その日暮らしの自堕落生活

流風

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フィオの極甘攻撃。嫌がらせか?!

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「……イ…レイ……」

「んんっ…」

 揺さぶられた刺激で覚醒したレイは、おそるおそる目を開けた。

「レイッ!気がついた?!」

 視界いっぱいに映る心配気なフィオの表情。
 うっすらと潤んだ空色の瞳に安堵の色が籠る。

 ごめんね。

 また、心配かけてしまった。
 つくづく私は、フィオを心配させてばかりだな。
 フィオの心配を払拭するように、レイは微笑み返した。
 それより、無事に脱出できたのだろうか?
 状況が分からないままに意識を飛ばしたらしい。

 草の上に寝かされていたレイは、ゆっくりとその身を起こした。
 周囲を見渡せば、城や領主館といったものどころか建物1つない。
 こんな鬱蒼と茂る木々に囲まれた場所が魔導師長の領地にもあるのかな?
 それとも、もしかして。
 ここはもうアッテムト国じゃない?
 慣れ親しんだ緑あふれる地の感覚。


「フィオ、ここは……」

「街のはずれの森の中だよ。意識を失ったまま運んでしまったけれど、まだ国からは出れてない。ま、さっきの奴の領地からも王都からも離れたから、しばらくは安心していいと思う」

 そうか。

 ここはまだアッテムト国か。



 建造物の見えない森の中。騎士や魔術師、メイドの姿どころか人の気配すらない。

「逃げだせたんだ…」

「……レイ……助けに行くのが遅くなってごめん」

 地面に座り込んだまま、逃亡が成功した事をじわりじわりと実感していた。フィオがそんなレイの頬に擦り寄る。

 おや?成犬(?)になってからのフィオのスキンシップが激しい気がするぞ?気のせいか?

「あ~フィオさんや、その…前と比べて妙にくっつきすぎな気がするんだけど…」

「そう?まぁ、あの子犬のような姿でこんな事は出来ないけど、以前はレイがこうして俺にしてくれてただろ?」

 ん?ん~???
 確かに、子犬姿のフィオを抱きしめ、いっぱいスリスリしたりしたな。そういえば、フィオのお腹に顔を埋めてスリスリしたこともあったな。

「それに、こんなことも…」 

 ちゅっと、触れるだけのキスをしてきた。
 キスをして来た?!
 確かに、フィオにチュッてしたな。しかも何度も。
 え?あれ?あれってキスのカウントに入るんですか???まぁ、愛犬との触れ合いキッスと思えば……しかし、言葉を話すフィオ相手だと、なんだか複雑な気分だ。


 何を隠そう、レイは恋愛初心者だ。
 日本でも人嫌いを拗らせてしまっていたため、40年間恋人はいなかった。そう、何もかも初めてだった。
 しかし、中身は40代。「キスなんて挨拶代わりよね」と、サラっと躱して平静を装いたい。
 だがしかし、ツンデレのデレ多めで素直に愛情表現してくるフィオに、見た目はモフモフなのに耳だけ犯されているようで……。
 レイの耳は真っ赤なためフィオにはレイの心の内がバレバレだった。

「レイ、可愛い。耳が真っ赤なリンゴみたいになってるよ?そんな泣きそうな顔で口をパクパクさせて、何か心配事でも?そのお顔も可愛いけど、やっぱり笑って欲しいな。俺がレイの憂いを全て消し去ってやるから、どうか笑って?」

 地面にダウンするレイの頬にスリスリし、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ首を傾げて極甘なセリフを吐いてくる。
 なんだ?新手の嫌がらせか?なんなんだ?

「れ~い?」

 顔を舐め鼻先を首筋にグイグイ擦り付けてくる。ちょっ!力が強い!

 ぐえぇぇ。

 クスクス笑いながら「レイ、大好き」って耳元で囁くな!あんた、無駄に声がいいんだからね!
 カチと固まるレイを揶揄うように、額や髪、顳顬と、優しく口づけをしてくる。
 そう、何だか知らないけどフィオに砂糖が追加されるようになった。ただひたすら甘く囁くものだから、免疫のないレイは照れる。これで人型だったら対処不可だ。


 嫌いな相手なら、ただの鳥肌モノのセリフばかりだが相手はフィオだ。フィオの事は好きだ。しかし、見た目子犬と思っていた相手が、成犬に変わったとなると対応が違う。
 デカい!力強い!クンクンと匂いを嗅がれ時々ちゅっちゅと口づけを落とされる。地面とずっと仲良くしているが、そろそろ起きたい。地面の冷たさがいい加減つらい!

「フィオ、待って、まっ…待って」

「ん~?いつもレイが俺にしてた事をしてるだけなのに、どうして嫌がるんだ?」

 ニィと口角の上がった顔を向け、やめてくれない。これはあれだな。今までの復讐だな。ごめんなさい。許してください。擽ったいし、目を瞑ると、知らない男性にアレコレされてるような気分になって、こちらの心臓が口から出そうになるから、やめて欲しい。

「くっくっくっ、レ~イ?こっち…」

 ゴンッ!!!!

 頭上から何やら大きな音がした。
 悶えながらフィオが呻いている。

「やりすぎだ」

「ヴァンさん?!」

 そこには鞘に入った剣を片手に立つヴァンがいた。



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