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第二章 告白
3 「普通」
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全身がほてって、指先だけは異様に冷たく、俺の声を勝手に震わせやがる。
「ガキの頃から、俺はずっとお前だけだ。お前が男だとかそんなんわかってて、でも、お前が、…悠也のことが好きだ」
やばい、手が震えてる。何言ってんだ俺は。
「お前はちっとも変じゃないし、すげーやさしいよ。迷惑、だろうし、俺のこと。でも、なんつーかごめん、聞いてくれて」
だめだ、言ってることがめちゃくちゃだ。怖くて悠也の顔を見られない。
「あのさあ」
珍しく苛立ったような悠也の声に、思わず身体がびくっと反応する。
「なんで迷惑って勝手に決めつけんだよ」
驚いた、悠也は本気で怒っていた。俺が何も答えられずにいると、悠也はつかつかと俺のそばへ近づいてきた。たじろぐ俺にかまわず、片手で俺の頬をがっと乱暴におさえこむ。むにり、と俺の頬が無様に歪んだ。
「なんらよ」
両頬を掴まれたままの俺の声はずいぶんと腑抜けていて、これじゃかっこつかないし逃げられない。 かっと顔が赤くなるのを感じた。
「お前っていつもそうだよな、急に何も言わず連絡とんなくなるし。告白して勝手にそれを迷惑って決めつけて、そんでもう二度と今度こそ、俺と会わないつもりなんだろ?」
まくしたてる悠也の息は荒い。 肩が上下しているのを、俺は戸惑いながら見つめる。
「いや、でも男にさ、それもずっと一緒だった親友、に、告白とかされたらふつー迷惑だろ…」
声がしぼんでしまう。今すぐ泣きたいような情けない気持ちに囚われて、俺は打ちひしがれる。
「だから、普通って勝手に俺を決めんなよ!」
「…それは、」
言葉に詰まった。勝手にいなくなって、 消えてしまえ、こんな感情ってそう思って。 俺はいつも自分が傷つくのが怖いばかりだ。
「ごめん」
悠也は「いや、俺も一気に言いすぎた」と手をぱっと離した。
うーっと変なうめき声を出して髪をかきむしりながら、ふいにその場にしゃがみこむ。 頭を抱えこんで、悠也はそのまま口を閉ざした。
長い長い沈黙にいたたまれなくなる。頼むから何か言ってくれ。
先ほどから鳴いていたはずの虫の声が、やけに耳障りに聞こえてきた。 小さなその雑音たちが、耳に幾度となく突き刺さってくる。この街の夜が嫌いだ。夜更けの静けさに責められているような思いがする。
早くここから離れてしまいたい。何を言えばいいのかわからないまま、 浅い呼吸とともに俺は立ち尽くしていた。
いいかげんにこの沈黙を破らなければ、と俺が息を吸い込むのと同時に、悠也がぱっと俺の顔を見上げてきた。
「めいわく、だなんて思わないから」
悠也が小さく、でもはっきりそう口にした。俺は開きかけた口の行き場を失い、ぽかん、と間の抜けた顔で見つめてしまう。
「だからさ、だから…」
こいつがこんなに一所懸命言葉をしぼりだそうとするのを、俺は今初めてみた気がする。こんなに震える悠也の声を、俺は知らない。心臓がどんどんと胸を打ちつけてきて煩わしい。
「…つっき、あう?」
一瞬、俺は自分の耳を疑った。
「は?」とひっくり返ったような声で聞き返すと、悠也はちょっとむっとしたような顔で、嫌なのかよ、とこっちを見据えてきた。
「いや、だって、お前、」
「俺はこのまま、また楓と会えなくなる方が嫌だ。楓、二度と帰ってこないつもりだろ」
きっぱりと言い切る。
そうだ、悠也は一度言い出すともう聞かない奴だった、とこんな時に思い出して笑えてきた。
「そんなの、ずるいじゃんか」
悠也を責めるつもりが、ずいぶん弱々しい声がでて、俺は慌てて右手の甲で顔を隠す。涙がにじむのはきっと笑えて仕方がないからで、ああ、でもくそ、指先が震えている。
悠也がふいにひょい、とその指先を掴んで引っ張ってきた。
「試してみようぜ」
言われた意味がわからず呆けた顔で悠也を見る。照れたようなかすれたような、今まで聞いたことのない悠也の声に俺は目を瞬いた。ふわっと触れた悠也の指先のやわらかさに息を呑む。
俺の片手のひらを、 大事に包み込むようにそっと握り直した悠也は、
「ん、俺、かえでと手繋ぐーとか、そういうのは全然嫌じゃないよ」
と言って、なんだかくすぐったそうな顔で笑った。
「俺はさ、そういう好きってわかんねーけど、かえでのおっきい手は昔っからすっごくすき」
お前は俺が絶対無理だと諦めて作った壁を、易々と越えてくる。いつだってそうだ。
おそるおそるもう一方の手を悠也の肩に伸ばす、屈託もなく接していた幼い頃みたいに。
服越しに触れる皮膚が、思ったよりも冷たく、一瞬ぴくりと指先が震えてしまう。思わずぱっと身を離そうとしたが、悠也は俺の身体に頭をおしつけてきた。ぎゅうっとおしあてられた悠也の肌のぬくさに、また涙がでそうになる。
「かえで、いかないでよ」
悠也が、俺の肩に額をおしあてて、くぐもった声でつぶやく。
「俺は、かえでとずっと一緒にいたいよ」
俺は胸がいっぱいになってしまって、うまく言葉がでてこないまま、気づいたら昔みたいに悠也の身体を力いっぱい抱きしめ返していた。
悠也は子どもをあやすように、俺の背中をやわらかいてのひらでぽんぽん、とたたいた。
こいつ、いつのまにかいっちょまえにこんなにも背ぇ高くなってたんだな、そんなことを思いながら、しばらく俺は悠也の背中をそっと抱きしめ続けていた。
「ガキの頃から、俺はずっとお前だけだ。お前が男だとかそんなんわかってて、でも、お前が、…悠也のことが好きだ」
やばい、手が震えてる。何言ってんだ俺は。
「お前はちっとも変じゃないし、すげーやさしいよ。迷惑、だろうし、俺のこと。でも、なんつーかごめん、聞いてくれて」
だめだ、言ってることがめちゃくちゃだ。怖くて悠也の顔を見られない。
「あのさあ」
珍しく苛立ったような悠也の声に、思わず身体がびくっと反応する。
「なんで迷惑って勝手に決めつけんだよ」
驚いた、悠也は本気で怒っていた。俺が何も答えられずにいると、悠也はつかつかと俺のそばへ近づいてきた。たじろぐ俺にかまわず、片手で俺の頬をがっと乱暴におさえこむ。むにり、と俺の頬が無様に歪んだ。
「なんらよ」
両頬を掴まれたままの俺の声はずいぶんと腑抜けていて、これじゃかっこつかないし逃げられない。 かっと顔が赤くなるのを感じた。
「お前っていつもそうだよな、急に何も言わず連絡とんなくなるし。告白して勝手にそれを迷惑って決めつけて、そんでもう二度と今度こそ、俺と会わないつもりなんだろ?」
まくしたてる悠也の息は荒い。 肩が上下しているのを、俺は戸惑いながら見つめる。
「いや、でも男にさ、それもずっと一緒だった親友、に、告白とかされたらふつー迷惑だろ…」
声がしぼんでしまう。今すぐ泣きたいような情けない気持ちに囚われて、俺は打ちひしがれる。
「だから、普通って勝手に俺を決めんなよ!」
「…それは、」
言葉に詰まった。勝手にいなくなって、 消えてしまえ、こんな感情ってそう思って。 俺はいつも自分が傷つくのが怖いばかりだ。
「ごめん」
悠也は「いや、俺も一気に言いすぎた」と手をぱっと離した。
うーっと変なうめき声を出して髪をかきむしりながら、ふいにその場にしゃがみこむ。 頭を抱えこんで、悠也はそのまま口を閉ざした。
長い長い沈黙にいたたまれなくなる。頼むから何か言ってくれ。
先ほどから鳴いていたはずの虫の声が、やけに耳障りに聞こえてきた。 小さなその雑音たちが、耳に幾度となく突き刺さってくる。この街の夜が嫌いだ。夜更けの静けさに責められているような思いがする。
早くここから離れてしまいたい。何を言えばいいのかわからないまま、 浅い呼吸とともに俺は立ち尽くしていた。
いいかげんにこの沈黙を破らなければ、と俺が息を吸い込むのと同時に、悠也がぱっと俺の顔を見上げてきた。
「めいわく、だなんて思わないから」
悠也が小さく、でもはっきりそう口にした。俺は開きかけた口の行き場を失い、ぽかん、と間の抜けた顔で見つめてしまう。
「だからさ、だから…」
こいつがこんなに一所懸命言葉をしぼりだそうとするのを、俺は今初めてみた気がする。こんなに震える悠也の声を、俺は知らない。心臓がどんどんと胸を打ちつけてきて煩わしい。
「…つっき、あう?」
一瞬、俺は自分の耳を疑った。
「は?」とひっくり返ったような声で聞き返すと、悠也はちょっとむっとしたような顔で、嫌なのかよ、とこっちを見据えてきた。
「いや、だって、お前、」
「俺はこのまま、また楓と会えなくなる方が嫌だ。楓、二度と帰ってこないつもりだろ」
きっぱりと言い切る。
そうだ、悠也は一度言い出すともう聞かない奴だった、とこんな時に思い出して笑えてきた。
「そんなの、ずるいじゃんか」
悠也を責めるつもりが、ずいぶん弱々しい声がでて、俺は慌てて右手の甲で顔を隠す。涙がにじむのはきっと笑えて仕方がないからで、ああ、でもくそ、指先が震えている。
悠也がふいにひょい、とその指先を掴んで引っ張ってきた。
「試してみようぜ」
言われた意味がわからず呆けた顔で悠也を見る。照れたようなかすれたような、今まで聞いたことのない悠也の声に俺は目を瞬いた。ふわっと触れた悠也の指先のやわらかさに息を呑む。
俺の片手のひらを、 大事に包み込むようにそっと握り直した悠也は、
「ん、俺、かえでと手繋ぐーとか、そういうのは全然嫌じゃないよ」
と言って、なんだかくすぐったそうな顔で笑った。
「俺はさ、そういう好きってわかんねーけど、かえでのおっきい手は昔っからすっごくすき」
お前は俺が絶対無理だと諦めて作った壁を、易々と越えてくる。いつだってそうだ。
おそるおそるもう一方の手を悠也の肩に伸ばす、屈託もなく接していた幼い頃みたいに。
服越しに触れる皮膚が、思ったよりも冷たく、一瞬ぴくりと指先が震えてしまう。思わずぱっと身を離そうとしたが、悠也は俺の身体に頭をおしつけてきた。ぎゅうっとおしあてられた悠也の肌のぬくさに、また涙がでそうになる。
「かえで、いかないでよ」
悠也が、俺の肩に額をおしあてて、くぐもった声でつぶやく。
「俺は、かえでとずっと一緒にいたいよ」
俺は胸がいっぱいになってしまって、うまく言葉がでてこないまま、気づいたら昔みたいに悠也の身体を力いっぱい抱きしめ返していた。
悠也は子どもをあやすように、俺の背中をやわらかいてのひらでぽんぽん、とたたいた。
こいつ、いつのまにかいっちょまえにこんなにも背ぇ高くなってたんだな、そんなことを思いながら、しばらく俺は悠也の背中をそっと抱きしめ続けていた。
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