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私の可愛いあなた
しおりを挟むその言葉にぎゅうっと胸が切なくなった。きっと私も顔が赤いのだろう。
でもそれでも構わない。
「す、好きじゃないなんて言って、ごめんなさい」
ルーカス様の身体がびくりと揺れた。
酷いことを、言ってしまった。
そうまで言わないと、優しいこの人が私から離れることはないと思ったから。
「私も、私も大好きですルーカス様。あなたが大好き」
両掌でルーカス様の顔を包んで、そっと触れる口付けを贈る。びくっとルーカス様の身体が大きく揺れるのも構わず、そのままその熱い唇に唇を重ねた。
やがて、空に浮いたまま固まっていたルーカス様の手が私の腰に、後頭部に回され、ぎゅうっと身体同士が隙間なくくっついた。
後頭部に回され髪の間に差し込まれた大きな掌が、私の髪をぎゅっと掴む。ルーカス様の首に腕を回して、必死にしがみ付いていると、大きく口を開けたルーカス様に激しく唇を吸われやわやわと食まれた。
苦しくて空気を求め口を開くとぬるりと分厚い舌が口内に差し込まれる。
驚いて身体を固くすると、私の舌に舌を擦り合わせちゅうっと扱くように吸い上げる。舌先同士を激しく擦り合わせていると、だんだんと身体が熱くなり息が上がる。
いつの間にか私の頭を支えていた手がするりと首に降りて、ホルター部分のホックをぷちりと外した。
「!? ま、まって、るーか、す」
「……ダフネ」
首元が緩み楽になって初めて、上衣がするりと脱げたのが分かった。
慌てて身体を離し胸を押し返そうとしても、大きな身体はビクともしない。見上げると先ほどまでとは違う赤い顔のルーカス様が、指先を咥えするりと手袋を取るところだった。
(やだ、なんだか……)
先ほどまでまるで大型犬のような風情だったルーカス様が、急に大人の色気を放っている気がする。
真っ赤になって瞳を潤ませていたかわいいルーカス様はどこに行ったの。
「このドレスは、俺がエスコートをする時に着て欲しいと頼んだはずだ」
手袋を脱いだ指が、私のホルターネックをするりと外すとチューブトップだけの姿になる。慌ててはらりと落ちてしまったドレスを胸の前に搔き集めると、ルーカス様が指の背でむき出しの腕をそっと撫でた。その刺激に身体が過剰に反応し肩が跳ねる。
「ノアと仕立てたって?」
ルーカス様の低い声が吹き込まれ、ゾクゾクと身体が痺れる。
「ごめんなさ……っ、んあっ」
「君にドレスを贈れるのは俺だけだ」
羽でくすぐるようにルーカス様の指が腕から首筋、耳朶を辿る。なんとか抵抗を試みようと、ぐいっとルーカス様の胸を押すけれど、やっぱり全く微動だにしない。
「でっ、でもあの、ララ様の着てたドレスだって、ルーカス様の色だったわ! だ、だから私」
「あんなのは俺の色ではない。全く違うだろう」
「えっ」
「あんなおかしな色ではない」
(えっとごめんなさい、そんなにこだわりが……?)
ちゅっと音を立てて耳に口付けをされ、思考が中断される。身体は意思とは関係なく過剰に反応してしまう。
「せっかくチュールでこの美しい背中を隠しても、男たちの視線は君にばかり向いていた」
「んっ、あっ」
「君は、君自身がどれだけ美しいか……人の注目を集めているのか、分かっていない」
背骨を辿り項へとゆっくり指が上ってくるその刺激に、思わず声が漏れ背中がしなった。
倒れそうになる私の身体を支え、マントで隠すように私に覆いかぶさるルーカス様。
その顔は、これまで出席した晩餐会や舞踏会では見たことのない、ギラギラとした強い眼差し。
「る、るーかす、さま」
「君の、この美しい背中に印を付けてもいいだろうか」
「し、しるし?」
「視線を向ける男たちに君の相手が誰なのか知らしめる必要がある」
「な、なにを……」
「……口付けを受けた?」
「うっ、受けていません! あれは頬だもの!」
「たとえどこであろうと許せない」
大きく口を開いたルーカス様に口を塞がれ、すぐに口内に舌を差し込まれた。
分厚い舌に舌を扱かれ、口内を弄られる。それは初めてのことなのに、食べられているみたいで気持ちがいい。
大きな熱い掌がむき出しになった背中を撫で、その刺激に身体の中心がゾクゾクと震える。
「ぁ、あ、るーかす、さま、まって」
人が来てしまったらどうしよう。
ふとそんな考えが頭を過り、慌ててルーカス様の胸を叩いた。
「無理だ」
「ぁ、あっ、だめですまって、誰か人が……」
その時ふと、視界の隅に黒い人影が見えた。すっかり暗くなった周囲に溶け込むように、黒い人影が動いている。
「ルーカス様、まって……」
「嫌だ」
やはり人がいる。姿勢を低くして、生垣に身を潜めている。けれど、こちらを見ているわけではないみたい。
「もうっ! ルーカス、さまっ」
「!?」
身体を捩り、私の首筋に唇を這わせていたルーカス様の口に両手を当てた。
「……っむ、むぐっ」
「しぃっ! ルーカス様、こっちに!」
驚いたルーカス様の腕を引っ張り、姿勢を低くしたまま私たちも生垣に身を隠す。
「だ、ダフネ?」
「しっ! 誰かいるわ」
「何?」
すっかり暗くなった庭で、私たちは近くにある灯篭の明かりを頼りに互いを見ていた。そこから離れた生垣に、黒い人影が見える。
「……あれは何をしているんだ?」
低い声でルーカス様がその人影をじっと見つめる。
「私たちを見ているのではないみたいです」
「誰かを追っているのか?」
「行ってみましょう」
「ダフネ!」
ルーカス様の袖を引っ張って立たせ、腰を低くして音を立てないように黒い人影を追う。
「ダフネ待ってくれ、せめてこれを」
慌てた様子で声を潜めたルーカス様にマントを着せられる。
「……ノア様だわ。それにもう一人は、エイヴェリー様」
姿勢を低くしながら何かを追っているような人影が窺う先に目を凝らすと、ゆったりと歩きながら二人の人影が姿を現した。
薄暗い場所でも分かる、美しいお二人。黒い人影は二人に見つからないようそっと後を追っているようだった。
あの二人の後を追って何をしようというのだろう。折角話す機会を得た二人の邪魔をするつもりなのかしら。
「……あの身なりでは招待客ではないな。ダフネ、君はもう戻れ。ここから先は俺が」
「駄目です、ノア様は大事なお友達だもの。あの人が何をしようとしているのか突き止めなくちゃ」
「友達……」
「ルーカス様」
難しい顔をしているルーカス様の手を取り、ぎゅっと握りしめる。ルーカス様の顔が薄暗い場所でも分かりやすく赤くなった。
「ノア様は私の大事なお友達なんです。お願いです、手伝ってください」
「手伝うって何を」
「詳しくは言えません。でも、お願いです」
ノア様のために、詳しくは言えないけれど。でもきっとルーカス様なら。
そう思ってその瞳をじっと見つめた。
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