【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ

文字の大きさ
10 / 27
第三章 はじめての

1 てつなぎ

しおりを挟む
 あれから俺と悠也は付き合っている。

 といっても、何かが変わったわけでは全くもってない。「付き合っている」というのも、そうしてみよう、と話をしただけで、たとえば手を繋いでみる、とか、ハグをするとか…これでは幼少期と何も変わらない。
 本当に幼い頃のスキンシップと同じで、それだけでもうあたたかいものが溢れ、心が跳ねてしまう。

 距離が近くても、あいつは決して嫌がったりはしなくて、肩が触れて俺がつい体をこわばらせてしまっても、イタズラっぽく笑ってどついてくる。むかつく奴。


「試してみようぜ」
 あの日、悠也は綺麗な顔でそう言って微笑んだ。そっと息を吐く悠也の顔の近さに、身体が熱くなって、ぎゅっと息を呑む。
 差し出された悠也のてのひらを久々にしっかりと握りしめたら、案外大きくごつごつとしていてびっくりした。いつのまにか、二人とも大人になっていたんだと今更になって気づく。
 それもそうか、俺はずっとこいつを避けていたし、手に触れるのなんて変に意識するようになってからはほとんどなかった。一体何年ぶりだろう。

「俺はさ、何かこう、何かしたい、とか誰かに対して思ったことなくて、さ…」
 ぎこちなく話すのをみながら、俺の手を握る悠也の指先も、心なしか冷たいように感じる。

「んー、だから、でも、かえでと距離が近くて嫌とか、迷惑だなんて思ったことないから」
 泣きそうに見えた。きっとこいつなりに今懸命に伝えてくれているんだろうな、そう思ったらじんわり心臓が痛くて、俺はただうん、と頷いて言葉をつまらせた。

 ずっと俺はどこかおかしいんだろうなと思っていた。こんなろくでもない気持ちを抱えて、世の中の普通からはみ出して、嘘をつき続けて。

「俺もね、変なのかなって思ってた」
 悠也が、 まるで俺の思いを読み取ったかのように、またぽつりと話しだす。

「周りとどうやってあわせればいいのかわかんなくてさ」

 寂しそうに笑う悠也に、俺は何をしてやれるんだろう。 たまらずに、悠也の指先を握った。ちょん、と幼稚園児が母親と手を繋ぐような不思議な触り方になってしまい、俺はうあっとついうめくような声を漏らす。

 悠也は一瞬きょとんと驚いたような顔をして、 瞬間泣きそうにもみえて、でも笑った。ししっと無邪気なガキみたいに笑うやわらかいその顔をみたら、俺は悠也に恋をした、あの日のひだまりの匂いをふわりと思い出す。

 「こんな夜遅くまで家に帰らないの、きっと帰ったらお母さんに怒られちゃうな」と悠也は笑った。しんと静まり返った夜道を並んで歩く。世界にたった二人だけみたいな、ただ広々と続く、幼い頃もこの道を悠也の手を引いて歩いた場所。

 あの時、 泣きだした悠也の姿を見て焦って、どうにかして守ってやりたくて、一生懸命手をつないで、 涙をこらえていたこと。本当は、よく覚えている。
 迷子になって真っ暗道を必死に走ってやっとの思いで家路にたどり着いた時、 近所を探して駆け回っていたらしい母親にみつかり、ものすごい形相で怒られたことも (夜道より何倍もそっちの方が怖かった)。
 それから、悠也と手をつないだまま家の前で叱られて、しょんぼりと佇んでいる間もしっかりと 互いの手を握り合っていたことを、思い返す。


「スキンシップは嫌じゃないよ、大事な奴とならいいんだ」
 強く握りしめてくれた手のあたたかさが、じんと胸を温めていく。こんなにも大事に思ってくれているんだということが、 指先から伝わってくる。ゆっくりと俺の体に、悠也の言葉が染みわたっていく。

「でも、ごめん、そういうすきが、たぶん、ずっと俺はわかんなくて、」
 消え入りそうな声で、悠也は俯く。謝らせたいわけじゃない。

「俺もっわかんねぇこといっぱいある!!」

 悠也がふわっと顔を上げる。こいつの長いまつ毛、久々にこんなに近くでみてる。いやそうじゃない、そうじゃなくって。

「だからぜんっぜん謝ることじゃねぇ、恥ずかしくもねーよ。俺は、ずっとこの気持ちはだめなもんだって思ってた、最低だって。でも悠也は気持ち悪がらなくて、俺のこと、だからっ」
 俺はぱっと悠也の手を離して、むちゃくちゃに頭を掻きむしった。
「だからっ変じゃねえ。お前はちっとも変じゃな―」
 目の前に泣きじゃくっている悠也が、いた。子どもみたいにむせびなく小さな体に、俺は慌てふためく。
「ちょっ、ええごめん!俺こそいきなり色々言いすぎた、本当ごめんっ」
 おろおろと謝る俺に悠也はかぶりを振る。

 はじめて言えたから。悠也は途切れ途切れにそんなことを言った。誰にもずっと言えないと思っていたのは、俺だって同じで、ああくそ、こっちまで泣きそうだ。

 思いきり抱きしめたい気持ちを最大限に押し殺して、俺は悠也の頭にぽんっと手をおいた。やわらかな髪を、無造作にわしわしとなでてやると、悠也はひっくひっくとしゃくりあげる。

 そばにいたい、悠也の小さな背中を守れるように。俺のせいでたくさん傷つけたけど、今度こそ大好きなこいつに笑っていてほしい、そう強く思った。


 特に劇的な変化があるわけでもない日々の中で、付き合ってから変わったことが唯一あるとすれば、悠也と毎日夜の散歩をするのが、日課になったことかもしれない。

 夕方はまだじっとりと体中に汗がにじんで、外出してもさっさと建物の中に入りたくなる。でも、夜は晴れている日だと澄んだ空気が心地いいし、さあっと吹きぬけていく夜風を浴びるのも悪くない。人通りのない夜道にごろんと寝転がって、悠也とみる生まれ育った土地の空は、はてしなく星が散らばっていて気持ち良かった。

 雨の日でも、悠也は傘をさしていこう、と言いだすので、雨音を聞きながら二人で歩いた。近所で一緒に過ごしていることは何も変わらなくて、俺はきっと悠也にとって今までのようにただ親友として大切な存在で。だけど、夢みたいだと思った。
 抱きしめさせてほしいし触れたくてたまらないなんて、叶えられるはずもないと、ひび割れるような胸の痛みをずっと抱えていたのに。

 ただ一緒にそばにいられて、どこか遠くへ行くわけじゃなくても、悠也が俺の気持ちを受けとめて、ここにいてくれている。その事実がまだ怖くて泣きそうで、なのにたまらなく幸せで、どうにかなりそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

処理中です...