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オリバーのお話 その三

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「宰相様!!いらっしゃいっす。」

席はカウンターの一番奥を開けてくれていたらしく、迷いなく通される。


「おーい。こっちに酒の追加頼む。」

「はーい。すぐ行きます。宰相様ちょっと待っててくださいね。今オムライス持ってくるんで。」

オリバーはもう腹ペコである。
今日は朝から一度も休憩を取ることなく、マッハで仕事を終わらせた。

待ってる間もぐーぐーとお腹が鳴りそうである。

「オムライスお待たせっす。お口に合うといいんすけど。」

それだけ言うと彼は、先ほどの酒の追加を頼んだ客の元へと行ってしまった。
酒を置く際、少しの雑談の後、客の一人が彼の尻を撫で回しているのが見えて、オリバーは不快感を覚える。

だが、彼は抵抗するでもなく、いつものヘラヘラ笑いでそのセクハラを甘受していた。


オリバーにはそれが理解できない。
オリバーは基本良いことも嫌なこともはっきりとモノを言う。
客に尻を撫でられるなど誰だって嫌だろうに、なぜ彼は甘んじているのか。


理解し難いイライラに苛まれながらも、オムライスにスプーンを埋める。
オリバーが好きなオーソドックスなオムライスだ。

美味い。
それもかなり。

空腹というスパイスも加わり、黙々と食べ進めると皿はすぐに空になった。


「おかわりもらえますか?」

忙しそうに動き回る彼の合間を見て声を掛ける。

「えっ?もう食べ終わったんすか!?
ちょっと待っててくださいね。マスターに頼んでくるっす。」


嬉しそうに笑うと彼は空いた皿を持って厨房へと引っ込む。
何分かして再びオムライスがオリバーの前に置かれた。

「いただきます。」


今度もまたオリバーは一人黙々とスプーンを口に運ぶ。だが・・・・


なんだろう。さっきより美味しくない。

空腹というスパイスを手放した程度の味の落差ではない。
単純に味が違う。

先ほどよりちょっとアレンジが入ってるのか、素朴さがどこかに行ってしまった気がする。


二つ目も何なく食べ終わったが、多分ここでおかわりしても出てくるのは二つ目のオムライスと同じ味だろう。

ここで帰ってもよかったが、さっきからこまめに注文して無駄に彼を席に呼びつけるテーブル席の客達が気になる。


どうにもガラが悪いし、席に彼が行く度に何度も尻を撫でるのだ。

さすがにそろそろ拒否しろ。と思うが、彼にその兆しはない。


客がオリバーとそのガラの悪い連中しかいなくなるまで酒とつまみで粘るとやっと奴らが席を立った。

会計する彼を見て、何ともなかったと思いホッとする。

だがそれも束の間、客の一人がお釣りを返す彼の手をそのまま掴み、ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべながら言った。

「兄ちゃん、一晩いくらだ?」


彼は、オリバーのほうをチラリとだけ確認し、聞こえてないのを確認するとだいぶ声を抑えて返す。

「いや、僕はそういうのはちょっとあれっすね・・・・」


オリバーは目線は手元のグラスに向けたままだったが、意識だけはばっちり彼らの会話に集中させていた。

「いいじゃねえか。ここにオメガがいるって触れ込みで俺たちここに来たんだぜ?
オメガ抱けるチャンスなんてそうそうねえからな。頼むぜ兄ちゃん。」

彼の尻に再び手を伸ばそうとした男の腕を
オリバーは捻り上げる。

突然近くに現れたオリバーに客も彼も大層驚いている様子だ。

「売娼強要はこの国では禁止されています。これ以上しつこくするなら警ら隊を呼びますが?」

「くそっ、いってーな。急に出てきてなんだ!?引っ込んでろ!!」

「そうですか。なら仕方ないですね。」

今にもオリバーに殴りかかろうとしている客たちを丸ごと連れて、警らの詰所へと飛ぶ。
夜間当直をしていた騎士たちは突然現れたオリバーと柄の悪そうな連中を交互に見て口をぽかんと開けていた。


「酒場で売娼強要してたので連れてきました。あと国のトップ2であるこの私に向かって殴りかかってきましたので、暴行罪も加えておいてください。」

「は、はいっ!!街の治安維持ご協力に感謝いたします。」


皆一斉に敬礼し、ガラの悪い連中を牢へと連れて行く。
騎士たちの態度と国のトップ2とわざわざ強調して言った言葉を受けて、連中は部の悪い人間に喧嘩を打ったと理解したらしい。
顔を青くして皆大人しく騎士について行った。


さて、まだお会計が済んでいないうえ、彼には一言物申しておきたい。

オリバーは再び酒場へと瞬間移動をした。
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