【完結】お城で愛玩動物を飼う方法~わたくしの小鳥さん達~

月白ヤトヒコ

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♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫

 第一王子殿下が王太子に内定したと思ったのだけど、なぜかその発表が先延ばしにされた。

 不思議に思ったけれど、わたくしは王子妃教育が忙しく、婚約者である第一王子殿下と顔を合わせることが減っていることに、なにも疑問を抱かなかった。

 多分わたくしは、第一王子殿下ご本人のことには、大して興味がなかったのでしょうね。いずれ結婚しなくてはいけない相手だとしか、思っていなかった。

 だから――――

 定期的に開かれる、公式な・・・お茶会・・・で第一王子殿下に、婚約を解消してほしいと言われても、その理由が『偶々出逢った平民のお嬢さんに恋をしたから』だと言われても、特になにも思わなかったのでしょう。

 これから大変なことになる、という思考が真っ先に過りましたが。

 それよりも……むしろ、これでやっと解放される! との思いの方が大きかった。

 まぁ、わたくしの価値も見事に無くなってしまいましたが。

 ああ、殿下の侍従がそっと席を外しました。きっと、陛下へ報告に行ったのでしょう。

 とりあえず、この考え足らずの殿下へ忠告だけして、自分のこの先のことを考えましょうか。

 それにしても殿下は、相変わらず察しが悪いですね。わたくしの言っていることを、額面通りに『愛玩動物』についての雑談だと思っているご様子。

 これでは、殿下の恋したという平民のお嬢さんが不幸になるのは必至ではありませんか。

 わたくしの、小鳥さん達みたいに……

 本当に世話の焼ける方ですこと。

 貴族社会という囲いの中は、しがらみが多いというのに。その中でも、お城という強固な檻に、なんの覚悟も知識も無い平民女性を入れて、囲ってしまわれるおつもりですか。

 本当に、なにも考えていないのですね。

 呆れますこと……あぁ、いえ。殿下は生まれたときより、その檻の中で雁字搦がんじがらめにされて育って来た方なのですから、もしかしたらそれが当たり前過ぎて、その檻の強固さと、柵の多さにお気付きではないのかもしれませんね。

 まぁ、殿下を縛っている、その雁字搦めの柵は……もうそろそろ緩むかもしれませんけれど。

 そして王位継承権という柵が緩む代わりに、今度は別の・・・

 けれど、もうわたくしが殿下を心配する必要はありませんね。

 むしろ、わたくしは自分の身を案じるべきですわ。

「殿下の幸運・・をお祈りしておりますわ」

 と、呆然とした様子の殿下の前から辞する。

 城の中を速足で、けれど優雅に見えるように、表情を崩さないままで移動。

 急いで馬車に乗り込み、屋敷まで走らせる。

 さあ、これからは時間との勝負になるわ。

 から出るには、足掻あがくのならば今しかない。

 王族との婚約を解消されたわたくしは傷物。

 それも、どこへも嫁ぐことのできない、両親にとっては価値が無くなってしまったただのお荷物。

 修道院行きならば、まだマシな方でしょうね。

 もし殿下ではない方へと嫁げたとしても、別の……問題のある方へ嫁がされてしまうか、最悪は『病気』にさせられて、この命さえも危ういかもしません。

 そして、わたくしが不要になれば、わたくしの小鳥さん達もが不要となってしまう。

 あの屋敷には、居られなくなってしまう。

 殿下との婚姻が整ったら、小鳥さん達をわたくしから解放してあげるつもりだった。

 こんな形で放り出すような真似なんて、絶対に駄目。そんなことはさせない。

 ああ、早く家に着かないかしら。

 急がせている筈の馬車の速度にももどかしく思い、けれどこれからのことを考える時間にしようと、思考を働かせます。

 ガタガタと揺れていた馬車が止まったので、ドアを開けて飛び出し、屋敷の中へ、自室へと急ぎます。

「お嬢さま、どうしたですか?」
「王子サマとのお茶会は?」

 小鳥さん達が驚いた顔で、部屋に飛び込んだわたくしを見詰めます。

「急いでいるので手短に話します。わたくしは、婚約解消されました」
「え?」
「はあっ!? なんだよそれっ!?」
「しっ、静かに」

 声を上げる小鳥さん達に鋭く注意すると、二人は真剣な顔で頷いてくれました。

「殿下との婚約が解消されたわたくしには、もうこれまでの価値がありません」
「そんなことないっ!?」
「静かに、と言った筈です」
「っ・・・」

 顔を歪めて口を閉じる小鳥さん。

「なので、わたくしは逃げることにしました」

「「っ!?」」

「直ぐにこの屋敷を出ます。付いて来て、もらえるかしら?」


__________


 お嬢様が王子にした忠告がどんなものか知りたい方は、『お城で愛玩動物を飼う方法』を読んで頂ければわかります。

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