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第85話 原酒。

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「あれ、ゴドルフさん?」
酒屋の前でお酒を物色してるゴドルフさんらしき後ろ姿を見かけたので声を掛けた。

「おう、レイナちゃんか」
「お酒買うの」
「息子がCランクに成ったんだ。そのお祝いにな」
「そりゃおめでとう。あっ、お酒なら私がプレゼントしようか」
「・・・良いのか」
「ゴドルフさんの息子さんならサービスしちゃうよ。どんなお酒?」
「ちょっと変わった酒を飲ませてやろうと思ってな」

私はチョイチョイと、ゴドルフさんを手招きする。
「ちょっと冒険者ギルドの軽食で出したいから、ギルドへ行かない」
「おっおう、わかった」


「私が未だ出した事無いお酒が有るのだけど」
「どんな酒だ」
「マイス(お米)のお酒の原酒」
「原酒?」
「お酒ってだいたい飲みやすくするために水で薄めるのよ」
「そうなのか?」
「うん、きついからね」
「お米の原酒って、ワインやエールの倍以上有るからね」
「良くわかんねえな」
「ウヰスキーの半分位かな」
「ますますわかんねえ」
「これ飲んでみる」
私は桜水の原酒缶を出してゴドルフさんに渡した。

「そうそこに指をかけて、そうそうやってペリペリと」
フルオープンのプルタブアルミ缶だ。
1缶丸ごとだとちょっと多いから、半分私が貰うわ。
子供は今日は夫が見ているので、少し頂く事にした。
まあ100mlでも20°有る日本酒の原酒だから。
私は自分のコップに半分注いで貰った。

「こりゃ甘いが旨い酒だな」

「レイナさん持ち込みは困りますよ」
「いっ!」
「あちゃあ~見付かっちまった」
「ゴドルフさんも駄目ですよ」

昔のおっちゃんと違い、新しい食堂の管理人は融通が効かない。
渋々エール代を払おうとしたら。
「それ、私に一つ貰えません。それでチャラにしますから」
「ここに納品とか言わないよね」
「味を確かめて良ければ納品して欲しいですけどね。無理強いはしませんよ」
「これ日持ちしないんだよね」
「エールみたいな物ですか」
「エールよりはるかに酒精は強いよ。だけどこれも加熱処理してないから、エールと同じで日持ちしないの」
本当は缶のままならな日持ちするが、アルミ缶のまま売る訳にはいかない。

「・・・もしかしてこの缶が駄目なんですか」
「その通りなのよ。私のスキルだから」
「惜しいなあ。レイナさんのお酒は美味しいけど仕方有りませんね」
「あっ・・・」
「もしかして瓶詰めが有るとか・・・」
「聡いですね。そうですそれが有りました。それでも開けたらなるべく早く飲んで下さい。麹菌が生きてますから変質するので」

期間限定で1ヶ月出す事にした。
ゴドルフさんには二瓶あげたよ。


ちょっとしてギルドに来たら昼間っからぐでんぐでんな輩がいるではないか。
どうした事かと聞いたら。
「レイナさんあの酒ヤバいですね」
「・・・もしかしてガブ飲みしてません?。あれは酒精が強いのに甘いから、ガブ飲みしたら逝きますよ」
「最近は注意をしてるんですが、どうしてもついつい飲みすぎて・・・、特に女性にはヤバいです」
「あ~甘いからね」

「この前私が懸想してる女(ひと)が酔い潰れちゃって、仮眠室で寝て貰ってたんですけど、それ以来話し掛けて貰えなくて、私の恋はジエンドです」
「手を出しました?」
「んな訳無いでしょうが」
「あはは、冗談冗談」
「ったくもう」
「早めに終了しましょうか」
「そうですね。本当に危険なお酒ですから」

翌日には桜水(原酒生)終了しましたの張り紙が出された。
美味しい酒にはトゲがあるわね。


その翌々日息子と散歩していたら、ギルドの前を行ったり来たりする女冒険者の人がいたので、どうかしましたかと聞いて見たら、慌てて去って行った。
?である。

次の日もいた。
その次の日も。
「あのう、何か有りましたら相談に乗りますよ」
この時期魔物によっては発情期でもあるので、討伐依頼は増えるから正直目障りなのだよ。
別の食堂で話をしましょうと手を引いて無理やり誘う事にした。
今日はデージーが弟を見てくれている。


「・・・はあ、そのバルモさんに嫌われたと」
「だって酔い潰れてイビキかいて大股開いて寝てたんですよ」
「大股ってズボンでしょう」
「それでもはしたないから・・・。私あの人に会いたくて冒険者に成ったんです。毎日薬草を摘んであの軽食堂であの人を見るのが楽しみだったのに」
「で、勧められてあのお酒で潰れたと」
「もう恥ずかしくて恥ずかしくて」
・・・これは恋の橋渡しをしろって事か。


「これは紅茶のお酒ですね。少し何かしらのハーブが入ってるのでしょうか・・・これは果物の桃の香り」
「凄いねバルモさん、良くわかるね」
「軽食堂と言っても夜は酒場ですからね。食事もがっつり食べる人もいますし。色々な味に精通していないと」
「でも今日のこのおひたしは少し塩辛い」
「えっ?」
「あっ私も思いました」
ミモザさん(原酒飲んで仮眠室で寝かせてられた人)バルモさん何故ちょっと塩辛いかわかります。
「「・・・」」

トン。
「このお酒は確かに紅茶のリキュールです。そしてハーブが何種類か使われています。尚且つバルモさんの言う通り白桃のエキスで香り付けされています。ミモザさんどうでしたか」
「甘くて紅茶の味に桃の香りが優しくてとても飲みやすいです」
「バルモさんは・・・」
「甘味はそうでも無いですが、確かに紅茶の味と香りそして幾種かのバーブのエキス、更に極めつけの桃のフレーバーが効いていますね」
「ミモザさんはバルモさんに会いたくてギルドの前をうろうろしてました」
「レイナさん!!」
「バルモさんはミモザさんに嫌われたと思い込んでいます」
「そっそれは・・・」

「スティルインラブ・・・私の知る有名な競走馬ですが、直訳すれば風化していく愛なのですよ。でも本当は未だ愛してるって意味も有ります。つまり未だ火は燃えているのですね・・・」
「素敵ですけど消え逝く愛なんですね」
「ミモザさん残念ですが愛は燃え盛っています」
「「?・・・」」
「男の人は甘味に少し鈍く成る事が有るんですよ」
「えっ」
「そっそうなんですか」
「ええ、恋をするとね」
「「・・・」」
「このおひたしは少し塩辛い。わかりますかバルモさん」
「あっ」
「ミモザさんわかりますね」
「バルモさんは誰かに恋してる・・・」
「大正解です。そしてそれはミモザさんにです。さあ、もう良いでしょう。あとはお二人でお話を、邪魔物は退散です。私はスティルインラブに蹴られて死ぬのは真っ平ですよ」


私が食堂を去る時に近くにいたお爺さんが、あの二人に淡く白い光を降らせていた。
「ふっふふ、心を癒す薬じゃよ。特に愛する二人には効き目抜群じゃ」
「ネクトゥル神様有り難う御座います」

「最もお前さんの紅茶酒、恋する乙女の為の酒には敵わんがのう。あれは養生酒の会社から出ている。わざとワシを呼び寄せたな」

「さて、何の事かしら」
「桜水の原酒3本じゃ」
「ハイハイ」


────────────────────

只今682位です。
投票有り難う御座います。
去年は2000位ぐらいだったので雲泥の差ですからね。
ちょっと面白い人の作品を読み過ぎて、活字を見ると気分が悪く成る症状に陥ってますが、頑張って書いて行きます。
しかし、まさか活字を見て気分が悪く成るとは思いもよらずびっくりしてます。


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