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この家が困窮していたのは誰のせいだか判っているのか?
しおりを挟む「では、お前達が総出で彼女の不貞を手伝っていた、ということだな」
うちから手配していた使用人達は、下級の使用人達のみ。古参の彼らの命令には従わざるを得なかったはず。
「っ……」
「気持ちよかったか? 成金の商人に金で買われる可哀想なお嬢様が、護衛騎士に恋をして、それを使用人一同で応援して助けるのは。『物語のような展開』で、いいことをしているつもりだったか? 正義の味方気取りで。おまけに、お嬢様の恋している相手が、高位貴族の息子だと判って。『物語のように』彼女を金で買って結婚しようとした成金の商人が成敗され、お嬢様は見事恋を実らせて、めでたしめでたしのハッピーエンド・・・に、なるとでも?」
「そ、それは……」
「いずれにせよ、彼女達の不貞はこの屋敷の人間の総意だった、ということだろう?」
令嬢と護衛騎士の恋物語は、『物語』の中の彼ら彼女らが不貞だと判っていて身体を交わすのは、もうそれ以上に結婚を回避する手段が無いから、というのが相場なはず。
そして、恋仲になった令嬢と護衛騎士は駆け落ちして遠くへ逃げ、めでたしめでたし……というのが、ある意味現実に則しているように感じるのだが? 無論、『駆け落ち後の生活』は一切考えないで、という条件ではあるが。
それを、自分は家に残り、別の、自分が好いた男を婿に迎えたいだなんて・・・
まぁ、『物語』的には、ありなのだろう。護衛騎士をしていた彼は実はどこぞのご落胤で、その実家の方は商人より金持ちで権力があって、嫡子や大事にされている『令息』であった、というのが『物語』の大前提ではあるが。それならそれで、なぜ護衛騎士をしていたのか疑問ではあるが……『物語』にそれを言うのは野暮というものだろう。
残念ながら、この家のお嬢様の相手にはそういうご都合主義な前提と展開は全く無かったワケだが。
「それで、仕えている家が本格的に没落しそうだからと、見下していた俺に縋るのか? 巫山戯るなよ」
「!」
「そもそもの話、この家が困窮していたのは誰のせいだか判っているのか?」
「そ、それは……旦那様が……」
伯爵の経営手腕が問題だと言いたいのか、執事が言葉を濁す。
「知っているか? 伯爵の領地経営の手腕は、そんなに悪くない。領地自体は、困窮していない」
「だ、旦那様が、民のために……」
「領地経営と家計を分けていたのは、伯爵の唯一の美点だ。つまり、領地はそれなりに回せていた。だというのに、屋敷内は困窮していたというワケだ」
領地経営自体は、少々古いやり方だったが、堅実な手腕だった。しかしそれが、お嬢様や奥方のドレスや、自身の交際費に回す余裕もなくなる程、生活が困窮した。
「なぁ、その理由教えてやろうか? この家の使用人共、態度悪過ぎなんだよ。元が貴族だかなんだか知らないが、屋敷に出入りする平民をみんな見下しているだろう? それで、商人が寄り付かなくなったのが原因だ」
この伯爵家は古参の……元は貴族の二男二女以下の出身の使用人共が、出入りする平民や商人達を軒並み馬鹿にし、見下した態度を取ることで有名だ。
既に、自分達も貴族籍を抜かれている平民であるというのに、だ。
「選民意識が強く、自分達を馬鹿にする。そんな家に、誰が好き好んで商品を卸す? そうやって馬鹿にされれば、嫌がらせとして商品を割高で売ってやろうと思う奴もいる」
「なっ、意地汚い商人共がそんなことをっ……」
ここまで教えてやっても、出て来る言葉がそれか。
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