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……まとめて全員捨てたよね?

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 そして、平和に、静かに過ぎ去った一年後。

 私は家の戸口の前で、ずらりと土下座している男どもと向かい合っていた。

(……女神様! こいつらとは一生関わらなくていいって言ったじゃん!)

 内心で怒りを煮え滾らせる私。額を地面に擦りつけたまま、じっと動かない連中。

 カオスです。

「……ええと。とりあえず、何をしに来たのか、それだけは話を聞きます」

 私は氷点下に冷え切った声で言った。

 一番前で土下座していた男が、ゆっくりと顔を上げた。処刑王子だ(私は彼の名前を覚えていないので)。彼が先頭に陣取っているのは、かつてはパーティリーダーだったからだろう。彼自身にその責任を担うつもりがあったのかどうなのか、私には分からないんだけど。今は一応、こうして矢面に立つだけの意思はあるらしい。

「……」

 彼の顔を見て、私は眉をひそめた。

 顔付きが変わっている。痩せて、頬がこけて、元々彫りが深い顔立ちなので鼻ばかりが妙に高く際立って、鳥の嘴みたいになっていた。歳を取ったら鷲鼻になるタイプだ。それに日に灼けて、ところどころ傷が走り、荒れた革のように引き攣れている。

 美形度で言えば、60%減ぐらいかな。王子から傭兵にクラスチェンジしたといっても信じるレベルだ。私は元々彼の顔には惹かれていなかったので、どうでもいいんだけど。

 ちなみに王子は黒髪だ。手入れの行き届いたサラサラの髪のはずだったそれは、適当にナイフで短く断ち切った後にまた伸びてきた、みたいな乱れ具合になっていた。

「……変わりましたね」
「申し訳ない」

 一体、何のことを謝ったのか。

 思わず口から零れてしまった、みたいな謝り方だった。

 私はさらに顔を顰めた。

「……はあ。それで、話は」
「魔王が復活した」
「えっ?! 今後1000年は安全、って女神様が言ってませんでした?」
「その女神様が囚われたんだ。別の神界からの干渉があったらしいが、神々の次元で何が起きているのか、我々にはよく分からない。ただ、神官たちが観測した限りでは、女神様はどこかに囚われ、その力は魔王復活に使われたらしい」
「……そうですか、なるほど、分かりました」

 魔王を倒せる人間といったら、今のところ私しかいないわけだし。女神様の恩寵が消え失せて、本来は誰も近付けないはずのこの家が、誰でもやって来られる状態になっているとしたら。

 彼らがここに派遣されてきた理由も分かる。土下座でも何でもして、私を引っ張りだせ、って命令されて来たんだろう。

(それは逆効果だと思うんだけど……ああ、もう、仕方ないか)

 私は大きく嘆息して、なんとか気持ちを整理した。

「ちょっと待ってて下さい。出立の準備をするんで……いや、待たなくてもいいかな。私一人で適当に出発するんで、四人とも帰っていいですよ」

 ぱたぱたと家の中に駆け戻ろうとすると、

「いや! 待て、いや、待って下さい」

 王子が土下座したまま鋭く叫び、それからやや弱くなった声で付け加えた。

「護衛をします。魔王のところまで」
「護衛?」

(んんん?)

 鼻で笑ってもいいところだよね、これ?

 あの時、あんなに役立たずだったじゃないですか、今更何を言ってるんです? 頭が高くないですか? って言ってやるべき。全力の軽蔑を込めて。

 でも、私がそう言わなかったのは、私が本当にレベルが高くて、相手のレベルを薄々推し量ったりできるところまで達しているからで──

「……確かに、結構レベルが上がってるみたいですね」

 私が言うと、王子は張り詰めた空気を少し緩ませて、ほっと息を吐いた。

「あ、ああ。……立ち上がってもいいか? いや、いいですか」
「誰も、一斉に土下座して下さいなんて言ってませんよ」

 私が冷たい声で言うと、王子に加えて他の三人も、躊躇いながら立ち上がった。

 王子が身振りで帯剣を示しながら、

「俺自身、努力はしたが、それだけでは貴方が安心できないかと思って……凍竜の骨から削り出した剣だ。他にも伝説級の武器や道具を……」
「ちょっと黙ってて下さい」
「はい」
「……」

 おとなしく口を閉ざした王子様たちを見回す。あれから──私が女神様に文句を言い立てて姿を消してから、彼らに何があったのか分からないけど、全員中堅~上級クラスまではレベルが上がって、戦闘経験も重ねているようだ。

(反省した、ってことなのかな……)

 予想外すぎる。

 後悔したり、反省したりするほどの心の繋がりすら無かった。だから反省して欲しいとは思ってなかった、ただ関わり合いになりたくなかっただけなんだけど。

 まあ、これなら護衛として役に立たないこともないかな、と私は判断したのだった。
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