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第六章 嘘
1 流星群
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翌日は、朝からからっと空が晴れていて、ここ最近まで続いていた、うだるような暑さが嘘みたいに涼しく感じた。
眩しいほど星の光が降り注ぐ夜空の中を、俺は悠也と黙って見晴らしの良い草原まで歩いた。
「綺麗だな」
悠也がぐっと腕を伸ばし、ごろんと仰向けに寝転がる。
今夜は、夜風が少し冷たい。夜気が肌にまとわりついて、俺の指先をひんやりと冷やしていく。
俺も悠也からやや離れた草の上にそっと腰をおろし、空を見上げた。きらっと瞬く星を見ながら、悠也が嬉しそうに小さく声をあげる。
その声を聞きながら、俺は唇を痛いほどに固く結んだ。静かに目を閉じると、頬にさっと風が吹きつけてくるのを感じる。
悠也がこうして寝そべって、隣にいて、同じものをみているのに。なんで、こんなに孤独なんだろう。
「このまえさー、ごめんな」
悠也が星空をみつめたまま、不意に俺に声をかけてきた。やさしい笑顔を浮かべた横顔が、一瞬だけわずかに寂しく歪んだように見えた。
違う、傷つけたのは俺で、お前が謝ることじゃない。
ちゃんとそう言いたいのに、喉が詰まってうまく言葉がでてきてくれない。
悠也はぐいっと体を起こすと、膝を立て座った。
「俺、どうしたらいいかわかんなくなって、かえでのこと一人で帰らせちゃった」
悠也は困ったような顔で笑い、ぎゅっと膝を抱き寄せた。お前は何も悪くないのに、俺のせいでずっと謝らせている。
「かえで、俺さ、」
悠也が何か言いかけた言葉にかぶせるように、俺は口を開いた。
「悠也」
「んー?」
悠也は俺に横目で微笑んで、それからまた星空を見上げた。悠也がまっすぐな瞳で俺を見るたびに、 胸が疼いていく。
こんな感情、壊れて消えてしまえばいい。そんなことを願いながら星空を睨むと、視界がかすかに滲んだ。
「別れよう」
「…え」
悠也が困惑するような、ひどく傷ついたような顔で俺を見つめている。
「なんで?…嫌だよ」
湿ったようなその声を聞きながら、俺は空を仰ぎ小さく息を吐いた。満天の星が目にチカチカと飛び込んできて痛かった。
「じゃあキスでもするか?」
ずいぶんと冷たく乾いた自分の声が、夜の静寂にむなしく響いていく。悠也がぴくっと体を動かした。小さく息を呑む音が聞こえた、ような気がした。
気まずそうなその気配に、泣きだしたいような、笑いたいような、やっぱりもう俺はどうかしているんだろう。
「ほら、できねーだろ」
口の端を歪めながら、俺は吐き捨てた。悠也といればいるほど、結局それを突きつけられるばかりだ。
「それ、は…」
悠也のくぐもった声に、つきりと胸が痛い。
「お前と一緒にいてもしんどい」
絞り出した声が、心臓に突き刺さる。こんなこと言いたいわけじゃなかった。浅い呼吸が、夜の闇にたよりなく吸い込まれていく。
「そっか。そうなんだ」
どこか遠くから聞こえるような単調なその声に全部夢ならよかったと思った。最初から何もかも嘘で、傷つくのが俺だけだったなら。
悠也は今、どんな顔をしているんだろう。俺にはもうそれをみる資格なんてない。
「もう別れてくれ、頼むから。俺は、お前のことすきじゃなかった」
言葉を放った瞬間、心臓を激しく切り裂かれるような痛みが走る。なんで、こんな。俺が、痛みを感じるのは赦されることじゃない。
あいつが何か言いかけようとするのを、遮るように立ち上がった。
「かえで」
かすれた悠也の声が俺を引き止めようと追いかけてくる。あいつが俺を呼ぶ声を振りはらうように、歩調を早めた。
振り向かない。振り向いたら、悠也の顔をみたら、くず折れてそこから動けなくなってしまいそうで怖かった。
「ちっちゃい頃から、お前のこと、ヒーローみたいだなぁって思ってた」
悠也の言葉が胸にポツンと響いた日を思い出す。 あの日、寂しそうに笑っていたお前のヒーローに、俺はきっとなりたかった。誰よりも大切で幸せでいてほしかったのは嘘じゃないのに。
ぎゅうぎゅうに力いっぱいその心にしがみついて、ずっと悠也の一番そばにいたかった。もう二度と叶わない。
眩しいほど星の光が降り注ぐ夜空の中を、俺は悠也と黙って見晴らしの良い草原まで歩いた。
「綺麗だな」
悠也がぐっと腕を伸ばし、ごろんと仰向けに寝転がる。
今夜は、夜風が少し冷たい。夜気が肌にまとわりついて、俺の指先をひんやりと冷やしていく。
俺も悠也からやや離れた草の上にそっと腰をおろし、空を見上げた。きらっと瞬く星を見ながら、悠也が嬉しそうに小さく声をあげる。
その声を聞きながら、俺は唇を痛いほどに固く結んだ。静かに目を閉じると、頬にさっと風が吹きつけてくるのを感じる。
悠也がこうして寝そべって、隣にいて、同じものをみているのに。なんで、こんなに孤独なんだろう。
「このまえさー、ごめんな」
悠也が星空をみつめたまま、不意に俺に声をかけてきた。やさしい笑顔を浮かべた横顔が、一瞬だけわずかに寂しく歪んだように見えた。
違う、傷つけたのは俺で、お前が謝ることじゃない。
ちゃんとそう言いたいのに、喉が詰まってうまく言葉がでてきてくれない。
悠也はぐいっと体を起こすと、膝を立て座った。
「俺、どうしたらいいかわかんなくなって、かえでのこと一人で帰らせちゃった」
悠也は困ったような顔で笑い、ぎゅっと膝を抱き寄せた。お前は何も悪くないのに、俺のせいでずっと謝らせている。
「かえで、俺さ、」
悠也が何か言いかけた言葉にかぶせるように、俺は口を開いた。
「悠也」
「んー?」
悠也は俺に横目で微笑んで、それからまた星空を見上げた。悠也がまっすぐな瞳で俺を見るたびに、 胸が疼いていく。
こんな感情、壊れて消えてしまえばいい。そんなことを願いながら星空を睨むと、視界がかすかに滲んだ。
「別れよう」
「…え」
悠也が困惑するような、ひどく傷ついたような顔で俺を見つめている。
「なんで?…嫌だよ」
湿ったようなその声を聞きながら、俺は空を仰ぎ小さく息を吐いた。満天の星が目にチカチカと飛び込んできて痛かった。
「じゃあキスでもするか?」
ずいぶんと冷たく乾いた自分の声が、夜の静寂にむなしく響いていく。悠也がぴくっと体を動かした。小さく息を呑む音が聞こえた、ような気がした。
気まずそうなその気配に、泣きだしたいような、笑いたいような、やっぱりもう俺はどうかしているんだろう。
「ほら、できねーだろ」
口の端を歪めながら、俺は吐き捨てた。悠也といればいるほど、結局それを突きつけられるばかりだ。
「それ、は…」
悠也のくぐもった声に、つきりと胸が痛い。
「お前と一緒にいてもしんどい」
絞り出した声が、心臓に突き刺さる。こんなこと言いたいわけじゃなかった。浅い呼吸が、夜の闇にたよりなく吸い込まれていく。
「そっか。そうなんだ」
どこか遠くから聞こえるような単調なその声に全部夢ならよかったと思った。最初から何もかも嘘で、傷つくのが俺だけだったなら。
悠也は今、どんな顔をしているんだろう。俺にはもうそれをみる資格なんてない。
「もう別れてくれ、頼むから。俺は、お前のことすきじゃなかった」
言葉を放った瞬間、心臓を激しく切り裂かれるような痛みが走る。なんで、こんな。俺が、痛みを感じるのは赦されることじゃない。
あいつが何か言いかけようとするのを、遮るように立ち上がった。
「かえで」
かすれた悠也の声が俺を引き止めようと追いかけてくる。あいつが俺を呼ぶ声を振りはらうように、歩調を早めた。
振り向かない。振り向いたら、悠也の顔をみたら、くず折れてそこから動けなくなってしまいそうで怖かった。
「ちっちゃい頃から、お前のこと、ヒーローみたいだなぁって思ってた」
悠也の言葉が胸にポツンと響いた日を思い出す。 あの日、寂しそうに笑っていたお前のヒーローに、俺はきっとなりたかった。誰よりも大切で幸せでいてほしかったのは嘘じゃないのに。
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