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忙しく過ごす合間に小鳥さん達に唄をねだって、
「おじょーさまは仕方ないな」
「なんのうたがいいですか?」
と、可愛く応じるわたくしの小鳥さん達。
そうやって一緒に過ごして行くうち、小鳥さん達の言動は段々と洗練され、ちゃんとした侍女としての振る舞いも身に付いて行きました。
「お嬢さまは、無理し過ぎだと思います」
「うん。もっと、身体を大事にしてほしい、です」
少し頭痛がするだけで、こんなにも心配してくれる程に仲良くなりました。
「ふふっ、頭痛薬を飲んだからもう大丈夫よ。暫くすれば治まるわ。大袈裟ね」
「顔色がよくないのに」
「寝不足はよくないです」
「心配性なんだから」
口ではこう言いますが、実は心配してくれることをとても嬉しく思います。
打算も無く、素直にわたくしの心配をしてくれるのは、この可愛らしい小鳥さん達だけですもの。
両親も使用人も、友人達も、『わたくし自身』というよりは、王族の婚約者……『準王族としてのわたくし』の心配をしてくれますわ。
「今日はお城に行かなくてならないのよ」
「今日も、だと思いますが?」
「王子サマ……イヤ、です」
「もう、そんなこと言ってはいけないわ」
「・・・お嬢さまは、本当にあんなのとケッコンするのか?」
「ダメでしょう? もう……けど、そうよ。わたくしは、王族に嫁ぐ為に育てられたの。そうじゃないわたくしになんて、価値は無いわ」
王族に嫁ぐ為、幼少期より厳しい教育を受けさせられていたのです。幼い頃から、ずっとそう言い聞かされて来たのです。
これは決定事項で、余程のことがなければ覆ることは無いでしょう。
「そんなこと、ない!」
「お嬢さまは、素敵な人!」
キッとわたくしを睨み付けるように否定してくれる二対の眼差しに、なんだか嬉しくなる。
「ふふっ、ありがとう。わたくしの小鳥さん達はいつも可愛いわ」
よしよしと頭を撫でると、顔を赤くする小鳥さん達。
「っ!? それやめろって!」
「かわいい……♪」
「それじゃあ、行って来るわ。いい子でお留守番してるのよ?」
「あ、お嬢さま!」
と、小鳥さん達を残してお城へ向かう。
小鳥さん達がわたくしを慕ってくれて、心配してくれることは本当に嬉しい。
けれど、わたくしは知ってしまった。
小鳥さん達が、どのようにして我が家へ連れて来られたのかを。
二人の暮らしていた孤児院へお金を積み、あの二人を差し出せと迫ったことを。そうでなければ、援助を打ち切る、と脅したことを。
そして、二人は姉妹で……お互いにお互いを人質に取るようにして、逃げないようにと強く脅したということを。
屋敷に入るに当たり、孤児院とは比べ物にならない程の厳しい躾が施されたことを。
孤児院の出の幼い姉妹だからと、屋敷内のわたくしの見えないところで、小さな嫌がらせをずっと受け続けていたことを。
わたくしの我儘で、何年もそのような環境に置いてしまっているのだと。
それらのことを知っても……わたくしは、あなた達を手放すことなどできないのです。
ごめんなさい、小鳥さん達。こんな浅ましいわたくしを許してほしいとは言いません。ですが、どうか離れて行かないで……
いつか、わたくしが、あなた達を手放せるようになるまでは……
もう少し。あと少ししたら、ちゃんと浅ましいこの手を放すから。
どうか、それまでは――――
それから程なく、わたくしは王族の婚約者候補から、正式に第一王子殿下の婚約者へと決まった。
そして、わたくしと婚約したことで、第一王子殿下が王太子に一番近くなった。近々陛下から、その内定が出るかもしれない。
それでわたくしの教育に、益々熱が入ったというワケね。王子妃教育が、王太子妃教育に変わる日も近いだろう。
王族へ嫁ぐことが決定した今、これまで以上にわたくしは、誰にも弱みを見せられない。
もう、時間が迫って来ている。
体調管理もできないなど、わたくしには許されないことなの。
わたくしは大丈夫よ、大丈夫だから。
後で、ちゃんと……この手を、放すから――――
お城へ、殿下へ嫁ぐその前には――――
一人になっても、平気なように頑張るから。
だから、どうか――――それまでは、待っていて? わたくしの、・・・小鳥さん達。
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