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ところで君、嘘吐いたよね?
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ふらふらと歩いていると、どこからともなくファングが付いて来た。
君、また付いて来るの?とか、多分ライを呼んでくれたであろうことに対するお礼なんかを言いたいけど、声を出すと喉が痛い。もう少し喉が良くなって、喋れるようになってから言うことにする。
特に行く宛も無く、ホリィが行かなさそうな辺りを選んでふらふらと歩く。
「・・・」
喉が痛い。首が痛い。
痛むのは、喉と首だ。他は痛くない。
痛まない。どこも・・・
図書館は行けない。ばーちゃん家もダメ。
その辺りはホリィが探しに行くだろうし。
ババアの娼館も行く気がしない。
・・・オレの行動範囲って、案外狭いな。
ふと、足元に落ちている新聞が目に入った。
『阿片中毒の女、女性を刺して逮捕!
二日前の深夜、雨の降る中での出来事。
帰宅途中の女性が阿片中毒の女に刺されて重傷。通りすがりの男性に助けられた。
刺された女性は、重傷だが命に別状は無い。
また、犯人は阿片中毒に拠りまともな会話ができず、取り調べは難航している模様。
警察は、阿片中毒者に拠る強盗と見て捜査を進めており………………
阿片の社会に及ぼす影響………………』
「・・・」
日付けはこないだ。
これは…ローズねーちゃんのことか?
どういう…ことだ?
「・・・」
子供の言うことは、真に受けられない。そういうこと、なのだろうか?
「ねえ、そこの君。ボクとお茶しない?」
爽やかなテノールに振り返ると、
「勿論、ボクの奢りで」
にこりと笑う薄味な顔の眼鏡。ライだ。
丁度、聞きたいことができた。
※※※※※※※※※※※※※※※
家の連中が、確実に来ない場所。
ライの泊まっているという宿屋の一室。
ファングはライを嫌いなのか、途中でどこかへ行ってしまった。嫌そうな顔をして。
「首の調子はどう?よくなってる?」
心配そうなテノールに頷く。
「やっぱり喋るのはまだ無理、か…でも大丈夫。きっとすぐによくなるから」
一応、声は出る。喉痛いからヤだけど。
「ところで君、嘘吐いたよね?ボクに」
「・・・・・・・・・」
「あの、ほら、黙っていたらわからない…ん、だけど?聞いてる?」
微妙な押しの弱さ。
わざわざ用意されたペンとノートに目を落とす。
「・・・」
『なんで、ここに?教会は?』
「あ、会話してくれる気はあるんだ…よかった。え~と…その、実は…首になって…」
困ったように続けるライ。
「警察の取り調べを受けるような奴は、教会の恥なんだってさ…はぁぁ…」
どんよりとした深い溜息。
『御愁傷様』
「うん…」
『ここの代金、どうなってるの?』
「ああ…一応、数ヶ月分は前払いされてるからどうにか、ね?その間になんとかするよ」
『ま、ガンバレ』
「うん。って、ボクのことはいいんだよ。君、ボクに嘘吐いたよね?知り合いに、被害に遭いそうな人がいないか聞いたとき!」
「チッ…」
余計なことを覚えてやがる。
「あ、今舌打ちしたっ!声は出ないのに舌打ちはできるか?全く…」
『気のせいだろ』
「…ま、いいけど。君は、ローズさんが被害に遇うことを予測していたんだよね?」
仕方ない。
『yes』
「どうしてあのとき、ボクに言わなかったんだ?」
『確証が無かったから。言っても、意味無かっただろ?あの時点では。それとも、アンタに言うことで、なにか変わってたのか?』
「それは…わからないけど…」
『それより、これはどういうことだ?』
拾った新聞をテーブルに広げる。
「…読んだんだね…」
『子供の証言は信用できないから?』
「…それは、わからない。ごめん・・・」
「・・・」
溜息を吐いて、苛立ちを逃がす。
『いや、いい。アンタは警察じゃない。わからなくて当然だ。悪い』
「・・・こないだから思ってたけど、君ってすごく字が綺麗だよね」
「?」
なぜ話が飛ぶ?
「癖が無くて読み易いし」
にこりと笑顔が見下ろしている。
「・・・」
『手紙の代筆とか、してるんだよ。読み易くないとマズい。仕事無くなる』
「代筆?誰に?」
『客のこと教えるワケないだろ』
呆れ顔で見てやる。
「あ、そっか。ごめん。・・・もしかして、外国に手紙?前言ってたよね?ラテン語やフランス語、イタリア語も辞書があれば読み書きできるって」
本当に、余計なことばかり覚えてやがる。
「ふと思ったんだけど、警察には封書で知らせればよかったんじゃないかな?」
「っ!?!?」
その手があったかっ!!!
全く思い付かなかった!普段、手紙は預かって翻訳して渡すのが仕事だし・・・
手紙を自分で書くという発想が無かったっ!?
馬鹿かオレはっ!!!
「あ~・・・なんか、ごめん」
困ったようにテノールが謝った。
「?」
「いや、いきなり落ち込むから」
自分の馬鹿さ加減に、腹が立つ。
できることの筈だった。
なのにっ…やってれば、ローズねーちゃんが怪我するようなことも無かったかもしれないのにっ!?
「っ!」
悔しい!すっごく、悔しいっ!!!
「あ、でもほら、封書だったとしても、悪戯だと思われたかもしれないし、君がそんなに責任を感じることは…」
『それでも、できることだった。オレには、できた筈だった、のに』
ローズねーちゃんは怪我しないで、怖い思いとか、しないで済んだかもしれなかったんだ。
「ごめん。じゃあ、このことを踏まえて反省として、次に繋げようよ」
「?」
「犯人は、まだ捕まっていないんだよね?」
頷く。
戻って来て逮捕されたあの女以外に、逃げたのが三人。少なくとも、あと三人は犯人がいる。
「次に狙われるのは、誰だと思う?」
次、か・・・
『一応、警察には忠告した。犯人達が、また、ローズを狙う可能性』
「それは…うん。十分に考えられるね。他には?」
他。他の、噂は・・・
君、また付いて来るの?とか、多分ライを呼んでくれたであろうことに対するお礼なんかを言いたいけど、声を出すと喉が痛い。もう少し喉が良くなって、喋れるようになってから言うことにする。
特に行く宛も無く、ホリィが行かなさそうな辺りを選んでふらふらと歩く。
「・・・」
喉が痛い。首が痛い。
痛むのは、喉と首だ。他は痛くない。
痛まない。どこも・・・
図書館は行けない。ばーちゃん家もダメ。
その辺りはホリィが探しに行くだろうし。
ババアの娼館も行く気がしない。
・・・オレの行動範囲って、案外狭いな。
ふと、足元に落ちている新聞が目に入った。
『阿片中毒の女、女性を刺して逮捕!
二日前の深夜、雨の降る中での出来事。
帰宅途中の女性が阿片中毒の女に刺されて重傷。通りすがりの男性に助けられた。
刺された女性は、重傷だが命に別状は無い。
また、犯人は阿片中毒に拠りまともな会話ができず、取り調べは難航している模様。
警察は、阿片中毒者に拠る強盗と見て捜査を進めており………………
阿片の社会に及ぼす影響………………』
「・・・」
日付けはこないだ。
これは…ローズねーちゃんのことか?
どういう…ことだ?
「・・・」
子供の言うことは、真に受けられない。そういうこと、なのだろうか?
「ねえ、そこの君。ボクとお茶しない?」
爽やかなテノールに振り返ると、
「勿論、ボクの奢りで」
にこりと笑う薄味な顔の眼鏡。ライだ。
丁度、聞きたいことができた。
※※※※※※※※※※※※※※※
家の連中が、確実に来ない場所。
ライの泊まっているという宿屋の一室。
ファングはライを嫌いなのか、途中でどこかへ行ってしまった。嫌そうな顔をして。
「首の調子はどう?よくなってる?」
心配そうなテノールに頷く。
「やっぱり喋るのはまだ無理、か…でも大丈夫。きっとすぐによくなるから」
一応、声は出る。喉痛いからヤだけど。
「ところで君、嘘吐いたよね?ボクに」
「・・・・・・・・・」
「あの、ほら、黙っていたらわからない…ん、だけど?聞いてる?」
微妙な押しの弱さ。
わざわざ用意されたペンとノートに目を落とす。
「・・・」
『なんで、ここに?教会は?』
「あ、会話してくれる気はあるんだ…よかった。え~と…その、実は…首になって…」
困ったように続けるライ。
「警察の取り調べを受けるような奴は、教会の恥なんだってさ…はぁぁ…」
どんよりとした深い溜息。
『御愁傷様』
「うん…」
『ここの代金、どうなってるの?』
「ああ…一応、数ヶ月分は前払いされてるからどうにか、ね?その間になんとかするよ」
『ま、ガンバレ』
「うん。って、ボクのことはいいんだよ。君、ボクに嘘吐いたよね?知り合いに、被害に遭いそうな人がいないか聞いたとき!」
「チッ…」
余計なことを覚えてやがる。
「あ、今舌打ちしたっ!声は出ないのに舌打ちはできるか?全く…」
『気のせいだろ』
「…ま、いいけど。君は、ローズさんが被害に遇うことを予測していたんだよね?」
仕方ない。
『yes』
「どうしてあのとき、ボクに言わなかったんだ?」
『確証が無かったから。言っても、意味無かっただろ?あの時点では。それとも、アンタに言うことで、なにか変わってたのか?』
「それは…わからないけど…」
『それより、これはどういうことだ?』
拾った新聞をテーブルに広げる。
「…読んだんだね…」
『子供の証言は信用できないから?』
「…それは、わからない。ごめん・・・」
「・・・」
溜息を吐いて、苛立ちを逃がす。
『いや、いい。アンタは警察じゃない。わからなくて当然だ。悪い』
「・・・こないだから思ってたけど、君ってすごく字が綺麗だよね」
「?」
なぜ話が飛ぶ?
「癖が無くて読み易いし」
にこりと笑顔が見下ろしている。
「・・・」
『手紙の代筆とか、してるんだよ。読み易くないとマズい。仕事無くなる』
「代筆?誰に?」
『客のこと教えるワケないだろ』
呆れ顔で見てやる。
「あ、そっか。ごめん。・・・もしかして、外国に手紙?前言ってたよね?ラテン語やフランス語、イタリア語も辞書があれば読み書きできるって」
本当に、余計なことばかり覚えてやがる。
「ふと思ったんだけど、警察には封書で知らせればよかったんじゃないかな?」
「っ!?!?」
その手があったかっ!!!
全く思い付かなかった!普段、手紙は預かって翻訳して渡すのが仕事だし・・・
手紙を自分で書くという発想が無かったっ!?
馬鹿かオレはっ!!!
「あ~・・・なんか、ごめん」
困ったようにテノールが謝った。
「?」
「いや、いきなり落ち込むから」
自分の馬鹿さ加減に、腹が立つ。
できることの筈だった。
なのにっ…やってれば、ローズねーちゃんが怪我するようなことも無かったかもしれないのにっ!?
「っ!」
悔しい!すっごく、悔しいっ!!!
「あ、でもほら、封書だったとしても、悪戯だと思われたかもしれないし、君がそんなに責任を感じることは…」
『それでも、できることだった。オレには、できた筈だった、のに』
ローズねーちゃんは怪我しないで、怖い思いとか、しないで済んだかもしれなかったんだ。
「ごめん。じゃあ、このことを踏まえて反省として、次に繋げようよ」
「?」
「犯人は、まだ捕まっていないんだよね?」
頷く。
戻って来て逮捕されたあの女以外に、逃げたのが三人。少なくとも、あと三人は犯人がいる。
「次に狙われるのは、誰だと思う?」
次、か・・・
『一応、警察には忠告した。犯人達が、また、ローズを狙う可能性』
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