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はじめまして騎士団長
しおりを挟むどうしよう……どうしよう、どうしよう。
頼むと言っても王太子様にそんなこと言えるのだろうか。
あなたの子を身籠もりました。
なんて言ったら、王太子様はどんな反応をするだろう。
驚く?困惑する?喜ぶ?それとも……
王太子様はハルの匂いを気に入って側に置きたがっていた。でも、冗談まじりのあんな雑談を信じるほどハルだって馬鹿ではない。
現に王太子様はハルと番になっていないことに安心していたではないか。
それに王太子様には婚約の話もある。
相手は同じく王族で身分も高いし見た目も美しい。
それなのに、ハルみたいな親の顔も知らないような出自のオメガとの間に子供ができたなんてバレたら……
考えれば考えるほど気分が悪くなってくる。
剣闘演舞を見てられるような心持ちではないが、行かなければきっと「何故か?」と理由を問われるだろう。
うまく誤魔化せる自信もない。
ハルは覚束ない足を何とか動かし、会場へと入った。
招待状を見せると案内係は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに笑顔で席へと案内してくれる。
てっきり一般席かと思っていたら、貴族用のパーティションで区切ってある特別席へと案内された。
他の貴族の目には触れないが、それでもこんないい席はハルには身分不相応で緊張してしまう。
目の前の闘技場をぼんやり眺めていたら不意にハルのいるパーティションの扉が開いた。
入ってきたのは壮年の男性だ。
立ち居振る舞いからいって間違いなく貴族だろう。、
どうしよう……。やはり案内係は席を間違えたのでは?
不安になって立ち上がったところで男性はハルに向かって笑顔を向けてきた。
「ハル君だね?そのまま座ってていいよ。うちの息子の晴れ舞台だ。一緒に観覧しよう。」
男性はハルに向かって気さくにそう話かけると自己紹介をしてくれる。
ゼリウス•ヘンリクソン
中隊長様のお父様で、現騎士団長様だ。
「息子が世話になってるね。御前試合で優勝できたのも君のおかげだと聞いたよ。」
「いえ……中隊長様の実力です。僕はなにも。」
「ハハッ、いやいや君のおかげさ。いつものゼノウならイヴァンの前に立っただけでガチガチに緊張していたはずだ。それが御前試合の時だけやけに動きがよかったから気になっていたんだよ。
君がゼノウの本来の力を引き出してくれた。だから君のおかげだよ。」
なんだろう……。歳上ならではの包容力というのか中隊長様似のダンディな男性に褒められて、ハルは少し顔を赤くした。
穏やかなその声に警戒心が溶けて緊張も解れてくる。
「ハハッ、照れてる顔も可愛いな。凄くいい匂いがするし、息子がハマるのも分かるよ。」
「か、可愛いわけないです。オメガなのに体も大きいし、顔も平凡だし……。」
お世辞と分かっていても、顔に熱が溜まる。
きっとさっきよりも赤いだろう。
「おや?ハルくんは自分に自信がないのか。ハルくんの相手はあまり褒めてはくれないのかな?」
「相手なんて……僕にいるはずないです。
特殊オメガだからアルファを誘うようなフェロモンもでませんし。」
「ふーん。最近の若者は見る目がないね。」
ウインクしながら調子良くそんなことを言うので、ハルも釣られて少しだけ笑ってしまった。
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