【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ

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第四章 ゆるやかな変化

3 いつまでも

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 悠也とバスに乗るのは、再会したあの日以来だった。窓際に座った悠也が、珍しくもない田畑の広がる景色を、嬉しそうに眺めている。
  
「なんか遠足みたいだな」
 窓の外をみていた悠也が、俺の方をくるっと振り向いてそう言った。

「遠足だったらもっと華やかなとこ行くだろ」
 頬杖をついたまま俺が言うと、口をとがらせる。
「幼稚園で行ったいもほりとか、景色似てるじゃんか~」

 俺はふっと笑い声を漏らしながら、窓の外を見やった。
 まだ幼稚園の時だったか、悠也と、悠也の母さんと、俺の母親も一緒に「十日山商店街」まででかけた。はっきりと季節は覚えていないけれど、あの日も快晴で気持ちの良い空模様だったように思う。

 この十日山商店街には、バスで30分ほどかかる。
 店はどこものんびりとした面構えで栄えてはいないし、散歩する近所の住人がたまにいる程度で人通りも少ない。ただ、木のあたたかみを感じるようなやさしげな雰囲気の建物が多い。

「ついたー!」
 悠也が踊るようにバスからぴょんっと降りる。

 おい、バスの運転手に若干笑われてたぞ今!
 俺は心の中で叫ぶが、悠也は商店街を興味津々に見渡すのに夢中で、俺の訴える視線に全く気づかない。

「悠也、」
 はしゃぎすぎだ、と言おうとした瞬間、すでに悠也が走りだすので俺は、
「うおいいいい!」
 と大声をとばしながら、一緒に駆け出すハメになった。

 この間みたいに知り合いに会ったら、という不安が一瞬ひやりと胸をかすめたが、周りはゆったりと歩く年配の老夫婦や、日陰で涼む鳩がいるだけで、閑散としている。

 …でも、たぶんきっと大丈夫だ。
 走るたびに上下するウェストポーチと一緒に、ふわりと心が舞い上がって。悠也の楽しそうな顔をみたら、心配事はぶんっとはるかかなたへと、吹っ飛んでいった。

   
「お腹へった~」
 しばらく商店街を走り回ったあと、息を切らしながら悠也がつぶやき、そして息を飲むように立ち止まった。

 悠也がはっと見つめる先には「だんご」というかわいらしい字で書かれた旗が、目の前に立つ、のれんのかかった古風な店があった。入り口には「五平餅150円」と言う張り紙もある。
 東京の信じられないほど高い値段に慣れてしまった俺には、考えられないほどの安さだ。
 ショーケースの中の見本は結構ボリュームがあってうまそうだし、何やらいい匂いも店内から漂ってくる。
  
「う、わあ」
 よだれをたらしそうな勢いで、悠也が店に吸い寄せられていく。嘆息しながら、俺は悠也を呼びとめる。

「あのさ、おごってやるよ」
 …今の言い方はかっこつけすぎた、かもしれない。たった150円なのに。

「え、なんで!?かえで誕生日なのに!?」
 想像以上の反応の大きさで、挙動が不自然な悠也の動きにおかしくなってしまう。

「サプライズのお礼、嬉しかったから」
 笑って財布を取り出した。

「なんか、かえで男前だ」
「はぁ!?」
 あやうく、財布を取り落とすところだった。

「俺も、今日かえでと過ごせて嬉しい、ありがと」
 またお前は、屈託なくすぐそう言うことを言ってくる!
 俺は、ん、と小さく返事をして下を向いた。もうこれ以上身がもちそうにない。
  
 店先の木のベンチに座って、互いに腹が減っていたので、無言で餅を食べる。りんりん、と風鈴がかわいらしい音を立て揺れている。寂しいくらいに人はいないけど、(このあたりの店の経営が心配になる)のどかで心地いい。
  
 今度悠也と、どこかへ旅行にも行きたいな。

 入道雲が悠々と浮かぶ空を見上げてそんなことを考え、俺はあわてて打ち消した。さすがに泊まりなんてハードルが高すぎる、無理だ。幼少期はよく互いの家に当たり前のように泊まっていたけど、もうあの頃とは違うのだから。

 これ以上何かを望んだらきっとバチが当たる。
 きゅっと心臓の奥が鳴って、いつか何かが弾けてしまいそうな。そんな予感に囚われながらも、俺はもう悠也を決して手離すことができない。これが魔法なのだとしたら、ずっと解けずにいてほしい。
  いつまででもここにいたい。そんな欲張りな願いが胸を突いた。
  
「かえで、またこよう」

 まるで俺の心を聞いていたかのように、悠也にそう声をかけられ、俺はとっさに言葉を返せない。

「楽しかった」
 悠也はへへっと目を細め、頬をほころばせる。俺は照れ臭さを隠すように、無言で悠也の髪をくしゃっと撫でた。
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