ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?

月白ヤトヒコ

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ヴァンパイア編。

31.・・・アル、遊ぶ?

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 驚愕の沈黙から、

「・・・アルちゃん?」

 ようやく声を出したのはジン。

「ああ、気にしないでください。コイツ、かなりどアホなんで」
「? 間違って、ない。・・・アルと、結婚…すれば、そうなる。婚約中? だし…」

 こんのアホはっ、余計なことを・・・

「「「は?」」」

「アル。おれと、結婚…しよ?」
「断る!」
「・・・残念」

 大して残念でもなさそうだがな?まあ、兄さんみたいに、恐怖を感じる程の執着心を感じないのが、コイツのいいところなんだけどね。

「いや、待て! お前らさっき姉弟だって言ったよなっ? 義姉弟かっ?」

 そう思うよな…普通なら。

「? アルと、おれは…義理の、姉弟?」
「いや、なんでお前が疑問系なんだよ…」

 血で判るだろうに。

「…可能性の、問題? 父が…嘘。いた、とか?」

 ンなワケあるか。

「・・・一応、腹違いではありますが、実弟ですよ」
「おお…」
「だから、なんでお前が驚くっ! お前が驚くことに、オレは驚きだよ」
「?」
「は? 実、弟?」

 シーフを見下ろす飴色の瞳。

「ええ。腹違いの実弟で、婚約者候補の一人ですね」

 忌々しいことに。

「…ん。結婚、する?」
「しねぇよ。誰が弟と結婚するか」
「…残念」
「え~と、アルちゃん? いいの? それってさ・・・」

 倫理的に、という質問だろうか? ヴァンパイアにそんなことを求められてもな?

「…そう、驚くようなことでも…ない。ヴァンパイア同士では、よくある…こと。おれも、アルも…ハーフだけど。人間も、よくある。近親相姦。特に…古代ローマや、エジプト…なんかの、王族では、普通。むしろ、どろどろ? 同母間の…兄弟姉妹なら、アウトでも…腹違いの、兄弟姉妹なら…結婚を、認めていた国や時代も…割とある。純血主義…を主張する連中は、大体そう。実の親子間での結婚も…少なくは、ない。アルが…ヴァンパイアとしては、かなり…特異まとも? な感性、してるだけ。おれの他の婚約者も…ほぼ身内」

 淡々と喋る眠たげなテノール。つか、コイツがこんなに喋ってるの、久々に聞いたし。

「「「・・・」」」

 ただれたヴァンパイアの実態に、なんとも言えない沈黙だな。だから嫌なんだよ。

「アル、好き。…結婚、する?」

 しかも、また…空気読まないし。いや、元々読めなかったか・・・コイツは。

「だから、しねぇっつってンだろ。このボケ。ヒトの話聞けっての。愚弟が」
「ぐてー…?」
「アホな弟って意味だよ」
「?」
「・・・あ~…とりあえず、シーフだったか? アルを連れ戻しに来たワケじゃねぇンだな? お前は」

 困ったように頭を掻いてビューが訊く。

「ん。…そんなつもり、無い」

 ぼんやりと眠たげなエメラルドがヒューを認め、その腰の辺りにじっと視線が固定された。

「な、なんだ?」

 どうやら気付いたらしい。ヒューの得物に。

「ASブランド・・・カトラス…」
「あ、ああ。判るのか?」
「ん。・・・」

 じぃーっとヒューの剣を見詰めるシーフ。じぃ~っと、無言で。あの視線、なかなか圧力あるからなぁ。目は口程にものを言うってやつ?

「・・・み、見たい…のか?」
「ん」

 コクンと頷き、蜜色の手が差し出された。が、バシンとその手の平を叩き落とす。

「あ、無視して構わないので」

 ヒューへ言い、余計なことをするなと睨む。が、意図が伝わらなかったのか、またもや差し出される蜜色の手。

「・・・」

 無言でまた叩き落とそうとした瞬間、

「!」

 パッとオレの手を掴もうとした手を避ける。

「・・・惜しい…」

 ぼそりと一言。そして、じりじりと近寄るシーフ。

「惜しくない。そして、寄るな」

 じりじりと後退あとずさりながら返す。

「・・・や」
「だから、可愛くねぇンだよお前は!」
「・・・追いかけっこ…の、続き。する?」

 首を傾げながら、パッと動き出すシーフ。

「しねぇよアホ! つか、近寄ンな!」

 コイツ、喋り方はとろいクセに、動きはなかなか素早いんだよな?微妙にペースを狂わされる。

「アルが、逃げる…から?」
「お前が寄るからだろっ!」

※※※※※※※※※※※※※※※

 いきなり始まった追いかけっこを、呆気にとられて眺める。というか、さっきからあのシーフって奴の発言が爆弾過ぎていて、理解が追い付かない。

 とはいえ、今朝よりもアルが元気そうなのは、よかったとは思う。少々疲れてもいそうだが…

 このあいだの件で、アルとは非常に気不味い。
 アル本人に、自分の落度だと言わせたことが悔しい。謝らせてもくれなかった。

 あれからアルは、ずっと調子が悪そうだったのも気になっていた。だが、なにをすればいいのかがわからなくて・・・またなにかやらかしてしまったら…そう思うと、声をかけることさえ躊躇ためらってしまう。

 そんなときだ。アルがシーフを連れて来た。アルを連れ戻そうとやって来た奴なのかと構えていたんだが・・・どうやら違うようだ。しかし、このアルの弟だというシーフはマイペースというか、かなり独特な奴で…どう対処すればいいのか少々困るな。

 それにしても、雪路とは親しげに喋るとは思っていたが・・・弟相手だと、もろに男みたいな喋り方なんだな。アルは…

 ぼんやりとアルとシーフの追いかけっこを見ていたら、いきなりドン!と、シーフが吹っ飛んだ。

「お、おい、大丈夫かっ、シーフっ!?」
「・・・痛い…」

 むくりと身を起こしたシーフの、眠たげな声が平坦に言った。痛そうには聞こえないが…

「ハッ…寝てろ」

 冷たくシーフを見下ろす翡翠。

「おい、アル! やり過ぎだ!」
「大丈夫です。ソイツ、無駄に頑丈ですから」
「え~と、シーフ君、大丈夫?」
「…ん。そんなに、痛く…ない。・・・アル、遊ぶ?」
「チッ…またコイツは、厄介な・・・」

 アルの舌打ちと低い呟き。しかし、その口元には笑みが浮かぶ。上品な顔には似合わない獰猛な笑みが。

「いいぜ? 久々に遊んでやる。来いよ、シーフ」
「ん・・・行く…」

 そしてなぜか、追いかけっこが本格的な格闘の様相へと変わってしまった。

「え~と、ヒュー? 止めた方がいい…かな?」

 困った顔でジンが言う。いや、わかりはするが、俺も困っているからな?

「…どう、なんだ・・・?」

 迷いつつ見ていると、雪路とのじゃれ合いは、アルが遠慮していたのだと、よく判った。
 シーフへの遠慮も呵責かしゃくも無い攻撃。首や腹、顔面などの急所への蹴りが続いている。しかも、シーフは割と蹴りを食らって・・・また吹っ飛ばされている。

「大丈夫なの? あれ…」

 カイルが心配そうに言い、

「痛い、とは言ってるけど…」

 ジンが返す。まあ、わかる。なんというか、シーフがあまり痛がっているようには見えないのだ。

 そうこうしているうち、攻撃を食らって倒れて動かなくなったシーフの腹にドカっ! とアルが座った。

「ぅわ・・・」

 カイルがドン引きしている。俺も、さすがにそれはどうかと思う。

「え~と、アルちゃん?」

 声をかけたのはジン。やるな…

「はい?」

 普通に返すアルを、初めて怖いと思った。

「その・・・シーフ君は…」
「ああ、大丈夫ですよ。コイツ、頑丈ですから」
「いや、一応怪我とか」
「…ん。平気。アルの攻撃…軽い? から。そんなに…痛く、ない…」
「・・・」

 シーフの言葉に、アルの顔がヒクリと引きつる。あれは…怒った顔だな。

「…楽しかった…」

 と、腹に乗っかっているアルをものともせず、ひょいと軽く身を起こしたシーフが、バランスを崩したアルを抱き締めた。

「わ、なっ、シーフっ!」
「ん…捕まえた…」

 薄く微笑んだ唇が、アルの白い頬へと口付ける。

「…好き。アル…」
「やめろ。そして放せっ、暑苦しいっ!」
「? …体温は、アルより…低め。熱くない、筈…」
「そういうことじゃねぇからっ!」

 それには同意する。そして思わず、いちゃつくなら余所よそでやれと言いかけ・・・

「…アル。どのくらい、寝て…ない?」

「「!」」

 微かな音量で囁くテノールに、ジンの顔色が変わった。多分、俺も一緒だろう。

「・・・」

 苦々しいといったアルの表情に、シーフが続けた。

「そのくらい、判る…」
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