38 / 55
おーい、そこの娘っ子! そんな大層な殺気出してどうしたーっ?
しおりを挟む「ふぅ……いよいよとなったら……」
短い間だけど……最初は飼い主? から引き離して、ちょっと警戒されていたけど。一緒に旅をして過ごすうちに、段々と仲良くなった。野盗共を蹴散らし、手ずから食べ物を分け与え、夜はくっ付いて眠ったりもした。でも……
肉、食いてぇっ!! というワケで、我慢の限界が来たらいずれはこの軍馬君を食べるしかないだろう。生きとし生けるものは、食欲には敵わない。わたしのための尊い犠牲だ。仕方ない。
ただ、問題は……一人で馬の解体は難しい。手持ちの刃物も、馬を解体するには心許ないけど……う~ん、刃物に魔力を通して強化すればイケるかな? そして、最大の問題。数百キロもの肉を抱えて移動するのは、ちょっと骨が折れそうだと言ったところだろうか? まあ、骨や可食不可の部位を除けばある程度重量は減るだろうけどなぁ。
一応? 生肉は足が早いけど。まあ、浄化とか風系統の魔術の組み合わせで傷むのをうんと遅くすることができる。最悪、食中毒になっても自分に浄化と治癒を掛ければ大丈夫っしょ。
なんて思いながら、じっと軍馬君を見詰めていたら……
身の危険を察知したのか、ヒヒーン! と怯えたような嘶きを上げて、逃げやがった!
「ああっ!? ちょっ、待てっ!?」
逃げられたら肉が食べられなくなる! と、慌てて身体強化で馬を追い掛けていると・・・
ドドドドドっ!! と、背後からこちらへ駆けて来る馬の足音。こんなときに野盗か! と、軍馬君を追い掛けるか応戦するか、一瞬の逡巡。
とりあえず、相手の姿を確認と思ってチラリと後ろを振り向くと……
「うわっ、騎士っ!?」
こ、こっちの国の正規騎士だったりするっ? ど、どうしよ? えっと、敵対の意志は全く無いから……うん。軍馬君追い掛けよ! と、走り続けることにした。すると、
「おーい、そこの娘っ子! そんな大層な殺気出してどうしたーっ?」
低い嗄れ声がわたしに向けられた。
ん? 大層な殺気? わたし、そんなの出してた?
「あの馬になんぞ恨みでもあるのかー?」
仕方ない。あの騎士様、この国の正規軍の騎士かもしれないし。無視して、なんぞ言い掛かりでも付けられたら面倒なことになりそうだし。
軍馬君が走り去るのを断腸の思いで見詰め、ゆっくりと足を止めた。それに合わせ、背後からの馬の蹄の音もスピードが落ちてわたしの横で止まった。
「で、どうした娘っ子」
と、わたしを見下ろす騎士様は……思ったよりもおじいちゃんな騎士様だった!
「えっと、その……ここ数日、お肉が手に入らなくて……いよいよとなったら、馬を潰して肉を食べるしかないかと考えていたら、馬が逃げちゃいまして」
「……娘っ子。あの立派な軍馬を食う気だったのか? そんなに餓えてんのかよ。ほれ、これでも食ってちっとは腹の足しにしろ」
ガッシリしたおじいちゃん騎士が、ぽんと馬上からわたしに包みを放った。
「ハッ! 有難く頂きます!」
はしっとキャッチして、包みの甘い匂いに目を細める。中身は……パンのような、でもパンにしては硬い焼き菓子のような? わからないけど、でもこれ絶対美味しいやつだ!
ボリボリと、香ばしいお菓子? を貪る。なんだか、食べたことのあるような気配というか……? なんだろ? ん? 祝福……っぽい感じ?
「おお、そんな腹減ってたか。もっと食えと言いたいところだが、生憎とシスの野郎から強奪した非常食は残ってなくてな。いや、飴玉くらいはあったか……?」
ガサゴソとおじいちゃん騎士が懐を探り、更にぽんと小さな瓶をわたしへ放った。中には、きらきらと輝く透き通った飴玉が二個入っている。
「わーい、ありがとうございます騎士様!」
お菓子? を食い尽くし、瓶を開けて飴玉を一粒。そっと大事に口へ入れる。
「あぁ……角砂糖より美味しい♪」
「……娘っ子。馬にやる角砂糖を食う程に餓えていたのか。よし、お前にめし食わしてやる。俺に付いて来い」
「ふぇ? え? きひはま?」
カラコロと口の中で飴玉を転がし、
「騎士様? どうしてですか?」
もう一度ちゃんと言い直す。
「俺は……まあ、一応騎士に戻りはしたが、そう呼ばれるのはガラじゃねぇ。俺はトマスだ。トム爺とでも呼べ。それに、な。その……」
トムさんはそっと目を逸らし、ぼそりと言った。
「この辺りは、少し前に魔獣や野盗共を一掃してな。で、また変なのが寄り付かないようちょくちょく見回りに来てたんだ。だから、その……この辺りに獣がいないのはそのせいでな。悪いな、娘っ子」
「あ~……」
道理で。ここ数日野盗の類も見なかったワケか~。そっか……まあ、正規の国軍なら定期的に賊や魔獣の討伐をするのは当然。今回は、偶々わたしがこの道を通る少し前にそれが行われたということ。
「そういうことで、詫び代わりにめし食わせてやる」
126
あなたにおすすめの小説
『これも「ざまぁ」というのかな?』完結 - どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他
こうやさい
ファンタジー
短い話を投稿するのが推奨されないということで、既存のものに足して投稿することにしました。
タイトルの固定部分は『どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな・他』となります。
タイトルやあらすじのみ更新されている場合がありますが、本文は近いうちに予約投稿されるはずです。
逆にタイトルの変更等が遅れる場合もあります。
こちらは現状
・追放要素っぽいものは一応あり
・当人は満喫している
類いのシロモノを主に足していくつもりの短編集ですが次があるかは謎です。
各話タイトル横の[]内は投稿時に共通でない本来はタグに入れるのものや簡単な補足となります。主観ですし、必ず付けるとは限りません。些細な事に付いているかと思えば大きなことを付け忘れたりもします。どちらかといえば注意するため要素です。期待していると肩透かしを食う可能性が高いです。
あらすじやもう少し細かい注意書き等は公開30分後から『ぐだぐだ。(他称)』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/878859379)で投稿されている可能性があります。よろしければどうぞ。
URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/750518948
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。
断罪イベントの夢を見たから、逆ざまあしてみた
七地潮
ファンタジー
学園のパーティーで、断罪されている夢を見たので、登場人物になりきって【ざまぁ】してみた、よくあるお話。
真剣に考えたら負けです。
ノリと勢いで読んでください。
独自の世界観で、ゆるふわもなにもない設定です。
なろう様でもアップしています。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる