その日暮らしの自堕落生活

流風

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王城でのユウキ達

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※話は召喚されてすぐの頃に戻ります。



 召喚。よくアニメなどで見る御伽噺のような話だ。
 殺戮が身近な出来事ではない日本から召喚され、チート能力を貰い魔王を倒す。正直、剣も魔法も戦争も知らない人間が呼び出されたからといって出来るとは思えない。無理だろう。鼻で笑っちゃうくらい何だそれって内容だ。

 しかし、現在、俺達はその勇者召喚で異世界に来てしまっている。俺と同じ職場の茜さん、真衣さんの3人だ。日本にいた時、茜と真衣は自惚れでなく俺に惚れていたと思う。仕事中もどうでも良い用事でやって来ては話しかけて来て、裏でキャーキャー言ってたのを知っている。あの日も給湯室に玲子さんを探しに行った時に一緒になって、そしたら足元が黒くなって…。
 そういえば、玲子さんはどうしたんだろう。あの時、真衣の荷物に押されてよろけていたけど、召喚に巻き込まれなかったのかな…。

「ユウキ、大丈夫ですか?」

 その一言でユウキは考え事をしていたが現実に一気に戻された。

「大丈夫です。すみません」

 今、ユウキ達三人にはそれぞれに師匠が付き、剣と魔法、魔族についての講義を受けている。俺達にはアニメで見るような最初から強いチートなど無く、魔法の適性と魔力があるだけだった。

「まずは力を付けることが先決です」

 騎士団長に言われ、今までした事もない修行が始まった。
 その際に紹介されたのが騎士団の中でも精鋭だという3人だ。初めて見た時はホント驚いたよ。俺だって高身長で顔もジャニーズっぽいって言われていてモテていた。
 茜も細アーモンド目で気が強そうな印象を受けるけど、くっきりした目鼻立ち、アッシュグレーのショートボブで美人の部類に入る。
 真衣も背は低いが、垂れ目にマロンベージュのフワフワパーマが可愛く庇護欲をそそるタイプだ。
 だから三人ともけっこうモテた自覚はあったんだけど、この3人は別格だった。

「クリストフ=アンデルソンと申します。クリスとお呼びください。以後お見知りおきを」

 クリスはユウキよりも高身長で細マッチョ、サラサラの茶髪に青い目をしたイケメンだ。茜がクリスを顔を赤くしながら凝視している。

「レナート=ボンティーノと申します。よろしくお願いします」

 レナートも高身長で、濃い青色の髪に鋭い緑色の目ををしたイケメン。ボーっと見つめている真衣に軽く微笑み返している。

「ノエリア=マルティンと申します。ユウキ様の専属となります。よろしくお願いいたします」

 紅一点のノエリア。赤い髪をポニーテールでまとめ、緑色の知性を感じさせる瞳をしている美人だ。スタイルも出るところは出て引き締まる所は細いすごい美人。

(ヤバい…好みのタイプだ)

 ユウキは日本にいる家族のことが頭を過ぎるも、やはり目の前にいる美人に弱く、徐々にノエリアに夢中になってしまった。



 それから三人とも特訓が始まった。特に重点的に行われたのは魔法の特訓と基礎体力作り。今まで事務職だった30代のユウキ達には過酷なものとなった。ユウキ達はこの世界の子供達よりも体力がなく、特訓は苦戦した。かなり優しいメニューに変えてくれたらしいが、1週間後にはユウキ以外のメンバーは音を上げ部屋から出ることを拒みだした。

 特訓以外にも3人の気分を下げる事があった。ものが溢れていた日本から来たユウキ達にはこの世界は物足りなかった。シャンプーやトリートメント、基礎化粧品といったものはなく、石鹸で髪を洗い油で髪パックをするといった世界だった。肌は荒れ、髪もパサパサになった。カラーリングをしていた3人は地肌から徐々に伸びてくる黒髪で傷みが激しいプリンカラーの髪となっていった。

 オシャレが好きだった3人にはこれが一番辛かった。

 食事は米はないがそこそこの味で問題はなかった。

 日焼け止めも無く、辛いトレーニングもついていけない。今日もアカネとマイは部屋に閉じこもり出てくることはなかった。そのため、剣術や基礎体力向上は諦め座学を中心とした魔法と魔族に関する勉強へと変更された。

「今日もユウキ様だけですね」

「すみません。後で2人には言っておきます」

「いえ、特訓を始めましょう」

 アカネとマイは室内で座学だ。この世界に召喚された理由が魔族と、魔王と戦う事だと言われたが、この調子で戦えるのだろうか。戦う力が身に付かなかった場合、どうなってしまうのだろうか。ユウキは不安しかなかった。



 ◇◇◇



「召喚者達の様子はどうだ?」

 召喚を行い1週間たった頃。王と王太子、宰相と騎士団長と魔導師長が一室に集まった。そこでユウキ達に関する報告が行われていた。クリス、レナート、ノエリアの3人は順番に現状を報告をしていった。

「つまり、古代魔法を習得する気配も、騎士や魔導師としての見込みも無いのだな?」

「今の所は…。特にアカネ、マイの2人は特訓を嫌がり我儘が目立つようになって来ました」

 アカネとマイは古代魔法の使い手である可能性が高い為、クリスやレナートは甘い言葉を囁き、自分達に好意を抱かせるようにし、丁重にもてなした。それが裏目に出た。2人に付けた専属侍女への要望が増え始め、異世界の物を要求する様になり、この世界には無いと伝えるとヒステリックに怒り始めるのだ。ただし、クリスやレナートがいる場では大人しく、猫をかぶり、特訓が辛いとか弱い女を演じ涙していた。

「もう良い。この召喚は失敗だな。次の召喚のための贄を集めよ。贄が集まったら3人の首を跳ね新たな者を召喚する」

 この一言により、近い将来ユウキ達の死刑が確定してしまった。

 この話し合いの後、ユウキとノエリアは剣術の特訓のため外に出ていた。

「今日もユウキ様だけですね」

「すみません。後で2人には言っておきます」

「いえ、特訓を始めましょう」

 特訓に参加しないアカネとマイ。溜息を吐きながら、思わずユウキは呟いた。

「一緒にいるのがアカネやマイではなく玲子さんだったらよかったのに…」

「レイコ…というのは?」

「元の世界の上司です。女性で、冷静に淡々と仕事をこなしている人でした。あまり人と連む事もなく、カッコいいというか、孤高と言う言葉が似合うような、ちょっとノエリアさんに似てるかもしれませんね」

「そうですか」

「この世界に来る時、一緒にいたんですよ。でも、実際に王城にいたのは俺達3人だけでした。玲子さんは召喚の時の黒い沼に飲み込まれなかったのかな…」

 ポツポツと呟くように話すユウキ。ノエリアは、召喚時に一緒にいた『レイコ』という女性が気になった。気になったが、そんな事はおくびにも出さず、「レイコさんですか…どんな方なんですか?」と玲子の情報、召喚時の状況を再度確認した。その情報はすぐに上へと通達され、「40歳 黒髪黒目女性」の捜査が行われるようになったのだ。この世界には、目や髪の色を変える方法はない。だからこそ門兵に『黒髪黒目の女性』を国から出さないように徹底された。レイも黒髪黒目だが、年齢が違いすぎるため門兵からスルーされているだけだ。

「そのレイコが今回の召喚者に違いない。必ず捕まえろ」

 召喚に失敗している可能性も考え、次の召喚用の魔方陣を描こうとしたが描けなかった。召喚者は一名しか召喚出来ない。今回は巻き込まれてユウキ達もやって来たが、通常、特別な力をもつ召喚勇者は1人だ。その者がこの世界で生きている限り、次の召喚魔方陣は描けない。

 ーーー召喚は成功し、この世界に召喚者がいる。

 魔方陣はその可能性を指し示していた。ユウキ達を殺しても、そのレイコが召喚者だった場合にはーーー。ならば、レイコを知るユウキ達を殺すのはもったいない。

「3人の待遇を見直そう。訓練は受けさせるが、扱いは一般兵と同等。レイコの捜索隊へと入れさせろ」

 レイコが見つからない限り、3人を殺しても新たな召喚は出来ない。それならば、せっかくの魔力量だからこき使おう。そう判断された。

 アカネやマイ、ユウキには、イケメンの先生も、言う事を聞いてくれる侍女もいなくなってしまった。
 一般兵に格下げされてしまったため、当然国からの援助金はない。

「あなた達が勝手に召喚したんだから、私達を養う義務はあるわ!!」

 そう文句も言ったが当然受け入れてもらえない。これからは仕事をしないと生活出来ない。つまり、あの厳しい特訓も受けないといけない。

「クリス!助けて!お願い!」

「私はこれからあなたの上官となります。無闇に喋りかけないでいただきたい」

「クリス!どうしてそんな事…私の事、愛してるんじゃ…」

「あれは仕事です。いい加減、現実を見てください」

「私達は勇者よ!こんな待遇認められないわ!」

「貴女達は勇者ではありません」

 レナートやノエリアも同じような反応だ。これから3人は生きていたければ必死で努力しなければいけない。
 今までマウントを取り人を使う事に慣れていた3人にこの世界での生活は辛いものとなる。




「どう思う?召喚者達」

 同僚となる兵達の業務上がりの雑談時間。体を休めながら3人の批評をしている。

「まぁ男の方はまずまずなんじゃね?体力と筋力つけりゃ使いものになるだろ。女はダメだな」

「経験で培うはずの判断力がない。攻撃に対する反応ができていない。あの歳であれじゃダメだろ。経験積ませるって歳でもないしな」

「ああ。魔法の威力はそこそこなのに、すぐに魔法が撃てないのはまずいよな」

「ま、長くは持たないだろうな」

「いざとなったら盾か餌にするか」

 ハハハッと笑いながら兵達は寮へと帰っていった。
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