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第五章 悠也の家
1 雨宿り
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あの日の日中は、 ニュースキャスターも「お出かけ日和」と言っていた通り、真っ青な空がどこまでも広がっていた。いい天気だからと足を伸ばして、川遊びをしに行ったその日、 夢中になって小学生の時みたいにダムを作ったり、水をかけあったり、あっという間に時間が経っていた。
もっと早くに帰っていればよかったのだが、気がついたときには雲行きがだんだんあやしくなっていた。 急に空気も冷え込む中、慌てて2人で帰り支度をしたがその間にもポツリポツリと水滴が腕にあたってくる。
天気予報では、夜から急に激しい雷雨と言っていたにもかかわらず、すでに容赦なく風と雨が叩きつけてきた。
「さっきまで天気良かったのになー」
悠也は手早く薄手の長袖パーカーを羽織って、ずぼっとフードを頭にかぶる。俺も思わず頭を覆うように手で押さえたが、激しい雨粒がどんどん顔にも降りかかってきた。夕立の中、急いで二人で近道できる裏道を走った。
「なぁ、かえで」
ごうごうと耳元でうなる風と雨音にかき消されないように、悠也が後ろを走る俺に向かって声をはりあげる。
「なにっ?」
俺も、いつもより大きな声で、走りながら悠也に聞き返した。
「俺のうち、よってけよ」
「え」
前を走る悠也の声に気を取られたせいで、バシャリとアスファルトのくぼんだところにできた水たまりに片足を突っこんでしまった。靴の中にまで水が染み込んできて気持ち悪い。
「え、でもいいよ、わざわざ」
悠也の家から俺の家までの距離は、走れば十分かからないくらいだ。とはいえ、強風と雨にあおられて足元も悪い中、今すぐにでも屋根のある場所に避難したい、そんな思いもよぎる。
それに、大学生になって電車通学で運動を思いっきりサボっていた俺は、すでにここまで走ってきた時点で、呼吸がかなり荒くなっていた。
歯切れの悪い俺の返事は、大粒の雨にかき消され悠也に届かなかったようだ。
視線だけこちらを振り返りながら、悠也が言葉を続ける。
「一旦雨宿りしてけよーもう頭もびしょびしょじゃん」
「ん―」
まだ考えあぐねてうなっていたつもりだったのに、あいづちと捉えたらしい悠也は、
「じゃあ決まりな!」
と言って軽快に走り続けた。
いつの間にか俺は悠也の家に行くことになってしまった。見上げると、まるで霧にでも覆われたかのように空が濁った色をしている。俺は前を走る悠也の姿を、睨むように見つめる。
悠也の家に行くなんて一体いつぶりだろう。
心臓がより一層激しくどくんどくんと音を立てているのはきっと、いきなり何年ぶりかに全力疾走をしているからだ。
「お邪魔します」
玄関でそう言って、靴をきちんと揃える。
「お母さんまだ帰ってきてないし、適当でいいよ」
いや、母親いないのかよ。家に二人きりだなんて聞いてない。
幼い頃は何にも意識していなかったのに、久々に悠也の家の廊下を歩くだけで、なんだか妙にそわそわとする。悠也が部屋の扉を開けて、手早くずぶ濡れのパーカーを脱ぐと乱暴に中に放り込んだ。
「タオル取ってくるからさ、先部屋入って待ってて」
「お、ありがとう」
微妙にぎこちなく返事とお礼を述べ、悠也の部屋に遠慮がちに踏み入れた。床に漫画本や雑誌など散らばってはいるが、思ったより片付いている (普段の俺の部屋よりきれいな気がする)。
背の低い折りたたみ式の机が、まだ昔と変わらず部屋の真ん中にあって、無性に懐かしく思えた。机の前に座って息を整える。なかなか動悸がおさまってくれない。
もっと早くに帰っていればよかったのだが、気がついたときには雲行きがだんだんあやしくなっていた。 急に空気も冷え込む中、慌てて2人で帰り支度をしたがその間にもポツリポツリと水滴が腕にあたってくる。
天気予報では、夜から急に激しい雷雨と言っていたにもかかわらず、すでに容赦なく風と雨が叩きつけてきた。
「さっきまで天気良かったのになー」
悠也は手早く薄手の長袖パーカーを羽織って、ずぼっとフードを頭にかぶる。俺も思わず頭を覆うように手で押さえたが、激しい雨粒がどんどん顔にも降りかかってきた。夕立の中、急いで二人で近道できる裏道を走った。
「なぁ、かえで」
ごうごうと耳元でうなる風と雨音にかき消されないように、悠也が後ろを走る俺に向かって声をはりあげる。
「なにっ?」
俺も、いつもより大きな声で、走りながら悠也に聞き返した。
「俺のうち、よってけよ」
「え」
前を走る悠也の声に気を取られたせいで、バシャリとアスファルトのくぼんだところにできた水たまりに片足を突っこんでしまった。靴の中にまで水が染み込んできて気持ち悪い。
「え、でもいいよ、わざわざ」
悠也の家から俺の家までの距離は、走れば十分かからないくらいだ。とはいえ、強風と雨にあおられて足元も悪い中、今すぐにでも屋根のある場所に避難したい、そんな思いもよぎる。
それに、大学生になって電車通学で運動を思いっきりサボっていた俺は、すでにここまで走ってきた時点で、呼吸がかなり荒くなっていた。
歯切れの悪い俺の返事は、大粒の雨にかき消され悠也に届かなかったようだ。
視線だけこちらを振り返りながら、悠也が言葉を続ける。
「一旦雨宿りしてけよーもう頭もびしょびしょじゃん」
「ん―」
まだ考えあぐねてうなっていたつもりだったのに、あいづちと捉えたらしい悠也は、
「じゃあ決まりな!」
と言って軽快に走り続けた。
いつの間にか俺は悠也の家に行くことになってしまった。見上げると、まるで霧にでも覆われたかのように空が濁った色をしている。俺は前を走る悠也の姿を、睨むように見つめる。
悠也の家に行くなんて一体いつぶりだろう。
心臓がより一層激しくどくんどくんと音を立てているのはきっと、いきなり何年ぶりかに全力疾走をしているからだ。
「お邪魔します」
玄関でそう言って、靴をきちんと揃える。
「お母さんまだ帰ってきてないし、適当でいいよ」
いや、母親いないのかよ。家に二人きりだなんて聞いてない。
幼い頃は何にも意識していなかったのに、久々に悠也の家の廊下を歩くだけで、なんだか妙にそわそわとする。悠也が部屋の扉を開けて、手早くずぶ濡れのパーカーを脱ぐと乱暴に中に放り込んだ。
「タオル取ってくるからさ、先部屋入って待ってて」
「お、ありがとう」
微妙にぎこちなく返事とお礼を述べ、悠也の部屋に遠慮がちに踏み入れた。床に漫画本や雑誌など散らばってはいるが、思ったより片付いている (普段の俺の部屋よりきれいな気がする)。
背の低い折りたたみ式の机が、まだ昔と変わらず部屋の真ん中にあって、無性に懐かしく思えた。机の前に座って息を整える。なかなか動悸がおさまってくれない。
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