【完結】「お前たち! 今日もシンデレラを虐めるわよ!」「……今日も失敗したか、だが俺は諦めんぞ」

雪野原よる

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15.詐欺師、幽霊に悩まされる

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(……何であいつらは大丈夫なんだ?)

 額に脂汗を滲ませつつ、シェランは八つ当たり気味に考えた。

 それは、ドクは召喚者なのだから何の問題もないだろう。嬉しそうに屋敷を徘徊しては、手頃な幽霊を捕まえてサンプルにしているらしい。呑気な部下に見えて、思ったより危険な奴だった、それに尽きる。

 アンガスは本当に鈍感だ。幽霊につつかれても撫でられても気にしない。彼ならば堂々と幽霊椅子に座ったまま、気が付きもしないだろう。その鈍感さが、今は心底羨ましい。

 問題は、シンデレラだ。

(あの娘には、幽霊が見えてないのか?)

 家族4人で食卓を囲む穏やかな夕べ。ぐるぐると周りを飛び回ってはいろんなハンドサインを出してくる幽霊たちのせいで、シェランは始終顔がひくひくと引き攣るのをこらえていたのだが、シンデレラはいつもの通り静かなものだった。落ち着き払ってスープを飲み、こんがり焼いた雉肉を切り分け、たまに「お義母さま」に向かって控えめな笑顔を投げる。恐ろしいほどいつもと変わりないので、シェランは、霊が見えているのはひょっとして自分だけなのでは? という妄想に囚われかけた。

「お義母さま、どうかしたんですか?」
「どうもしないわ。ほ、本当よ、本当になんでもないんですからねッ」

 顔色が悪く見えていただろうか。

 こいつらに弱みを見せてなるものか、とシェランは気合いを入れた。

 「ボスとしての矜持」と言うべきか、それとも「美しき悪の男爵夫人としての矜持」か。謎のプライドにかけて、みっともない姿を晒すわけにはいかないのである(フラグ)

(流石に、部屋まで着いてくる幽霊はひと握りだな)

 自室に引き取ってから、シェランはようやく一息ついた。

 しかし、勿論、災難が去ったわけではなかった。

 むしろ、そこから始まったようなものだ。

 書棚に取り憑いて絶えずガタガタ言わせていた迷惑な幽霊が、ヒュウッと一陣の風を吹かせ、書物机の上にあった紙を数枚舞い上がらせる。そちらに気を取られた瞬間、バターン! と激しく音を立てて扉が開き、巻き上げられた紙が、ひったくられるように外に運ばれていった。

「うわ」

 暗い廊下の奥へ、落ち葉が舞うように書類が飛んでいくのが見える。シェランは呻いて、その後を追った。

(遊び足りない連中にも程がある。死んでからも血気盛ん過ぎるだろ)

 彼を嘲笑うように、「こっちにおいで」と紙をちらつかせているように思える。だとしたら、その先に待つのは間違いなく罠なわけだが……

 ガシャン、ガシャン

 床石にこだまする金属音。

(くそ、幽霊を召喚するなら、銀の弾丸程度は用意しておくべきだった)

 シェランはそれでも、奴らは人間の身に危害を加えたりしないと信じていたのだ。脅かすぐらいがせいぜいで、召喚者がドクである以上、大した力を持っているはずがないと。

 ドクが予想以上にポンコツだったのか、喚び出した霊の力が強すぎたのか。

 金属が擦れ合う耳障りな音を立てながら、よろめくようにこちらに向かって進んでくる巨大な飾り甲冑は、その手に長い、青白く光る不吉な剣を掴んでいた。
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