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探検家アイザックの場合。
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「や、おはよー。アホの子」
可愛らしい声が言った。奥の大きな机の上に行儀悪くも腰掛け、ぶらぶらと足を揺らしながらアイザックを見下ろしてニヤニヤと笑うのは、フードを目深に被った華奢な体躯の人物。
「誰がアホの子だ!」
ムッとしてアイザックが返すと、
「んー? 勿論、君のことさっ☆ああ、いや、アホじゃなかったかもしれないねぇ? ごめんごめん、間違えちゃった♪むしろ、馬鹿の方だったゼ☆」
「誰が馬鹿だっ!?」
「うんうん、だから君のことなんだってばっ☆馬鹿だから判らないんだねっ☆可哀想にねぇ♪」
「お前っ、おれを馬鹿にしてンのかっ!?」
「さっきからそう言ってるのにー。まだ判らないのかにゃー? さっすが、本物のおバカさんだねっ☆」
ニヤニヤと愉しげに、アイザックを扱き下ろす言葉を紡ぐ可愛らしい声の、
「さて、お遊びはこれくらいにして・・・アイザック・ウィルストン。六歳。商家勤めのロベルト・ウィルストンと専業主婦のクラリス・ウィルストンの息子。兄弟は無し」
嘲りが鳴りを潜め、キリッとした口調に変わる。すると、いつの間にかその白い手が紙を持っており、アイザックの家族構成が読み上げられる。
「歩けない乳児の頃から家を脱走して、地域の警邏隊に保護されること七十二回。管轄外の騎士や他地域の警邏隊に保護されること十三回。いやはや、君が彼の有名な、グラジオラス至上最悪のちみっ子探検家か~。乳児の頃からって、もうホント筋金入りだねぇ? 骨の髄からの、『外』に対する執心。病的というか・・・ま、外を徘徊するだけで、暴力や窃盗行為が無いのは幸い、かな? 一度見てみたいとは思ってたんだけどねー? まさか、城で犯罪者として捕まえてからお目にかかるとは思ってもみなかったね」
難しいことはよくわからなかったが『犯罪者』という言葉に、アイザックは硬直する。
「え?」
「聞こえなかったかにゃー? 君は現在、捕縛中の犯罪者! って扱いだよ。で、今から犯罪者! な君のご両親を城に引っ捕らえて、尋問しちゃうのさっ☆それはそれは、と~っても厳しい取り調べをね♪」
サッと青褪めるアイザック。
「…と、父さんと母さんは関係な」
関係ないと言おうとした言葉が、冷たく遮られる。
「関係あるよ? 大ありだね。君を育てたのは彼らだもん。君の両親が、君をこの城に潜入させたのかもしれないからね! 彼らはもしかしたら、余所の国のスパイなのかもしれないっ☆是非とも狙いを調べなきゃ! だ・か・ら、それはそれはとっても厳しく尋問されちゃうのさっ☆調べた上でなにも出なくても・・・城代権限で処刑!」
強い声と共にバッ! と、白い紙が部屋を舞った。
「っ!?!?」
城代権限での両親への処刑宣告に目を見開き、声も無くガクガクと震える傷だらけの子供。
「・・・アイザック・ウイルストン。君がやらかしたのは、そういう事態を起こし兼ねないことなのさ」
愉しげだった声がアイザックを静かに呼んだ。ニヤニヤしていた口許が、その笑みを消す。
「君は、ご両親の処刑を望むかい?」
アイザックは震えながら必死に首を横に振る。
「君が子供である以上、君の行動に拠る責任を取らされる存在がいる。それを忘れないことだね・・・ってことで、お説教はお仕舞いさっ☆いやー、慣れないことはするもんじゃないねぇ? あ、ちなみにボク個人的には君のこと好きだよ? ちみっ子は後先考えないおバカなこと仕出かす生き物だしー? だ・け・ど、一応これでもボクってば今は城を預かる身だからね。防衛の観点やその他諸事情から、色々と見過ごせないような馬鹿な行為には、それなりにお灸を据えなくちゃいけなくてねー。簡単に許すワケには行かないのさ。びっくりしたかにゃー? あ、でもでも、君のご両親を城に呼び出して取り調べるのは本当のことだからねー? 可哀想に、後ですっごく怒られるんだゼ?」
真面目な口調が崩れ、声に笑みが含まれ、口許がニヤニヤと笑う。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、ボクはこのお城の城代でなかなか偉かったりするのさっ☆道化って呼ばれてるから、道化さんでも道化サマでも道化ちゃんでも好きに呼んでくれたまえっ☆」
巫山戯たような態度に軽い口調。けれど、アイザックはもう、城代だと名乗るこの人物に口答えをしようとは思えなくなった。
ニヤニヤした軽い態度だからこそ、道化のことをとても恐ろしいと感じてしまった。おそらく、アイザックのことを試していたのだと思う。
もしもアイザックが、道化の眼鏡に適わなかったらどうなっていたか・・・考えたくない。
そして、両親への取り調べと徹底的な話し合いの結果、アイザックはなぜか家を出て、グラジオラス城砦預かりとなることが決定した。
__________
アイザックの両親は、道化のお目付け役の人に滅茶苦茶怒られました。そしてアイザックはその後、両親に滅茶苦茶怒られました。
ちなみに、道化もアイザックへの対応が甘いと、お目付け役の人に苦言を呈されました。
可愛らしい声が言った。奥の大きな机の上に行儀悪くも腰掛け、ぶらぶらと足を揺らしながらアイザックを見下ろしてニヤニヤと笑うのは、フードを目深に被った華奢な体躯の人物。
「誰がアホの子だ!」
ムッとしてアイザックが返すと、
「んー? 勿論、君のことさっ☆ああ、いや、アホじゃなかったかもしれないねぇ? ごめんごめん、間違えちゃった♪むしろ、馬鹿の方だったゼ☆」
「誰が馬鹿だっ!?」
「うんうん、だから君のことなんだってばっ☆馬鹿だから判らないんだねっ☆可哀想にねぇ♪」
「お前っ、おれを馬鹿にしてンのかっ!?」
「さっきからそう言ってるのにー。まだ判らないのかにゃー? さっすが、本物のおバカさんだねっ☆」
ニヤニヤと愉しげに、アイザックを扱き下ろす言葉を紡ぐ可愛らしい声の、
「さて、お遊びはこれくらいにして・・・アイザック・ウィルストン。六歳。商家勤めのロベルト・ウィルストンと専業主婦のクラリス・ウィルストンの息子。兄弟は無し」
嘲りが鳴りを潜め、キリッとした口調に変わる。すると、いつの間にかその白い手が紙を持っており、アイザックの家族構成が読み上げられる。
「歩けない乳児の頃から家を脱走して、地域の警邏隊に保護されること七十二回。管轄外の騎士や他地域の警邏隊に保護されること十三回。いやはや、君が彼の有名な、グラジオラス至上最悪のちみっ子探検家か~。乳児の頃からって、もうホント筋金入りだねぇ? 骨の髄からの、『外』に対する執心。病的というか・・・ま、外を徘徊するだけで、暴力や窃盗行為が無いのは幸い、かな? 一度見てみたいとは思ってたんだけどねー? まさか、城で犯罪者として捕まえてからお目にかかるとは思ってもみなかったね」
難しいことはよくわからなかったが『犯罪者』という言葉に、アイザックは硬直する。
「え?」
「聞こえなかったかにゃー? 君は現在、捕縛中の犯罪者! って扱いだよ。で、今から犯罪者! な君のご両親を城に引っ捕らえて、尋問しちゃうのさっ☆それはそれは、と~っても厳しい取り調べをね♪」
サッと青褪めるアイザック。
「…と、父さんと母さんは関係な」
関係ないと言おうとした言葉が、冷たく遮られる。
「関係あるよ? 大ありだね。君を育てたのは彼らだもん。君の両親が、君をこの城に潜入させたのかもしれないからね! 彼らはもしかしたら、余所の国のスパイなのかもしれないっ☆是非とも狙いを調べなきゃ! だ・か・ら、それはそれはとっても厳しく尋問されちゃうのさっ☆調べた上でなにも出なくても・・・城代権限で処刑!」
強い声と共にバッ! と、白い紙が部屋を舞った。
「っ!?!?」
城代権限での両親への処刑宣告に目を見開き、声も無くガクガクと震える傷だらけの子供。
「・・・アイザック・ウイルストン。君がやらかしたのは、そういう事態を起こし兼ねないことなのさ」
愉しげだった声がアイザックを静かに呼んだ。ニヤニヤしていた口許が、その笑みを消す。
「君は、ご両親の処刑を望むかい?」
アイザックは震えながら必死に首を横に振る。
「君が子供である以上、君の行動に拠る責任を取らされる存在がいる。それを忘れないことだね・・・ってことで、お説教はお仕舞いさっ☆いやー、慣れないことはするもんじゃないねぇ? あ、ちなみにボク個人的には君のこと好きだよ? ちみっ子は後先考えないおバカなこと仕出かす生き物だしー? だ・け・ど、一応これでもボクってば今は城を預かる身だからね。防衛の観点やその他諸事情から、色々と見過ごせないような馬鹿な行為には、それなりにお灸を据えなくちゃいけなくてねー。簡単に許すワケには行かないのさ。びっくりしたかにゃー? あ、でもでも、君のご両親を城に呼び出して取り調べるのは本当のことだからねー? 可哀想に、後ですっごく怒られるんだゼ?」
真面目な口調が崩れ、声に笑みが含まれ、口許がニヤニヤと笑う。
「あ、そうそう。言い忘れてたけど、ボクはこのお城の城代でなかなか偉かったりするのさっ☆道化って呼ばれてるから、道化さんでも道化サマでも道化ちゃんでも好きに呼んでくれたまえっ☆」
巫山戯たような態度に軽い口調。けれど、アイザックはもう、城代だと名乗るこの人物に口答えをしようとは思えなくなった。
ニヤニヤした軽い態度だからこそ、道化のことをとても恐ろしいと感じてしまった。おそらく、アイザックのことを試していたのだと思う。
もしもアイザックが、道化の眼鏡に適わなかったらどうなっていたか・・・考えたくない。
そして、両親への取り調べと徹底的な話し合いの結果、アイザックはなぜか家を出て、グラジオラス城砦預かりとなることが決定した。
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アイザックの両親は、道化のお目付け役の人に滅茶苦茶怒られました。そしてアイザックはその後、両親に滅茶苦茶怒られました。
ちなみに、道化もアイザックへの対応が甘いと、お目付け役の人に苦言を呈されました。
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