【短編】侯爵様はわたしの骨だけを見ている

四片霞彩

文字の大きさ
6 / 9
骨好き侯爵様の秘密

6

しおりを挟む
 ホセから侯爵様の部屋を教えてもらうと、わたしは扉を叩いた。

「誰だ?」
「わたしです。ルイーザです。お食事をお持ちしました。中に入れていただけませんか?」
「何も食べる気がしないんだ。悪いが、帰ってくれないか」
「せっかくなので、侯爵様が集めていらしている骨について教えていただきたいんです。わたし、骨に興味がありましてーー」

 すると、部屋の扉が少しだけ開くと、ピーコックグリーンの明るい緑色の隻眼の下に隈を作った侯爵様が顔を出したのだった。

「骨に興味があると言ったか?」
「はい。なかなか見る機会がないので、侯爵様が食事を召し上がっている間だけでも、大切にされている骨を見てみたいと思いまして……」

 わたしが抱えるお盆の上には、侯爵様が手軽に食べられるように、野菜や肉などを挟んだ小さく切ったパンを並べた皿と、熱々のスープを入れたスープ皿が乗っていた。
 それを見た侯爵様は喉を鳴らすと、部屋の中に通してくれたのだった。

「別にわざわざ部屋に持って来なくても、腹が減ったら食べるというに……」
「みんな侯爵様が心配なんです。私が来てから何も召し上がっていないんですよね」

 盆を受け取った侯爵様は、窓辺に置いていた椅子に座ると、すぐにパンに齧り付く。
 食べないとは言っても、空腹だったらしい。
 その間に、わたしは侯爵様が部屋に飾っている動物の骨を眺めていたのだった。

「これは……兎の骨ですか? こっちは犬?」
「そうだ。動物以外にも、魚類もあるぞ」
「すごいです!」
「別室にはもっとたくさん飾っている。猫も、馬も、狼も、鳥も、鯨も、海豚もな」
「まるで都市部にあるという博物館みたいですね」
「君は博物館に行ったことがあるのか?」
「わたしはありませんが、姉が……リーザが行った事があるそうです」

 友人が多いリーザはよく都市部にも出掛けており、博物館にも行ったことがあるという。
 リーザは「あんな場所、古臭くて、埃ぽくて、静かでつまらなかったわ」と話していたが、わたしはそういう歴史的な場所が好きなのでいつか行ってみたいと思っていたのだった。

「私も行ったことがないんだ。侯爵家を継いでからは一度も」
「じゃあ、いつかお出掛けに……」
「いや。私は行けない。人が多い場所は苦手なんだ」
「わたしも苦手です」

 そこで初めて、侯爵様はわたしをじっと見つめると、「君も?」と呟いたのだった。

「昔からどこに行っても、リーザと比較されていたので……。それで苦手になりました」

 双子の姉のリーザは、昔からわたしと違って、器量や性格も良く、友人がたくさんいる。
 貴族が主催するパーティーにも、よく誘われて出掛けていた。
 それに対して、わたしは取り立てて良いところは何もなく、友人も少ない。
 たまにパーティーに呼ばれても、「姉のついで」か、「姉の代わり」に誘われることが多かった。

「リーザが不在の時は、同じ顔なら妹でもいいって言われてしまって……」
「同じ顔でも、君とリーザは別の人間だろう。気にしなくていい」

 侯爵様は空になった盆を近くのサイドテーブルに置くと、「私も」と眼帯を押さえる。

「子供の頃から、何かと出来の良い兄と比較されてきた。だから、兄が死んだ時、安心したんだ。もう比較されなくていいと」
「侯爵様……」
「それに。私は目の前で火に包まれた兄を見捨てて逃げたんだ。あの戦争の時に」

 侯爵様はそっと目を伏せたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...