵位を叙爵されたばかりなの。いずれは公爵も名乗るでしょうし、この国で王族の次に高貴なお方になる人よ」

 叔母さまは長い指を自分の顎に当てて、くるりと瞳を天井へ向けた。

「なんでも王女殿下との婚約の話もあるというし、その血脈を絶やさないよう王家も必死なんでしょうね」
「へえ、大変ね、高位貴族って」
「あなたは怖いと思わなかったんでしょう?」
「全然思わなかったわ。ただ、大きいなぁって」
「なあに、その感想!」

 叔母さまは私の感想を聞いて吹き出した。

「だって私を見下ろすくらい背が高かったのよ! 感動しちゃったわ」
「でもそのお陰で周囲の注目を浴びて、その後も声を掛けられて大変だったね」

 アーロンがくすくす笑いながら新しい紅茶を叔母さまのカップに注ぐ。ミルクをたっぷり入れて蜂蜜を淹れた甘い紅茶は、なんだか今の二人にぴったり合っている。

「結局アーロンにも助けてもらったんでしょう?」
「ええ、そうなの。ありがとう、アーロン」
「いいんだよ、そうなると思って遠くから見てたんだから」

 一人でいるというだけで、多くの男性に声を掛けられた。これまでそれなりに晩餐会や夜会に参加してきたけれど、あんなに声を掛けられたのは初めてだった。
 正直、そこに出会いがあるとは思えない。だってなんだかみんな、下心が丸見えなのだから。

「アレックスは、いまいち危機感が足りないんだよね。見ていてひやひやしたよ」
「そんなことないわ、一応気を付けていたのよ」
「でも結構しつこく絡まれて、大変そうだったよ」
「だっていろんな言い方で食い下がってくる人が多いんだもの!」
「あら、モテモテね」

 あれはモテたというのだろうか。だとしたら、全然嬉しくない。

「まあ、まだ経験不足ってことね。いい男の見極めもまだまだかしら」
「別にそんな技を会得するために参加しているわけじゃないわ!」

 なんだか目的が変わってきている気がする。自分を見直すんじゃなかっただろうか。

「でも、なるほど、イーゼンブルグ卿ね」

 叔母さまは何やら楽しそうに笑いながら甘い紅茶を口にする。

「叔母さま、会ったことある?」
「いいえ、名前を知っているだけよ。でも、いいわね」
「何が?」
「動き出したって感じだわ」
「――?」

 叔母さまはそう言いながら、楽しそうに笑った。
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