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これが下僕……?
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再びパーティを組んだりはしていない。これはもう、トラウマに関わる問題なので。
私は一人で十分です。
ただ、魔王を倒すために私が魔境へ向かう、その旅程で、護衛というか取り巻きというか、ちょっと便利に使ってやってもいい人材が四人いる、そう思えばいいよね? どうしても嫌になったら捨てていけばいいよね? と思っていたんだけど。
「東に一匹逸れたぞ! 残らず討ち取れ!」
「了解!」
息の合った動きで、目の前の魔物をばっさばっさと討ち取っていく二人。赤太郎(成長版)と青次郎(成長版)だ。
(なんだ、私がいなくても仲直りしたんだ)
以前、あれだけ苦労させられたのにと思うと、なんだか微妙な気分になってしまう。私が遠い目になっていると、
「リルカ殿、お怪我はありませんか」
赤太郎が凄いスピードで走ってきて、私の前に勢いよく跪いた。その勢いはともかく……その姿勢だけを見れば、騎士のお手本のような姿だ。美しい聖銀の鎧は、どんな過酷な戦いに晒されてきたのかボコボコと凹みができ、擦れ切って輝きを失っているし、赤いマントは裾が破れてボロ布のようになっているけれど。
引き締まった顔に眼光は鋭く、真剣に私の身を案じてくれているように見える。
……いや、おかしいよね。
何を言っているのかなこの赤太郎は?
「怪我どころか……私一人で十分戦えるんだけど?」
「我々がきっちり露払い致します。リルカ殿はゆったりと構えていて下されば」
「う、うーん……本当に君、赤太郎なの?」
「赤太郎?」
(あ、赤太郎じゃなかったんだっけ、こいつの名前)
こいつ……そう、以前の彼は「こいつ」と呼びたくなるような小物臭があった。キャンキャン吠える犬っぽいというか。青次郎と喧嘩していても、脳筋が滲み出るようなことしか言ってなかったし。
こんなにまっとうな騎士じゃなかった(断言)
「赤太郎、ですか……そのような愛称を付けていて下さったのですね、有難うございます」
キラキラッと笑顔が煌めいた。
……誰だこれ。
「いやいや、そこで喜ばないで! ……それで、名前は何だったっけ」
「ナイジェルです」
「騎士っぽいね」
「有難うございます」
適当なことを言われて、それで喜ぶ辺りが別人すぎる。
いや、社交辞令として喜ぶ振りをしているのかもしれないけど。以前の彼は社交辞令すら言えるような性格じゃなかった、それは確かだ。
外見上はかなり窶れて、ボロボロになっているけれど、それは「精悍になった」と言い替えてもいいのかもしれない。この一年間で、予想外に正統派の進化を遂げてしまったみたいだ。
「……リルカ様。ご歓談の妨げをして申し訳ありませんが、本日の宿が用意できております」
低い声が割って入ってきた。
何気なく顔を上げて、私はぎょっとした。
暗い表情。暗い眼差し。
赤太郎……じゃなかった、ナイジェルや処刑王子と異なり、青次郎は見た目は端正なまま、どこも損なわれていない。貴族らしい白い肌、微妙にカサついている気はするけど櫛通りの良さそうな髪。身に纏う魔術師のローブは強化されていて、以前は無かった階位章や紋章が留め付けられていた。
それなのに、
(く、暗い)
にこりともせず、躊躇なく私の前に膝をつく。そして手を差し出した。
「宜しければ。この卑しい下僕めに、ご案内の栄誉をば」
「あ、青次郎……?!」
「はっ」
面と向かって「青次郎」と呼ばれても、迷うことなく頭を垂れる。
……以前のプライドの高い青次郎だったら、絶対に許さなかっただろう。だから私も、一度もはっきりとそう呼んだことはなかったのに。
「おい、セラン。俺がリルカ殿をご案内する」
「下がれ、ナイジェル。お前は下僕としての意識が足りん」
短いやり取りが交わされる。
そこから喧嘩に発展する様子はないけれど、顔を背け合い、冷たく、堅苦しい空気を漂わせる様子には、(あれ、結局この二人、仲直りしてないんだ)と実感させるような何かがあった。
だったらこの二人、なんで共闘してるの?
ひょっとして、私の下僕(私は許可してないけど)だから?
私は一人で十分です。
ただ、魔王を倒すために私が魔境へ向かう、その旅程で、護衛というか取り巻きというか、ちょっと便利に使ってやってもいい人材が四人いる、そう思えばいいよね? どうしても嫌になったら捨てていけばいいよね? と思っていたんだけど。
「東に一匹逸れたぞ! 残らず討ち取れ!」
「了解!」
息の合った動きで、目の前の魔物をばっさばっさと討ち取っていく二人。赤太郎(成長版)と青次郎(成長版)だ。
(なんだ、私がいなくても仲直りしたんだ)
以前、あれだけ苦労させられたのにと思うと、なんだか微妙な気分になってしまう。私が遠い目になっていると、
「リルカ殿、お怪我はありませんか」
赤太郎が凄いスピードで走ってきて、私の前に勢いよく跪いた。その勢いはともかく……その姿勢だけを見れば、騎士のお手本のような姿だ。美しい聖銀の鎧は、どんな過酷な戦いに晒されてきたのかボコボコと凹みができ、擦れ切って輝きを失っているし、赤いマントは裾が破れてボロ布のようになっているけれど。
引き締まった顔に眼光は鋭く、真剣に私の身を案じてくれているように見える。
……いや、おかしいよね。
何を言っているのかなこの赤太郎は?
「怪我どころか……私一人で十分戦えるんだけど?」
「我々がきっちり露払い致します。リルカ殿はゆったりと構えていて下されば」
「う、うーん……本当に君、赤太郎なの?」
「赤太郎?」
(あ、赤太郎じゃなかったんだっけ、こいつの名前)
こいつ……そう、以前の彼は「こいつ」と呼びたくなるような小物臭があった。キャンキャン吠える犬っぽいというか。青次郎と喧嘩していても、脳筋が滲み出るようなことしか言ってなかったし。
こんなにまっとうな騎士じゃなかった(断言)
「赤太郎、ですか……そのような愛称を付けていて下さったのですね、有難うございます」
キラキラッと笑顔が煌めいた。
……誰だこれ。
「いやいや、そこで喜ばないで! ……それで、名前は何だったっけ」
「ナイジェルです」
「騎士っぽいね」
「有難うございます」
適当なことを言われて、それで喜ぶ辺りが別人すぎる。
いや、社交辞令として喜ぶ振りをしているのかもしれないけど。以前の彼は社交辞令すら言えるような性格じゃなかった、それは確かだ。
外見上はかなり窶れて、ボロボロになっているけれど、それは「精悍になった」と言い替えてもいいのかもしれない。この一年間で、予想外に正統派の進化を遂げてしまったみたいだ。
「……リルカ様。ご歓談の妨げをして申し訳ありませんが、本日の宿が用意できております」
低い声が割って入ってきた。
何気なく顔を上げて、私はぎょっとした。
暗い表情。暗い眼差し。
赤太郎……じゃなかった、ナイジェルや処刑王子と異なり、青次郎は見た目は端正なまま、どこも損なわれていない。貴族らしい白い肌、微妙にカサついている気はするけど櫛通りの良さそうな髪。身に纏う魔術師のローブは強化されていて、以前は無かった階位章や紋章が留め付けられていた。
それなのに、
(く、暗い)
にこりともせず、躊躇なく私の前に膝をつく。そして手を差し出した。
「宜しければ。この卑しい下僕めに、ご案内の栄誉をば」
「あ、青次郎……?!」
「はっ」
面と向かって「青次郎」と呼ばれても、迷うことなく頭を垂れる。
……以前のプライドの高い青次郎だったら、絶対に許さなかっただろう。だから私も、一度もはっきりとそう呼んだことはなかったのに。
「おい、セラン。俺がリルカ殿をご案内する」
「下がれ、ナイジェル。お前は下僕としての意識が足りん」
短いやり取りが交わされる。
そこから喧嘩に発展する様子はないけれど、顔を背け合い、冷たく、堅苦しい空気を漂わせる様子には、(あれ、結局この二人、仲直りしてないんだ)と実感させるような何かがあった。
だったらこの二人、なんで共闘してるの?
ひょっとして、私の下僕(私は許可してないけど)だから?
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